平成のワトソンによる受難の記録   作:rikka

132 / 163
ベイカー街の亡霊編
131:コクーン完成披露パーティー(副題:嵐が吹く直前)


「やっとパーティまで漕ぎついたね……透君」

「シンドラー社、最近のウチ並みにサイバー攻撃されて大変だったみてぇだな」

「ここしばらく旦那様も越水さん、ふなちさんも中々自宅に帰れませんでしたものねぇ」

「幸さんや桜子ちゃんがいてホントに助かった……。幸さんがいなかったら桜子ちゃんに付き人頼んでたかもしれないし、そうなったら家事関係マジで哀に頼むことになってたかもしれん」

 

 相変わらずすまし顔の哀こと志保は、平然と俺の横を歩いている。

 ……いや、今ちょっと自慢気に笑ったな?

 

「哀ちゃん、一通りの家事キチンと出来るもんね。料理も味付けキチンとしてるし」

 

 でも桜子さんの言う通りな。元々面倒見のいい性格だから楓の事も見てくれているし。

 ロシアというか枡山の件もあるからもっと俺がコイツに気を配らないといけないのに、ついつい志保に頼ってしまいそうになる。

 

「出来るだけで、桜子さんや……悔しいけどこの男の腕前には遠いから」

 

 おう、亀倉さんから教えてもらってるからまだまだ腕上げて見せるわ。

 誕生日のイベントの気配感じたら色んな意味でのお祝い兼ねてケーキ含めたフルコースを桜子ちゃんと一緒に振舞ってやろう。

 

 つっても肝心な時に仕事入るから前みたいに俺が家で腕ふるう機会激減しちまったけど。

 三人で住んでた時の当番制だった頃が懐かしい。

 

 もう俺に出来る事は枕役だけだ。たまに噛まれるけど。

 

「にしても、思っていた以上に来ている面子が豪華だな……」

 

 ワインやカクテルがすでに注がれているグラスを乗せたトレイを手にして会場のあちこちを歩き回ってるウェイターから一つグラスを取り、口にする。

 ……やべぇな。

 このパーティ、かなりのレベルの料理人やバーテンダーを雇ってるはずなのに、この間の事務所飲みで安室さんが作った同じカクテルの方がはるかに美味ぇ。もう安室さんが厨房かバーカウンターに立てよ。

 あの人マジモンのパーフェクトオールラウンダーになりつつある。

 また料理出来る面子集めて食事会やってみるか。元太達も集めて色々仕込んでみよう。

 

「与党政治家の方々に財界のお歴々……それに警視副総監……ゲーム機の発表会に集める面子じゃあない気がするんだけど、透君どう思う?」

「お偉いさんの顔合わせにちょうどいい肴だったんだろ。ついでにこの中にゃ家族と日頃あんまり顔を合わせないって人もいるだろうし、子供がいる人の家族サービスにはちょうどよかったんじゃないかね」

 

 割と真面目に、お偉いさんから家庭内の案件持ち込まれるの多いよなぁ。

 奥さんか旦那の浮気とか、子供の素行に関しての調査だとか。 

 

「特に今回はシンドラー帝国のドンに鈴木財閥の関係者も来てる。そりゃあ注目されるわな」

「あの……鈴木様も確かにあちらで注目されてますが、同じくらい旦那様もすっごく見られているような……」

「無視して桜子ちゃん。向こうから声をかけに来た奴にだけ対処すればいいから」

 

 強いて言うなら警察とかメディアの関係者にはこっちから挨拶しておくべきか。

 こっちから積極的に協力する必要がある警察はもちろん、意外なほどこちらに協力的な日売テレビとかとの縁は大事にしたい。

 まぁ、牽制も兼ねているわけだけど。

 

「あ、あとこっちから目を逸らしたりあからさまに距離取った奴は要チェック。即リスト入れて」

「こっそり調査して不審な所があったら、後日警察とか公安の方と協力して内偵入れるって感じ?」

「大正解」

 

 最近アチコチで裏金が動いてると思われる痕跡があるし、最悪それが枡山さんの所と繋がってる可能性だってあるから資金源の可能性があると見たら速攻チェックしなくちゃならなくなる。

