平成のワトソンによる受難の記録   作:rikka

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今回は既存のシナリオ要素をちょくちょく利用したほぼオリジナルですので、カリオストロに比べて描写が増えると思います
なにとぞ、ご了承くださいますようお願いいたします。





110:『幕間~ロシアより愛を込めて~』

 

「えぇ、そうです。マリーさんと再会しまして……はい、そちらに向かわせています。事情は大体話していますので」

 

 

 ウチの事務所の格闘戦績トップのマリーさんが合流できたのは正直デカい。

 今一番優先すべきなのは夏美さんの確保だ。

 志保に関しては、俺に向けてのラブコールがとんでもないことになるんだろうけどそれはいい。

 

 それよりは、誘拐された目的が今一よくわからん夏美さんの方が心配だ。

 とりあえず推理力でも調査力でも戦闘力でもトップの連中を自由に動かせるようにしておこう。

 

 

「……で? おじさんと先生は何しにここに?」

 

 というわけでキリキリ先生達にもこっちのお仕事手伝ってもらおう。

 

「てめぇデンジャラスボーイ! 俺らを追い詰めておいて今更かい!」

「いやお二人が逃げるからでしょーが……」

 

 あそこでふわぁっと立ち話でもしてくれたらもっとふわぁっと巻き込んだのに。

 メアリーも後ろから拳銃突きつけるの止めてあげてください。

 もう完全に逃げる気失せたからこうしてホテルの一室で仲良く向かい合ってるんだから。

 

「で? なにしにこちらまで?」

「……気になる新聞記事を見っけて? ちょっと関連ありそうなこっちを調べに? そしたら更になんか変なことに巻き込まれて……みたいな?」

「なんの説明にもなってないです泥棒のおじさん」

「おぉいデンジャラスボーイ、その泥棒のおじさんってのやめてくれよぉ……」

「……じゃあ……窃盗犯のおじさん?」

「意味変わってねぇだろがい!」

 

 

 ルパンって呼んだら不味いでしょうが……。あれ? でも先生も普通に呼んでるから別にいいのか?

 

「んで、お前さんはどうしたんだデンジャラスボーイ」

「美人と殺し合ってる隙に別の美人が二人も掻っ攫われたんでまとめて取り返しに来ました」

「……お前さんも相変わらず意味不明なことになってんなぁ」

 

 ホントにね。いやもうどこでフラグ立てに失敗したんだろう。

 コナンが関わっていて現場にいるんなら余裕だし、変な連中が横やり入れてきても二回くらい死ぬ気でオッケオッケという感じで挑んだのに片目失った上で更に誘拐を許すとか……。無様にも程がある。

 

 青蘭さんも「借りは必ず返すわ」とか言ってたからまた再戦あるんだろうし……。あぁ、そうか。そういうことか。

 青蘭さん、犯人側でもかなり重要で何度も出てくる――例の組織や枡山さん、キッドみたいなヴィランキャラクターだったのか?

 そういうことなら理解できる。

 

 いや……いや、そうだよ! かなり早い段階から関わってたじゃん! スコーピオンが出てきたの森谷の件のすぐあとだぞ!? しかも俺と安室さんで迎撃した後はしばらくスコーピオンとしては出てこなくなる不自然さ! もっと早く思い至ればよかった!

 

 となると……あれかな。あそこで勝とうとしたのが不味かった?

 本来の筋書きだと痛み分けで『やるわね、ボウヤ』的な〆だった所を、余計な勝ち星狙ったせいで筋が狂って夏美さんと志保が攫われた?

