平成のワトソンによる受難の記録   作:rikka

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動かしたい人が多すぎて収集つかなくなりそうなので、ちょっと短いですが投下w




023:ボウガンと銃弾と『出来そこない』

 

 

 

「手ごわいな。……実に手ごわい」

 

 ある大手自動車メーカーの会長、枡山憲三。――いや、コードネーム・ピスコは静かにそう呟いた。周りにいるのは水無怜奈――キールと、その補佐のカルバドス、そしてもう一人の女が立っている。

 

「貴方から見てもそう思いますか、ピスコ」

 

 キールが、どこか安堵したような様子でそう言う。どれだけ探りを入れても浅見透の背後関係が分からず、加えてここ最近は彼の周りで奇妙な動きが多いため、とても追い切れないのだろう。補佐のカルバドスも頑張ってくれているのだが、どうにも浅見透を強く意識しすぎている。幾度か見せている彼の非凡さに、どこか余裕が見られない気がする。

 

「あの会食は開いて正解だったよ。……起こった事実のみで上手く話を盛り上げ、自分の感情、感想は出来るだけ排除して、自分の裏を悟らせない。そしてこの短期間で恐ろしい程のコネクションを構築する手腕。歳に見合わぬ老獪さ……。素晴らしい。『あのお方』が気にかけるだけのことはある。実に素晴らしい若者だ」

 

 ピスコの言葉に、キールは驚愕の表情を、カルバドスも珍しく表情を動かす。彼の傍に立っている女は、驚きに息を呑むがすぐに冷静さを取り戻し、静かに呼吸を落ちつける。

 

「キール、カルバドス。君達への命令は変更だ」

「変更……ですか?」

「あぁ、浅見透の背後調査は、バーボン、そして後から来る人員に任せることになる」

「なら……俺達は?」

 

 カルバドスが静かにそう尋ねると、ピスコは老獪な笑みを浮かべたまま、指令を伝える。

 

「キール、カルバドス。君たちには……虎穴に手を入れてもらおうか」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「それで、蘭ちゃんのお母さんは無事だったのか?」

「あぁ、胃洗浄が早かったおかげで大丈夫だったよ。今は、東都大学病院に入院している」

「……好物のチョコに毒を盛られたんだっけか?」

「あぁ、あの人の事務所の郵便受けに直接置かれていたらしい」

「……犯人はあの人の好物を知っていたってことか?」

「あぁ……そうなる」

 

 今日は事務所の方を越水と安室さんに任せて、俺たち――コナンと、肩にいる源之助だ――は阿笠さんの家で事件の整理をしていた。

 目暮警部が襲われたことから始まり、今度は妃英理弁護士。

 

「しかし、あの慎重な人が差出人不明の物を口にするとは……」

 

 阿笠博士が、コナンの特製パワースケボーを調整しながらそう口にする。

 まぁそうだろう。普通の人でも、見知らぬ人からの贈り物など警戒するだろうに……

 

「あぁ……。この前の食事の時におっちゃん、結局蘭のお母さんを怒らせちまって……」

「あぁ、それ聞いたよ。蘭ちゃんから電話で一時間くらい愚痴られて大変だった――」

 

「………………」

 

「え、なんで俺睨まれてんの?」

「いーや、べっつにー」

「良く分からんが腹立つわぁ……」

「……んんっ! とにかく、あれだよ。怒らせちまった後だから、おっちゃんからのお詫びの品だと思ったらしいんだよ」

 

 あー、なるほど。名前も何も書いていないのが照れ隠しだと思ったのか。

 しょうがない気がする。自分なら……たとえば越水とかと喧嘩した後に同じような事されたら疑わずに手をつけてしまう気がする。

 

「あぁ、そうだコナン。例の紙で作られた花だけど、瑞紀ちゃんが面白い事言ってたぞ」

「! なにか分かったのか!?」

 

 コナンから送られてきた紙花の写メを印刷したモノと、前に撮らせてもらったダンボールの剣の写真を事務所の机に並べて皆で考えていた所、瑞紀ちゃんが「あの~」と静かに手を挙げたのだった。

 

「あぁ、あれ……トランプなんじゃねーかってな」

「トランプ?」

「剣はスペードのキングの絵柄で王様が持っている剣。花も同じくスペード、クイーンの絵柄で女王様が持っている花なんじゃないかってね。ほれ」

 

