平成のワトソンによる受難の記録   作:rikka

19 / 163
018:四国での騒動の一幕

「協力者?」

「そう、協力者」

 

 とりあえず越水に今日の行動を洗いざらい吐かされた。

 なんでも、ファミレスの席で後ろ向きに喋った時にか、髪の毛が一本付いていたらしい。髪型までずばり言い当てられて、「第一回浅見透の好みは年下か年上か討論会」が勃発した。しかも自分の意見を、討論会の最初に宣誓した通り正直に話したらドン引きされた。なんなんだよ、マジで。

 

 

……あれ? そういえばなんで年下って分かったんだろう?

 

 

 ……ともあれ、本題に移ろう。越水の方も、今日は特に進展はなかったらしい。

 だから俺も一緒に行くって言ってんだろうが。一応最低限の知識はコナンから叩きこまれてる。状況を保存したまま倒れた人の生死を確認する方法、遺体の死後硬直や死斑から判断する遺体の状況判断、爆弾解体の基礎知識、緊急時における蘇生法、基本的な暗号パターンに毒も含めた薬品の種類とその対処法などなど……。事務所を開いてからは、工藤新一の家から本を持ってきてくれたりして、阿笠博士の家で授業を受けている。

 はたから見るとシュールな光景だけど、実は結構楽しい時間だ。阿笠博士と協力しての様々な実験なんかやってくれたのは、昔の理科の実験を思い出して、中々楽しかった。

 ともあれ、そんなこともあって今なら結構役に立てると思うのだが……。

 

「ちなみに、その協力者って誰なの?」

「ん? ああ、工藤の知り合いだよ。西の高校生探偵の服部平次――」

 

 

 

――ガタンッ!

 

 

 

「あっちあっちあっちぃ!! おい、なんでいきなり湯呑み倒した! しかも狙ったように俺の方に!!」

 

 

 思いっきり手にかかった熱いお茶を振り払いながら、思わず立ち上がった。

 とりあえず冷やそうと、冷蔵庫に入れておいたコーラの缶を押しつけて冷やす。……あれ、静かだな?

 

「……お~い、越水? どうした~?」

 

 越水は黙ってずっと手元を見ている。おうこっち見ろやコルァ。

 

「…………ねぇ、浅見君。彼、どんな喋り方だった?」

「へ? いや、俺まだ直接会ってないんだけど……。てか、さっき説明しただろうが……お前、本当に大丈夫か?」

 

 おかしい。どうにも集中できてない。こんな越水久しぶりに見るな。それこそ、入学したての時みたいだ。そういや、あの時のコイツは上京したばっかだからか、えらいピリピリしてた……まぁ、コイツ顔はいいからナンパとかサークルの勧誘がしつこくてイライラしてたっていうのもあったんだろうけど……。

 

「浅見君、明日も別々に調査しよう。君の方には協力者がいるから大丈夫だよね?」

「おーい無視か。お茶ぶっかけたのはスルーか、おい……」

「僕は、もう一度心当たりを当たってみる。浅見君には、また今日と同じように独自に動いてほしいんだ。で、明日その調査を詳しく話して欲しいんだ」

 

 

 

 

 

 

 

「――その高校生探偵が、どんな推理をするのか、ね」

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「瑞紀様、一息入れてお茶とお菓子はいかがですか?」

「わぁ! ありがとうございます!」

「いえ、瑞紀様は今日も大変な場所の調査をされると聞いておりますので……、あ、こちらにお弁当も用意しております。……ちゃんと、お魚は使っておりませんのでご安心を」

「本当にありがとうございます、美奈穂さん!」

 

 美人のメイドさんから弁当箱を受け取る。こちらの好みを把握していた上で、バランスも取れた美味い食事、必要な設備や装備は安室さん――本来は所長だが……――に申請すれば大体は揃えられるという優遇っぷり、ついでに調べ物が必要な時などかなり濃い資料が揃う。疲れた時は、何も言わなくてもすぐに美味しいお茶とお菓子が出てくる。

 

(悪くねぇなぁ! この環境!!)