 

 そうか……そうだよな。コナンの話だと夏美さんはロマノフ王朝の三女マリアの血筋だという話だ。多分今頃、初穂さんが例の装置で調べて裏付け取ってくれてるハズ。

 

 物語のキーアイテムに関わる志保もそうだけど、そんな重要キャラが――嫌な話だが殺されるならともかく、誘拐されて消息不明で物語が終わりとかなるはずがない。

 

 少年探偵団の存在に、高校生の主人公が小学生になるあたりこの物語は、おそらく比較的低年齢の男の子向けのハズだ。

 

 となると、あまりにも救いがない話は……あるかもしれないがそう多くはないと見ていいだろう。

 

 やっぱ俺のせいかちくしょう、もう一回くらい腹ぶち抜かれて倒れておけばよかった。

 あの事件でよかったことなんて青蘭さんと本気で命ぶつけあったことくらいしかねぇ。

 

「ちくしょう、さっさと片づけてヴェスパニアの件に専念したいのに……」

 

 警備,警護の専門のキャメルさんと、補佐役として万能選手の初穂。

 出来る事なら二人も呼びたかったけどヴェスパニアの件のタイミングが悪すぎた。

 

「……ちょっと待てデンジャラスボーイ、ヴェスパニア? そいつぁヴェスパニア王国の事か?」

 

 んお? どったの泥棒のおじさん。

 

「あぁ、あそこの王女様が来日するのさ。先日亡くなったサクラ女王が企画、予定していたホテルのレセプションがあって……ウチがちょっと絡んでいる」

 

 さて、普通ならこれ以上話すのは不味いんだけど……。

 う~~~~~ん……。

 

「おいルパン、そいつぁお前が気にしていた例の新聞記事のヤツか? 女王と王子が死んだっていう……」

 

 今度は先生が反応を示す。

 ……おっとぉ。クラリス陛下みたいに因縁ありなの? いや隣国だけどさ。

 

 頼むから変な因縁とかやめてよね? ルパン三世絡みのことはどうしても陛下に報告しなくちゃいけないんだから。

 

 銃を下ろしこそしたけどいつでも抜けるようにしているメアリーに目配せすると、首を横に振られた。

 やたら裏事情に詳しいメアリーでも知らないか。

 

「おいデンジャラスボーイ」

「なんですか窃盗犯」

「……おじさんまで消しやがったな、この野郎」

「なら、とりあえずお互いの印象のためにどっちも呼び方変えません?」

 

 大体なんだデンジャラスボーイって。

 まるで俺が人に危害加えそうな存在じゃないか。

 自画自賛するようだけど、俺かなりの人数守ってる人間じゃない?

 

 カリオストロの時腹ぶち抜かれそうだったおじさんを庇ってやったの誰だと思ってやがる。

 アレでまた心臓止まったんだぞ。

 

「わーったよ、トオル。これでいいかい」

「……念のために聞いておくけど、普通にルパンって呼んでいいんですか?」

「いーのいーの、隠れる時は本気で隠れっから」

「……わかった、じゃあ普通にルパンで。……で、なに?」

 

 

「お前らにはそもそも、カリオストロの件で借りがある。あぁ、あん時庇ってもらったのもそうだが、偽札っていう裏側とはいえ最大の産業がなくなったあの国の立て直しに……クラリスに力を貸してくれてるお前さんにゃあ、正直礼が言いたかったしな」

 

 

「だからお前らの誘拐事件、手を貸してやってもいい。だけどこっちも手を貸せ。一大事だ」

「……ちなみに、どこの一大事?」

「よくてこの国の」

「悪ければ?」

「世界だ」

 

 

 

「最高だな。乗った」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこであっさり危険な話に乗っかるそういうところだと分かっているのか……あの馬鹿者……」

「アイツの世話役なんざ苦労するだろ。オメェさん、よくやるな」

「致し方ない。それなりに骨を折ることばかりだし頭が痛いことばかりやらかす馬鹿者だが、気が付いたら借りが山積みになっていたのよ」

「…………不憫な」

「その目を止めろ、次元大介」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「では、安室さん。所長はマリーさんも頭数にいれろと?」

「えぇ。キャメルさんや鳥羽さんがいないのがちょっと残念ですが、事実上我々の最大戦力が揃いましたね」

 

 透が手配してくれていた、鈴木財閥が関わっているホテルの中の会議室。

 念入りに盗聴対策のクリーニングを施した後に、バイト組と他の一部を除く浅見探偵事務所の面々が勢ぞろいしている。

 

 一番の戦力と言える所長が――透がここにはいないが、それでも久々にほぼ全員が揃ったのは心強い。

 相手があの老人ならば公安よりも、あの組織よりもだ。

 まぁ、この事務所員の中に組織の人間がいるのは癪だが、ただの駒としてみるのならばその有用性は間違いない。

 

