平成のワトソンによる受難の記録   作:rikka

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059:その後の連鎖爆破

「とりあえず、瑛祐君には枡山に絡むことを分かる範囲である程度説明して、公安の人に警護をお願いしています」

「公安警察が?」

 

 ブルーパロット。瑞紀ちゃんに盗聴の恐れのない場所がないかと尋ねた所、前に小五郎さんと飲んだお店と全く同じ名前のプールバーを紹介してもらい、そこに皆集まっている。

 俺、コナン、瑞紀ちゃんの三人。そして水無さん、先日の一件で助け出した宮野明美さんと、彼女と一緒に『死んだ』赤井さん。

 一応それぞれお酒やコーヒーを出されている。

 ……俺以外にいないの? お酒飲む人。赤井さん飲んでもいいのよ?

 

「その前に、浅見さんってまだ入院中の予定じゃなかったっけ?」

「大丈夫。今回は真面目に七槻達に頭下げて外出許可もらった」

「私が監視役という名目もらったから許可くれました!」

「ついでに一杯だけなら酒呑んでもいいって許可も取り付けてきた」

 

 おめーまた抜けだしたんじゃねーだろうな。そう目で訴えるコナンに弁明する。

 おう、俺の説明じゃなくて瑞紀ちゃんの説明で納得するってどういうことじゃコルァ……。

 

「んんっ! 話を戻すぞ。一応今は公安の人間は何も聞かずに護衛を引き受けてくれてますが――」

「何も聞かずにって……」

「それくらいの貸しは作っています」

 

 狙撃犯――カルバドスに絡む事だって伝えて風見さんにお願いしたらあっさりお願い聞いてくれた。

 またも逃がしてしまって申し訳ないとかなんとか良く分かんないこと言ってたけど、ちょうどいいから『これで貸し借り無しで』って言って頼んでおいた。

 念のために、他の事務所員にも内緒の話なんでって言っているので大丈夫だろう。

 あの人クソ真面目っぽいからこういう時は頼りになる。連絡も取れるようにしておいたしこれで良し。

 

 ……ところで水無さん、人を得体の知れない人間見る目で見るの止めてくれませんか。

 

「ただ、こうなった以上正確に事態を知る必要があります。あの連中のことは置いても、貴女と瑛祐君のことに関しては」

 

 組織の事はともかく、護衛している人間の事は、ある程度風見さんに説明しなきゃならんだろうから知る必要がある。

 

「そうだね。マリーさん、瑛祐兄ちゃんの事何か調べてたみたいだし、できることなら早めに対策を打っておいた方がいいかも」

 

 ごめん、それ多分マリーさんに瑛祐君の周り固めるように言ってしまった俺が原因なんだわ。

 

「そうだな。恐らくあの女、情報収集に関してのプロフェッショナルだ。彼女が何かを入手する前に手が打てるのならば、それに越したことはない」

「えぇ……そうね……」

 

 水無さんは、赤井さんの言葉に頷きながらティーカップのコーヒーを少し口にし、そして深いため息を吐く。

 

「分かった。まずは私の事から話すわ」

 

 そしてカウンターの上のソーサーにカップを戻して口を開く。

 

「私の本当の名前は、『本堂瑛海』。彼と同じく、組織への潜入捜査員よ」

 

 彼、という所で目線で赤井さんを差しながら言葉を続ける。

 

「もっとも、彼が事務所(ビュロウ)からなのに対し私は――会社(カンパニー)の人間よ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 浅見さんが質問し、赤井さんが間を縫うように気になった事を尋ねていく。

 この赤井というFBI捜査官は、思った以上に優秀な人間だった。

 先日のアクアクリスタルの一件の時に、瑞紀さんからある程度は聞いていたけど、捜査官としても狙撃手としても超一流の腕前だと言う事だ。

 実際、沖矢昴に変装していた時は一緒に事件を解決した事もあるから良く知っている。

 

「それじゃあ、組織の具体的な目的とかについては今の所不明か」

「えぇ、ごめんなさい。分かっている事は、手段を問わない資金の獲得、プログラマーや学者といった特定分野の識者の誘拐、あるいは脅迫等による協力の強制、そして……治安の低下」

 

 そして、肝心の組織についての情報は、核心に触れるものは無かった。

 いわば、現場レベルの目標といった所か。

 

「……ねぇ、水無さん」

「何? コナン君」

 

