でも頭の中にイメージが!
続きを書くことを強いられているんだ!!
決闘当日は、春にしてはやけに日差しの強い日だった。
第三アリーナのロッカールームは春だからと空調を切っているようだが、どうも蒸していて参ってしまう。ISスーツに着替えても汗が蒸発しない。俺も一夏も外に出てようやくすっきりしたところだ。
「どうだ一夏、勝てる自信はあるか?」
「絶対勝てる! ……とは言わないけど、やれるだけの努力はしてきたつもりだ。勝てない道理はない」
「そうとも、努力は無駄にはならん。俺も力をつけた。お互い悔いのない戦いをしよう」
「おう!!」
ここ一週間の間に、俺達は着実に強くなっている。相手はイギリス代表候補生だが、そんなことで怖気付く程ヤワではない。誰であろうと、立ち塞がる敵は蹴散らすまでだ。
最初の試合は、一夏とセシリアの対決だ。一夏は格納庫へ、俺は観客席へと向かう。どういう風の吹き回しか、この試合は一年生全員に公開されることになり(織斑教諭曰く「教材」)、流石に満員とはいかないが観客席は多くの女子生徒達で賑わっていた。
すると当然、他クラス所属のルームメイトもいる訳で。
「隣に邪魔するぞ」
「あ……小櫃君」
簪からマルチロックオンシステムのプログラミングへの協力にOKが出たのは、五日前の夕方だ。以降自室でプログラミング談義をしたり、整備室で彼女の専用機『打鉄弐式』を見せて貰ったりした。山嵐のプログラムを自分で組んでいた理由は、倉持技研が一夏の専用機を開発することに注力し、元々作られていた打鉄弐式が未完成のまま放置されてしまったからだというが、「織斑君がやる気なさそうだったら怒ってた」と、今は何も思うところはないらしい。
「はいビーツースポドリ〜、かんちゃんはお茶をどうぞ〜」
「気が利くな本音」
「ありがとう」
「えへへー、どういたしまして〜」
だぼだぼの制服を着て現れたのは、一年一組所属、簪の旧友だという布仏本音、通称『のほほんさん』。異常に長い袖に手が完全に隠れているのに、のんびりとした動きながらも器用にペットボトルを手渡す。一夏を「おりむー」、俺を「ビーツー」と呼び、他の者にも勝手に奇妙な渾名をつけて呼んでいるようだ。
徒手空拳になった本音が俺の右側に座ると、俺は彼女と簪に挟まれる形になった。どちらも俺とは二十センチ以上の身長差がある。のんびり屋、伝説の傭兵、凄腕プログラマー……何ともおかしなトリオである。
「ねえねえビーツー、おりむーとせっしー、どっちが勝つと思うー?」
「どうだかな。俺から言えるのは、あいつは只では負けんということだけだ」
「……出てきた!」
アリーナの両端にある格納庫から、それぞれ一機ずつISがカタパルトで射出されて空中に躍り出る。蒼い方がセシリア、灰色の方が一夏。
「……灰色?」
織斑教諭は、とんでもないことをしてくれたものだ。あの灰色には覚えがある。
「東ー、おりむ関ー。西ー、せしの里ー」
「何で相撲なの本音……」
だが一夏は、その劣勢に屈することはなかった。
セシリアの操るブルー・ティアーズの多角的で執拗なレーザー攻撃を、一夏は最適化も終わっていない機体で何とか避けてみせた。何発か貰ってしまったが、セシリアの「BT兵器の操作中は動けない」という弱点を突き反撃。インターセプターを弾き飛ばした直後に虎の子のミサイルが飛来するも、寸前で一次移行が完了。発現した
一夏の専用機『白式』の情報を、アームキャノンのインターフェイスに備わるデュアルカメラで得ることができた。