 ここに来る前に携帯で撮った写真、瑞紀ちゃんが見せてくれたトランプを撮った写メを見せる。

 あー、こら源之助、携帯で遊んじゃだめだってば。『なーう?』じゃねぇ。

 

「そうか、見覚えがあるってこれの事だったんだ。目暮警部の名前は十三でそのまま13のキング。妃先生の場合はクイーン、そういうことか! さすが手品師の瑞紀さん。……じゃあ、次に狙われるのはジャックの11が示す人?」

「多分な。瑞紀ちゃんの指摘には、安室さんも頷いていた」

「……浅見さんの所、前から思ってたけど色々おかしい――いや、変だよね。新しく入ったキャメルさんも、聞きこみ上手いし車の運転はプロ級だし……。おっちゃんから聞いたけど、映画の関係者から依頼を受けた時、一緒にカースタントの代打もこなしたんだって?」

「あぁ。……運転上手いとは聞いてたけどあんなに上手いとは思ってなかったわ。おかげでちょっと目立ち過ぎた気がするけど……」

「今更だよなぁ……」

 

 最近は、少々鬱陶しいレベルで取材やら撮影の依頼がわんさか来る。露出を可能な限り抑えている安室さんへの依頼はトップクラスだ。さすがイケメンおのれイケメン。土下座しますからうちの仕事を辞めるのだけは勘弁してください。テレビとかモデルの方が稼ぎ良さそうなら給料上げるからさ! っていうかもう上げたからさ!!

 

「……部下持つと大変だね」

「ただの部下じゃねぇぞ。頭に、『上司の数倍有能な』って言葉が付く」

「は、はは……」

 

 いつも通りの半笑いを頂いたあと、コナンと共に口を閉じる。お互い考えているのだ。ジャック、或いは11という数字が示しそうな人物を。先にその人が分かれば、これ以上の被害を抑えたまま犯人を抑えられるのだが――

 

――パリーンッ!!!

 

「……あん?」

 

 突然ガラスが割れる音が阿笠邸に鳴り響いた。

 

「誰じゃ! こんな悪戯をしたのは!」

 

 ちょうどスケボーの修理を終えた博士がそう言いながらドアへと向かっていく。

 誰かが石を投げ込んだようだ。……え、このタイミングで? ――やばっ!

 

「下がれっ!!」

「博士! 出ちゃだめだ!」

 

 たどり着いた方法は少々違うだろうが、俺とコナンが同時に叫ぶ。

 割れたガラスの部分から僅かに向こう側が――うわぁ、あからさまにヤバそうな奴いるし!

 

「くそがっ!」

 

 かなり早い段階で叫んだおかげか、阿笠さんもドアの前で呆気に取られているままだ。

 一気に走りだし、阿笠博士をそこからどかせようと失礼だとは思いつつ襟首を掴んでこちら側に引き寄せる。それよりも僅かに早く、『パシュッ』と音が耳に入った。あ、これ不味い!

 

 

――ズキ……ッ!!

 

 

「……っ――らぁっ!」

 

 とっさに見えた影に、速度を合わせて、這わせるように指を絡めて――よし、掴んだ。

 ちっと手の皮をやったが、大した怪我じゃない。……毒を塗られてなければ。うん、多分大丈夫大丈夫。

 

「浅見君!!?」

 

 阿笠博士が飛んできた矢に驚いているがそれどころじゃねぇ。

 

「コナン、追え!」

「お、おう!」

 

 コナンも少し驚いていたようだが、すぐにスケボーを抱えて走り出す。

 向こうも慌てて逃げ出したが――あのスケボーの速度なら、なにか妙な事態が起きない限り多分追いつけるだろう。

 

「あ、浅見君、大丈夫なのかね? あぁ、ちょっと待ってくれ、すぐに消毒液と包帯を持ってくる!」

 

 阿笠博士が、少し血がにじんでいる手を見てドタバタと奥の方へと走っていく。そんなに慌てなくても傷――というか怪我というレベルなんだけど……。

 問題はそんなことより……

 

(これが一連の奴の仕業なら、あれがあるはずだ)

 

 スペードのジャックが示すモノ。あの――よく分からない奴。あれマジでなんなの? 剣なの? 杖なの? 今度瑞紀ちゃんに聞いてみよう。

 

「あぁ――やっぱりあったか」

 

 バイクがいた辺り――玄関の所に、例のよくわからないヤツが落ちていた。とりあえず回収しておくか。指紋が残らないようにハンカチ用意して――

 

「ふしゃーーっ!!」

「……なんだよ源之助……」

 

 いつの間にか玄関先まで来ていた源之助――ガラス踏んでないだろうな?――が、毛を逆立てて俺に向かって威嚇している。今までにない剣幕だったので、思わず身体の動きを止めて反射的に身体をそっちの方に逸らしてしまった。

 

「ふぅぅぅぅぅぅっ」

 

 なに? ついに飼い猫にまで嫌われたの俺? とりあえず宥めようと手を振り……あれ、俺の手ってこんなに重かったっけ?