 最初は子供の俺がここにいる事に難色を示した水無さんだったが、浅見さんが「コイツは大丈夫」と一言言うと納得してくれた。

 ここ最近、おっちゃんや少年探偵団の面子と動く時に良く良く感じるが『浅見探偵事務所所長のお墨付き』という後ろ盾が非常に大きいモノになっている。

 おっちゃんは元々警察との繋がりがあったけど、少年探偵団はたまに警察の広報等に協力しているおかげか、ちょっとした事ならば、喋りのしっかりしている光彦なら電話一本で調べてもらえたりする。

 

 仮にも組織の一員で、CIAの人間でもある水無怜奈が俺の言葉を真面目に聞いてくれるのも、きっと浅見透という後ろ盾のおかげだろう。

 

「この間の事件の後、赤井さん達の扱いはどうなっているの?」

「……幹部の一人、君もあの場にいたなら見たかもしれないけど長髪の男よ。ジン。彼は仕留めたと思っているようね。まぁ、一応部下に裏取りをさせているようだけど……ただ」

「ただ、なんだ?」

 

 赤井さんが煙草に火を付けながら尋ねる。

 

「どうやら、FBI内部に組織の人間がいるらしいわ。その人間が、貴方が死んだという情報を上にあげてきたって耳にしたわ」

「ほう、なるほど」

 

 やはり、組織は色んな所に自分達のスパイを潜ませているのか。

 それを赤井さんは予想していたのか、煙を燻らせながら静かに「やはりな」と呟いている。

 

「……俺に関しての情報は?」

「浅見探偵があの場所にいたという情報は入っているけど……あの場所に行っていた毛利小五郎の娘たちを迎えに行っていたって聞いているわ。警戒はされているけど、深く問題視はされていないって所かしら」

 

 静かに浅見さんを見上げると――

 

「へぇ、そうですか……なるほどなるほど」

 

 悪い顔で笑っている。

 すっごく悪い顔で笑っている。

 

 瑞紀さんは「うわぁ……」みたいな顔で頭を抱えてる。

 赤井さんは「ほう?」と興味深そうに笑っている。

 水無さんは「あぁ、また……」と顔を引き攣らせている。

 

 なんだろう。アクアクリスタルの一件が終わってから、浅見さんはたまにこういう顔をするようになった。たまに安室さんがする顔に近いと言えば近いけど。

 

 越水さんとふなちに相談したら、越水さんは「出来るだけ目を離さないで」といい、ふなちは「優しくしてあげてください」と生温かい目で言っていた。

 前者は分かるけど……本当に何があったんだろう。というか、この男は何を言ったんだ?

 

「まぁ、こちらに害がないなら結構。他はどうなんです? そこら辺の事情は、正直かなり興味があるんですが」

 

 浅見さんが切り出す。

 水無さんは、少しぎこちなく返事をしてから、説明を続ける。

 

「あの後、ジン達は逃走に成功。ただ、ピスコ――枡山は警察と交戦して、顔も見られたために単独で地下に潜ったわ。多分、今頃ジンが探しまわっているハズよ」

「始末するために?」

「えぇ」

 

 逆に、ジンに捕捉される前に枡山会長を捕まえることができれば、あるいは組織の情報が手に入るんじゃないか。

 とっさにそう思った。

 高木刑事に協力してもらって情報を流してもらえば……

 

「……?? んん??」

 

 一方で、浅見さんは何か引っかかる所があるようだ。

 

「どしたの、浅見さん?」

「ん、いや……らしくねぇなと思って」

 

 推理に関してはともかく洞察力と人を見る目は、状況にもよるが俺よりも上じゃないかと思える人だ。

 何を感じたのか、何に違和感を持ったのか、聞いておいて間違いない。

 

「らしくないって?」

 

 水無さんも、同じような考えなのか真面目に――あるいは不安げに浅見さんに尋ねる。

 

「……あの人、森谷をもっと狡猾にした感じってイメージがあってな。その、あくまで根っこ部分だけど」

 

 俺は枡山会長を知らない。

 対して浅見さんは、枡山会長と食事を何度か共にし、そしてピスコと一騎討ちをしている。

 その人物評には一定の信頼が置ける。

 

「明美さん、今回の発端は貴女と例のカルバドスって男だと思うけど……カルバドスって男に対して何か言ってた?」

 

 それまで赤井さんの隣の席に静かに座っていた明美さんに話題を振ると、明美さんは思い出すように首をかしげながら、

 

「私やカルバドスさんに関しては特に……どちらかというと……」

 