 

 紅子の頼みで、瀬戸瑞紀という人間に成り済ましてこの『浅見探偵事務所』に入り込んでまだ二日だけだが、今の所仕事内容に不満はない――どころか気に入りかけている。

 昨日の香坂家の一件で鍵開けや仕掛け物に強いと判断されたのか、変わった鍵や仕掛け等が関係する場所の調査を優先させてもらえることになった。昼から行く場所もそうだが、今予定が入っている仕事はいわくつきの開かずの間や廃旅館の調査、幕末の天才絡繰師、三水吉右衛門が絡んだ絡繰屋敷の調査などなど……

 

(やっべぇ、ここの仕事、超楽しい……)

 

 てっきり、浮気やら素行調査やら他人のあらを探すような仕事ばっかりになると思っていたが、こういう仕事になるんなら全然OKだ。仕事も事務所に来た時に溜まっているものから自分で選んでいいってことだし、報告書を書くのは少し面倒くさいがそんなの全然気にならない内容だ。そして給料も悪くない。

 唯一気になるとしたら、紅子も気にしていた浅見という探偵。まだ自分も面接の時の一回しか会ったことがないが……。安室さんや中居さん――もとい、ふなちが『優秀な変人』という評価をする男。……部下にそう評価される上司ってどうなんだろうとも思うが……。

 

「でも、穂奈美さんも美奈穂さんもすっごい料理お上手ですよね! 昨日の夕飯とかすっごい美味しかったです!」

「ふふ。ありがとうございます、瀬戸様。でも、今度は私たちの魚料理、一品だけは食べてくださいね? 魚らしい生臭さや食感は工夫いたしますから」

「あ、あはは……。ぜ、善処しまーす」

 

 

――ピンポーン!

 

 

 あれ、お客さんか? 基本的にここに来る依頼は電話かFAX、メールが主って聞いていたけど。

 

「はい、少々お待ち下さい」

 

 すぐに穂奈美さんがトレイを片付けて、ドアの方に向かい扉を開け、応接スペースへと案内する。

 今日は安室さんもふなちも香坂家の方に呼ばれていて不在。今いるのは自分と下笠姉妹だけだ。と。なれば自分が話を聞くしかないんだろうなぁ……。

 

「どうぞ、お掛けになってください」

 

 中に入ってきたのは、――あー、話が本当ならばうちの所長は絶対に声かけるだろうなっていう美人だ。真っ直ぐ伸びた長い黒髪に整った顔……すっげー美人だなー。

 ソファに腰をかけた女の人は、まだ落ちつかない様子で窓やドアを気にしている。人目を避けてここまで来たのかな? なら電話をすりゃいいのに……いや、何かの理由で電話をかけることが出来なかった?

 

「すみません、浅見透さんは……」

 

「申し訳ございません、所長の浅見は今四国に出張しておりまして……」

「私が話を伺いますよ! 所長は明後日までは帰ってこないようですし」

 

 しゃーねぇ、一応俺が話を聞いておくか。緊急性があった場合――例えば身の危険を感じるとかそういった話の場合は、どうしても俺が動かなきゃならねーだろうし……

 

「とりあえず、お名前とご用件を伺ってもよろしいですか?」

「あ、はい。名探偵と名高い浅見さんにお願いがあって来たのですが――」

 

 

 

 

 

 

「私は、……広田……広田雅美という者です」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「ほーん、なるほどなぁ。こら確かに、『ラベンダー屋敷』やな」

「ほんま、どっちのほう見てもラベンダーだらけや! 綺麗やなー」

 

 翌日、俺は平次君と和葉ちゃんの二人と合流してから、例のラベンダー屋敷に来ていた。

 さすがに越水の態度が引っかかって少し強めに問い質したが、結局友人からの依頼の一点張りで何も教えてくれず、朝には少し喧嘩してしまった。おぉ、もう……こうなると長引くんだよなぁ。ふなちがいてくれると楽なんだが……。

