IS ~インフィニタス・ストーム~   作:影のビツケンヌ

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明日でテスト終わり。
生物はボーナスステージなので投稿したってヘーキヘーキ(過信)


直下

「「「中止?」」」

 

 俺と一夏とセシリアの台詞が奇跡的に重なった。

 

「聞こえなかったか? 決闘は中止だ。原因は四島にある」

 

 俺とセシリアの試合が終わるなり織斑教諭が言い渡したのは、クラス代表決定戦の中止だった。

 

「俺に落ち度でも?」

「お前が悪いという訳ではない。どちらかといえば、お前の専用機(バイオニックソルジャー)を作った奴らが悪い」

「どういうことですの? 私が攻撃を受けた時は、威力からして出力に問題があるようには思えませんでしたが…」

 

 余裕のなさ故にかなり乱暴な攻撃をしてしまったが、絶対防御のお陰でセシリアはけろりとしている。そんな彼女の疑問に答える代わりに、教諭は俺に「お前のISが使()()()()()武装を列挙してみろ」と促した。

 

「了解した。高機能アクティブデコイ、六連装二十ミリバルカンカノン、四十ミリ徹甲榴機関砲、対IS用HEAT・APFSDS発射砲、物理シールド兼実体剣、バイオバレット、バイオブレード、バイオシールド、マルチロックオンマイクロミサイルシステム、モノフェイズバイオシールド、バイオロジカルグラップル、バイオロジカルボア、オメガリフレクティブキャノン、グラトニーウインドイーター、バイオロジックスーパーノヴァエクスプロージョン、ジャッジメントサザンクロス、ガシングブラスター、エナジーボム、エナジーナックル――」

「もういい、それで止めておけ」

「……他にも数種あるが、アームキャノンの兵装は全て出力調整可能で、殆どは通常型、高熱型、凍結型に切り替えができる」

「い、一体幾つあるんだ……?!」

「ラファール・リヴァイヴの拡張領域の容量をも上回るなんて……!」

 

 一夏は震え上がり、セシリアも青褪めている。教諭は続けて問うた。

 

「四島、その武装が今後増える予定はあるか?」

「状況次第では増やすつもりでいる」

「……それは、()()()か?」

「そうだ」

「いつ増やす?」

「暇とアイデア、必要がある時に。戦闘中にアームキャノンのインターフェイスからプログラムを組んで、その場で新しい兵装を作る位ならできる」

「……と、そういうことだ」

 

 そこでようやく、俺はこの試合が中止になる理由を察した。

 

「武装が多過ぎるからですか? 織斑先生」

「数じゃない、問題はその多彩さと適応能力だ。試合中にお前達三人の機体のスペックを参照したが、四島のバイオニックソルジャーははっきり言って異常だ。現行のどのISに対しても、その個々の特性を封殺し得る対抗手段を持ち合わせている。現にオルコットはアームキャノンの広範囲攻撃でビットを落とされた。恐らく織斑、お前の零落白夜も発動したところで無駄な足掻きになるだろう。そしてこれからどんなISが現れても、バイオニックソルジャーは――アームキャノンはそれへの対抗策をこともなげに編み出す筈だ」

 

 一夏の問いに答えた教諭の言う通り、俺は一夏に一切攻撃させずに勝つ手段を持っている。

 マルチロックオンマイクロミサイルシステム(これこそが山嵐の上を行くミサイル)で撃ち出す消しゴム大の超小型ミサイルは、それぞれに光学センサーやアクティブソナーを備え、充填されたバイオエナジーを撃ち出す計六門の超小型高出力バイオレーザー砲を持ち、それらを独立して制御可能な高性能の人工知能が搭載されている。アームキャノンから五発同時発射されると最大で二百の目標を捕捉し、内三十の目標に対し同時攻撃が可能。推進力は固体から気体へ相変化させる高圧ガス噴射であり、通常のロケット兵器とは違い噴射炎がないので、感熱式の迎撃装置を無効化できるし、また統合戦術情報分配システムを応用した、対象を見失おうともミサイル同士の無線通信によってリアルタイムに情報を交換しターゲットを発見する索敵能力は百発百中の命中精度を誇る。

 このミサイル四発が正四面体の頂点、発射されたバイオレーザーが辺、拡散し再形成されたバイオエナジーが面となることで、モノフェイズバイオシールドが完成する。単位相(モノフェイズ)というだけあって、通常なら表裏どちらからの攻撃も通さないバリアだが、モノフェイズバイオシールドは一方向からであれば攻撃を通してしまう。これを利用し、攻撃が通らない面に相手を閉じ込め、外側から一方的に攻撃し続けるという戦法をとることができるのだ。攻撃を通す側に閉じこもってその逆をすることも然り。