 そしてじっと、浅見さんの顔を見つめる。

 なんとなく察したのか、浅見さんは遠くを見る目で「うん、知ってた」と呟く。

 

「警戒しなきゃいけない人が三人いるって言ってました。大……秀一君と、バーボンっていう人、そして……浅見さん、貴方の事をいつも……」

「あ、うんそれは……いいかな、もう」

 

 話にゃ聞いてたけど……本当に怖かったとか。

 下手なホラーよりも怖くてちょっと泣きそうになっていたらしい。

 気分を変えようと思ったのか、ビールを二、三口飲んで、浅見さんは一息吐く。

 

「……森谷が整えた盤面の上で人を右往左往させるのが好きなタイプなら、枡山会長は整えた盤面の上で綺麗に策に嵌めるのが好きなタイプ……だと思う」

 

 やや自信はなさげな浅見さんの言葉だが、水無さんは強く頷いている。納得できる所があるのだろう。赤井さんも異論はないようだ。

 

「ただし、どちらもイレギュラーに弱い。うん、そう考えると警察に見つかってポカやらかしたっていうのも納得できるんだけど……」

 

 今度はジョッキの中身(ビール)を一気に飲み干して。それをカウンターにドンッと置く。

 

「なーんかこう……違う気がするんだよなぁ」

 

 空になったジョッキを瑞紀さんに向けて軽く振ると、瑞紀さんが手でバツ印を作る。

 

「あぁ、そうだ。それと、もう一つ」

 

 浅見さんにとって重要な事のハズなのに、今の今まで忘れていたかのように手を叩いて切り出す。

 おせーよ、いつ俺が切り出そうか考えてたのに。

 

「安室さん、そしてマリーさん」

 

 一人は浅見探偵事務所の開設メンバー。浅見透の相棒。

 もう一人は、その安室さんが連れてきた新しいエース。

 

「この二人、組織の幹部ってことでいいんだよね」

 

 疑問形ではない。まるで、ただの確認のように軽くそう言う浅見さん。

 その言葉に赤井さんと、水無怜奈が頷いて肯定する。

 

 そのまま浅見さんは、空になったジョッキを寂しげに振り続けたまま、こう言うのだ。

 

 

 

 

 

「最高の流れだ。天は俺に味方してるな」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

『やってくれましたね、ピスコ』

 

 受話器の向こう側から聞こえる、変声機を通した声。

 苛立ちを隠そうとしない組織のナンバー2、ラムの声に、枡山憲三は気分を良くする。

 

「何、気にすることはない。全ての罪は私が背負うのだ。君達は新しいルート構築に専念してくれたまえ」

『貴方は……っ』

 

 変声機を通したために、異音へと変化した歯ぎしりの音が聞こえる。

 

「それとも、私を追って殺すかね。丁寧に死体を処理すれば警察も永遠に私を探し続けるかもしれんぞ?」

『そうならないように、既に手を打っているのでしょう、ピスコ。貴方がそれをしないハズがない』

 

 今頃警察は、これまで自分が住んでいた自宅から大規模な密輸計画の存在を知ったはずだ。

 成功したモノから、警察や浅見透に潰されたモノまで。

 そしてこれだけ大規模な計画が存在するのならば、必ずこう考えるはずだ。

 

 枡山憲三の後ろに、大規模な裏組織が存在していた。

 あるいは――枡山憲三こそが、組織を率いていたと。

 

『中途半端に貴方を消せば、警察や公安が我々に気付く可能性は高い。公安の狗だったスコッチの存在があったのです』

「ん、おぉ、そういえばいたな。公安警察のNOCが……いやはやすっかり忘れていた。歳は取りたくないモノだ」

『白々しい……っ!』

 

 これだけ冷静さを失う所を初めて見る――いや聞いた枡山はますます機嫌を良くし、電話機の横に置いていたグラスを呷る。中身はキャプテン・モルガン。――ラム、だ。

 

『アイリッシュ達も貴方の元へ?』

「当然だろう。コードネームは当然、名前等も割れんだろうが顔は割れている可能性はある。あのお方の元にそんな者達を置いておくのは不安でなぁ。引き取らせてもらったよ」

 

 再び、受話器を通して歯が擦れる音が耳をくすぐる。

 枡山にとって、それは心地よい酩酊を誘う最高の肴であった。

 

『……これから、どうするつもりですか』

「ピスコの名前は返上しよう。もう組織にはおれん。だが、一応の忠誠心というものは私にもある」

 

 グラスもボトルも空だ。飲み干してしまった。

 