 

「平次くんも和葉ちゃんもごめんね。せっかくの旅行の間に巻き込んでしまって」

「かまへんて! せっかく良い人と友達になれたんやし、ここで力を貸さんとか関西人の名折れや! なぁ平次!」

「……いつから俺ら、関西の名を背負うたんや……」

「あ、あははは……」

 

 平次君、和葉ちゃん、本当にごめんなさい! 今度必ず良い感じのデートをセッティングしてあげるから今回だけはご協力お願いいたします。基本的に自分は無能なんです。

 

「とりあえず、現場に入ってみようか……」

 

 今、事件のあったラベンダー畑は人の手を離れ、無人となっている。買い手がまだつかないらしい。

 おかげでこうして俺たちが入れるんだが……。

 

「せやな。現場を見ぃひんことにはなーんも分からへんし、早速中に入ってみよか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、結論から言おう。ぶっちゃけ、ほぼ結論しかないんだが――むちゃくちゃ早くトリックはわかった。調べて2,3時間くらいで終わったんじゃなかろーか。

 窓枠全体が一度取り外されて、ボンドで仮止めされていた状態だったのだ。ようするに、鍵をかけたまま窓を、螺子を外して枠ごと外し、後からボンドで固定したのではないかという事だ。ご丁寧に窓を固定しているネジの先端を切り取ってからまた締めて、パッと見は細工をされていると分からない代物だった。

 証拠までしっかり残っており、近くに切り取られたネジ片が落ちていたのだ。

 とてつもなく単純なトリック……だからこそ、今俺と平次君は行き詰っていた。

 

「浅見さん、こんな簡単なトリックを初動捜査で警察の鑑識が見逃すやろか? どこぞの山奥とかやなくて、十分な用意をしてから来れる所やっちゅーのに」

「だよなぁ……。仮に最初の通りに自殺の線で見ていたっつっても、侵入できそうな窓は徹底的に調べるだろうし……」

 

 平次君がいてくれてよかった。俺一人だったら、おかしいとは思ってもこの『ミステリー世界』ならまかり通るんじゃないかと納得しかける所だった。

 

「でも、実際にこういう仕掛けがあるんやったら、やっぱりその自殺したっちゅうメイドさんが犯人やったんとちゃうん?」

「……いや、どうだろう。もう一個引っかかっているのがアレだ。自殺って決まってから半年も経ってから殺人ってなった点だ」

「せや、ネジの錆具合もちょっと事件から半年以上経ってるにしては、錆が新しすぎるわ。こらひょっとしたら……」

 

 昨日図書館で漁った資料のコピーを読み返す。今日は朝から何度も読み返している資料だ。いい加減に内容は全部頭に刻み込まれているが、それでも読み返している。

 

「今思えば変だな……県警の人も教えてくれたのは概要だけで、詳しい事は教えてくれなかった……」

「関係ない探偵やったからやないか? 向こうもそう簡単に、一探偵を信じるわけにはいかんやろ」

「でも、一応警視庁のキャリア組からの紹介で、かつ解決した事件なのに?」

「……そう言われてみればそうやな……」

 

 気になっているのは刑事の反応もそうだけど、なによりも『半年』という期間が気になっている。

 

「……平次君、ちょっと和葉ちゃんと一緒に動いてもらっていい?」

「ん? かまへんけど……あぁ」

 

 平次君も納得したように声を上げる。

 

「人手が必要っちゅーことは……聞きこみやな?」

「あぁ、ちょっと調べてほしい。……あの『半年』の間のことを、ね」

「おっしゃ、まかしとき! あんたも同じ聞きこみか?」

「あぁ、ただその前に――」

 

