「もう! アタシに内緒でロシアに行くなんてひどいじゃない、ルパン!」
「しゃーねーだろう? こっちだって色々あったんだから」
「おまけに盗むって言ってる王冠だって大した宝石が付いてるわけじゃないし、安物じゃない!」
「ひでぇなぁ、すっげぇ歴史があるんだぜ?」
「歴史よりも値段よ、ね・だ・ん!」
合流した不二子はそんりゃあもう不機嫌だった。
不二子を置いて動いた事にご立腹……というわけじゃあなくて。
「しかも一緒にいたのはあの男! なによルパン、あんな男と仲良くしちゃって!」
……トオルの奴、女難の相でも持ってんじゃねぇのかアイツ……。
カリオストロで一杯食わされてから、不二子の奴あのデンジャラスボーイにいつか目にもの見せてやるって息巻いてたからなぁ。
「たまたま共闘しただけだよ、そんなに怒るなって」
「どうかしら。あの二人の弟子だからって甘く見てるんじゃないの?」
(どっちかって言うと、あの二人の弟子ってことで拘ってるのは不二子の方だよなぁ……)
「今何か思った?」
「いいえ! な~~~んにも!」
畜生、いい勘してやがる。
「それにしても、お前さんがあの王女を匿ってたなんてなぁ」
「お仕事よ。キースって伯爵から頼まれてね。それで日本に行ったついでにあの男の事務所に喧嘩売ろうと思ったら肝心のアイツは日本から出て行っちゃうし、残ってるメイド達はこっちの動き把握しかけていたし……んもう!」
メイドってあの野郎金持ちかよ。
……金持ちだったな。
それも頭に超が付く。
色んな事業を建てたり買収したりして、今じゃあ数ある日本の財閥の中でも特に頭抜けていて、あの鈴木に追いつくのではないかと言われているくらい勢いがあるグループだったな。
(……あぁ、だから不二子の奴狙ってんのか。やめといた方がいいと思うけどなぁ。相手が悪すぎる)
二度も窮地を共に切り抜けた相手な上にクラリスの実質庇護者で、かつ次元たちの弟子というのもあって気分が乗らないというのもあるが、調べれば調べるほどやべぇ連中ばっか揃った伏魔殿だ。
(仮に俺が奴らから金か何かを盗もうとしても……下手に踏み込むと食われかねねぇな。そういう意味ではちぃっとロマンをくすぐられるが……)
「で?」
「で? ってなによ不二子ちゃん」
「なんでヴェスパニアに関わったの?」
「そこ聞いちゃう?」
「聞いちゃうわ」
「そうですか」
「まぁ、あれだ。ちょいと昔の忘れ物を取りに来たのさ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ロシアでは相当なご活躍だったそうですね。さすがはカリオストロの騎士、クラリス陛下は見事な名剣をお持ちになられた」
やられた。
ロシアの連中も、自分の醜聞は外に漏らさないだろうと思って志保と夏美さんの事さえ守れれば後は賠償の話だけで終わりと思ったらその二人のこと以外全部ぶっぱされた件について。
恩田さん分かってたなら止めてよ!
なんか「まぁ、大体想定通りになってよかったよかった」みたいな顔してないで!
「世辞で時間を潰すこともないでしょう。今回の件、どうやらまたしても時間がないようだ」
今回は間違いなくコナン側の、つまりは今までの俺達のルールの下で考えればいい。
キーワードは入れ替わりと殺人。
ヒロインの蘭ちゃんはこの場にいるし、ついでに王宮という派手に飛び散りそうな建物もある。
(……いや待て、戴冠式のパレードってのもあったな。……混乱したパレードの最中に影武者と本物が同時に現れ、事態が解決へと流れていく……ありそうっちゃありそうか?)
とりあえずコナンと真純が一緒に活動しているという事だから、補佐として瑞紀ちゃんを送ろう。
パレードの方は……沖矢、遠野のスナイパー組に加えてロシアできっちり捕まえてきたマリーさんを付けるか。
皆でボロボロになるまで頑張ったんだから、一人だけこっそり消えるとかそういうのはなしにしましょうよ手が足りないし。
旅は道連れ世は情け。助け合い精神で行きましょうよ、こっち手が足りないし。
うん、多分組織のあれこれでなんか面倒な事情とかがあるんでしょうけどそれはそれで。
今ならちょ~っと改竄した情報とかデータくらい流してあげますから。
ね?
