グラサン=マダオ
サブタイ書いてたらなんかこんなイメージが浮かんできた
「さてと、それで浅見君。これは何かな?」
「その……発信器、です。はい……」
ちくしょう、回収するの忘れてた。
越水の様子がおかしいから、阿笠さんに作ってもらった発信器をあいつの鞄に仕掛けていたのだ。念のために。帰りの電車でこっそり回収するつもりが、平次君と色々話している内に完全に存在を忘れていた……今の今まで。
事務所に行こうとしたら越水に呼びとめられて、今越水は椅子に腰かけて足を組んだ上で俺を見下ろしている。
そして――俺はその目の前で正座させられている。もちろん床に。
おい、足組み変えるな、下着が見えるぞ。
「で? なんで女の子の鞄に発信器なんて仕掛けたの?」
「いや、その、これは手違いでして――」
「……で?」
「えーと、発信器を仕掛けたつもりはなくて、俺本当はサプライズのプレゼントを――」
「……で?」
「……じゃなくて! なーんとそれは発信器に見せかけた驚きのびっくり変形――」
「吐け」
「はい」
やだ越水さん超怖い。今までに見たことないくらいの満面の笑顔が逆に怖い。
「その、越水――さん、の様子がおかしく感じまして、はい。それで……」
「それで?」
「……」
「……」
「……あーっと! 瑞紀ちゃんから大事な報告があるんだった。ちょっと急いで事務所に行ってき――」
「おすわり」
「……わん」
言わなきゃだめですかそうですか。
「し、心配しまして……」
「…………」
「…………」
「そっか……ボクが心配だったんだ」
「あの……。恐れ多くも……はい」
「…………ふーん」
「………………」
「……そっか。そっかそっか」
「……あの、もし?」
「そっかー、心配させちゃったって、そりゃ当然だよね。それじゃあ、ちょっとやりすぎても仕方ないか」
「あの……越水さん?」
なんかすっごい笑顔だ。え、なに、どしたの?
怒ってるの? そうじゃないの? どっち?
「それで、この発信器ってどうなってるの?」
「あぁ……、このサングラスが受信機っつかディスプレイになっていて、他にもいくつか機能が付いてるんだけど……」
「へぇ、ま、詳しい事は今度聞くよ。今日は瑞紀ちゃんから何か話があるんでしょ? ボクもふなちさんと行く所があるからさ」
えぇ、まぁ機嫌がいいみたいで何よりなんですが……俺、いつまで正座してればいいんすかね。もう足が痺れ切ってて――おいこら、頭撫でるな。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「浅見君が本気を出すとこうなるわけね。……本当に恐ろしいわ」
事の全てがまとめられた資料を読み直して、改めてそう思う。
マスコミの方は私が少し手を貸したが、あの短時間で警察関係者――それもかなり上の方を一気に動かし、県警という一つの大きな組織を相手に見事やり合うあの手腕。フリーの報道マンを動かすタイミング、逃げ道のつぶし方。理想的な詰将棋と言えばいいだろうか? 確信した。あの男と敵対することは、全力で避けるべきだ。
本来ならばマスコミも警察も自分達の不始末である。それを公開させるというのは非常に難しいハズだが、浅見君はその全ての関係者を説得……いや、利を示す事で物の見事に操った。
今現在、県警はともかく警察は、自ら動いた形を見せたおかげで自浄作用が機能しているという形を見せた。マスコミも、不審な所があった地方局に対して調査を入れて、情報を扱う者としての筋を通したと。
ただの大学生なら誰も耳を貸さないが、彼はただの大学生などではない。一探偵事務所の所長にして、鈴木財閥相談役と深いつながりを見せる男だ。そういう意味でも、最初に鈴木相談役を動かしたのは大きい。力にも流れがある。それを上手く使うあたり、浅見透は非凡という言葉が似合う男だ。
こうしてみると、最初から懐に入り込んで絶対の信頼を得たバーボンは最適な行動を選んでいた。
ただ、気になるのは……浅見君の信頼を買うのは別にいい。だが、同時にバーボンも、安室透として浅見君を信頼しているような節が見える。バーボン……一体何を考えているのか……。
