IS ~インフィニタス・ストーム~   作:影のビツケンヌ

3 / 18
ここからは普段通り、一話につき五千~六千文字を目安に執筆・投稿します。


使命

 一時限目。俺は授業には出席せず、校内を歩き回っていた。早速特別戦闘訓練顧問官――長いので略して特戦官としての特権を行使している。無論唯目的もなく散策しているのではない。もしもの時に備えて、校内の設備や地形を把握しておく為だ。

 IS学園は日本国内に存在するが、そこに於いては日本含め如何なる国家の法でも干渉することはできない。どこかの国がそれを侵せば全世界への敵対行為と見做され報復攻撃を受けることになる。

 

「……だが、危険がない訳ではない」

 

 どこの世界にもいるものだ。自らの私利私欲の為にそういった規律を平気な顔で破り、平和を壊す不埒者が。それは国家よりもずっと小さな規模で、しかしその影響力は世界を揺るがしかねない程である。そういう輩の攻撃に晒される危険性を孕んだ場所であることに、ここにいる生徒の大多数は恐らく気付いていない。

 俺がトルコ代表候補生として、絶対に護らなければならないものは三つある。

 一つ、男性IS操縦者。

 一つ、ISコア。

 一つ、アームキャノン。

 まず男性IS操縦者という言い方をしたのは、「有事の際には自分と一夏の身を最優先で守れ」ということである。世界に二人だけの男性IS操縦者が、もしも倫理を糞とも思わないマッドサイエンティストか、或いは男がISを動かすことをよしとしない者達に捕まったなら、どの道凄惨な仕打ちを受けることは避けられないからだ。

 ISコアの方は、単純に軍事的バランスの問題だ。現状地球上に存在するISコアは、その製造技術を製作者の篠ノ之束が独占しており、その為各国に配布されたコアだけでやりくりしていかねばならない。奪われればそれだけ自国のISは一機減り、相手は一機増える。小国を一機で壊滅せしめるとまで云われるISだからこそ、コアの奪取は(トルコの場合今度こそ)防がねばならない。

 そしてアームキャノン。これは俺にとってもトルコにとっても最重要守護目標だ。エドウィンには、下手をすればISは守れずとも最低限これだけ残っていればいいとさえ言われた。

 あらゆる生命に流れ、生物の根幹を掌る物質、バイオエナジー。天才をもじって天災と畏れられる篠ノ之束ですら、これを扱う技術を生み出すことはおろか発見すらできなかった。バイオエナジーの取り扱い技術の真髄が結晶した精密機器であるアームキャノンを、トルコ政府は自国のものだと主張したが、裏では急ぎリバースエンジニアリングの真っ最中である。そういう『国家機密』である以前に、この携行兵器の恐ろしさを一番よく理解している俺は、これを誰にも渡す訳にはいかなかった。そしてエドウィンもまた、俺と同じ考えだろう。

 その恐るべき性能の片鱗を、たった今見せる時がきたようだ。

 およそ十分前、二年生の教室の前を通り過ぎた頃から、俺をつけている人物に対して。

 

「……」

 

 ISを手に入れてから、一つを除いて能力は使えなくなっているものの、それを使わずともその存在を察知することはできた。俺が足を止めると、極限まで抑えられた足音は三メートル後方の柱の陰に移動する。気配を微塵も感じさせないプロの犯行だが、振り返った俺の(スキャニング)を誤魔化すことはできない。相手は女、身長一六〇センチ弱、髪は水色、しなやかな肢体の下に鍛え上げられた筋肉を隠している。

 少々手荒だが、こちらから攻勢に出て引きずり出すのが良さそうだ。

 俺は右前腕が収まったアームキャノンの中で、二つのトリガーが付いたグリップを握り直す。親指の辺りにある三つのダイヤルのうち、兵装変更用のダイヤルをカチカチと動かすと、銃口から十センチ程の場所にぐるりと走る溝を境に、銃口側が四つに分割、後方にスライドした。同時に内部機構の一部も僅かに前方にせり出す。準備は完了だ。

 人差し指のトリガーを引き絞り、静かにエネルギーをチャージ。頃合いを見て、ボウリングをする要領で、ゴルフボール大のエネルギー弾を柱の陰へと‘転がした’。

 炸裂。

 

「ぎゃん!?」

 

 脛に走る猛烈な痛みに耐え切れず、IS学園の制服を着たその女は悲鳴を上げながら膝を突いて崩れ落ち、その正体を曝した。非殺傷兵器のレベルまで出力を落としていても、痛覚を激しく刺激する強大なストッピングパワーは、対象を容易く無力化し得る。