 ふっと自分の手……妙に動かない手を見ると、えらい真っ赤に染まってる。あれ? あれ?

 よくよく見ると、自分の服に穴があいている。……撃たれた? どこから? え、さっきの奴逃げたじゃん? じゃあ――誰?

 

 あ、ダメだ。身体に力が入らねぇ……。阿笠博士が俺を抱き起して家の中に運んでくれてるのが分かるが感覚がねぇ。くそ、メインらしき話が始まった瞬間にこれか、笑うしかねぇ。

 

 

 

 

 

 

――クソったれ……

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「……紙一重で致命傷を避けたか」

 

 スコープごしに、倒れたターゲットが屋内に回収されていくのを見て、カルバドスは笑みを浮かべた――わけではなく、頬に冷や汗を垂らす。

 

(この目に焼き付けられたと言うべきか……)

 

 狙いをつけ、引き金を引いて着弾を確認する一瞬の刹那。その一瞬の間に、これ以上の狙撃はないと確信しているように、スコープを通して自分の目を見てニヤッと笑い、そしてそのまま倒れた男――浅見透。

 最初は胴体を撃ち抜くつもりだったが、まるで650Mも離れたこの距離など関係ないとばかりにあの男はこちらの狙いをわずかに外れ、傷こそ負ったが致命的な物にはならないだろう。腕の、それももっとも被害が少ない箇所で貫通させた。口惜しいが……さすがと言わざるを得ない。

 

「キール。とりあえず狙撃は完了した。これからどうする?」

『……彼、大人しく撃たれたの?』

「……お前もそう考えるか」

 

 つまりは……撃たれた、のではなく――あえて撃たせたんじゃないかと。あのスコープ越しの笑み、狙い澄ましたかのような程良いケガ。

 確信はない。だが、じわじわと胸の内に広がっていくような気味の悪さが己の頭の中を表している。

 

「……今回の任務。お前はどう思う?」

『……怪しいわね。本当に組織のための指令なのか……ピスコの私欲による暴走なのか』

 

 奴は、昔こそ後進の育成などに力を入れる優れた幹部だったが……組織の力を利用して今の社会的地位を手に入れてからは、少しずつ変わっているように思う。彼に育てられたアイリッシュ等は、彼を父親のように慕っていると聞くが……。

 

『浅見くん――ごめんなさい、ターゲットは、今各方面に対する発言力を強めている人間。大企業の会長でもあるピスコは、表の意味でも裏の意味でもターゲットが邪魔になるはず。……今回はあくまで脅してこいという命令だったけど、本当は消したくて仕方がないんじゃないかしら? 未確認の情報だけど、ターゲットが動いた結果いくつもの裏金や副業のルートや、産業スパイが挙げられているという話を聞くわ』

「…………あの男ならば十二分にあり得る」

 

 唯一、あの男の起こした出来事で確実な情報となっている、四国での一件。あれがきっかけで、道府県警はもちろん警視庁も、どこかで奴の動きを意識している。ひどい噂になると、奴が公安の中でもさらに特殊な位置にいる重要人物だというものまで……。奴ほど、退屈とは無縁な男も珍しいだろう。

 

「……ピスコが胸を張って組織のために必要なことだというのならば、完全な暗殺命令が来るはずだ。今回みたいなどっちに転んでもいいというモノではなく」

『……組織に対しての無意識の後ろめたさが、ピスコに今回の手段を取らせたと?』

「でなければ、奴に最も近いバーボンに隠す必要がない。どういう任務にせよ、浅見透への工作が最も確実なのはアイツなのだから。確かに、浅見透に入れ込み過ぎていると思うが……」

 

 恐らく、あの家の主人――阿笠とかいう発明家が呼んだのだろう、救急車のサイレンがこちらに近づいてくる。これ以上の長居は無用か。

 