 俺はその間に携帯電話の電話帳を開いて、フォルダ区分の二つ目からまず誰から始めようかと選んでいる。どうにも、警察の動きに引っかかる所が多すぎる。平次君までおかしいと言っているなら、何か隠している事があると見て間違いないだろう。

 そうとなれば話は早い。こちらに後ろめたい事がないのならば、打てる手はいくらでもある。目には目を、歯には歯を、権力には――当然、権力を。

 

「使えるコネを有効に使わせてもらうけどね」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 ほとんど人が乗っていない電車の中、僕は一人で席に座っている。……いつもならいる二人が、どっちもいない。

 

(……まいったなぁ……)

 

 浅見君があれだけ僕に強く出たのなんて久しぶりだ。気が付いたら、言い合いになっていた。

 まぁ、彼と喧嘩をするなんて一年の時はよくあったことだけど……。

 今から行くのは、あの屋敷の近くの街だ。あの『高校生探偵』の情報を集めるには、やはりあの街に行くしかない。仮にも探偵だと言うのならば、きっとあの街である程度の聞きこみはしたハズだ。

 

――もし、それすらしていない様だったら……

 

 絶対に許してはおけない。許すわけにはいかない。

 人の人生に関わる事で、最善を尽くさない人間など許されていいはずがない。存在していいわけがない。

 現に、それであの子は追いつめられて、死んだ。――殺されたんだ。警察に、マスコミに、……どこかの探偵きどりの、取るに足らない奴に――!

 

 浅見君を昨日一人で動かしている間に、警察に当時の事を聞きに行ったがなしのつぶて。解決済みの一点張りで何も教えてもらえなかった。

 

(浅見君だったら、どうするかなぁ……)

 

 ほんの数カ月で、隣にいたはずの浅見君が随分と遠くに行ってしまった気がする。何かの謎に当たる度に、彼の観察力にはいつも驚かされている。推理の方も安室さんや江戸川君の影響か、徐々に鋭くなっていってる気がする。きっとそのうち、一人でもある程度の事件を解決できるくらいにはなるだろう。もっと時間をかければ、もっともっと……すごい探偵になれる。

 なにせ、あの性格だ。感情に呑みこまれるようなことがなければ、きっとたくさんの人の助けになれる。

 

(だからもう……僕は――)

 

 

 

――ブー、ブー、ブー

 

 

 

 ポケットに入れていた携帯が震える。そうだ、マナーモードにしてたのを忘れていた。

 席を立って、人がいない端っこの方に行って携帯を開く。

 表示された文字は……『浅見くん』

 

――ピッ……。

 

「も……もしもし?」

『……あー、越水? その……今、大丈夫か?』

 

 やっぱり、居心地が悪そう……って、そりゃそうか。喧嘩、しちゃったもんね。

 

「うん、大丈夫……なにか、分かったの?」

『あぁ、一応な……ラベンダー屋敷のトリックが分かった』

「……殺人事件の?」

『いや、その……盗難事件の方だけど……』

 

 え……盗難事件?

 

『平次君……例の関西の高校生探偵と聞きこみをして、辺りの情報を洗い直したんだ。事件が起こってからの半年前後を重点的に。そしたら、例の屋敷の仕掛けと同じような手口の空き巣が数件発生してる。追えたのは途中までだけど、多分かなりの常習犯だ』

「それ、本当!?」

『このタイミングで冗談言ってる場合かよ。今警察に問い合わせたんだけど、この空き巣の件を聞いたらなぜか門前払い喰らった。例のラベンダー屋敷の事件に関しても同様だ』

「……っ! じゃあ、警察も……っ」

 

 やっぱり、警察も薄々感づいて――! おかしいと思ったんだ! 被疑者である彼女が死んだ後の裏取り捜査が、やけに早く終わっていたのが!!