 捜査二課の人たちとは最近マジで連携取ってる。

 下手したら捜査一課よりも親近感湧いてるかもしれん。

 

 ひょっとしたらついでに例の黒づくめの組織の奴らのが引っかかるかもしれんけど、それならそれで最終兵器コナンの出番が来るからドンと来いだな。

 

「にしても哀、お前探偵団と合流しなくていいのか?」

「今は子供の私がここにいた方が適度な虫除けになるんじゃない? 貴方と越水さんだけだと、顔つなぎをしたがってる人達がわらわら寄って来て鬱陶しくなるじゃない」

 

 子供がする気遣いじゃねぇ! いやお前子供じゃないけども!

 

「パーティ終わるまでには絶対に顔合わせる事になるんだけど?」

「一度に来られるよりはマシでしょう? まぁ、沖野ヨーコのステージが始まる頃には江戸川君達と合流するわ」

「あぁ、まぁ、妥当な所だけどさ」

 

 歌手が大音量で歌う所でわざわざ顔覚えてもらいに挨拶してくる奴はあんまおらんだろう。

 計算できる(したた)かな奴ならなおさら。

 

『……ねぇ、透君』

 

 相変わらずツーンと澄ました顔で俺の横をキープしている哀が色んな意味で頼もしすぎて敬意を抱いていると、七槻が耳元に口を近づけて、

 

『哀ちゃん、大丈夫?』

『? なんか変わった?』

『ロシアの一件以降、君には偉く懐いてるから君が一番分かると思うけど……ほら、ふなちさんが一緒に寝ていた時はしがみつかれたって言ってたし』

 

 おっふ。志保の奴そこまでだったか。

 そういや、前にこんなパーティに参加した時は俺の足を、見えないよう姑息にゲシゲシ蹴ってたけど今日はそんなん一切ないし、ちゃんと手ぇ握って大人しく付いてきてるな……。

 

『まぁ、自分で言うのもなんだけど……今の枡山さんとサシで話して顔色変わらないのってマジで世界中で俺一人だと思う。あの人、多分今は俺と同じような人間のハズだから』

 

「哀ちゃん、透君に困らされたら、どんなことでもすぐに話してね?」

「君は家族なんだから、透君の馬鹿な感性に振り回されていると感じた時は言うんだよ? 僕がシバくから」

 

 

 

 

 

「君ら急に今まで以上に哀に優しくなったじゃん。……おい、そこの小娘。何を二人に耳打ちをしておる。待て、待ちなさい、待ってくれ話せば人は理解し合えるんだ。いくら出せばいい?」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「ふ、ふなち……あそこなんか揉めてるっぽいんだけど」

「お気になさらず千葉様。あれはいつもの小芝居ですので。ねえ、幸様」

「……私の口からは何とも……ただ、まぁ、ええ。気にされなくてよろしいかと」

「へ、へぇ……」

 

 ふなちこと中井芙奈子は、刑事の千葉と浅見透の秘書と共に料理をつついている。

 秘書の日向幸はともかく、この二名はただ料理を楽しむためだけにここに来ていた。

 なお、千葉を誘ったのはふなちだ。

『食物』と『特撮』のどちらかが関わる事ならとりあえず呼んでおく枠に入れられた千葉。

 

「にしても、まさか僕が誘われるなんて思ってなかったよ」

「まぁ、警視庁の皆様には散々お世話になっていますし。本当は捜査一課の皆様もご招待したかったのですが……」

 

 実際、白鳥や高木、佐藤や目暮といった浅見がよく飲みに誘うか誘われている面々にも浅見や越水は声をかけていた。

 

「さすがに刑事が仕事場空っぽにするわけにはいかないしね。でも由美さんは? 確か今日は休みだったし、浅見君の一番の飲み仲間じゃあ……?」

「今日が休みだからって昨日恩田様や初穂様と麻雀しながら滅茶苦茶飲まれたらしく、今日は一日中ダウンしてらっしゃるそうです」

「由美さん……。っていうか、あの由美さんと一緒に飲んで、あの二人よく平然としてるね」

 

