平成のワトソンによる受難の記録   作:rikka

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さぼってた。超さぼってた。何が悪いかって整理してたら出てきたスクールランブルのDVD全巻とVHSに録画したロストユニバース全話が悪い。





いや、本当にすみませんでしたorz


030:苦悩する男

「やっと直接顔を合わせる事が出来たな」

 

 裏路地ともなれば人目はない。いや目どころか少し大きな音がした所で周りの騒音にかき消され、誰も気づかないだろう。そんな場所で、二人の男が顔を向き合わせていた。

 

「赤井……秀一……」

 

 今ここで何が起こっても、気づく人間は誰もいないだろう。それが銃声だろうが、苦痛に喘ぐ声だろうと……。男の片方――安室透はそう考えるが……

 

「驚いた。まさか君がこんな手段を取るなど、思いもしなかった」

「…………」

 

 言うべき言葉を口にしたい。しなければならないのに、安室透の感情がそれを拒否する。正確には、感情の一つが。今、彼は頭の中で、様々な感情からどの行動を選択すべきか迷っていた。

 

(決めていたハズなんだがな……)

 

 安室は、自分の迷いを自嘲し、何のために彼と接触したかを頭の中で反芻する。

 

「これまで、確実に俺を捕まえようと、部下を使って網を張り巡らせていた君が、なぜいきなりこんな分かりやすい穴を? まるで――」

「まるでもなにも、想像している通りだ。一対一でお前と会うには、お前が絶対に逃げられる状況で誘いをかけるのが一番だと考えたまで。思った以上に早かったがな……」

 

 安室が取った手段はなんてことない。赤井という男が、なんらかの形でこちらの動きをかなりの精度で把握しているのは知っていた。だから、今まで動かしていた人員に指示を出して『穴』を作ったのだ。

 赤井秀一と会うために。もちろん捕まえるため……ではない。その欲求は今でもある。安室透自身の手で捕まえ、赤井を追っている人間に突き出して利用するという――復讐心は。

 だが、それと同じくらい――

 

「それで? 裏切り者のFBIになんのようだ?」

「……取引をしに来た」

「……取引?」

 

 元々安室透――バーボンらしくない行動に好奇の目を向けていた赤井は、より強く『面白い』と思ったのか、彼の目を真っ直ぐ見る。

 

「宮野明美に関する情報を提供してもいいと考えている。俺が知る限りの事だが……」

「なるほど。……それで、俺は何を提供すればいい?」

 

 まさか、俺の首だなんて言わないだろうな?

 赤井が冗談めかしてそういうが、安室はまったく笑わず、持ってきていた大きなバッグを赤井へと渡す。

 赤井が開けて中身を確認すると、そこに入っていたのはライフル。スコープを取りつけた、長距離狙撃仕様のものだ。性能も悪くない。

 

「まさか、FBIの俺に暗殺を依頼するつもりか?」

「……いや」

 

 安室は首を振りながら、懐から一枚の写真を取りだして赤井に見せる。

 

「彼を守ってほしい。お前なら、出来るハズだ」

 

 その写真に写っているのは、浅見探偵事務所の面々で飲みに行った時に撮った一枚の写真。安室の隣に座っていた『彼』の写真だ。 

 

「説明はいらないハズだな?」

「……君なら守れるんじゃないのか? 病院を君の部下で固めればいいだろう」

 

 赤井がそう言うと、安室は首を横に振る。

 

「あの病院を固めたら、敵をおびき寄せる事になる。というより――彼はじっとするのが苦手でな……もう元気に走り回っているよ」

 

 それに、浅見透には動いてもらった方がいいかもしれないと安室は思っていた。怪我をした彼が一か所に留まれば、敵が――『組織』かもしれない連中が付け狙ってくる可能性は高い。それよりかは、彼には動き回ってもらった方がいい。それが安室の考えだ。……少し、諦めも混じっているかもしれない。

 

 最初安室は、浅見を撃ったのは赤井かもしれないと考えた。今でもその考えが拭いきれない。

 同時に、それが先入観――いや、自分の感情に振り回されていると言うことにも気が付いている。

 安室は、浅見探偵事務所にいる時のような軽い喋りではなく、重苦しく口を開く。

 

