しかし始まったものは仕方ない、書きまくって直します!!
「ハハハハ、そんなことがあったのかい」
一日の授業が終わり、食堂で夕食を摂りながら初日の報告をすると、エドウィンに笑われてしまった。面目ない。……少々デジャブを感じたが、こんなことが前にあっただろうか?
例の決闘は織斑教諭の采配で一週間後、第三アリーナにて行なわれることとなった。一夏は四年振りに再会した篠ノ之箒という幼馴染に剣道場へ連れて行かれ、剣道の全国大会で優勝した彼女に大分扱かれたのだろう、二十メートル程離れた座席でテーブルに突っ伏している。俺はというと、対戦相手の情報収集に専念した。
「一夏の専用機は決闘当日に届くらしいから、倉持技研なるところで作られていること以外の情報は得られなかったが……どう思う?」
アームキャノンの、丁度ノートパソコンのように展開するインターフェイスに備わった、携帯ゲーム機程の大きさの有機ELディスプレイに向けて俺は話しかけている。そこに映る髭を蓄えた白衣の男こそが、トルコの研究所でアームキャノンの逆行解析を担当した科学者、エドウィン・マッカーサーである。彼は落ち着き払って、こちらが送信したテキストを読み上げた。
「ふむ……ブルー・ティアーズ、第三世代型IS。搭乗者、セシリア・オルコット。第三世代兵器『BT兵器』の稼働データサンプリングの為製作された試験機。武装は大型特殊レーザーライフル『スターライトmkIII』、遠隔無線誘導兵器『ブルー・ティアーズ』、接近戦用ショートブレード『インターセプター』。……うん、初めてにしてはよく纏められている」
「……俺は送ったデータの評価を求めているんじゃない。これを相手にして、どれ程の武装を使うのが自然かを問うている」
俺の専用機は、恐らくこの学園のどのISよりも多彩な攻撃方法を持っている。トルコに元々あった設計思想ではあったものの、アームキャノンを新たに組み込んだばかりに、それらは殆どバイオエナジーの取り扱い技術に依存しており、必要以上に情報が露顕してしまうのではないかという懸念があった。
が、それは杞憂だったようだ。
「いいや、小櫃君。私からすれば、IS学園では武装の使い惜しみをする方が不自然だよ。学園側からの指示がない限り、状況に応じて、全て君の判断で自由に武装を使用したまえ」
「了解だ、エドウィン」
この気取った男と話していると、どうしてか悩んでいることが馬鹿らしくなる。底の知れない男だが、同時に気持ちのいい奴だ。あまり自由に行動できなかったトルコで退屈しなかったのも、彼のお陰と言えるだろう。
「しかし決闘とは、なかなか粋なことをするものだね。それに夢はISを超える兵器を保有する私設武装組織の設立とは……フフフ」
「俺は本気だぞ」
「国家代表になる気はないのかい? 傭兵稼業よりは楽に暮らせる筈だが」
「それでは意味がないんだ。ISでは紛争に介入できないからな。コピーが終わり次第、
「勿論だとも。それが君と我々との約束だ。君には大恩があるからね」
「借りの間違いだろう」
エドウィンとの通信を終え、海鮮丼の最後の一口をスプーンで掻き込んでから、俺は食べ尽くされ食器だけが載るトレーを持って一夏の元に向かった。疲れきっている彼はビーフカレーを口に運ぶのも億劫なようで、食事は遅々として進まない。
「おい、大丈夫か」
「大丈夫な訳ないだろ…中学校三年間バイト漬けで剣道なんかろくにやってなかったのに、箒の奴少しは考えてくれよな……」
「セシリアを相手にして同じことが言えるか?」
「うぐ……」
試験機というのは一つに突出した性能を持つ点で量産機とは一線を画す。一夏の専用機がどんなものかはわからないが、それによっては相性は最悪となる可能性もある。だが真のプロは兵器の性能の差など自分の技量だけで埋めてしまうものだ。相手に慢心がある分、決闘までの猶予期間に於ける努力はそれだけ大きなアドバンテージとなるだろう。
「剣道で培われる反応速度はISバトルでも生かせる筈だ。箒はそれを考えているのかもしれん。早く勘を取り戻せ」
「……そうか、そうだな。わかったぜ小櫃、ブランクだとか何だとかここで言い訳してちゃ男が廃る! 男の意地を見せてやるぜ!!」
「いいぞ、その意気だ一夏」
最終的には俺と一夏も戦うことになるが、ISに関してはルーキーな俺達は、一先ず『打倒セシリア』を掲げて準備していた。アリーナの使用時間は上級生達の予約で殆ど埋まってしまっており、ISの機動訓練ができる時間はかなり限られているが、その暇な時間を一夏は剣道に費やし、俺は決闘に勝つ為の知識と情報の収集を行なう。そして予約が取れた僅かな時間は俺と一夏で一緒に練習、という寸法だ。
気合いを入れ直した一夏が高速でスプーンを操り、ビーフカレーがみるみる彼の腹の中に消えていくのを尻目に、俺はトレーを片手に返却口へと歩いていった。