マリーさんはウチと組織の仕事をする。
こっちはそれで適度に攪乱させながら時間を稼げる。
万が一そっちが狙われたらこっちで匿う代わりに戦力になってもらう、と。
ほら、お互いにwin-winじゃないですか。
ね? 皆で幸せになりましょうよ。
「状況を確認します。動かせる人員はほぼいないと考えていいのですね?」
「はい。……残念な事に」
逆に言うと裏切り者が――つまり敵の駒の数は多いという事になる。
対多数。……ここがちょっとコナンらしくないような……。
いやまぁ、コナンが組織みたいな数を揃える連中ともやり合えるように今組織づくりをしているわけなんだけど。――今回はちょっと間に合わなかったが。
側に控えていた安室さんに目配せすると、素早く一礼して山猫の面子を引き連れて出て行った。
キャメルさんの手が足りない所を押さえてくれるハズだ。
安室さん、こういう所でもキチンと自分を立ててくれるし、なんだかんだ最古参だし自分の副としては最適だと思うんだけど……。
やっぱ立場的に組織の方から無茶言われかねないか? 副を自分から降りようとしている時点で俺の中で安室さんは白だろうってほぼ確定してるんだよなぁ。
関係の構築がえらく速かった風見刑事の同僚か上司――公安の潜入捜査官あたりじゃないかなぁ。
だから思い切って、メアリーや金塊のような一部切り札を除いて手の内は教えておいた方がいいかな、とか考えているんだけど……。
「伯爵、もう一度確認しますが、王女はこちらに向かっているのですね?」
「間違いありません。先ほど入国したという報告がありました」
「先ほど、ですか」
「はい。一度寄り道を――女王とジル王子が亡くなった場所を見てからこちらに戻るそうです」
戻るんかい。
ならパレードの線は薄くなったと見ていいか。
スナイパー組は下見だけして、後から合流するジョドーさんも加えて捜査。
恩田さんはヴェスパニアとの折衝に当たらせるついでに、いざ警護に問題が出た時の遊撃を任せればよし。
とりあえずはこれで行こう。
恩田さんは基本、最終的なゴールラインさえ伝えておいて後は自由にしておいた方が成果を出せる人だ。
反王女派グループというか反体制派が操り人形でしかないという事実を突き止めて、その情報を瞬間的に爆発させないと事件が解決した後のヴェスパニアが不安になる。
ヴェスパニアの政情不安がこれ以上続くと、隣国のカリオストロにまで影響が出てきやがる。
なんとしてもここで状況を良くしておかないと……。
(携帯の着信履歴の数がすげぇ事になってるし、このヤマ片づけた後が怖すぎる……)
一課の連中、お前ら公務員とはいえそこまで給料高ぇワケじゃねぇだろがい。国際電話をかけるんじゃない。
(帰ったらまず、今頃マスコミ対応に追われている越水やふなちに土下座だなぁ。……桜子ちゃんとか大丈夫かな……)
いやもうホント、下手したら今月いっぱいは頭下げ回るのが自分の仕事ということになりそうだ。
……泣ける。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「毛利探偵、蘭さん、飲み物をお持ちしました」
「あぁ、こりゃどうも……えぇと――」
「リシです。リシ=ラマナサン。シンガポールの予備警官でしたが、先日から研修の一環で浅見探偵事務所で働かせていただいています」
大阪の坊主を思い出させる褐色肌の若者が、あの坊主とは違い礼儀正しく頭を下げて俺たちのテーブルにドリンクを運んできてくれた。
(アイツめ、相変わらず人に恵まれてやがる……)
自分の事務所に人を雇うつもりなんてさらさらないが、透を見ているとデカい事務所というのにも少し憧れが出てくる。
「ありがとうございます、リシさん」
「いえ、キャメル調査員と共にお二人に付けという命令をいただいておりますので」
キャメルさんも、ドアの外で警備員よろしく立ってくれている。
あの透が、警護に関しては迷わず仕事を回せるというほどの人間だ。
じきに応援も到着する手はずになっているとか言っていたし、蘭の事は透達に任せて問題ないだろう。
「蘭ちゃん、小五郎さん、お待たせしました」
「おお、透。話はついたのか」
「ええ、ばっちり」
持ってこられたお茶に口を付けようとした時に、透とキースの野郎がドアを開けて入ってきた。その後ろにはキャメルさんも。
「とりあえず俺と小五郎さん、現場を調べてからこっちに戻るコナンや真純たちと合流してから一連の事件の手掛かり探しに入ります。で、一番肝心な毛利家への賠償ですが……キース伯爵」
「はい」
キースの奴が懐からなにかの紙を取り出す。
「この度は、ご息女を巻き込んで申し訳ありませんでした。つきましては――」
そうして突き出された紙を受け取り、目を通し
「#$%&*+@&$%#!!!!!!!???」
「ちょっとお父さん! ティーカップが!!!」
そこには見慣れた¥のマークと、並んで見たことないレベルの『0』が並んでいた。
「賠償金と、加えて名探偵と呼ばれる毛利探偵への依頼料です。どうか、事件の真相究明と事態の解決をお願いしたい」
透テメェ! どんなアコギな真似したらこんなとんでもねぇ金引きずり出せるんだ!!
おま、これ! これ!
「うわぁ……お兄ちゃん、わっっっるい顔してる」
蘭のいう通りだ! テメェとんでもなく黒い嗤い方しやがって!
これでウチへの謝罪だけってことは当然お前これ以上のモノ要求して通しやがったんだろう!
おめぇいつか刺されるぞ!!