「そちらの仕事がしやすいようにしてやろう」

 

 ラムは何も喋らない。

 

「この国の治安をとことんまで落とす」

 

 治安の低下、それは裏で動く人間にとってこれ以上ない『職場環境』だ。

 

「どこかで誰かが盗み、殴り、刺し、火を放ち、爆発物を仕掛け、銃を撃つ」

 

 これまでに多くの凶器をこの国にばら撒いて来た。

 毒、麻薬、銃、弾薬、爆発物。

 ただ、ばら撒くだけだった。それだけでも十分、犯罪の芽は息吹き、育ってきたのだから。

 

 

 

 だが、今となっては少々――物足りない。

 

 

 

 あの夜の続きを渇望する身としては――全然足りない。

 

 

 

 

 

「そう。血と、暴力が当たり前になる。そんな国に変えてみせようじゃないか」

 

 ラムは、黙ったままだ。

 別に枡山は構わなかった。

 仮に反応があった所で無意味だ。

 決めたのだ。

 あの男と、戦い続けると。競い続けると。

 いつか再び来るその日のために――ありとあらゆる所に火を付けてやると。

 

 

 犯罪という業火を。

 

 

「あぁ、そうだ。ラム、一つだけ忠告をしておこう。これは純粋な善意だ」

 

 

 そして、同時にあの男は、今まで枡山がいた組織も相手に戦うだろう。

 そうに決まっている。

 奴の本来の相棒――工藤新一。

 彼を殺した相手で、そしてその彼の命を奪った薬、そのコードネームを我々に向けて名乗ったのだから。

 

「あの仮面を被った存在。シェリング=フォードを名乗る存在」

 

 

 

 

 

 

「忘れるな、ラム。あれはいつか必ず、必ず――お前達の喉元に喰らいつくぞ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 赤井秀一、死亡。

 日本で既に活動していたアンドレ=キャメルからもたらされた一報は、日本への出発を決めていたFBI捜査官達にとって、衝撃――いや、驚愕に等しい知らせだった。

 

「うそでしょ……」

 

 各捜査員がざわめいている中、崩れ落ちそうなのを必死にこらえている一人の女性がいた。

 

「嘘だと……嘘だと言って下さい! ジェイムズ!!」

 

 金髪に、少々不釣り合いな大きな眼鏡をかけた女性が、ジェイムズというスーツの男に掴みかかる。

 本来ならばしないであろう上司に掴みかかるという行為を止める者も、批難する者もいない。

 

「まだ死んだと決まった訳ではない。だが、彼が爆炎に包まれるところを、キャメル君が見たそうだ」

「……そんな」

「今、キャメル君が潜入している探偵事務所の所長に働きかけ、彼を通して警察が大規模な捜索を行っているようだが……未だに何も発見がないようだ」

「そんな……っ!!」

 

 彼女は、かつて赤井秀一と付き合っていた女だ。

 彼を、愛していた――愛している女だ。

 

 この悲しみをどこにぶつければいいのか。憤りをどこにぶつければいいのか。

 

 ふらつきながら席へとついた彼女は、どうしてこうなったのか、意味のないことを考え出す。

 自分が彼から離れなければ、彼が『彼女』と出会わなければ。彼が日本に留まると言いださなければ――

 

 

 

――あぁ、彼女の手掛かりを手に入れた。それと、面白い男も一人。

 

 

 

 ふと、思い出した。

 彼が日本に留まると言い出した理由の一つ。

 

 

 

――凡庸に見えて奇才、底が見える様で見えない、興味の尽きない男だ。

 

 

 

 そして最もこだわり、その男を守るために戦うという選択をするほどに気に入った、まだ二十歳の男。

 だが、水無怜奈のような『組織』の一員の可能性のある人物を周囲に多く置き、様々な勢力との繋がりを広げる正体不明の存在。

 

「……浅見……探偵事務所……」

 

 彼が悪い訳じゃない。悪い人間だと決まったわけではない。

 だが、そこが見えない。それが自分の嫌な感情に火を入れる。

 

 どうして、彼を救ってくれなかった。

 

 どうして、彼を守ってくれなかった。

 

 

 

 

 

「――浅見……透……っ」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 それから一週間、ようやく退院できた。

 もうね、本当に大変だった。基本的に越水かふなちが泊る様になって、いつもソファで寝てたんだけどあからさまに身体を痛めてたからしゃーないと添い寝。

 身体を本気で痛めてた俺はどうなるんだって思ったけど、なんかすぐにギプス外れたし……結構治りかかってたのか。

 

