平成のワトソンによる受難の記録   作:rikka

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038:とある探偵事務所の平穏な日……うん、まぁ平穏

「どうです? 変装の具合は」

「問題ない。彼もまったく気付いていない様だし……見事な技能だな」

 

 プールバー『ブルーパロット』。先日、所長がデートに使ったバーは、同時に『俺』のアジトでもある。

 そこの従業員スペースで、『俺』は瀬戸瑞紀のまま、先日出会った狙撃手、諸星大(偽名)に変装の技術を教えている。

 

「とりあえず、諸星さんはレフティ(左利き)というのが特徴です。右利きの練習を欠かさないようにしてください。演技自体に関しては問題ないですから」

「ほう、君ほどの逸材から及第点をもらえるとは……。知人に自慢出来るな」

「――事務所内では止めて下さいよ? 絶対ですよ? 振りじゃないですからね!?」

 

 この人、なんとなく所長に似ているから不安になってしまう。こう、なんと言えばいいのだろうか……。

 

――コイツ、何かやらかしそう。

 

 というのが一番しっくりくる言い方か。

 

「あぁ、分かっている。もし私の正体が知られたら、最低でも一人は死人が出るからな」

「分かってはいたけどデンジャラスですね!?」

 

(本当にコイツ所長さんに似てんなちくしょう!)

 

 いや、パッと見の鋭さとか緊張感とかから見て、単純な能力で言えば所長よりもずっと高いんだろうけど。

 

「それで、諸星……いえ、昴さん。枡山会長は黒という事でいいんですよね?」

「あぁ。詳しくは話せないが、様々な組織が彼と、その背後にいる者たちを探ろうとしている」

「そんな大物が……どうして所長を?」

「そうだな、考えられるのは……あの男の裏の仕事、あるいは副業を邪魔したのではないか?」

「副業?」

「武器や麻薬の密輸、そしてそれらを安価で売りさばき治安を悪化させ、混乱を作りだす事か」

「……心当たりがありすぎますぅ……」

 

 ついこの間、情報は伏せてもらっているものの麻薬の密売組織とやり合ったばかりだし、妙に出回っている銃や爆弾がらみの事件は片っぱしからそうだよなぁ……探偵事務所の仕事じゃねぇよな、どう考えても。

 毛利探偵の所も、妙に殺人事件なんかに絡むけどあそこは元刑事だからなぁ……。

 うちは設立の理由からして、あの鈴木の爺さんのごり押しとかいう訳のわからない物だ。設立してしばらくは普通の探偵の仕事が多かったけど、今ではそれに加えて企業内偵や利害調整の交渉、不審な動きのある組織や施設の調査――場合によっては警察が来る前に制圧。うん、おかしい。どう考えてもおかしい。何度か参加してるけどさ。

 爆弾や罠の解体技術の取得が必須条件の探偵事務所なんてあってたまるか。

 

「あぁ、ここしばらく君たちの活動は監視させてもらっていた。警察顔負け、いや、スペシャルチームも顔負けの活躍ぶりをな」

「もう色々とおかしいですよねぇ」

「そういう君も、やっている仕事のほとんどは、探偵というよりもトレジャーハンターのようだが?」

「……言い返せません」

 

 あぁ、ダメだ。話が変な方向にずれていってしまう。

 

「ともかく、枡山会長の動きを注視する必要がありますねぇ。……隠れていましたけど、例の『広田雅美さん』も確認しました。こっそりこちらに接触しようとしていましたけど、諦めたようです。まぁ、あれだけ監視があれば仕方ないですけど。何を伝えようとしたんですかね?」

「多分、妹の事だろう。妹の件を君たちに依頼したということは……妹の方も、やはり日本にいるとみていいか」

「どういう人なんですか? 広田さんの妹さんって」

 

 諸星さんは、俺が預かっていた例の写真を取り出す。

 

「俺も詳しくは分からないが、組織でも特別な立ち位置にいる女。……優秀な薬学者だと聞いている」

「……薬学」

 

 なるほど、その知識を買われて重要視されてんのか。

 

「その妹さん。捕まっていると思いますか? それとも、まだ――」

「姉が無事なのだから……協力をしているだろうな。組織に強い反感を持っていたとしても、姉がいる以上協力せざるを得ないだろう。余り会えないとはいえ、姉妹仲は良好だった」

 

 となると、当然やっている。あるいはやらされている事は薬の研究。それが出来そうな場所は製薬工場、あるいは――

 