「安室さん、それじゃあ指揮をお願いします。所長は別方向から攻めるという話ですし」

 

 一人で思考に沈んでいると、瑞紀さんが話を振ってくる。

 いつもの明るさはなく、その目はどこまでも真摯だ。

 

 山猫の面々も、顔をいつも以上に引き締めている。

 もう後がない。そう考えている顔だ。

 

(苦い敗北の記憶、か)

 

「わかった。……それじゃあ、マリーさんはまだだけど、先に僕たちで大まかな作戦の流れを決めましょう」

 

 瀬戸瑞紀、沖矢昴、恩田遼平に遠野みずき、山猫隊。

 頭数は問題ない。透がすでに現地警察と協力体制を築きつつあるし、途中その流れを察した恩田君がもう動いてくれている。

 

「所長から指示されたのはただ一つ、先日瑞紀さん――だと、もう分かりづらいな。瀬戸さんと沖矢さん、そして山猫隊の皆さんが関わったロマノフ王朝に関わる事件の際、誘拐された香坂夏美さんの奪還です」

 

 まだ経験が薄い遠野さんが、緊張に顔を強張らせる。

 いつもなら沖矢さんと組ませるところだが、今回は恩田君と組んでもらおう。

 

 彼の仕事は交渉面だから前線には出ないし、彼もすでに立派な調査員の一人だ。

 観察力にはまだまだ課題が多いが、機転の良さも体力や技術面ではかなり仕上がっている。

 

 必須の基礎訓練はもちろん、自由参加の各種技能訓練ですら休まずすべて取っている今の彼なら、いざという時でも彼女を連れて逃げる事は出来るはずだ。

 

「山猫隊の皆さん、連中はかなりの数だったのですね?」

「ハッ、規模からして最低でも60はいると思われます」

「私も同意見です。さすがにカリオストロの時よりは大幅に数が減っているようですが、かなり動きのいい奴らが揃っていました。……こう、暴力に慣れている連中って感じですかね」

 

 山猫隊の報告を、瀬戸さんが裏付ける。

 しかし……あの不気味な連中、その中でも精鋭とやり合うか。面倒な。

 

(透、こんな時にどうしてお前が別行動を取っている? 身動きが取れないというわけではないだろうし……なにか手掛かりを見つけたのか?)

 

 いや、そうだ。アイツは香坂夏美に専念しろと言っていた。

 だが、誘拐されたのはもう一人。確か、灰原哀というアイツの家にいる子供も一緒だったハズ。

 

(香坂夏美と灰原哀の誘拐は同一の……あの枡山憲三によるものなのは間違いない。なのに、そういえばどうしてアイツは一つの誘拐事件を分けて考えている?)

 

 いつもアイツは、過程をすっ飛ばして答えを確信していたとしか思えない行動を取る。

 一部の数字しか見えない状況で、的確な方程式を組み立てるような手腕にはいつもながら驚かされる。

 そんな奴が、香坂夏美と灰原哀の誘拐を別と断じたのにはなにかあるハズだ。

 

(いや待て、今はそっちの理由を考えている場合じゃない。とにかく香坂夏美の誘拐と灰原哀の誘拐が別だというのならば、少なくともどちらかがピスコ本人の意図によるもの。そしてもう片方は、ピスコに……そうだな、何者かが誘拐を依頼したと考えるべきだろう)

 

 聞かされるまではまさかと思っていたが、香坂夏美はロマノフ家の三女マリアの血筋の人間だという話だ。

 

 日本で小沼博士と阿笠博士が、先月シンドラー・カンパニーから多額の資金で購入し、導入用意をしていたDNA探査プログラムを使って彼女の所持品に残されていた髪の毛を使って確認した所間違いないという報告がつい先ほどこちらに届いた所だ。

 道理でわざわざ秘匿暗号通信を使うわけだ。

 

 特にロシアではうかつにできる話ではない。

 