 しかしそれで勝ってしまうのはあまりに味気ないし、自分の練度も上がらないから、それぞれの兵装には少し「弱みを作る」ことにしている。モノフェイズバイオシールドの各頂点は、辛うじて弾丸を通せる程度の穴があり、そこからミサイルを狙い撃てば簡単に破綻するようにできているのだ。スプラッシュバレットでセシリアのビットを落とした時も、彼女がビットを安全な場所に退避させていれば無傷で済んだことだろう。……これらの弱みも、実用化の暁には解消されてしまうのだろうが。

 

「四島、お前をクラス代表にする訳にはいかなくなった。一月後にクラス代表同士の試合があるが、お前が出るとパワーバランスが崩れる。また今後の授業や公式な試合、実技試験に於いては、こちらが事前に指定した兵装以外の使用は禁止する。例外は一切認めない」

 

 うかうかしているうちに、恐れていたことが現実のものとなってしまった。こればかりはエドウィンに相談してもどうにもなるまい。

 

「えーと、じゃあクラス代表は、」

「織斑だ」

「一夏か」

「一夏さんですわね」

「や、やっぱり……」

「まあまあ、そう落ち込まずに……ほ、ほら、一繋がりでいいじゃないですか、ね?」

 

 そして哀れクラス代表となってしまった一夏――決闘自体は乗り気だったが、彼はクラス代表にはなりたくなかったそうだ――についても、俺はどうすることもできない。非情にも決定事項とばかりに断言する織斑教諭は言わずもがな、潔く負けを認めたセシリアは当然のような顔をしているし、山田教諭に至っては意味不明な理論で説得を試みる始末だ。

 やがて一夏が折れてクラス代表となり、今日一日の授業が終了した後、食堂でクラス代表決定を祝うパーティーが開かれた。だしに使われているような気がして幾らか不満もあったが、女子達の盛り上がりを見ていると、それもどうでもよくなってきた。

 彼女達には、今の平和を享受する権利がある。それを奪う輩を許すことはない。

 その為に、俺はここで学ばねばならぬのだ。

 

 

 

 

 

 そんな風に、再び決意を固めていた時のことだった。

 

「やっほー、皆のアイドル束さんだよー!!」

「なっ……?!」

 

 四島小櫃はこの世界で、少し名を上げ過ぎたのかもしれない。

 パーティーが終わった後、俺は寮へと帰る道すがら自販機で飲み物を買おうとしていた。一足先に自室でプログラミングに勤しんでいるであろう簪への差し入れも兼ねてである。

 自販機の前に立って小銭を投入し、今まさにブドウジュースの下のボタンを押さんとした時、アームキャノンのインターフェイスから、通信が入ったことを知らせる通知音が鳴ったのだ。本来ならエドウィンの入り浸る研究所始め、トルコ国内の機関と直接繋がる専用回線でしか、待機形態(アームキャノン)のインターフェイスを使ってのリアルタイムな双方向通信はできない筈なのだが、通信相手の表示は文字化けしていた。何事かと思って通信を開いてみれば、

 

「ふふふー、突然の登場に驚いてるみたいだねー」

 

 相手はなんと、あの篠ノ之束だったのである。

 

「君がおびっくんだね」

「……何の真似だ。貴様に渡すような情報などないぞ」

 

 とんでもない輩に目を付けられた。俺は真っ先にそう考えた。

 アームキャノンは元々私物であることにも由来するが、そのデータや制御システムは殆どがISのコアネットワークから完全に独立しており、僅かな情報しか流れないようになっている。しかし今のようにコアネットワークを介さない通信などから干渉しているならば、俺の生まれた世界の強力なセキュリティシステムがあるとはいえ、果たしてそれが篠ノ之束に通用するかはわからない。

 バイオエナジーに関連する情報をこの世界で最も多く所有しているのは、間違いなくこの俺だ。聡明な篠ノ之束は、四年前の第二回モンド・グロッソ開催日以前には、四島小櫃なる人間の情報がどこにも存在していないことにすぐに気付くだろう。まさか異世界から来たとは思うまいが、二年前クルディスタンをクルド人の自治区として認めた(その時俺はそこで戦っていた)以外には特に注目されていなかったトルコが、唐突に自国の男性IS操縦者の存在、新たに発見された物質とそれを利用したISを発表したなら、俺を何かしらの異分子として見るのは想像に難くない。そしてこうして接触してくるのも――