「製薬会社。早速いくつか当たってみます」

「顔を変えて、かな?」

 

 あたりめーだ。瀬戸瑞紀で顔を見られでもしたら事務所に迷惑が行っちまう。

 

「……私がいない間、所長の周辺をお願いしますね?」

「あぁ――もちろんだとも」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 警察病院の中にある、案内図には載っていない病室。その病室に、厳重な監視の下で昏々と眠り続けている男がいる。

 

「どうだ、風見。奴は起きたか?」

「あ、降谷さん。お疲れ様です」

 

 その病室の監視カメラの映像が回してある部屋を、俺は公安警察官、降谷零として定期的に訪れていた。

 事務所の人間や、組織の人間に気付かれないように、全力で注意はしてある。

 

「今の所、まだ起きる気配はありません。先日の脳波検査でも確認しています」

「そうか……」

 

 一刻も早く、ピスコに対して攻勢に出なければならない。出来る事ならば警察として奴を捕まえたいが、最悪組織の人間として奴を失脚させる。そうすれば浅見君の身の安全もしばらくは確保できるだろう。

 その後、誰がこちらに来るかで厄介事の度合いが大きく変わる。

 

(ピスコ自身は動きを見せない。一番あり得そうなのは、やはり他の人間を使っているということだが……)

 

 キュラソーは違う。あの女は別の目的で動いているようだ。正直、脅威の度合いで言えばピスコよりも上だが、情報が足りない今では動けない。

 まずは、ピスコの手足となっている人間を抑えなければならない。

 そこで最も怪しいのは――

 

「風見、本堂瑛祐という少年について可能な限り調べてもらいたい」

「例の、帝丹高校に転校してきた少年でしたか……最近では浅見探偵事務所に顔を出しているようですが……」

「調べてみた所、毛利探偵事務所にも顔を出している。どうやら、両方に探りを入れているようだ」

 

 彼とは何度か話してみた。基本的には友好的な態度を装っているが、稀に――稀に俺や浅見君に、僅かな敵意……いや、不信感という方が正しいか? ともかく、弱いとはいえ負の感情を向けているように見える。

 幸い全員という訳ではなく、瀬戸さんや小沼博士には多少。新顔の沖矢さんや恩田君にはそれなりに心を許しているようだ。

 

(……やはり、浅見君に何らかの疑いをもって調べに来たと考えるべきか)

 

 その内容――目的を知る事さえできれば、あるいは彼を味方につける事だって可能かもしれない。

 

「あの……降谷さん」

「? あ、あぁすまない。なんだ、風見?」

 

 思考に没頭していたのだろう。部下が心配そうな顔で声を掛けて来た事にしばらく気付かなかった。

 

「いえ、大丈夫ですか? 例の浅見透への狙撃事件以降、あまり休息も取っていないのでは……?」

「はは、アイツにも同じ事言われて怒られたよ。大怪我している年下に叱られるのは……全く、堪える」

 

 最近よく楓ちゃんに怒られている所長の気持ちが少しは分かる気がする。

 少年探偵団が事務所に遊びに来た時の恒例行事を思い出し、思わずでそうになった笑いをかみ殺す。

 

「……降谷さん」

「安心しろ、事務所の方は明日まで休みをもらっている。少し羽を伸ばさせてもらうさ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

7月10日

 

 仕事が終わってコナンと蘭ちゃん、園子ちゃんと一緒に飯を食いに行ったら今日も元気に殺人事件だ! 勘弁してくれませんかねぇ……。

 しかも青蘭さん来ちゃうし。腕組んでくるし胸が当たってたわでドッキドキ、蘭ちゃんが指をパキポキ鳴らし出してドッキドキ。なんでそこで七槻とふなちの名前が出てくるのか……。

 

 事件も無事に解決し、青蘭さんから飲みのお誘いがあったのだが蘭ちゃんに腕を固められて引きはがされてしまった。とりあえずコナン。いつもより5割増しのあざとい声で俺に駄々こねるの止めろ。嫌な汗が出るから。

 

 

 

7月12日

 

 瑛祐君と仕事する事になった。なんでや。事務所員じゃねーのに。

 今日は単純に素行調査だったのだが、それになぜか瑛祐君が同行させてくれという事。

 とりあえず瑞紀ちゃんも一緒だし、なにかあっても大丈夫だろうと仕事を開始。

 依頼人である女性からの依頼は、息子さんが付き合っている女を調べてほしいという仕事で、すでにある程度は調査済み。今日から尾行して調べていこうと思っていたら、まさかの目の前で誘拐未遂である。本当にどうなってんのこの街。