「撤退する。キール、早すぎない程度に早く奴の見舞いに行くんだな」

 

 ……バーボン程ではないが、キールも奴を気にしている一人だろう。

 よく、奴に関して愚痴が出る時があるが、奴の家や事務所に顔を出す時は楽しそうにしている。

 

『……えぇ、そうさせてもらうわ。貴方も、見つからないように上手く撤退することね』

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「小僧、無事だったかぁっ!!!!」

 

 あ、はい。貴方の声が今んとこ一番のダメージです。次郎吉さん。

 ……訂正、俺が目を覚ました瞬間の越水・ふなちタッグによる渾身のダブルハグが一番キツかったかも。いや、柔らかいしいい匂いがしたしでそれは良かったのだが、身体へのダメージはMAXだったわ。

 

「相談役……。えぇ、まぁ大丈夫です。撃たれただけなんで」

 

 いや、正直結構怖いけど、命を取られることはないと思う。俺が意識失ってから、阿笠博士が屋内に運んでくれるまでに少しは時間が開いていたようだし、本気で命を取ろうとしていたのならばさっさと二発目を撃ち込んでいるはずだ。出血死の可能性こそあったが、腕を撃ち抜いただけだったんだから。

 

 今まで関わったどこかが、俺たちの関与に気付いたか疑いを持ったか――まぁ、そんな所で脅しにかかったというところじゃなかろーか?

 

「おのれ、悪党め! 儂の身内に手を出すとはいい覚悟じゃ!」

 

 問題はこのおっさんだよ。今にも『槍を持てぃ! 出陣じゃあ!!!』とか言いかねない勢いでヒートアップしている。ここ病院なんですけど……。あと寝てる人がいるんで……。

 

「俺の事は大丈夫です。銃撃程度ならば対処法はいくらでもあります。……ただ、ひとつお願いしたい事が」

 

 俺が目でそっとそちらを示すと、次郎吉さんも分かっておると言いたげに頷いていた。

 俺が病院に担ぎ込まれてから目を覚ますまで、まる一日かかった。その間、ずっと俺の世話をしてくれていた二人の同居人が、恐らく病院の人が持ってきてくれたんだろう大きめのソファー、というかベンチに横になっている。かかっている毛布は、小沼博士と穂奈美さんが持ってきてくれたものだ。

 

「お主にとっての家族は、儂にとっても家族の様なものじゃ。必ず、守り抜いてみせよう」

「……ありがとうございます。相談役」

 

 次郎吉さんが来る前に警察には、今回の事件はパニックを防ぐためにも可能な限り伏せていてほしいと頼んでいる。いや、正確には念を押したというべきか。既に安室さんが各所を走り回って必要な工作を全部終わらせてくれていた。本当に俺の考えを分かってくれてるなぁ。

 小沼博士が言っていたが、俺が撃たれたと聞いてから安室さん、寝ずにあちこち走り回っているらしい。今はサイドボードに入っているが、『いい機会だからゆっくり休んでいいんじゃないかな? 後の事は任せてくれ』っていう手紙だけで、安室さんは直接見舞いには来ていない。

 

 いやぁ、そんな手紙をもらってそんな現状を聞かされると勤労意欲が湧いてくるというモノだ。

 多分別件だろうが、トランプ事件の件もある。

 え、気遣い? それを無下にする所までワンセットだって安室さんなら気づいているって、大丈夫大丈夫。怒られたら土下座した後でどこかで一杯奢ろう。

 

「行くのか? 名探偵?」

 

 次郎吉相談役が、俺の顔を見てそう聞いてくる。や、俺名探偵じゃないっす。いいとこ頭に『出来そこないの』が付きます。

 

「お主も普段は飄々というか助平な顔をしているが、やはり武者じゃのう」

 

 出てるんすか、顔に出てるんすか。俺が肝心な所でモテないのはそこっすか。

 了解しました。この件終わったら、自分ちょっとキャラを修正する所存にございます。

 

「男には闘う時が必ず来る。が、無茶だけはするでないぞ」

「えぇ、任せてください。相談役なら知っているでしょう?」

 

 

 

 

 

 

「手を抜くのは得意なんですよ、自分」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




うーん、ちょっと内容が薄かったような気が…・・
次回はもっと濃い内容にできるといいなぁと反省中でございます。

感想は全て目を通しております! ちょっと全部に答えることができないですがorz
これからも皆よろしくお願いします!

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