平成のワトソンによる受難の記録   作:rikka

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もう少し書くはずでしたがプライベートであれこれしているうちに組み立てを忘れてしまったので投稿。
今回はかなり短いです


140:次の時代の申し子

「クッ……解除はできないのかメアリー!?」

 

 各事務所員が各々事件と向き合っている間に、その影で動く人間がいた。

 裏方という事で先日顔合わせをしたメアリーとジョドーだ。

 

「ウィルスを送り込んできた回線自体はすでに切っているが、送り込まれたのがやっかいな代物だ。片っ端からデータを消していっている!」

 

 メアリーは、ノアズアーク以外にも何者か手を貸してくれている人間がいる事に薄々気が付いていたが、それに感謝の念を覚える暇がないほどに、圧倒的に手が足りてなかった。

 

「幸いまだ重要な所には達していないが、このまま侵攻が続けば良くても浅見探偵事務所のセキュリティが丸裸になる……いや、それでもかなりマシだ。最悪のパターンは……」

「……誤作動による犠牲者が出る可能性は捨てきれない、か」

 

 ジョドーの脳裏によぎったのは、無理やりコクーンから子供を取り出そうとした結果電気ショックを受けた地位のある父親達だった。

 

「メアリー、私はそっちには疎い。対処法があるとして何が足りない? 何を揃える必要がある?」

 

 ジョドーは、見た目は自分の孫娘と言っても違和感がないだろうメアリーに対して対等に接している。

 その正体や背景は浅見透に『訳あり』と濁されているためジョドーも彼女の事を知らないが、信用はしていた。

 あの浅見透という闇の塊が、自分を刺しかねないという点まで含めて全幅の信頼を置いておる。

 

 それは長年闇に身を置いていたジョドーにとって、とても分かりやすい一つの指標だった。

 

「……数はどうにかなる。必要なのは質だな」

 

 メアリーは額の汗をぬぐう暇すら惜しんで、だがその雫が機器に零れないように、まるで犬のように乱雑に頭を振って汗を伸ばして誤魔化す。

 

「カリオストロにそういうツテはないのか?」

「物理的な防衛の補助に少々使っていたが、知っての通り我々の武器は偽札。つまりアナログなものだ。ネットなどに繋いで販路を増やす計画も確かにあったが……下手に出入り口を増やして隙まで増やすわけにはいかなかった」

「つまりなし……か」

 

 メアリーがキーボードを叩きながら、更に顔をしかめる。

 一方でジョドーは、何かを思い出そうとして――思い至った。

 

「待て、一人……伯爵閣下が引き抜こうとしていた人間がいた」

「引き抜き?」

 

 手を止めずにメアリーが聞き返す。

 

「とある裏の流通路を牛耳る新興組織の一員とされる人間だ。結局交渉には乗ってくれなかったが、協力の要請だけならあるいは……」

「裏社会の人間か。信用できるのか?」

 

 援軍と思って呼び込んだら狼だったという事態は避けたいメアリーの鋭い問いかけに、

 

「彼女は身の安全を重要視する人間だ。こちらが害するような事がなければ大丈夫だろう」

「彼女? 女か」

「まだ少女と言っていい年頃だ。勧誘しようと追手を出した時には、少々面倒な所に逃げ込まれそのままだった」

「それでも連絡は出来ると?」

「勧誘自体は続けていた」

「だが断られたか。理由に心当たりは?」

「二つ。一つは身の安全を確保するのに、その居場所が適していたから」

「もう一つは?」

「おそらく、伯爵閣下のお人柄を信用できなかったのだろう」

「……そういえば女癖の悪さは知れ渡っていたな」

 

 ふと今の自分の宿主の顔が出てきたメアリーは脳内でその顔に拳を叩き込む。

 

(手こそ出しはしない分伯爵よりはマシなんだろうが、美人の依頼人や記者が来ると容易く危ない橋を渡ろうとするからな、あの馬鹿者は) 

 

 もし今度そういう所を目撃したら、子供の振りをして近づき落として素早く連れ戻すと決めたメアリーは、その怒りをキーボードに叩きつける。

 

「メアリー、もうしばしの間頼む」

「助力を引き出せるか? 金銭などで引っ張れる相手ではないだろう」

「……文章でのやり取りだけだが、話したことはあるし感じたこともある。なんとかやってみせよう」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 うーし、まぁ、そこそこ稼げたか。

 

「お兄ちゃんすっごい!」

「浅見探偵、手品も得意なんですね!」

 

 おう、褒めろ褒めろ。

 もうこの際だ。継ぎ足された刃だろうと設定だろうと使いこなしてやるわ。

 大道芸人というかパフォーマー役は外の世界でもストーカー案件での通勤ルートの警備なんかでやったことあるし。

 

「子供10人に俺と蘭ちゃん……まぁ、足りるだろう」

 

 万が一の時は……時計とか売れるかな? デジタルの奴じゃないし多分いけるだろ。

 とりあえず宿だ宿。

 新聞をすぐに買えるとなお良し……あれ?