零落白夜は織斑教諭が第一回モンド・グロッソにて使用したもので、周囲の敵ISのシールドバリア、エネルギー系の攻撃を拡散・無力化し、その状態で攻撃することでIS最大の操縦者保護機能たる絶対防御を発動させ、シールドエネルギーを大幅に削り取る、一撃必殺を旨とする能力だ。使用中は自身のシールドエネルギーも消耗する為、唯でさえ劣悪な白式の燃費に拍車をかけている。
ブルー・ティアーズのシールドエネルギーが食い尽くされるのと、白式のシールドエネルギーが枯渇するのが同時だった為に、勝負はドローになったのである。零落白夜の発動があと数分の一秒も早ければ、一夏はセシリアに勝てただろうし、逆に遅ければ負けていた。
「いい勝負だったねえ〜」
「実質的には一夏の勝利だ。あれを使われれば、セシリアは手も足も出ない」
「次、小櫃君だね……。頑張ってね」
「言われるまでもないさ。本音、今度ジュースを奢ろう」
手を振る二人に見送られて、俺は観客席を出、東側の格納庫に向かう。目的地には玉のような汗を浮かべた一夏と、山田教諭が待ち構えていた。
「見ていたぞ一夏。俺が言うのもなんだが、いいセンスだ」
「ギリギリだったよ。やっぱり代表候補生は伊達じゃない。小櫃も気を付けてな」
「それでは四島君、ISを展開してカタパルトに乗ってください」
山田教諭の指示に従い、インターフェイスで全パラメータの正常を確認してから、ISを展開する。
ぐっと膝を曲げ、勢いをつけてジャンプ。その状態でISを呼び出し、宙の一点に留まったまま前転しつつスレート色の装甲を身に纏う。装着完了後、片膝を突いて着地、ゆっくりと立ち上がった。
後方に向けて鋭い棘状のアンテナを伸ばした耳当て。待機形態と変わらぬアームキャノン。二メートル近い物理シールドが付いた左肩、そこから左前腕までを覆う装甲、露出した左手。ごつごつとした力強い脚部。そして背後に浮かぶ、棺桶状の四つの
これがトルコ代表候補生である俺の専用機、『
「か……かっけー……!」
「ハハハ、一度こういうのをやってみたくてな、少し恰好付けてしまった」
「私もカッコイイと思います!!」
喜んでくれて何よりだ。山田教諭が喜ぶのは想定外だったが。
気を取り直して、カタパルトでアリーナに飛び出す。瞬間的にかかった凄まじいGも、ISの保護機能が消してくれた。向かう先には案の定、セシリアのブルー・ティアーズ。
「四島さん」
おもむろに、セシリアが話しかけてきた。
「貴方の話を聞いて、この一週間考えましたの」
「何をだ?」
「私の認識、貴方の意識、どちらが正しいか……。考えましたわ。何度も、何度も。でも幾ら考えても、正しいのは貴方でした。間違っていたのは私です。申し訳ありません」
言って、深々と頭を下げるセシリア。謝罪できるのなら、評価を上方修正せねばならない。百人の善行より一人の改心だ。
「……ですが、私にもイギリス代表候補生の、オルコット家の意地があります。この戦い、負ける訳にはいきません」
「……そうか」
視界に自機がロックされたことを示す警告表示が現れる。これ以上の言葉は、最早不要だ。
「ならば、俺に意地とやらを見せてみろ!」
「いいでしょう、刮目なさい!!」
セシリアの構えるレーザーライフルから、一条の光線が放たれる。右下方へ滑るように移動して回避し、俺はセシリアの真下に回り込んだ。まだ様子見だ。攻撃は仕掛けない。
「行きなさいティアーズ!」
地面が壁となり逃げ道が限定されたと判断したのか、四つのすらりと伸びたビットが俺を取り囲む。それぞれが一定の距離を保ちながら発射するレーザーを紙一重で潜り抜け、俺は今度はアリーナの端を目指した。
観客席にはISのエネルギーシールドをも凌ぐ強固なシールドが張られ、観客を流れ弾から守る役割を果たしている。ここに追い詰められれば逃げ道を失い、一方的に攻撃されかねない。それでもそこに行くのには、それだけの理由があった。