 

 どうにかそっちは解決。いきなり車で目撃者の俺たちを轢き殺そうとしたのはびっくりしたけど、瑞紀ちゃんが逃げ遅れた瑛祐君を救出。その後とっさに阿笠博士作の発信機を取り付ける事に成功。白鳥刑事と千葉刑事が車で追い掛けてくれて無事に確保。最後の最後でお約束の人質を盾にして『来るなー!』をやられたけど、隙だらけだったんで俺が投げた500円玉でノックアウト。凶器のナイフは同時に瑞紀ちゃんのトランプで弾き飛ばして問題なし。

 

 

 

7月13日

 

 瑛祐君がすっごい懐いている。……瑞紀ちゃんに。

 あれ? 俺は? 昨日俺も活躍したじゃん。

 助けたのが瑞紀ちゃんだったからか?

 

 しかもなぜかふなちに慰められてる。え、俺そんなに落ち込んでた?

 瑛祐くんにも、『あ、浅見探偵もカッコ良かったですよ?』というフォローをいただく始末。

 安室さんは滅茶苦茶笑ってるし、マリーさんは微妙な顔で俺を見てるし、小沼博士は俺にフォローという名のトドメを刺しに来た。おのれ、おのれ。

 

 小五郎さんの所で晩酌ついでに愚痴ったらこっちでも爆笑された。なんでや。

 

 

 

7月15日

 

 青蘭さんが例のインペリアル・イースターエッグを展示会の後になんとか譲ってもらえないかと次郎吉さんと交渉しているらしい。さっき、家に遊びに来た次郎吉さんと飲んでたら話してくれたのだ。

 ふぅむ、さすがにあれだけ高価な物だと肩入れする訳にはいかんしなぁ。

 なんでも、他にも色んな人達があのエッグを狙って動いているらしい。

 今ではロシア大使館の人間や古物商が多数、交渉を持ちかけてくるらしい。次郎吉さんの様子からして、かなりうっとうしいんだろう。こりゃあ史郎さんに全部押し付けるつもりかな?

 

 今日はふなちと一緒に、以前仕事を依頼してくれた香坂さんに会ってきた。自分はその時、ちょうど四国の件でいなかったので直接顔を合わせるのは初めてだった。……真面目に後悔している。なぜ俺は、もっと早くこの人とコンタクトを取っていなかったのか。一年近くこの人と接するチャンスを逃していた事になる。

 

 こちらも目当てはイースターエッグだったが、欲しいというより確認させてほしいので、次郎吉さんに会わせてということだった。え、美人だよ? 断る理由あんの?

 

 ふなちから足を全力で踏みつけられたが、美人の前では恐れる事など何もない。むろん即座に快諾。ついでにいうならば、さっき次郎吉さんの了承を得た。

 加えて戦果として、レストランへたまに遊びに来ていただく約束を取りつけた。美人だし癒されるし西谷さんが目指すパティシエ――しかも海外で活動している方だ。きっと得るモノは多いだろう。だから、ほら、俺超ファインプレーじゃない?

 

 

 

7月18日

 

 やばい、思った以上に夏美さんいい人だわ。早速店に来て、西谷さんに色々と教えてくれた。

 グッジョブ。俺本当にグッジョブ。安室さんとも気が合ったのか作ったお菓子について西谷さんを交えた三人で色々話していた。料理も出来る安室さんも興味がある話題だったのか、すっごく楽しそうだ。

 

 西谷さんも久々に安室さんと話せてよかったよかった。

 だから『余計な事を……っ!』って視線で俺を睨んでくるのはどうにかしてほしい。え、明日になってもあんな目で見られるんなら、許してくれるまで厨房の入り口で泣きながら土下座してやる。

 

 

 

7月21日

 

 今日は就職してから連絡をしなくなった息子さんの調査をお願いされた。会社に親が連絡するのも、迷惑だと思ってということらしい。そうだよ、こういう仕事でいいんだよ。企業に潜入したり死体を触ったり爆弾を解体したりしなくていいんだよ! や、そういう事しないと時間は進まないんだろうけどさ!