 

「コナン」

「? なに?」

「19世紀のイギリスって新聞どこで買えるか知ってる?」

 

 そういえばコンビニとかあるわけねぇや。

 この世界がリアルに当時のロンドンを再現しているんなら、シャーロック・ホームズを通して当時の文化や風俗をコナンはある程度把握しているハズだ。

 

「あー……日本でいう瓦版みたいに街のあちこちで販売員が声を上げて売ってると思う。それか、コーヒーハウス……いや、さすがに入れないか」

「ん、喫茶店みたいなもんじゃないのか?」

「当時はコーヒーも紅茶も高い嗜好品だ。だからそういう所は大体会員制だよ。この時代、食品や嗜好品の偽装も普通にあったし」

 

 いやでもさ、ゲームでそこまでリアルにするか? …………してるなぁ、多分。

 そういえば金山さんヴィクトリア朝時代関連の本すげぇ買ってたわ。経費処理の報告聞いたわ。

 というか、やりたいことをやりたいようにやらせてもらえるってここしばらく滅茶苦茶気合入ってたわ。

 食事の差し入れ運んだりしたわ。

 

「まぁ、考えてみれば宿を取るんだからそこの人間に聞けばなんとかなるか」

 

 新聞を見ろってわざわざルート設定してあるんだから、そこらで簡単に見つかるハズ。

 

 楽だ。

 マジで今回色々大っ嫌いだけどすっげぇ楽だ。

 いつもならば考えられる可能性を手探りで辿りながら、コナンやその周りの関係者の身の安全を確保しなくちゃいけないんだけど今回は色んな意味で安心だ。

 

 無論、今回はゲームの中という特殊条件下だから、逆に子供たちの危険度が跳ね上がってはいるんだけど、そのまま即生死に関わるわけじゃないのも少し安心できる。

 

(というか、多分本来はさっきの乱闘やこの後待ってるジャック・ザ・リッパー戦とかで何人か脱落することになってたんだろうなぁ)

 

 あのままだと、あの女っぽい……清一郎君だったか。あの子はコナンを庇って殴られてた。

 多分、ゲームオーバーになっていただろうな。

 

(成長の機会を奪ったんじゃないか不安だったけど……)

 

 歩いている後ろでは、少年探偵団の面々と子供たちは完全に打ち解けている。

 勝手に銃を持ち出して動いたことを反省していた諸星君の謝罪を皮切りに、楓が上手く雰囲気をコントロールして仲良くなったようだ。

 うん、これなら大丈夫だろう。

 楓にはコミュニケーションに関して俺と初穂と恩田さんの三人で英才教育叩き込んでるからな。これくらいはやっぱり余裕だったか。

 

「ん、見っけ。高級って感じはしないけどまぁまぁの宿だ。泊まれるかどうか聞いてくる」

「それじゃあお兄ちゃん、私達も」

「いや、いきなりこの全員で入ったら向こうが驚いちゃうよ。俺と哀で行ってくるからここで待ってて」

 

 ほれ、行くぞ志保。

 

「あら、私でいいの?」

「こういう時にお前以外の適役いねぇだろ」

 

 俺を除いて年長の蘭ちゃんには子供見てもらわなければいけねーし。

 蘭ちゃんとコナンをわざわざ分けるのもなんか気まずいし。

 

「お前なら普段から機転も利くし、基本的に危ない場面でも身の安全を確保してくれるから七槻やふなちと一緒で頼りやすい」

 

 子供の外見を利用して色々聞き出してもくれるし、薬学に加えて医療の知識も持ってるから、元の身体に戻った後も側にいてほしい逸材ではある。

 

 ……さっきまで心配そうだったのに、ちょっと機嫌よくなったなお前。

 

 

 

 


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