(ロマノフ……そういえば、確かロシアには教祖がラスプーチンの子孫を語る妙な宗教団体の本部があったな。海外でも急速に成長していて、公安部でも警戒していたハズ。根拠があるわけではないが、このままでは暗中模索……少し当たってみるか)

 

 いざそのことを口にしようとした時に、胸ポケットの携帯が震え出す。

 事務所用の携帯は二つとも鞄の中にあるし、安室透としての個人用携帯電話は電源を切ってある。

 残る一つは……。

 

「ごめん皆、少し離れる」

 

 残る一つは――組織の物だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いきなり何の用です、ジン。こちらはロシアで忙しいんですが?」

『忙しい、か。まるで探偵の方が本業みたいじゃねぇか。……バーボン』

「いい加減にしてください。今は事態が余りに大きくて、こちらも余裕がないんです」

『……ふん。余裕がない、というのは確かなようだな。まぁいい』

 

 まぁ、実際嘘ではない。

 どういうわけかロシアの秘密警察やCIAも裏でコソコソ動いていて、沖矢昴や瀬戸瑞紀と共に対処しているんだ。

 二つ、三つの意味で自分の正体や動きを知られないために、根回しや対処をしていたので正直かなり疲弊している。

 ここまでの激務は久々だ。しかも、これだけ動いてまだ本命は先という話だ。

 

『あのお方から、お前が潜入している浅見探偵事務所―『現代のピンカートン』には手を出すなという指示こそ入っているが、同時にその内情にひどく興味をお持ちだ』

 

(……だろうな)

 

 なにせカリオストロの一件以降、組織だけではなく各国の諜報機関が一斉に諜報攻勢を掛けてきている。

 それを捌き切っているのは、あいつの手腕のおかげというのもあるが……ノアズアーク様様だな。

 

『なにせ、あのベルモットが記憶喪失になって、あそこの事務所で世話になっている』

「…………………………………………なんですって?」

『どうやら、本気で知らなかったようだな』

 

 知るはずがない。

 少なくと透が日本を出る時までには、そんなことはなかったハズだ。

 

(事情は分からないが、鳥羽さんとキャメルさんが保護したのか。……キャメルさん本人はともかく、コソコソしているFBIの動きが不安だな。透がもう一人いれば心配ないんだが……)

 

 あいつ分裂しないかな。

 そんな現実逃避めいた願いを祈りながら、頭を働かせる。

 

「……奪還計画を?」

『ここで浅見探偵事務所が奴を隠して確保しようとしていたんならそうなっていただろうが……奴らはベルモットをクリス=ヴィンヤードとして各方面に話を通している。記憶が戻り次第、ベルモットも普通に戻ってこれるだろう。連中だって、話を通した以上ベルモットを守ると見ている。だが、連中のより詳しい内情の入手が急務となった』

 

 まぁ、組織側としてはそうだろう。

 なにせベルモットは組織のボスのお気に入りと思われている人間だ。

 

『だが、あそこのセキュリティはかなり固い。こちらでも幾度もクラッキングをかけたが、その全てが失敗に終わってる。お前が仕入れてくる情報が頼りだが、逆に言えばそれが正解かどうか、知っているのはお前だけだ。バーボン』

「つまり、僕は疑われていると?」

『そう慌てるなよ、バーボン。俺達としてもお前を信じたい』

 

(よくもまぁ白々しいことを)

 

 クックックとジンの嫌らしい小さな笑い声に、この携帯を握りつぶしてやろうかと少し考える。

 

 

『俺達も浅見探偵事務所のお宝をお目にしたい。あぁ、是非とも乗せてほしいのさ』

 

 

 

 

『貴重な情報というブツを乗せて、ネットの海を漂う――ノアの方舟にな』

 

 

 

 

 

 

 




・国際弁護士フジ・ミネコ、日本に入国。
・浅見,ルパン、とりあえずの行動を決めてフラリと入ったバーで、ジュディ=スコットという美人と意気投合。
・メアリー,次元、情報収集をしている中、とある宗教団体の教祖死亡のニュースと、アメリカのマフィアがシベリアに入ったらしいという情報を得る。


※黒の組織、『ベイカー街の亡霊』に参戦



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