一夏と共に向かう先は職員室。寮の部屋割がどうなったかを訊く為だ。これまで学園の近くのビジネスホテルに泊まっていた俺達だが、安全面を考慮し、女子と同じく学園の寮に入ることになったのである。その道中、山田教諭と織斑教諭にばったり出くわした。
「ああ、織斑君に四島君。探す手間が省けました」
「寮の部屋割が決まった。荷物も部屋の前に置いてある。これがルームキーだ」
そう言って二人が手渡した鍵は、それぞれ番号が違っていた。俺は1034号室、一夏は1012号室。
「俺と一夏で相部屋になるのではなかったのか?」
「ごめんなさい、空き部屋の整理ができなかったんです。それに最近立て込んでて……」
「そういう訳で、お前達はどちらも女子と相部屋だ。寮長は私が務めている。……妙な気は起こすなよ?」
「お、起こしませんよ……」
一夏は公私の使い分けを
加工といえば、俺の制服は一夏の着ているオリジナル――それでも男子用は特注品だとか――を大幅に改造している。ケブラーとカーボンナノチューブ、クモ糸を用いた特殊繊維を何枚も内張りにして防刃性と防弾性を持たせ、首を守る為襟は高く、大容量の内ポケットを複数設けるべく丈もコート状に延長してある。制服の改造に寛容なこの学園の校則を利用した、自分なりの防犯対策だ。内ポケットはともかく、襲撃の危険性を考えるなら、一夏含め他生徒の制服も防御力を上げるような加工を施すべきではないだろうか?
「ん、どうかしたか?」
俺の視線に気付いた一夏が反応する。人を疑う色の見えない真っ直ぐな目だった。気を抜くつもりはないが、この学園の防犯システムを信用して少しは身を委ねてみるのもいいかもしれない。多少のジョークも許される筈だ。
「気にすることはない。教諭、俺も右に同じだ。嘘なら自分の目玉を抉り出してもいい」
「め、目玉……」
「抉るのか小櫃……?!」
「四島、過激な表現は控えろ。山田先生が怯える……」
「善処する」
……ブラックジョークが過ぎたようだ。怖がって織斑教諭に庇われる山田教諭は見所があったが、もっと教師として威厳のようなものがあってもいいと思う。
教員二人と別れ、ルームキーを入手した俺達はようやく各々の安寧の時を迎えることができる。部屋が寮の入り口に近い一夏を、まずは送っていくことにした。脇に荷物が置かれたドアを見つけてノックし、同居人が出てくるのを待つ。
「相手は女子高生だ。ドジを踏めばどんな仕打ちを受けるかわからん」
「大丈夫だよ、人としての節度を持って接すれば――」
「遅れて済まない、私は……い、一夏?!」
「おお、箒が相部屋だったのか! 知り合いでよかったよ」
部屋から顔を出したポニーテールの少女を見て、一夏は安堵した様子だ。彼女が篠ノ之箒、その姓の示す通り篠ノ之束の妹である。寮と聞いてあまりいいイメージを持っていなかった一夏が、ホテルのような部屋の内装を見て感心している隙に、俺は箒に小声で話しかけた。
「一緒になれてよかったじゃないか」
「っ!?」
彼女が一夏に対して抱く恋愛感情は、誰がどう見ても筒抜けだった。それに気付かない一夏はとんだ鈍感らしい。
ISをこの世に送り出した姉が失踪し、証人保護プログラムとやらで生活の自由を奪われて幼馴染とも離れ離れになり、この学園にも保護の名目で無理矢理入学させられたという箒の心境は想像に難くない。そんな中、世界初の男性IS操縦者として意中の男一夏が同じ高校に通うこととなり、更には自分と同室になるという願ってもない幸運が訪れたなら、彼女の顔に嬉しさが滲み出るのも論無きことである。
「ま……また、顔に出ていましたか?」
「ん? ばれていないとでも思っていたのか?」
「……小櫃さんは、私に意地悪です」
「そう言うな、これも老婆心だ。一夏のことを宜しく頼むぞ」
今の一夏には、コーチとしてサポートしてくれる人間が必要だ。微笑ましい少年少女の部屋を後にし、俺は1034号室を目指した。
到着次第、先と同じ手順で同居人の出現を待つ。果たしてどんな人物か――
ノックしてから十分が経過した。
「……おかしい」
返事がない。ドアの向こうで動く気配もない。部屋を間違えたかと思えばそれもなく、確かにドアには『1034』の字がある。
「うむ……仕方ないか」
俺は部屋のロックを解除し、ゆっくりとドアを開け中へ進入した。このまま外に立ち往生しているよりは、同居人に非礼を詫びる方が時間を無駄にせずに済むからだ。
ところが、部屋は電気が点いておらずもぬけの殻。唯一の明かりは電源が入ったままのノートパソコンだけだった。そのすぐ隣には数学と物理のノート、そしてそれら二つで開いた状態に固定されたメモ帳。ノートの表紙には丁寧にクラスと名前が記されている。
『一年四組 更識簪』。今朝の生徒会長の妹のようだ。