(相も変わらず彼の背後関係は見えないし……)
バーボンは、彼の周りを固めている人間――CIAの仲間に目をつけ始めているようだ。
私も、両方の組織から彼とのつながりを強くしろと言われているし……。多分、彼からそう悪くは思われていないと思うが、彼は本当によくわからない。例のスコーピオン――国際手配されているような凶悪犯と真正面から渡り合い、今では謎のバックボーンの存在など関係なく、各勢力にとって無視できない勢力へと変わろうとしている。
(バーボンは、女性に弱いとか言ってたけど……)
言われてみれば、彼は女性との繋がりが多い。最近では浦思青蘭という学者とよくデートをしているようだし、そういえば越水さんやふなちさん、事務所に所属している双子のメイドに、報告にあった瀬戸瑞紀。……言われて見れば綺麗な人達を侍らせているわね。……私も警戒した方がいいのかしら? あの年頃には珍しい落ちつきを持っている子だと思っていたが。
(なんにせよ、彼にはもっと注意を払わなければならないわ)
今では越水さんや中居さんにも例の公安らしき人間が付いている。彼女達の安全はほぼ確実だろう。
彼らにちょっかいを掛けようとしていた反社会勢力はこちらから手を廻して潰したし、公安も似たような動きをした痕跡がある。今あの事務所は日本でも有数の安全地帯かもしれない。
CIAの人員は、別の件があってこちらから減らさなければならない。公安に目をつけられている気配があるというのもあって、動きづらくなってきたのだ。
ここからが勝負だ。人数こそ少なくなったとはいえ、彼も――浅見透も表舞台に上がりつつある。表舞台に上がったとなれば、彼にもまた動きに制限がかかってくる。組織からの命に応えながらも、彼の正体を明らかにする。それが――
(それが私の――任務なのだから)
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
8月14日
さて、またもや奇妙な話になってきた。瑞紀ちゃんが対応したお客さん。広田さんの行方が掴めなくなった。
そもそも依頼からして奇妙な物で、『もしこの事務所にこの娘が来たら、保護をお願いします』というすっごいふわふわした感じの依頼だった。で、押しつけるように渡された依頼料100万円と写真を押しつけられたらしい。どういうこっちゃ。
しかも一緒に受け取った写真を見せてもらったら、すっげー見覚えのある子だった。あの時、工藤の家の前でうろうろしていた可愛い子じゃん。え、ひょっとしてあの子重要人物だった? やっべぇ、しくった。
瑞紀ちゃんも、依頼主さんが『可能な限り内密に』とすごく念を押していたのが気になって、一応彼女の事は居合わせたメイド姉妹と瑞紀ちゃんだけの秘密となっている。ナイスだ瑞紀ちゃん。うかつに広めていいものじゃないっぽい。
安室さん達には悪いが、当面の間この件は俺と瑞紀ちゃんで対処する。とりあえず、広田さんを探す所から始めよう。
8月21日
1週間たっても全然みつからねぇ、どうなってんだ一体。瑞紀ちゃんは、あの広田雅美という名前が偽名だったと見ている。俺も同感です。しかし、名前を隠されるとなると……。一応コナンにも、例の写真を見せて事情は説明しておいた。コナンもその顔に見覚えはないらしいが、個人的に探してみると言っていた。
明日は瑞紀ちゃんに、コナンが協力してくれる事を伝えておこう。瑞紀ちゃんとコナンのコンビもヤバいからなー。この間の殺人事件の時も瑞紀ちゃんが趣味の手品からトリックを見抜き、コナンが証拠を抑えて安室さんが犯人ぶん殴って無事解決……文章にするともう意味わかんねぇなこれ。
そうそう、最近では安室さん、瑞紀ちゃんの時間が空いてる時に、事務所でピッキングや金庫破りの手ほどきを受けている。うん、これも書いてみるとおかしいよね。うち、探偵事務所だったハズなんだけど……。あれ、探偵ってあらゆる方向のエキスパートじゃないとやってけないの?