 

『…………。今、小田切警視長と次郎吉さんに頼んで愛媛県警に圧力を掛けている。ある程度の確証が取れたら、水無さんの知り合いのフリーのライターやカメラマンも動いてくれるハズだ』

「浅見君!」

 

 そこまでの人を動かしてくれたのか。次郎吉さんはともかく、小田切警視長なんて、例の連続爆弾事件の説明で一度会っただけの人だ。……多分、毛利さんか目暮警部……知り合いの警察関係者全員に頭を下げてどうにかチャンスを作り――やってくれたんだ。

 

『……片が付いたら、全部話してもらうからな』

 

 最後に浅見君はそう言うと、一方的に切ってしまった。

 ……とっさにお礼の言葉が出なかった自分が嫌で……でも、やっぱり嬉しい。

 

「ごめんね……『透君』。……ありがとう」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「よし、準備完了。行こうか」

「……俺、こんな怖い探偵事務所、初めて見たわ」

 

 平次君が引きつった笑顔でこっちを見ている。はて、そこまで酷い事してるかな? 今の所、警察の偉い方にとある県警の風紀に妙な所があると教えて、ついでにフリーライターの方達に県警にカマかけるようにお願いしただけである。別に潰そうとかしているわけではないからセーフ!

 

「まぁ、実際は内部調査の人が行くだろうって話だったけどね。いやー、小田切さん堅物だったわ」

「……その堅物の警視長相手にやり合うアンタも相当なもんやと思うけど……」

 

 平次君がなにかボヤいているが、気にしたら負けだ。とりあえずこれでどういう形にせよ警察は動くだろう。さて、マスコミの方も次郎吉さん経由で財閥の圧力掛かってるだろうし、今から行きゃあ面白い話が聞けるだろう。

 

「さぁ行こうか、西の高校生探偵。こっからが一番難しいと思うよ?」

「ま、の。でもやる気は湧いてきたで……。裏付けもようせんまま、下手な推理で人ひとり死なせたドアホウがどこのどいつか知らんままやと、俺の気も収まらんしの……ただ、どうする気や?」

 

 そこなんだよなー。と、口には出さずにボヤく。一番悪いのは誰かとなれば間違いなく警察とマスコミだ。だからこそ、それ相応の責任を取ってもらうために色々手を回しているが……その口出しした高校生探偵ってのは、言っちゃあなんだが、ある意味で責任はない。

 

(恨みは相当深い……と、思う)

 

 さっき電話をした時、警察の方の話になったらアイツは警察『も』と言っていた。多分――

 

「その越水っちゅー姉ちゃんも、多分警察やマスコミが必死に隠しとることがあるのに気がついとるんやろ?」

「……みたい、だね」

「……なぁ、ひょっとしてその姉ちゃん。そのどこぞのアホウを――」

 

 それ以上言わせないように、人差し指を一本立てて、平次君の前に突き出す。

 いや、多分それで合ってると思うんだけど……。越水も少しは思いとどまってくれたんじゃないかと思う。

 責任が重い所をこれから徹底的に引っ張り出すんだ。少なくとも、亡くなったメイドさん――越水とどういう関係だったかは分からないが……多分、友人だろう――の名誉は回復するだろう。越水が実際に見つけ出してどうするかは分からないが、仲間として当然力になるし、もし一線を越えようとしたのならば、身体を張って止めるのも仲間の役目だろう。

 

「ま、それよりもまずは一番大事な所から押さえよう。例の、清掃業者を装って侵入していた奴の足取りを追う」

「任せとき。こうなったら最後まで付き合うで」

「……和葉ちゃん。今度、東京に来たら最高の旅行をプレゼントするから――」

「ええってええって、大事な人の一大事やったんやろ? ウチも最後まで付き合うで」

「……ありがとう」

 

 さぁ、最後の締めだ。張り切っていこう!