 アームキャノンをISの武装兼待機形態としたのは俺の要望ではあるが、これには幾つかの利点があったらしい。

 通常各国の国家代表などに与えられる専用機は、待機形態を腕輪やネックレスといったアクセサリーとしているのが普通だが、その状態では当然武器として使用するのは難しい。展開せずとも常に武装の一部を使えるようにしておくのは、操縦者の自衛能力の向上に繋がる。

 また政治的にも、IS査察の網の目を抜けることができる。国の許可なしにISを展開・使用することは禁じられており、IS学園内に於いても例外ではないが、「あくまで待機形態である」という詭弁を通して自由に武装を使用してしまえるのだ。

 全ては、こういう時の為である。

 

「貴様、何者だ? 誰の差し金だ? 目的は何だ?」

 

 リボンの色は黄色で、二年生と見えた。俺は悶絶する女に続けざまに問うたが、しばらくは答えられまい。銃口を向けたまま、相手が落ち着くのをひたすら待った。離れたところにいるかもしれない女の仲間に気を配りながら。

 もうすぐ授業が終わるという頃、痛みが引いてきたと思しき女は、おもむろに口を開いた。

 

「……私の、敗けね」

「は?」

「自己紹介が遅れてごめんなさいね。私は更識楯無。この学園の元生徒会長。おめでとう、四島小櫃君」

「どういうことだ?」

「今日から貴方が、生徒会長よ」

 

 ……これまたややこしいことになった。

 更識楯無と名乗るこの二年生曰く、IS学園の生徒会長は最強であれとの掟があり、如何なる方法でも生徒会長を打ち負かした生徒は生徒会長の座を手にすることができるのだという。彼女は生徒会長として、そして‘対暗部用暗部’更識家当主として、伝説の傭兵とアームキャノンの秘密を手に入れようと近付いたのだそうだ。

 生徒会長という立場に付けるのは、この学園のことを広く把握できるという点で非常に魅力的だが、仕事が増えて自由な行動ができなくなるのは俺の性分に合わない。そこで俺は、特戦官に引き続き生徒会長権限を行使した。

 

「楯無といったな」

「ええ、何かしら?」

「俺がお前にサインを出すまで、お前は今まで通り生徒会長でいるんだ」

「……どういうつもり?」

「普段の業務はお前の方が上手くやれそうだからな。本当の緊急事態にだけ俺が出てくればいいだろう。それと、」

「それと?」

「アームキャノンに関連する技術は、研究が進み次第日本に開示して共同開発が行なわれる予定だ。だから焦って情報を集める必要はない」

 

 トルコは二世紀も前から日本との親交が深く、戦後経済大国となった日本に政府開発援助を受けてきた。ISの登場直前は、日本は中国や韓国に大きく水をあけられていたが、ISの生みの親が日本人であることもあり、トルコは今まで以上の歩み寄りを見せている。その一環が、(公式発表はまだだが)バイオエナジーの取り扱い技術の共同開発だった。…俺としては、より治安の良い日本に全て預けた方がいいのではと考えている。

 

「それ、話して大丈夫なの?」

「構わんさ。お前にコソコソ動かれて、情報を奪われるよりはずっといい。俺のことも嗅ぎ回ってくれるなよ。……最後に言っておくが、」

 

 授業が終わり、休み時間の始まりを告げるチャイムが鳴り響く。俺は()()生徒会長として、そしてそれ以前に戦士(soldier)として、楯無に警告した。

 

「俺の目の届くところで道理に外れた真似をしてみろ。女子供と容赦はせんぞ、覚悟しておけ」

 

 この後自分のホームルームで“道理に外れた”ことが起ころうとは、俺は予想していなかった。

 

 

 

 

 

 次の授業が始まる前にクラス代表を決めることを千冬…否、織斑教諭から聞かされていたので、俺は校内を一周した後ホームルームに一旦帰ることにした。自分の知らないところで決められるのはもう懲り懲りだからだ。教室に到着したのはチャイムが鳴った一分後だった。

 

「納得がいきませんわ!」

 

 最後部座席に座る長い金髪の女が机を叩きながら立ち上がるのと、俺がドアを開けたのはほぼ同時だった。一瞬皆の注目は、「遅刻だぞ」と織斑教諭に小さく諭された俺の方に向いたが、続く少女の言葉に、再びそちらへと戻っていった。

 

「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥晒しですわ! (わたくし)に、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえと仰るのですか!?」

 

