平成のワトソンによる受難の記録   作:rikka

61 / 163
色々吹っ飛びます
というか短かったかも


060:よくある夏休みの光景

 あの女の子――ってか宮野志保を工藤の家で一旦預かって丸一日。とりあえず目を覚ました彼女は、身体が縮んでいるのと軽い擦り傷など以外は特に負傷らしい負傷はなかった。

 

「うっし、サイズは問題ないみたいだな」

 

 そういえば去年――と言っていいのかどうか、まぁ、去年はふなちのイベント関連がなかったから衣装作りやんなかったからなぁ。

 ふなちが細かい注文出すから何度も縫い直したり仕立てなおしたりコサージュ作ったりと、えーと去年って何年前だっけ? まぁあれだわ去年去年。一応去年。

 

 男モノ女モノどっちでも簡単な物ならすぐに作れる。抱きかかえた時にサイズは大体分かったし。

 季節が夏でよかった。冬物だと時間かかるし俺もついつい凝りたくなるから……型紙無しでささっと三時間でシャツとズボン一着ずつ。

 

「意外ね。組織の幹部すら恐れているあの浅見透が、服作りだなんて」

「施設にいた頃習ってな、高校の時には服飾部と将棋部を掛け持ちしてたんだ。で、大学入ったら友人のコスプレ衣装の作製に駆り出されて……おかげで女服は滅茶苦茶得意になった」

 

 服のサイズを確かめるように身体を動かす志保に、そっとマグカップを渡す。

 ここに寝泊まりしている時に買い溜めておいたレトルトのコーンスープだ。

 

「しっかし、その身体って事は……例の薬、飲んだのか?」

「さすが彼の助手、話が早くて助かるわ」

 

 まぁ、一回顔見てるってのとコナンって実例見てるからな。

 

「そして、あの薬を知っているってことは……彼、やっぱり生きているのね?」

 

 まぁ、そうだよなぁ。

 っていうか、多分本来の目的はコナンだったんだろうな。

 そりゃそうか、間違いなく正確に自分の状況を把握してくれる人だし。

 

「ま、ね。機会を見て会わせるさ。志保ちゃんもそれが目的だったんだろう?」

「……ねぇ」

「ん?」

「ちゃん付け、止めてくれない?」

 

 ……似たような声で、同じような事を最近言われた気がする。

 そうだ、声が誰かに似ていると思ったら紅子に似てんだ。

 

「貴方の声で『ちゃん』って呼ばれると違和感すごいのよね」

 

 どんな声なんだ俺は。

 

「OK、わかったよ志保」

 

 俺がそう呼びかけると納得したのか、軽く頷く。

 

「まぁ、あれだ。状況を聞かせてくれ。明美さんにも伝えねーと悪いし」

「……………………」

「? どうした?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………えっ?」

「え?」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「この間はびっくりしたよねー、蘭。いきなりアクアクリスタルが爆発して崩れちゃって……」

「うん、そこに突然やってきたのが水無怜奈だもんね。あのアナウンサーの」

 

 園子と瑛祐君と一緒にマリーさんの運転で夜のアクアクリスタルを見ていたら、突然あの大きな塔が爆発し、燃え盛る炎に包まれながら崩壊していったのだ。

 

「『浅見探偵と夜景を見ていたらこんな事に……』だってさ。あの人、結構手が広いよね。この間も、アタシらと同い歳くらいの子を連れて歩いてたしさ」

「うそっ?!」

「ホントホント、なんか紫のメッシュ入れた子でさ……えらく口悪かったけど仲良さそうにしてたわよ」

 

 今日は園子を誘って、バスでサクラサクホテルのバイキングに行く所だ。

 先日福引きで、狙ったものではなかったがこのホテルのお食事券がペアで当たったのだ。 

 

「やー、外見整えてからはモテるからねーあの人。さっすがこの園子様がプロデュースした事はあるわ! うんうん!」

「……お兄ちゃんのバカ」

 

 席が満席だったため、隣に立ってニッシッシと笑う園子のおでこにデコピンを思いっきりしてやろうかと少し思った。

 だけど同時に、父親に似て女の人にだらしないお兄ちゃんみたいな人に掌底を打ち込みたくなる。

 

「アッハッハ! お兄ちゃんかー、確かにそれっぽいそれっぽい!」

 