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

8月12日

 

 色々あったが、無事に四国から帰って来た。事件についてはメモで残しているので、その後どうなったかを書いておこう。

 あの後、全ての元凶とも言える連続窃盗犯、槌尾広生を追う事になった。足取りを追っていくうちにちょうど現行犯で発見。やっと追いつめたと思ったら、清掃業者の物に偽装したワゴンで逃走しやがった。とっさに和葉ちゃんとバトンタッチして平次君のバイクで追跡、野郎の車が速度を上げて逃げきろうとしたのだが、逃げ込んだ先の県警が上手い事非常線を張っていてくれて無事に捕まえる事が出来た。

 越水の方は、あの屋敷の使用人だった甲谷廉三という人物を追いつめていた。どうやら、この人は最初の娘さんが自殺だと知っていたらしく、娘さんが自殺した事を彼女の汚名だと考え、黙っていたらしい。

 今日、越水から聞いた話だが、最初は彼も槌尾も殺そうと思っていたらしい。

 その後の調査で、越水は例の高校生探偵が誰かもわかったらしいが、本人いわく、もういいとの事。

 

「今どこにいるか分からないクソヤローより、いつ何をやらかすか分からない目の前の大馬鹿の世話で手いっぱい!」

 

 だ、そうだ。大馬鹿で悪かったな。ちくしょう……平次君が、あのワゴン止めるために俺が飛び移ろうとしたのバラしちゃったから……。もうね、むちゃくちゃ怒られた。おかげで只今絶賛禁酒中。お酒~、お酒~。

 

 今向こう側は大騒ぎになっている。どこの馬の骨とも知らない高校生の言葉を真に受けて騒いだマスコミと、それに加えて無実の人間を死に追いやるほど厳しい尋問をした警察――というか向こうの県警は激しいバッシングを受けている。

 一部の雑誌では、問題の高校生探偵はコイツだと、顔写真に目線をいれて『T・J』氏と載せたらしいが……まぁ、正直興味なし。ん? なんかフリーライターに追われているらしい? さ~て、なんのことやら。

 そのついでに、事実の解明に動いたのは俺たちだという記事もあったが、怜奈さんがツテを使って抑えてくれた。また今度奢らせていただきます。

 マスコミはともかく、警察の方は相当風通しがよくなったらしい。安室さんが知り合いから教えてもらったらしく、これからは少しはまともになるだろうという話だ。……そういえばどっから聞いたんだろう? ここ最近機嫌がいつもよりちょっといいし。

 

 ついでに瑞紀ちゃんも良く働いてくれてる。来月からは少し減るそうだが、思ったよりも来てくれそうだ。

 そういや、その瑞紀ちゃんから明日改めて話があるって事だけどなんなんだろう?

 

 

 

 

 




最初の予定では、浅見が四国で服部と槌尾を追いかけ、北海道に時津を殺しに行った越水はコナンと安室が止めに行くという予定でしたが、モチベや無駄にシリアスが長くなりそうだったので大幅カット!
次回はシェリーの伏線を引きながらいくつか主要ストーリーを消化しつつ14番目に備えていきますw


また忘れてた。登場した新キャラ紹介

○小田切敏郎 56歳

警視庁刑事部部長
瞳の中の暗殺者(初出)

多分、劇場版限定キャラ……だったはず(汗)
真実を明らかにするのは警察の仕事だという信念を持ちながら、コナンの能力に一目置いているおじ様。居合のシーンはすごい印象的でした。
実はその後の劇場版でもチラホラ出ているお方。自分は名前が思い出せなかった時は
いつも『記者会見の刑事さん』と言っていましたw
容疑者の一人だったために、左利きという役に立つのか立たないのか良く分からない設定がある方ですw




甲子園編の人は……超簡潔でいいかな?w
○槌尾広生

時津もそうだけど、こいつさえいなければ全部丸く収まったんじゃないかと思った。
けちなコソ泥。以上。




○甲谷廉三
ラベンダー屋敷の使用人。

お嬢様の自殺を恥と考えて黙っていたら、メイドが疑われる。

捜査が進めば疑いが晴れるだろうと放置

え、自殺? うっそでー! ……マジ?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。