 「あ、いや、そうじゃなくてね」しかし画面の向こうの、水色のエプロンドレスを着た女は「大事な用件が二つあるんだ」と、至極真っ当な回答をした。

 

「用件?」

「そう、用件だよ。とっても大事な」

 

 妙にもったいぶるものだ。彼女は一呼吸おいて続けた。

 

「一つ目は、お礼。いっくんを助けてくれて、ありがとう」

 

 いっくんというのが一夏を指す語だと解するのに、数秒を要した。

 思えば、彼女が俺を『おびっくん』などと呼んでいることもそうだが、会話が成立していること自体おかしな話だ。箒が姉の話題を出すことを頑なに拒んでいて、他に関係のある織斑姉弟にどんな人物かを問うたところ、「狡猾な羊」「人格破綻者」などと散々な言われようで、その上昔馴染み以外とはろくに話そうとしないという。にも関わらず、自分は彼女に深々と頭を下げられているのだ。

 ――案外いい奴じゃないか。

 

「本当は報せを聞いてすぐにお礼が言いたかったんだけど、連絡手段がなくて」

「一夏も似たようなことを言っていたぞ。それ以上はなしだ。助かったなら俺はそれでいい」

「うん、ありがとう。それで、二つ目がね……」

 

 束が画面に映らないところで何かを操作すると、アームキャノンに一つのファイルが送信されてきた。念の為ウイルス対策ソフトでスキャンしようとしたが、「トロイもワームも入ってないよ」と束が苦笑したので、コマンドプロンプトにざっと目を通すだけに留めた。多数のサーバーを介して逆探知を防ぎながら通信するソフトのようだった。

 

「これは?」

「そのソフトをハードコピーして、いっくんを通して箒ちゃんに渡して欲しいんだ」

「何かは言わんのだな……いや、身内に渡すなら当然か」

「‘伝説の傭兵’さんなら、この程度の依頼楽勝でしょ?」

 

 依頼。それは俺の界隈では報酬が出ることを意味する。

 俺の生まれた世界では、俺は賞金稼ぎ(バウンティハンター)だった。だがこの世界との制度の乖離が激しく、それをこの世界でやろうとすれば唯のトラブルシューターになってしまうだろうし、それでは俺の正義を実現することはできない。故に俺はどこのPMC(民間軍事会社)にも属さぬフリーの傭兵になるしかなかった。不法入国は何度もしたが、時に超法規的なやり方でなければ殲滅できぬ悪が存在すると信じているし、バックもないからやりたいようにやってきた。依頼を受けずに紛争に介入したことの方が俺の活躍として有名なようだが、実際はトルコ政府と同じく俺に依頼してきた者も多い。

 

「その言い方だと、傭兵としての俺に依頼しているのか? 金で仕事を選ぶつもりはないが」

「束さんが思うに、おびっくんは傭兵としても人間としても恩人だから変わりないんじゃない?」

「……まあいい、引き受けよう。友人の姉の依頼だ。報酬は好きにしてくれ」

「ありがとねー! 束さんは嬉しいぞー!」

 

 疎遠になっていた妹へ贈り物ができるのが嬉しいのか、束は依頼がまだ遂行されてもいないのにぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいる。数秒もすると、どこかに服を引っ掛けたらしき彼女は盛大に尻餅を搗き、画面から消えた。

 

「あうっ」

「……」

「……そ、それじゃあそっちは寝る時間だろうし、徹夜明けの束さんはドロンします。バイビー」

 

 大丈夫だろうか、この兎は。

 取り敢えずこの依頼は、眠りにつく前に遂行するとしよう。

 

 

 

 

 

 翌朝、

 

「起きたまえ小櫃君!」

 

 俺はエドウィンの声で叩き起こされた。

 

「……何故通信が立ち上がっている?」

 

 トルコとの回線はこちらがインターフェイスからマニュアル操作で応答しなければ通信できない。アームキャノンは傭兵になってからは装備したまま寝る習慣がついていたが……まさか俺が誤って押したのか?

 

「そこにいるお嬢さんがやってくれた」

「ごめん、……ね? 何かと思ったら……」

 

 ……これでイーブンだな、簪よ。

 

「何かあったのか?」

「国が用意した君の口座に、とんでもない額の金が振り込まれていたのだが……覚えはあるかい?」

「……心当たりがある。して、金額は?」

「驚かないでくれたまえ。……日本円にして、約一千億だ。同時に『おびっくん最高』との謎のメッセージが研究所に……」

 

 篠ノ之束、やはり恐ろしい女だった。




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