 園子は大笑いしている。

 

「あの人、なんかたまーにすっごい年上に感じる時があるよねー。普段はお調子者の女好きなのにさ」

 

 それは、分かる。

 あのアクアクリスタルで、大怪我を押して助けに来てくれた時、沢木さんにナイフを突きつけられた時に、お父さんを信じて笑って激痛を堪えていた時も、実年齢の二十歳よりもずっと上に見える時が――

 

「あぁ、そういやこの前も、アンタのところのお父さんとお店ハシゴしてたって言ってたっけ。綺麗なお姉さんがたくさんいるお店」

 

 

 ……いや、ただあの人がオッサン臭いだけなのかもしれない。

 

 

「――っ!」

 

 突然、園子が眉を吊り上げる。そして、突然誰かの腕を掴みあげて叫んだ。

 

「こ、この人痴漢! 痴漢です!」

「えぇっ!!?」

 

 私が驚く――よりも前に、その腕を掴まれた人が一番驚いている。

 

「ち、違うよ! 痴漢は僕じゃなくてこっち!」

 

 一瞬、懲らしめようかどうか迷った隙にその人が他の男の腕を持ちあげている。

 というか、園子が掴みあげている腕がその男の腕を捕まえていた。

 

「あの、その人の言うとおりです。私も見ました」

 

 その隣から、違う女性が声を上げる。

 周りの何人かも頷いている。

 

 園子はあれ? そなの? と周りを見回してから、バツが悪いのだろう誤魔化す様に乾いた笑いを始めてから、本物の痴漢の胸倉を掴んで怒鳴り散らし始める。

 まったくもう、先に言う事あるでしょう!

 

「あ、あの、すみませんでした! 連れが勘違いを……」

「あぁ、いいよいいよ。すぐに誤解も解けたんだし」

 

 相手は若い男だった。

 ジーンズにシャツ、ベスト、そしてハットを被った……多分、歳は私と変わらないくらいかな。

 彼はなぜか私の顔を見て少し驚いてから、いたずらっぽく笑って、

 

「僕は世良、世良真純。君の名前は?」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「なぜ、俺を助けた」

「手を借りたかったのよ。彼を相手にするには、一人じゃとても不安だしね」

 

 警察の追跡を逃れた後、俺はこの女のセーフハウスに匿われていた。

 ヘルメットの隙間から覗いた目元の時点でそうじゃないかと思っていたが――やはり、見た事のある顔だった。

 浦思青蘭。

 浅見透の女の一人だ。何度か共に外出している所を見ているし、あの男がこの女の家――当然此処とは違うが――へとよく足を運んでいるのは知っている。

 

「……浅見透か?」

「えぇ」

 

 よく身に着けるチャイナドレスではなく、チノパンにシャツという動きやすそうな格好だ。

 勘だが……恐らく襲撃する時の格好だろう。この上に、あの時の様にライダースーツを着込んでいるかもしれないが。

 

「いいのか?」

「何が?」

「惚れた男を敵に回す真似をして……という意味だ」

「あら、硝煙の臭いが似合うのに、随分とロマンチックじゃない?」

「……男と女の仲なのだろう」

「いいえ、まだよ」

 

 カシュッと缶ビールの一つを開けて、もう一つを投げてよこして来る。

 

「……そもそもの目的はなんだ。随分と荒事に慣れているようだが」

 

 先日の逃走劇から、射撃の腕は悪くない。いや、かなりのモノだ。

 どうも先日から、浅見透を基準に考えてしまう癖がある。

 

「私の血筋、その証を取り戻す。……かしらね」

「……えらく抽象的だな」

 

 煙草を咥え、ライターで火を付け――ようとして、ガス切れに気付く。

 思わず舌打ちして口から煙草を放そうとしたら、目の前に火が灯る。

 器用に片手でマッチを擦った青蘭が、その火を差し出していた。

 そっと火に煙草の先端を近づけ、軽く吸う。口の中に煙の苦みを感じる。

 

「俺よりも、お前の方がロマンチックじゃないか」

 

 軽く振って消したマッチの燃えカスを灰皿の中に放り込み、青蘭はビールを呷る。

 

「私はいいのよ。歴史の足跡(そくせき)を追い掛ける考古学者だもの」

「銃を振りまわす、か? とんだインディ=ジョーンズもいたものだな」

「ふふ……」

 