 ともあれ、一応の事態は収束。

 カルバドスは相変わらず見つからねーし、ピスコ――枡山会長も行方知れず。

 

(カルバドス……はともかく、枡山さんの方はすっげー嫌な予感がするけど……)

 

 退院したら瑛祐君の事もあるし……どうにかしねーとマジで。

 風見さんから情報をいくつかもらったが、とりあえず瑛祐君の周りに怪しい影はないらしい。

 

(瑛祐君、できることなら俺の下に置いておきたいんだけど)

 

 彼は優秀だ。それは分かる。が、同時に危うさを覚える。

 現に枡山さんの一報を受けて塞ぎこんでいるらしい。たまに瑞紀ちゃんが、蘭ちゃん達と一緒に様子を見に行っているらしいが、中々元気を取り戻さないらしい。

 

「……俺も顔を出しておいた方がいいのかね」

 

 正直、当面は忙しい。

 準備を整えたらCIAの人と会う予定も出来たし、前々から考えていた計画。

 

 

 ――うちの所員が自由に使える、人員を集め、そして育成する組織。いや、会社の設立。

 

 

 電話で次郎吉の爺さんと、前から考えていた構想の全体図を話したら大笑いしてOKもらったので本格的に動こうと思ってるんだが……。 

 

(越水に社長になってもらって……こっちの副所長の座は安室さん――断りそうだな。キャメルさん? 同じくだなぁ……説得に時間かかりそうだ。ふなち……論外。むむむむむ)

 

 白鳥刑事か高木刑事、刑事をやめてこっちに来ないかなぁ。無理ですかそうですか。

 

(まぁ、とりあえずは工藤の家の私物を片付けないと)

 

 またあの家に戻る事になった。

 どうもあの家、俺が入院している間に次郎吉の爺さん直々の指揮で手を入れたらしく、防犯、防弾、防爆性を跳ね上げたらしい。

 なんというか、姿形はそのまんまでも色々変化しすぎているような……俺の家。

 パニックルームってかシェルター的な物も追加されたらしいし。どうなってんだ俺の家、どうなるんだ俺の家。

 

 とりあえず、いつも通り源之助を肩に乗せたまま、こうして工藤邸へと足を運んでいる。

 

「まぁ、とにかく片付け……て……?」

 

 辺りは暗くなりかけている。当然道も暗く黒というか藍色一色なのだが、そこに突然白いモノが目に入る。

 

「……白衣?」

 

 肩から源之助がぴょんっと飛び降りて、白衣の所へとことこっと向かう。

 

「こんな住宅街で白衣なんざ……阿笠博士? いやあの人ならもっと大きいし……小沼博士? いやぁ、それでももうちょいデカいか」

 

 源之助が白衣の周りをグルグル周りながらな~おな~おと鳴いている。

 珍しいな、お前が俺に向かってそんなに鳴き付くなんて滅多にねぇじゃねぇか。

 ほら今行くからあいたぁ!! なんで!? なんで俺の足噛んだの?! なーごじゃねぇし。

 

「んー?」

 

 思いっきり噛んだ後、源之助がまた白衣の所でぐるぐる回りだす。

 近づいてゆっくりしゃがむと……小さな、ほぼ半裸の子供がそこにいた。

 

 白衣をかろうじて纏った少女が、近づいた俺の足を反射的に掴んできた。

 見覚えある、滅茶苦茶見覚えのある髪だ。色も、形も。

 

 なんとなく、深いため息を吐く。

 とりあえず源之助を呼ぶ。それだけで察してくれたのか、服を伝って定位置の肩に戻る。

 

 久しぶりに袖を通したばかりのジャケットを脱いで、彼女の体を包んで抱きかかえる。

 意識が朦朧としているのかほとんど反応がないが、目が薄く開かれる。

 

「ぁ……なた……」

「よう、久しぶり。――」

 

 

 

 

 

 

 

――やっぱり、縁があったな。

 

 

 

 

 

 

 




やっと出せたよ。50話超え……どころじゃねーや、ほぼ60話近くにしてようやく主要人物登場とか。

それと活動報告でも少し触れましたが、劇場版のストーリー構成を少しいじろうと思います。
当初の予定では宣言したように放映された順番通りにやっていくつもりでしたが、今回に限り世紀末の魔術師と、瞳の中の暗殺者を入れ替えようと思います。

世紀末ストーリーを楽しみにしていただいている皆様には申し訳ありませんが、どうかご了承を。

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