今日も、鈴木相談役から受けた……受けた? 受けさせられた依頼は調査とかじゃなくてとある企業間の交渉事だったし……。俺はいつからネゴシエイターになったんだろうか。探偵だって――やっべ、素で間違えた。助手だって言ってんじゃん。
というか、この1週間は財閥のお偉いさんと会う機会が異様に多かった。どいつもこいつも娘さんを紹介してきやがって眼福でしたありがとうございます。ただ、見る分にはよくても好みじゃないけどな。まだ園子ちゃんの方がいいわ。あの子は基本的に裏表がなくて付き合いやすい。
それこそ今日園子ちゃんに会ったんだが「偉くなったんだからちょっとは身だしなみをどうにかしなさい!」って怒られて、知り合いという美容院にぶち込まれ、その後は服をいくつか見繕ってもらった。
なんだろう、蘭ちゃんとは違う方面で妹みたいな子だ。今度蘭ちゃんとコナンも誘ってケーキバイキングでも奢ってあげよう。
8月22日
阿笠博士に頼んだ、コナンの眼鏡と一部機能をリンクさせたサングラスが完全に完成した。四国の時までは少し重かったからかけていなかったが、軽量化と機能性がようやく安定したので事務所にかけていったら、安室さんに「そんな馬鹿な」って言われた。どういうことやねん。俺がお洒落をしたのがそんなに意外だったのか。泣くぞこら。
で、警察の方に用事があったから警視庁の方に行ったら、今度は捜査1課の皆さまや由美さんに茫然とされた。なんでや。てゆーか由美さん、『松田君』って誰やねん?
高木さんも疑問だったらしく、周りの反応を不思議そうにキョロキョロしてた。
で、そのまま歩いてたら今度は佐藤さんに遭遇。さっきまでの例から身構えていたら、中身が入った紙コップを落として茫然としていた。あ、また勘違いされてるなと思って俺が「あの、浅見ですけど」って言った瞬間なぜか全力の平手打ちをくらった。泣いたぞこら。
もうすっげーテンション下がりながら事務所に帰ってたら、たまたますれ違った蘭ちゃんが、「すっごいカッコよくなりましたね!」って言ってくれた。ありがとうございます。
次に向こうの事務所に行く時は有名店のケーキを買ってきてあげよう。
8月25日
佐藤刑事が事務所までわざわざ謝りに来た。なんでも、知り合いに似ていると思ったら、色々感極まって思わず手が出てしまったらしい。どういう人なん? その説明だと疑問しか残らない人なんだけど。
安室さんも知ってる人だったらしく、その事で安室さんと佐藤さんはどうやら気があったらしい。
最近刑事さんと仲良くなってる面子が多いな、うちの事務所……。ふなちもよく千葉刑事とフィギュアショップを冷やかしに行くらしいし……。
俺? 仲良いのは……由美さんと高木さん、佐藤さん、あとは白鳥さんかな? 非番が重なった日には、たまに5人でカラオケに行ったり呑みに行ったりするし……。そういや最近はトオル・ブラザーズっつって安室さんも一緒になる時があるな。妙に警察関係の皆さんが生温かい目で見るし、安室さんも似たような目をする時があるけど、あれなんなんだろう? 高木さんもその時は様子変だったし。
あぁ、そうだ。今日も俺、コナン、瑞紀ちゃんの3人プラス源之助の一匹で例の広田さんの情報を探しまわっていた。が、相変わらず情報なし! 顔を書くのが上手いふなちに、詳しい情報は伏せて瑞紀ちゃんの説明を元に書いてもらった似顔絵を元に探しているが、相も変わらず引っかからない。
いくらなんでも上手く隠れすぎだ。これそうとう厄介な物が動いているんじゃないか? それこそ、例の組織の可能性も含めて考えた方がよさそうだ。やっぱり、最低限の人員で極秘裏に動くのが吉だろう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
(はて、この女性を探しているのでしょうか……)
浅見透が、仕事の関係で描かせた似顔絵。念のために、もう一度その似顔絵を描いて手元に置いていた。
(普段ならば安室様や越水様にすぐに相談される浅見様が、これだけ慎重に動くとなると……)
浅見透とは、そこそこ長い付き合いだ。その性格のせいか、友人と呼べる人間がいなかった中居にとって浅見と越水は大学生活で初めての友人だった。特に、浅見透。サークルの勧誘活動の際に、思い切って自分の趣味のサークルを開こうと色々暴走してた時に、自分と関わってくれた男の子。
自分にとって一番の趣味が違うのにも関わらず、これだけ腹を割って話せる人がいるとは思わなかった。
だからこそ、一番の友人。浅見透も越水七槻も、中居芙奈子にとってはかけがえのない友人だ。だからこそ、一緒に住む事もできる。