レーザーに掠りじりじりとシールドエネルギーを削られながらも、自分が出てきたカタパルトの真上に辿り着く。前方はビット、後方は壁、逃げ場はない。だが、この時を待っていた。前方百三十度以内にビットが収まる瞬間を。
アームキャノンの銃口を遠く離れたセシリアへと向け、素早くダイヤルを回す。そしてすぐに、人差し指と中指のトリガーを同時に引いた。
「墜ちろ」
展開したアームキャノンの銃口から、無数の青白い光弾が花火の如く撃ち出され、四機のビット全てが被弾。
アリーナに、爆炎が咲き誇る。
バイオニックソルジャーは、敵陣深く切り込んでの電撃戦を想定して作られた、軍用ISの先行試作型である。
当初トルコ軍が思い描いていたのは、
しかし、これを装備したISの操縦者からは、「扱い難い」「
そんな時に差した光明が、俺の持っていたアームキャノン・ジェネラルカスタムだったのだ。
研究者達は、バイオエナジーが生物の生命活動に密接に関わっていることよりも、‘生物の体内から無尽蔵に抽出できる、それ自体が物理学的に干渉可能な力荷を持った素粒子様の物質’であることに着目していた。そしてそれを腕を介して体外に取り出し、電磁的に圧縮形成・射出する武器であるアームキャノンは、彼らにとって、ジーニアスフォートの欠点を埋め合わせても尚お釣りの来る革命的な存在であった。
僅か五十センチ程度の武器一つで、どんな局面にも対応する。弾丸状に形成したバイオエナジー(バイオバレット)は、マシンガン、ショットガン、ゴム弾など様々に撃ち分けでき、刀剣状に銃口から発生したバイオエナジー(バイオブレード)は角度、大きさ、形状が自由自在、半球形に銃口から発生したバイオエナジー(バイオシールド)は極めて高い防御力を発揮する。それだけでなく、対象物体を捕縛するロープ状のビーム、極太のレーザー、巨大な光弾……プログラミング次第で様々な攻撃方法を確立できる。弾切れはありえず、
この
「なっ……!!」
「驚いている場合か?」
大量のバイオバレットで一挙に十八番を破壊され、唖然とするセシリアに、俺は覚えたての
「ミサイルで――」
「当たらんわ!!」
腰部のビットから飛び立つ二発のミサイルも、間をすり抜けてかわすことができた。動揺したセシリアは判断能力が鈍っているらしい。Uターンしようとしたミサイル同士が接触した、その爆風さえも勢いに加えて肉薄。
「インターセ――」
「遅いッ!!」
イギリス代表候補生ともあろう者が、武装の呼び出しにボイスコマンドなど使っている。呆れたものだ。俺はセシリアのコールが終わる前に、向かって右のミサイルビットはバイオブレードで、左はジーニアスフォートの先端部で突き貫き、彼女の手中に湧出したインターセプターを、両の武器で下方へ斬り払うことで叩き落とした。
セシリアの顔に浮かんでいた焦燥が、畏怖へと変わる瞬間を見た。
だが己の正義に頼りきりで痩せこけた俺の良心には、目前の敵に情けをかけていられる程の余裕はなかった。
「終わりだ」
自分でも信じられない位に、底冷えのする声だった。
左腕を振るい、ジーニアスフォートの先端部をセシリアの腹に突き込む。
「ぐうっ!?」
次は右腕で、バイオブレードを突き込む。
「あううっ…!」
左。
「がぁあ?!」
右。
「かはっ…」
左。右。左。右、左、右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右、
ブザーが鳴った。
アリーナのスクリーンには、『試合終了 勝者:四島小櫃』の表示があった。
一夏の忠告は、無駄だったようだ。
本当にどうかしてるぜ最近のビツケンヌは…