PCで調べ物でもしていたのだろうか。画面を少し覗き込むと、その答えがあった。
「!」
そこに表示されていた画像は、ほぼ直線の繋がりだけで構成された、無機質で、十代が見るには味気ないものだった。しかしISは勿論、従来の兵器に関する知識を持ち合わせている俺には、それが何なのか理解できた。
それは設計図だった。ミサイルポッド、それもIS用。名前は『山嵐』というらしい。
全六機のポッドがそれぞれ八門のミサイル発射構を備え、完成すれば最大四十八発の独立稼働型誘導ミサイルを発射する、一対多の戦闘能力に長けた武装で、かつ広域制圧力にも優れているだろう。「避けられない数のミサイルを撃てば必ず当たる」とでもいうべきミサイル哲学。本来は山から吹いてくる嵐を指す言葉としてその名を用いているのだろうが、俺からすれば、棘だらけ、まさに
しかし奇妙なのは、これが第三世代型
別ウィンドウで開いているメモ帳ソフトには、コマンドプロンプトに入力するものと思しきプログラムの羅列があった。発展途上とはいえ、もしもこれがミサイルの誘導システムを構成するもので、全て自力で作成したのなら、この簪という少女は大した腕の持ち主だ。この世界に来る前の、機械の扱いに一日の長がある友人達の助けを借りねば、俺はこれ程高度なプログラミングはできまい。
「凄い奴だ」
紙の方のメモ帳には、『Ver. 0.8 未完成 ハードに難あり? 要検討』と書かれている。これでもまだ上を目指そうというのだから驚きだ。俺が独りごち、賞賛の言葉を漏らした直後。
ぱっと部屋が明るくなり、同時にドアの閉まるバタンという音が響く。そして慌しい足音と、
「それに触らないで!」
けたたましい少女の声がそれに続いた。
振り返った先には、内側にはねた(思い返すと姉の方は外側にはねていた)水色の髪を持つ、眼鏡をかけた少女。オートロックの鍵を開けたところを鑑みるに、彼女が簪で間違いないだろう。なるほど姉妹というのは伊達ではないようで、よく似ている。
「……勝手に部屋に入ってしまったことと、PCを弄ったことについては謝りたい。済まなかった」
この場合悪いのは俺だ。誠意を見せて謝罪せねばならない。俺が頭を下げると、簪はおどおどとPCに近付き、それを大事そうに抱え込む。先の大声の勢いはどこへやら、彼女はそのまま風船のように萎んで縮こまってしまった。…恐らくこちらが普段の調子だろう。伝説の傭兵の肩書きもこうなると困り物だ。
「……書いてあったプログラムを見た。素晴らしい出来だった。あれは全て、自分で?」
数瞬の後、こくり、と頷き。
「是非協力したい。俺も共に完成を見届けて構わないか?」
すぐに首を横に振り。
「何故?」
「……お姉ちゃんは、自分で作ったから……」
問えば、小さく応えた。
楯無は専用機持ちだというが、それを自分で作ったなら姉もまた凄いということになる。
いや、落ち着いて考えればそれはおかしい。機体や武装の設計データ、及びそれを動かす為のプログラムを作る程度なら、ティーンエイジャーでもそれらに関する知識を身に付けることで可能になるだろう。だが幾ら何でも、機体をゼロから作るなどきちんとした設備のある製作所でなければ土台無理な話だ。それに得るべき知識も膨大で、協力者がいるのが非常に望ましい。簪は、きっとそこを勘違いしている。
「簪、で合っているな」
「……」
「今朝、お前の姉に会ったぞ」
「え……?」
「これはまだ秘密だが、……俺は、尾行してきたあいつを返り討ちにしてやった」
「それって……!」
「ああ、今本当の生徒会長は俺だ、秘密だがな。多分、お前が思う程姉も強くない。あいつの専用機も、きっと協力者あってのものなんじゃないか?」
実際の出来事からの推測を話すと、簪は心底驚いた顔で俺の顔を見つめ、再び俯いて沈黙する。数十秒あって、「……そう、なのかな」と呟いた。
「結論を急ぐ必要はないぞ。唯一つ言うが、伝説には尾鰭が付き物だ。現実に直面すれば幻滅するものさ。俺のようにな」
「?」
顔を上げ、続きを待つ簪。俺は本日二度目のジョークを口にする。
「伝説の傭兵が、こんな顔だと思っていなかっただろう? もっと美形の、特撮ヒーローものに出てくるような…」
自虐的ギャグ、どこかで聞いた‘自ギャグ’という奴だ。
沈黙が流れる。
「……ぷっ、くくく…ふふふふ……」
「おいおい、一体何を想像したんだ?」
突然吹き出した簪に問うと、
「戦隊もの、レッドからピンクまで全員貴方……ふふっ、くくくく……」
「なッ……」
返ってきたのは背筋が凍りそうな絵面だった。そんなもので腹を抱えて笑われても困る。
だがまあ、……取り敢えず、この特撮ヒーローが好きな少女とは上手くやっていけそうだ。
中間テストが近いので更新が遅れる可能性があります。
ご了承ください。