(……ひょっとして、越水様に報告した方がいいのでしょうか)
越水から、もし浅見が無茶をやるような素振りを見せたらすぐに教えてほしいと言われているが……判断が難しい。
確かに浅見は凄まじい勢いで危険地帯に猛ダッシュしていく男だ。だけど、基本的に無意味にそんな事をする人間ではないし、周りに気を配ることもできる人間だ。……女が関わらない限りは。
(……浅見様も殿方ですから……可愛い方や綺麗な方に何か言われるとほいほい言う事を聞いてしまいますし……)
で、良い様に利用されて捨てられて泣いて越水七槻が慰める、というのが1年の時に何度も見た流れだ。今ではそれに飲み潰れるまでがセットなのがまた性質が悪い。
「はぁ……。仕事を受けたのが瑞紀様とはいえ……不安ですわ」
似顔絵をもう一度眺める。おそらく美人だろう。瀬戸もそっくりだと言っていたし。
二年生になってからは妙に大人びてきたし、例の爆弾事件を乗り越えてからは――正直、少し格好良くなった気もするし、先日髪をいつもの理髪店ではなく美容院で切ってもらってからはかなり印象が変わったと思う。
「あぁ、でもでも最近は浅見様も蜃気楼の君様のライバルキャラ、染井吉野に似た渋みが出てきてお傍には石蕗の方にそっくりな安室様まで! ここしばらくは忙しくてしっかり堪能できてませんが、実は私、今天国にいるのでは――わぷっ」
色々想像を膨らませて楽しんでいると、どうやら目の前が見えていなかったらしく誰かに思いっきりぶつかってしまった。
キャリーケースは問題ないが、手に持っていた似顔絵がひらひらっと宙を舞い、そして地面に……落ちる前に、ぶつかった相手――背の高い男が素早くそれを拾ってくれた。……と思ったら、拾ったその絵をじっと見つめている。
「あ、あのー?」
「――あぁ、すまない。この絵が、少し知り合いと似ていた気がしたので、つい」
「! その方をご存じなのですか!?」
手掛かりが見つかった!
そう思って思わず詰め寄るが、男は表情を崩さず――いや、まったく変えずに、
「いや、勘違いだったようだ。すまない……」
「い、いえ……こちらこそ、ぶつかってしまって申し訳ございませんでした」
「気にする事はない。俺も少し考え込んでいた……過失の割合は50:50と言ったところだ」
その男はわずかにずれたニット帽を直すと、もう一度謝罪の言葉を口にして立ち去って行った。
その去っていく背中をぼけーっと見ている。僅かにこちらをうかがったような素振りが見えたからだ。
(あれ、さっき少しだけ……笑った?)
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「――彼女が日本に来ているのは間違いないようです」
『ふむ、情報は正しかったようだな』
彼女が行方をくらませたと聞き、保護のためにあちこち情報を聞きまわっていた。どうにか日本に来ている可能性があるという情報を頼りに日本に訪れてみたが……こうも早く手掛かりが見つかるとは。
先ほどぶつかった少女の後を尾行しながら、電話で現状を報告する。
「しかし、幸運の女神はこちらに微笑んでくれたようです」
『末端とはいえ、組織にとっての重要人物と思われる人物の姉だ。出来る事ならばこちらで確保したい』
「えぇ、決して逃しはしません」
そう、逃すわけにはいかない。彼女とは――約束がある。
少女が、自宅と思わしき民家にたどり着いた。……どういうわけか、監視の目があるようだ。それも、複数。余り近づかないようにしながら、小型の単眼鏡で表札を覗き見る――『浅見』、か。
――越水様、ただいま戻りましたー!
――おかえりー。浅見君は江戸川君たちとご飯を食べてくるから遅くなるよー。
少なくとも、違う名字――つまりは血縁関係のない3人の人間がこの一軒家に住んでいるようだ。
会話の内容も普通の家族――いや、友人のようだが……なぜ、こんな監視が?
……『彼女』の似顔絵を持っていた事もある。面白い、実に興味深い家だ。
『我々はまだそちらには行けない。頼んだよ――赤井君』
電話の相手の言葉に、返す言葉は一つだけ。この状況では、他の言葉など必要ない。
「――了解」
今回はモブの新キャラは出ていない……よね?(汗)
久々にコナンのfile600くらいを見直してたら、出したいモブが多すぎて困る。
500位からモブでも相当可愛い子が増えたイメージあるなぁ。
次回では、9月から、進めることができれば1月くらいまでのテナント回を含んだスキップ日記をやって……そっから14番目ですなw