「もう分かっているだろうが……彼を撃ったのは、『組織』の人間の可能性がある」

 

 それは赤井も重々承知の事だ。だからこそ、この依頼が解せない。赤井からすれば、確かに目の前の男――コードネーム『バーボン』という男は、組織の構成員ではあるが組織の人間だという確信が持てない男だ。

 

「……断ると言ったら、どうするつもりだ?」

 

 罠の可能性はほぼ0だと、赤井は確信している。この発言は、より情報を引き出すためのカマだった。いや、カマにすらならないただの好奇心から来る発言だったという方が正しいかもしれない。

 だから、赤井にとってその光景は予想の遥か外にあるものだった。

 

 

 

 

 あのバーボンが、自分に頭を下げる光景など。

 

 

 

 

「…………頼むっ」

 

 

 

 

 宿敵に頭を下げるのは悔しいはずだ。屈辱なはずだ。 

 安室の口元から、歯を食いしばる音がするのがその証拠。そして、幸か不幸か赤井秀一という男は、それを聞き逃すような男ではなかった。

 赤井は何も言わず、渡されたライフルケースを背負い彼に背を向ける。掛ける言葉が思い当らなかった。そしてなにより、今の彼に余計な言葉は無粋だと、そう思っていた。

 

「その取引、引き受けよう」

 

 示すべきは行動だ。赤井はそう思った。だから――

 

「守ってみせるさ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

(……顔を見れば分かるかと思ったが……俺の知らない顔だな)

 

 今ちょうど撃った2射目を避け、また物陰に身を隠した男。スコープ越しに見たその風貌を思い返すが……記憶に残る顔ではない。だが、弾丸がかなりきわどい所を掠めたにも関わらず、ピクリともせずただ真っ直ぐに自分を狙い、この頭を狙って引き金を引く姿は、これまで見たどの狙撃手より手ごわさを感じる。

 

(だが、狙撃手ならば逃げるべきこの状況で逃げないとは……)

 

 撤退という選択肢が出てこない程冷静を失っている? 否だ。この男の狙撃がそれを物語っている。

 こちらもそうだが、相手も撤退をするというフェイントを掛けながら、互いに居場所を変えながら一撃を叩き込もうとしている。

 もっとも、こんな狙撃戦は本来あり得ない。発見されれば即撤退。そして態勢を立て直して次の機会を待つのが狙撃手だ。こうなっているのは、奴がこのまま逃げ切ろうとしないからだ。

 まぁ、こっちもそう易々と奴を逃がすつもりはないが……。

 

(なんにせよ、奴は出来る事ならばこちらで捕らえたい。バーボンは可能性が高いなどと言っていたが、確信していなければ俺を頼ろうなんてしないだろう)

 

 あのバーボンが頭を下げた時は、自分の目を疑った物だ。彼にとって自分は仇以外の何者でもないはずだ。それが、歯を食いしばってまで頭を下げるなど……。

 

(さぁ、どうする? 俺としても、早く向こうに行きたいんだが……)

 

 先ほどの振動は、恐らく海中でそれなりの爆発が起こったものだ。おそらくは――爆弾。

 先ほど隙をついてキャメルと浅見透が乗っているモノレールを確認したが、とりあえず向こう側には無事着いたようだ。もっとも、すぐにでもまた次の異変が起こるだろうが……。

 

 

チュイ……ッン――!

 

 

 相手の弾丸がかなり上の方の壁に当たる。かなり狙いにくい筈だ。相手はモノレールを狙える位置をキープしていたようだが、こちらの建物を狙うには、間に変則的な強風が吹いている。

 こちらの不利な点は時間。利点は、この地の利。

 

「さて……それじゃあ、そろそろ決着と行こうじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

(やっべぇ、強がったけどまた傷開いてるわこれ……)

 

 痛いのか熱いのか冷たいのか分からない嫌な感覚を右手から感じながら、必死に泳いでいる。

 念のために強めに包帯締めて、その上からまた布巻いたけど、その時コナンがこっち見てたから多分気づかれてる。あぁ、これ後で下手したら皆の前で小学生に説教される大学生という構図が出来上がる訳か。