 教諭に尋ねたところ、推薦されたのは俺と一夏で、納得がいかないとはそれについてらしい。

 セシリア・オルコット。一時限目の自己紹介によれば、イギリス代表候補生の専用機持ちだそうだ。この女から感じていた俺と一夏への視線は、興味に起因する他の女子生徒のものとは明らかに異なるものだった。男性IS操縦者が果たして如何程のものかという値踏み、そして蔑み。

 

「珍しいからだなんて理由で選ばれるべきではありません!! 実力を見るべきですわ!!」

 

 いけ好かない女だとは思っていたが、

 

「実力から行けば私がクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極中東の猿にされては困ります! 私はこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」

 

 想像以上にろくでなしだった。

 確かに、ISの機動訓練を二週間足らずしか経験していない俺、そもそもぶっつけ本番の実技試験(ISに乗り教員と一対一で戦うというもの)で一度乗っただけの一夏よりは、代表候補生としてそれなりの訓練を積んできたセシリアの方が、クラス代表に向いているであろうことは自明の理だ。彼女は入学試験は主席合格の上、対戦相手の山田教諭が勢い余って自滅した――元代表候補生と聞くが、こうも間の抜けたところがあると本当かどうか疑わしくなる――俺と一夏を除けば、唯一実技試験で教員に勝利した生徒だと、織斑教諭から聞いている。

 だがこの女は自惚れが過ぎる。そして自分の発言が国家間の関係にどんな影響を与えるかをまるで理解していない。要は自覚が足りない。何より他国に対する差別的発言そのものが、人の道に外れた許しがたい行為だ。不本意だが、こんな女が代表になる位なら俺がなってやってもいい程である。

 

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなければいけないこと自体、私にとっては苦痛で――」

「イギリスだって大したお国自慢ないだろ。世界一不味い料理で何年覇者だよ」

 

 日本人の一夏が食らい付くのも当然だ。彼は多少むっとしている程度だが、セシリアの方は今の一言だけで沸点に達したらしく、

 

「決闘ですわ!!」

 

 一夏に決闘(喧嘩)を申し込んできた。

 これは、自分が出る幕はないか?

 

「いいぜ、四の五の言うよりわかりやすい。ハンデはどの位つける?」

「あら、早速要求ですか?」

「いや、俺がどの程度つけたらいいのかなって…」

 

 決闘とはなかなか痛快なことになってきたと思っていたのだが、一夏の失言が教室内を不快な爆笑の渦に陥れた。

 

「織斑君、何言ってるの?」

「もう男が強かったのは、大昔の話だよー」

 

 セシリアもセシリアだが、ここの女子達も大概だった。女尊男卑の思想以前に、「ISは最強の兵器である」という根本的な誤解をしている。

 矯正せねばならない。セシリアと共に。

 

 「――滑稽だな」

 

 少し声を張り上げたのが功を奏し、教室は静まり返った。

 

「セシリア・オルコット」

「はい?」

「ISは最強の兵器か、否か?」

「最強の兵器です、当たり前でしょう?」

「否だ」

 

 今度は教室内にどよめきが広がる。

 

「ISを倒すことができる方法ならある。コストを度外視した圧倒的物量での圧殺、人質の存在などISを使用できない状況(シチュエーション)、そしてISが攻撃として認知できないNBC(核、生物、化学)兵器の使用…この三つが代表的だろうな」

 

 特に今挙げた内の二つ目が、ISが最強たり得ない最大の理由であるというのが俺の持論だ。どんな兵器でも結局攻撃の意思決定をするのは人であり、この精神的要素が排除しきれないのだ。欠点のない最強兵器など存在しない。故に、俺には野望があった。

 

「俺はこの学園を卒業した暁には、ここで得られた知識と技術を生かして、ISを超える兵器を作るつもりだ。ゆくゆくはその兵器を保有する私設武装組織を設立し、世界中の紛争に介入する。そしてISを駆逐し、世界の軍事的バランスを外側から調整する存在となる。……ISが最強の兵器だと思っているうちは、自分の立場を認識せずに他国を誹謗しているうちは到底辿り着けん領域だ」

「あ、貴方は……」

 

 バルベルデだけではない。世界には未だ多くの問題が燻っている。それを解決するにはISでは駄目なのだ。今の世界の風潮を助長してしまう。この世界に於いて、俺の正義が自らに課した使命は、この歪んだ世界をあるべき姿に正すことではないだろうか――俺はそう考えている。

 

 「教諭、決闘とやらに俺も参加したい。日にちを指定して貰いたいのだが」




どんな批評も受け付けます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。