「お引き受けいただけますか?」
外れそうな顎と破裂しそうな心臓を抑えるのに必死な俺は、ガクガクと頷くだけで必死だった。
透の野郎、なんて心臓に悪い息子分だ……。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「狙撃しやすい拠点となるとこのビルと向かいですね……。沖矢さん、逃走ルートの方はどうなんでしょう?」
「そうですね、出入り口の数などを考えると――」
(遠野みずき。なるほど、あの男が手元に引き入れるだけの才はある。沖矢昴に並ぶ狙撃手か)
組織の意向もあって、私はこの事務所に出戻る事になった。
さすがの私も多少の恥を覚えたのだが所長は気にせず、改めて所員として働く事になった。
正式に事務所員として再出発した自分の初仕事はパレードルートの警備態勢のチェック、それが終われば――
「昴、私は裏道に車を置ける場所もチェックしてこよう。このエリア一帯は乗用車は立ち入り禁止になるが、搬入などに使う輸送車両は許可証さえあれば入れるという話だ。反王女派が逃走車両を紛れ込ませていたとしても不思議ではない」
「おっと、そうですね。ではお願いします」
自分の一番の仕事は、今回の一件が片付いた後に一気に反王女派を叩き潰すためにその動向を把握しておくことだ。
確かに、これに関しては自分か安室透、瀬戸瑞紀の誰かが当たらないとダメだろう。
ここは異国で、白人系が多い事を考えると適任はやはり自分だろう。
相変わらず、駒の選び方と動かし方が上手い男だ。
ラムが最大限の警戒をするのも頷ける。
「マリーさん、とても優秀な潜入調査の専門家とは聞いてますが、御一人で大丈夫ですか?」
遠野みずきが、こちらの身を心配してくれる。
あの事務所の中では珍しい、正真正銘の一般人だ。
考えてみれば完全な一般人など、調査員の中では恩田遼平と鳥羽初穂、瀬戸瑞紀の三人か。
沖矢昴など、一般人を装っているが断じてアレは一般人ではない。
ただの大学生が、ただ頭がキレるというだけならまだしも、自分やバーボンと渡り合える技能を持っているハズがない。
おそらく、何かを偽装していると見るべきなのだが、本当に何もないのかと信じそうになるくらい怪しい所が見つからない。
これが偽装なら、それをやった人間は浅見透並みに優秀な奴だ。
……あるいは、本当にそうなのかもしれない。
名目上は一介の私立探偵事務所だというのに、どうして集まるのは怪物ばかりなのか。
(……奴の人物選定眼がおかしいのは今に始まったことではなかったか)
通常ならただの奇人変人の一言で説明が終わりそうな小沼博士ですら、自分が事務所を一度抜けた頃には作り出すことはなくとも整備関連の腕前はかなりのものになっていた。
安室透が頭を抱えていたのを思い出す。
「ええ、心配してくれてありがとう遠野さん。こっちは大丈夫。脇が甘いのかすでに痕跡はある程度把握しているから、なんとかなるわ」
問題は、ここまで脇の甘い連中が好き勝手している現状だ。
警察に相当する治安維持組織や、王宮内部の衛兵にかなりの裏切り者がいるハズだ。
これを押さえるとなると、きわめて高度な政治的手腕が必要になる。
ヴェスパニアの上にその力がもし足りないというのならば……。
(鍵を握るのは恩田遼平や浅見透と、ミラ王女派閥の連携か。あの二人がしくじることはないと思うが……)
……やはり、所長に直談判して人員を増やさせるべきだ。
恩田遼平は、今からでも自分の代わりになる人間を育成しなくては、こういう時に手が足りなくなる。
現場の方はすでに揃いすぎているのだ。
危険な状況に立つことが多い
本人も分かっているとは思うが……。
(危険にさらされる人間に気を遣いすぎるのがあの男の欠点だな)
子供たちと遊んだゲーム風に言えば、キャラクターの防御力を可能な限り高めてから攻撃面を揃えるタイプだ。
(いや、とにかくは全てを終わらせてからだ)
どちらにせよ、おそらく明日には決着がつく。
〇警視庁の面々、真っ先に暴れん坊馬鹿の会社や家の警護やパトロールを強化することを決定。
〇FBIの面々、あからさまな銃紛失に行動を把握されていると周囲を警戒。
〇源之助さまは見ている。
名探偵コナンスーパーダイジェストブックJUSTICE+という、警察やFBIサイドの面々に焦点合わせたサンデーの公式コナンガイドがあるんですが、自分が忘れていた刑事がちょいちょいいて、やっべぇ出さなきゃと早くあさみんたち帰国させたい自分がいる。
百瀬さん(もののけ倉事件の人)とか弓長警部(火災犯捜査一係の人)とかいいキャラだったのに忘れてたなぁ。
個人的に、各都道府県のミステリーツアーとかアニオリとかでちょいと出てきた癖の強い刑事とか使いたい。
最近リマスターで出てきた若井健児とかクッソ使いたくてタイミング見計らってたら、まさかリマスターされるとはww