 誰かコイツの身体を今すぐ元に戻せる薬師さん来てちょ。まじで大至急。

 ……ダメじゃん。戻っても高校生じゃん年下じゃん。成長促進剤はよ。

 

 そんな事を考えている間に、だんだん水面が近くなってくる。ぶっちゃけもう相当きつい。泳ぎづらいってのもある上に息がもう限界。鼻とかもう既にツーンってなっているし、なによりこんなバカな事を考えてないともうきつい、やっぱ腕が痛い。さっきから考えないようにしてたけど、目の前が良く見えないのって海水が目に入ってとか息が切れそうとかじゃなくて、意識が朦朧としてるからかもしんない。いやまだまだ持つよ、うん。多分。メイビー。プロバブリー。

 

(……事前にこうなるって読んでりゃ酸素ボンベ多めに持ってきたのにな……)

 

 いつからその話が始まって、一体どこがその締めになる場所なのか。これを読めなきゃ生き残るのは難しい。こういった爆弾騒ぎになればなおさらだ。

 

(犯人を捕まえる前に施設が一部崩壊し、そして脱出か……)

 

 多分、もうコナン――それに瑞紀ちゃんも犯人が分かっているんだろう。そうなると、水面から上がってすぐに推理ショーの時間か。今回俺はほとんど事件に加わっていないから瑞紀ちゃんとコナンのコンビに頼るしかないんだけど、前回の森谷の時と同じ様に、多分これだけじゃあ終わらないんだろうなぁ。

 

(絶対爆弾が爆発する。んでもってさらに、白鳥刑事から聞いた話だと蘭ちゃんが違う意味の爆弾持ってるみたいだし……ストーリー上の締めはここだろうな)

 

「――ぷはっ!」

 

 とにかく、どうにか無事に外に出れた。

 すぐ近くに上れそうな所があったのでそっちの方に泳ぎ、よじ登ろうとした瞬間ガシッと手を掴まれる。

 

「所長! 大丈夫ですか!」

「あぁキャメルさん……ナイスタイミング」

 

 事前に避難させていたキャメルさんが俺を引き上げてくれた。

 いや、本当に頼りになるわキャメルさん。安室さんや越水とは違った方向に。

 

「――ま……ったく! 所長! じっとしていないのはいつもの事ですけど、何もこんな時に来なくてもいいじゃないですか!!」

 

 同じようにキャメルさんに引き上げられた瑞紀ちゃんがそう叫ぶ。

 

「いやいや、おかげでボンベが十分に確保できたのにこの雑さはいかに?」

「いかに? じゃないですよ!! 七槻さんに怒られますよ!?」

「監禁までは覚悟してる」

「そこまでして!!?」

 

 いやだって俺が狙いだった場合、アイツに傍にいられると狙われるかもしんないじゃん。

 ……つまりしゃーなくない?

 

「ほんっっとうにこの人は……」

 

 息を切らしながらため息を吐くという地味に器用な仕草をする瑞紀ちゃん。

 ? なんか違和感があるんだけど……気のせいか?

 まぁ、今は置いておこう。

 とにかく、怪我人を含めて全員を引き上げないといけない。

 あの怪我してた美人さんもそうだが、早い所全員引き揚げて瑞紀ちゃんとコナンに推理ショーをさせないと、じゃねーと……

 

 

 

 

 

 

 

 

――…………っ――ぁぁぁんー!

 

 

 

 

 

――…………たぁ――っん!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この遠くの方から微かに聞こえてくるこの銃声についての説明もできやしない。

 や、出来る事なら説明したくないんだけどね。コナンと瑞紀ちゃんがすっごい目でこっちを見てる。

 や、大丈夫大丈夫。片方の狙撃手はこっちの味方だから。ねぇキャメルさん? なんでそっぽを向くのキャメルさん?

 とりあえず悪くは無い状況なんだよと伝えるためコナンと瑞紀ちゃんにサムズアップをすると、向こうもサムズアップで返してくれた。よし、とりあえず状況は伝わった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――あ、親指が二人とも下向いた。

 

 

 

 


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