 

 佐藤刑事に『爆弾絡みの事件には絶対に関わらないで!』って胸倉掴まれたけど、向こうから飛んでくるからどうしようもないよね。

 

 勤めていた製薬会社に偽名を使って問い合わせ。無事に発見できたので、その人に電話で状況を説明。これでご両親にキチンと連絡を取ってくれるだろう。

 そういえば、今日散歩していたらいつぞやの女王様系女子高生に会った。なんで俺の顔見た瞬間に顔を引き攣らせたんですか? なんかその後、テクテク近づいて来たと思ったら何も言わずに頭を撫でてくれたんだけど……今思い返しても謎だ。あれなんだったんだろう?

 俺、なんか泣きそうな顔でもしていたんだろうか? 別に普通だったと思うんだが……。

 

 

 

7月25日

 

 最近マリーさんや昴さんと仕事をするようになった。マリーさんはもちろん、本格的に昴さんも主力として動いているので、自分が次郎吉さんから受けるような仕事も一緒にやった方がいいんじゃないかということだった。

 

 ぶっちゃけ一理あるから快諾。昴さんは訓練必要ないくらい技能持ってるし、むしろこちらから頼りにしたい。

 

 恩田さんも、尾行や簡単な調査は出来るようになった。瑞紀ちゃんが言っていたが、恩田さんは演技に関しては才能があるらしい。むろん、まだまだ要特訓ということだが。

 最近では安室さんとキャメルさんが、体力の訓練に加えて解錠技術を教えている。そこまでいけば、本格的に仕事を回してみようという話になった。

 

 そういえば、最近瑞紀ちゃんは抜ける事が多いな。なんでも、ちょっと忙しくなってきたらしいが……。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「所長、先日の件の報告書が仕上がりましたわ」

「あ、ありがとうございます鳥羽さん。上がってもらって構いませんよ?」

「いえ、せっかくですしお待ちします」

 

 今日は七槻とふなちはお休みで、二人でどこかに食べに行ってくると言っていた。沖矢さんは安室さんと一緒に仕事に行ってるし、マリーさんは阿笠博士の企画した潮干狩りに少年探偵団と一緒に参加している。

 

「そういや恩田さんは?」

「先ほど戻ってきましたが、かなりお疲れの様だったのでキャメルさんが自宅まで送って行きました」

「まぁ、ここ最近は走り込みが多いからなぁ……」

 

 新しい人がかなり入ってきたおかげで、仕事をこなすのもかなり安定してきた。最近ではえらく難しく、時間もかかる依頼も多いため、簡単な仕事は毛利探偵事務所に回すことが多い。

 恩田さんの訓練が一通り終われば、鳥羽さんかキャメルさんとコンビでそういった案件を担当してもらおうか。

 

「――そういえば、前からお聞きしたかったのですが……」

「はい?」

「所長はどうして私を買って下さるんですか?」

 

 鳥羽さんは唐突にそう聞いて来た。

 

「? 採用理由ってことですか?」

「えぇ、まぁ。実際に入ってみて思ったのですが、ここの事務所は求められる人物像が非常に高いので……恩田君も、根性はすごいですし」

「……ふむ」

「そんな中で、特に最近はお給料も増やしていただきましたし――少々気になってしまいまして……」

 

 まぁ、気になるのは仕方ないか。自画自賛する様だが、うちの事務所はかなり有名だ。取材依頼なんかも凄まじいし、安室さんとマリーさんの二人は特に輪を掛けてすごい。パパラッチが出てくるレベルだ。本当にどんな事務所なんだウチは……。

 

「そうですね、理由としては経験や技能なんかですが……」

 

 どうしよう、一番の理由を言って怒られないかな。

 

「一番自然だったから、ですかね」

「――自然……ですか?」

「えぇ、あの条件で面接を受けに来た人達、言っちゃなんですがお金やある種の名誉が目的の人が多かったんです」

「まぁ、あれだけの好条件でしたから……。自分も正直それが目当てでしたし。あの、ひょっとして自然だというのは……猫かぶり、ですか?」

 

 あ、はいそうです。コロコロ笑って下さって本当にありがとうございます。

 

「――別に善人である必要はないですからね。ウチに必要なのは」

 

 そりゃあ、『私、実は例の組織の人間なんです』とか言われたら困るけど、『私、欲まみれの悪人なんです』なんて可愛いもんだ。むしろそういう人間がいてくれると助かる。普通では気が付かない道筋や視点を教えてくれそうだ。

 

「悪人だろうが元犯罪者だろうが、一緒にやっていけるならそれで十分です。正しいかどうかは大事じゃない。今犯罪者だとか、何かを計画しているとかじゃなければ、ですけど」

 

 ついでに言うなら、鳥羽さんはいざという時にためらうことなく行動出来る事が分かったから個人的には無茶苦茶気に入った人員である。

 