 千葉はチラリと政財界の著名人を相手にそつなく挨拶をしていく恩田と、その横でその補佐をしている鳥羽と見慣れぬ外国人――リシの様子を確認する。

 

「お二人とも飲み方上手いですからね。特に恩田様は相手に酔い潰されないよう、かつ飲んでいないとも思われないように上手く調整できますわ」

「そんなテクニックあるの!?」

「交渉の場では、やはり酔わせてから自分に有利な言質を取ろうとする相手もいるので、防衛策としてあれこれ試して練習するから協力してくれとおっしゃられたことが何度か。飲んでる姿を自分で録画録音して、見直して不自然だと思った箇所をメモ取りしたりとか」

「そんなことまでやるんだ……」

「まぁ、私達からしたらホームビデオの固定カメラ版みたいなものですが」

「……毎回思うけど、君たちのプロ意識というか……仕事への取組みはすごいね。頭が下がる思いだ」

「プロ意識と申しますか……。ウチの透様とか安室様のような天才肌と違って恩田様は努力型ですので」

 

(あぁ、そういえば白鳥さんがポロッと零してたな。休日に知人と河川敷でシャトルランとかしているって……)

 

 最近少しづつ身体が引き締まってきた職場の仲間の姿を思い浮かべた千葉は、そっと自分の身体を見下ろす。

 

「ふなち、こっちのローストビーフ食べる?」

「いやそれ千葉様が取ったもので……というかいきなりどうしたんですか千葉様」

「いや、ちょっと健康に気を遣おうかと」

「……パーティ会場でなぜ唐突にそのような感想に?」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「ちくしょう、透の奴も遼平も忙しそうじゃねぇか……」

「当然でしょ。あの子たちは探偵業以外にもたくさん仕事がある企業人よ。こういうパーティだって、あの子達にとっては仕事の場。お昼から飲んだくれている、アナタのようなぐーたら探偵とは違うのよ」

「なにぃ~~~!?」

「ちょっとお母さん、やめてよ。せっかく家族揃ってこれたのに」

 

 

 鈴木園子の招待でパーティに参加した毛利小五郎と娘の蘭、居候の江戸川コナン。

 浅見透が、普段もっともお世話になってる法律事務所の所長として招待した妃英理。

 

(あ~あ、やっぱりこうなったか)

 

 別居している夫婦は、出会って早々火花を散らしていた。

 

「貴方も見習って、一つでも多く仕事をもらってきたら? 最近は随分と暇してるそうじゃない」

「誰が暇してんだ! 俺は名探偵、毛利小五郎だぞ!」

「あらそう? それじゃあ、浅見透から回された以外の仕事ってどれくらいの割合なのかしら?」

「ぬ……っ! ぐ、ぐぐぐぐぐぐっ!!」

 

(自前で来た依頼って、確かちょっとした金持ちのおばさんの飼い猫探しだっけか。帰り道で事件発生したけど、仕事ではないよなぁ。解決したのも俺だし)

 

 コナンがここ最近の毛利探偵事務所の仕事を思い返すが、大体は浮気調査や逃げてしまったペットの捜索といったものがほとんどだ。

 

(ひょっとしたら少年探偵団の方が殺人に関わってるんじゃねぇか、最近?)

 

「ま、まぁ……あれだ」

「なによ」

「…………」

「?」

「こ、こここうして家族が顔揃えて飯食うのも……アレなんだし……」

「アレなんだし?」

「……一緒に飯でも」

「貴方自分で顔揃えて飯食うのもって言ってるじゃない。何が言いたいの?」

「ああ、いや、だからな……。たまには……こう、まっすぐ向き合ってだな」

「はぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「コナン君、あれって……」

「うん、多分昨日の三つのアレを実践しようと思ってるね」

 

 

 

 

 

「……後でお兄ちゃんに千円返すように言っておくわ」

「そだね……」

 

 

 

 

 

「そういえば園子ねーちゃんは?」

「園子なら、久々に会えた京極さんにベッタリして散々困らせてるわ」

「……どいつもこいつも」

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。