 酒には強いのか、すぐに缶を空けた青蘭は向かい側の椅子に腰を下ろす。

 

「それに、既に浅見透と私は戦っているのよ。相手は気付いていないようだけど」

「何?」

 

 浅見透と交戦した相手のほとんどは、今頃留置所か刑務所だ。

 その中で今外にいるのは俺とピスコ後は――

 

(いや、いた。一人だけ……)

 

 ある意味で、あの男が表舞台に立つ事になった最大の理由。

 鈴木財閥と浅見透の繋がりを強くするきっかけになった事件。

 

「……スコーピオン、か」

 

 問いかけるというよりも、確認の意味が強かった。

 

「あら、クイズにしては簡単すぎたかしらね」

「ふん、正答者には賞品はなしか?」

「もちろん、あるに決まってるじゃない」

 

 今、俺と青蘭――いや、スコーピオンは大きなテーブルを挟んで向かい合っている。

 そのテーブルの表面が、固い物が擦れる少々耳触りな音を立てる。

 コルト・シングルアクションアーミー。

 西部劇の時代のリボルバー拳銃。

 それを手に取り、弾倉を回転させる。

 今でも一部生産が続けられている銃だが、これはかなり古い代物の様だ。

 ……ようするに、兵士よりもマニア向けの拳銃だ。

 

「よくもまぁ、こんな骨董品を」

「言ったでしょ? 考古学者なのよ」

「銃のか?」

「たまに、ね。で、どう? 正直、銃は持ち運ぶのにも入手するにも手間とリスクがかかるから、自前の以外はそれしかないんだけど」

「……いいだろう」

 

 リボルバー。あまり自分が使用しない銃だ。

 そして、この銃を見てから頭に浮かぶのは、あの男の姿。

 抜きやすい銃だったとはいえ、あの速さで抜き、あのタイミングを捕らえ、全くぶれずに――いや、銃弾のブレすらを、あの短時間で計算し、迷わず撃ち抜いたあの才能。

 

 馬鹿げている。別に同じ様な銃を使った所で、奴と同じ様な才能が身に宿る訳ではない。

 だが、だが……。

 

 

―― 撃てっ!!

 

 

 脳裏に再び、あの夜が蘇る。

 立つのがやっとという満身創痍の身で、それでも迷わず叫んだのだ、あの男は。

 切り抜けたのだ、あの男は。

 

 同じレベルの技能を持てるか? 同じ事が出来るようになれるか?

 そんなイメージ、欠片も湧かない。……だが、だが、だが……っ

 

 

 

 …………だが、それでも! それでも……っ!

 

 

 

「――いいだろう」

 

 これでいい。これが、俺の進む道だ。

 

「奴と戦うというのならば、お前に力を貸そう。どちらにせよ、お前には借りがある」

 

 新しい相棒をもてあそぶ。シングルアクションアーミー。別名――ピースメーカー。

 自分には、とても似合わない愛称だ。

 だが、それでいいのかもしれない。

 

「話が早くて助かるわ。拠点と弾薬は私が用意してあげる。……で?」

「なんだ?」

「名前よ。別に本名じゃなくていいけど、呼び名がないと不便でしょう?」

「……そうだな」

 

 カルバドスという名前は捨てた。いや、捨てたというより、失ったというべきか。

 

(……結局、食事に誘うこと一つできなかったな)

 

 同じ幹部で、俺とは違う役割を持つ、ボスのお気に入り。

 今なら素直に認められる。俺は――惚れているのだ。

 あの、薔薇の棘を体現したような女に。

 

「あら、ひょっとして本当に名乗れる名前がないとか?」

 

 スコーピオンが首をかしげる。

 

「いや……そうだな……」

 

 名前がない。そうだ、俺に名前はない。名前はもう――いらない。

 

「ジョン、ジョン=ドゥ(名無し)。それでいい」

 

 

 

 

 

 




ボクッ娘探偵二人目登場。
劇場版にも出たし説明不要……かな?www

さすがに紅葉さんあたりが出るときはしっかり書くと思いますがw 色々情報足りな過ぎるw

なんだか書いているシーンを思い浮かべると青蘭さんがバイハザのエイダと被ってくるww

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。