「ぷっ――はは、ははっ!!」

 

 そしたら、鳥羽さんはこらえきれないと言った様子で大笑いをしだした。いつもの静かな笑いじゃない。腹を抱える本当の大笑いだ。

 しばらく笑い続けた鳥羽さんは、何度か深い呼吸をした後、大きく息を吐き、

 

「はーっ、やれやれ。降参だよ、所長さん」

 

 鳥羽さんはいつもやや長い髪を、後ろで団子みたいにまとめている。軽く目を瞑った彼女はそれを束ねている紐をほどき、ポニーテールに髪型を変える。そして開いた目は、いつもの優しい目じゃない。

 

「……野良犬の目、かな?」

 

 とっさに口にしてしまった俺をちょっとぶん殴りたいと思ったが、当の本人はツボにはまったのかまた大笑い。さすがにさっきよりは落ちついているが。

 

「いいねぇ、その表現。自分じゃよくわかんないけど多分アタシにゃピッタリさ」

 

 手をひらひらさせる鳥羽さんは、いつもみたいに真っ直ぐ立つのではなく、ソファに軽く腰をかけている。いつもの清楚な感じは微塵もないが、個人的には今の鳥羽さんの方が好きだ。

 

「今のが鳥羽さんの素って事でいいんだよね?」

「初穂でいいさ。アンタにゃ色々とバレちまったからね」

 

 何が? いや、猫かぶってたってのは知ってるけど、バレるってほどですかね?

 

「まぁ、ここは居心地がいいからね。払うもん払ってくれてるし、むしろ増やしてくれたから文句はないよ。ここで金を稼いでから計画を実行しようと思ってたけど、名探偵に気付かれてるんならしょーがない。あの馬鹿な姉や、むかっ腹の立つジジィ達は生かしてやるか……」

 

 

 

――はい?

 

 

 

「と、いうわけで。当面の間は探偵をやってやるよ」

 

 いやすみません、何をやらかす気だったんですかね!? 姉? ジジィ!?

 

「所長さん、よ・ろ・し・く♪」

 

 ピースサインを送る鳥羽さん――あぁいや、初穂さんの悪者みたいな笑顔に、俺もなんとなくピースサインを返した。

 ……よく分からないけど俺――ヤバい事を止めたんだろうか。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 少し引き攣った笑顔でピースサインを返す所長の顔がおかしくて、また大笑いをする所だった。

 有名な探偵事務所ならば難事件を解く事だってある。そこらへんを参考にしながら、貧乏だった自分たちをさっさと切り捨てた姉や、その姉とよろしくやっていた爺さんを殺して、ついでにいただけるモノをもらっていく計画を立てようと思っていたが……まさか自分を悪者だと知った上で雇っていたとは知らなかった。

 

(何かをやらかそうとしているって所まで気付かれてんじゃあ、下手に動く訳にもいかない、か)

 

 実際にここで働いてから、ここが普通の探偵事務所じゃないのはよく理解していた。しかしまぁ――なるほど、ぶっ飛んだ所長さんだ。アタシが事務所相手に何か企むとは考えなかったのだろうか? ……いや、仮にそうだと考えていたとしても、この男は平然と受け入れそうで――怖い。あぁ、そうだ、この年下の男は怖い男だ。怖くて――面白い。

 

(……意外と、面白い所に拾われたのかもしれないねぇ)

 

「あー、とりあえず、互いに腹を割ったって事で」

 

 ぼんやりとそんな事を考えていると、所長さんが後ろ頭をかきむしりながら口を開いた。

 

「――飯、食いに行くか?」

「ハハッ、いいねいいねぇ。たまにゃいい男と並んで見せつけるのも悪くない」

「そっちかよ!」

 

 多分、所長以外にもアタシが悪人だってことに気が付いている奴はいる。安室やマリー……特に安室はアタシを警戒している。ただ、所長ほど深い所まで理解はしていないはずだ。

 深い所まで知った上で、飯に誘う馬鹿は――多分、コイツしかいない。

 

「所長さん」

「はい?」

 

 

 

「……なんだかんだで……長い付き合いになりそうだねぇ」

 

 

 




なお、浅見君は色々と踏んでしまった模様。

鳥羽さんや恩田さんに関しては、色々と補完する事が多いと思われます。
原作のイメージとは異なるのでDVDを借りるんだ!

次回辺りから色々動くかな? ずっと14番目をやっていたから、色々と遊びたい気持ちもありますが(笑)

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