刀工総覧かどっかの「日本一正明と打物多し同田貫派天正」にたぎった結果。にほたぬ※ただし正国ではない(清国ですらない)特殊設定&事後注意。日本号といわゆる「亜種」な同田貫。pixivにも投稿してます。
この醜い自分を月が見据えているのだと思うと、その視線を遮る障子に感謝の念すら浮かんだ。けれど隣の男にそれを気づかれたくはなかったから、その胸板に湿ったままの髪を押しつける。自分と違って欠片ほどの傷もないその肉体に羨みを覚えなかったと言えば嘘になるな、と金の瞳を情欲に濡らしたままの少年は、その感情を振り払うかのように瞼を下ろした。
「どうした。まだ甘え足りないのか?」
──同田貫。
彼はいつだって恋人(ということになっている)の刀をそう呼んだ。他の刀剣男士たちは「正国」と呼んでやらないのか、と訊いたが同田貫はこの槍が自分をそう呼ぶことが、そしてそのためにほとんど皆がそのように呼ぶことがありがたかった。
亜種、と言われる刀剣男士たちがいる。一般に言われるようなその名の男士とは性質を大いに異にするものたちのことだ。例を挙げれば、身体の扱いにさえ慣れれば和洋を問わず玄人はだしの料理をつくると評判の燭台切光忠だが、中には到底食べられないようなものしかつくれない個体が存在する。あるいは、主人という存在に依存するかのように命じるまま行動すると囁かれる長谷部国重の
この同田貫もその一振りだった。
彼も自分が「天覧兜割りで用いられた同田貫正国」として
「日ノ本様」
額は押し当てたまま、掛けられた寝具の暗がりに目をやりつつ。正明の銘を持つ、同田貫の刀は囁く。どうか私を認めてください。そんなことは言えるはずもなかった。彼はいつでも、同田貫派であるから。来の流れを汲む菊池延寿の末なのだから、それ以上に肯定など。
不安を消せない声を聞きながら、正三位の位を持つ槍は憐れみでその藤の目を細めた。可哀想にこの傷だらけの刀は、
槍はそれを見たわけではないけれど、その金眼が本当は正明というのだとは知っていたし、何百年か前に、分不相応に日本一を自称する刀がいるとも聞いていた。それを名乗らせたのがあくまで作り主であって、刀そのものに罪はないとわからないほど日本号は愚かではない。だからこの哀れな少年に、安っぽい救いを与えることは苦痛ではなかった。
「何を不安がっているんだ?お前さんは日本一の刀だ。この俺が保証する」
わざと低めた声をそう耳に吹き込んで、首に一つ
日本号が同田貫の刀剣を初めて見たのはたしか、文祿の頃、海を渡った半島でのことだった。はっきり言って印象に残ってはいない。それは持ち主たち同様、そこらに転がっているような刀でしかなかった。ただ、名前こそ判らなかったもののなんとなく他の刀剣よりもしぶといような気はしていた。けれど、それらは雑兵の刀で、それ故当然のように砕けて折れていった。主人とどちらが先に死ぬか競争でもしているように。ああ、あまり覚えてはいない。
地震が起きて慶長に元号が変わって、もう一度半島へ渡った後も彼らはいた。以前に見た刀など一振りだってあったかは分からないが、それらはたしかに同じものだった。美しくはない。ただ、どうせ大した功績を揚げるはずもない、弾除けの雑兵に持たせるにはよく斬れる刀だと気づいたのはその時だったように思う。
彼らはよく戦い、よく折れた。槍、薙刀、脇差、刀、その他の諸々。自分とその保有者の盾になったものもまあ少なくはない。
この「本丸」に来て、あの刀たちが人型を取っていると聞いて、日本号は驚愕し、恐怖した。自分なら、と思ってしまったから。恨まぬはずがないと感じてしまった。それがどれほど的外れなことかも知らず。
日本一と謳われる槍は、その刀たちに報いなければならないと思った。今でも。
日本一と呪われた刀は、誰か人間に認めてほしかった。けれど審神者は「同田貫正明」など知りもしない。それなら凭れることができるのは、ヒトの位を持つこの男しかいなかった。
同田貫が、自分のそれよりもずっと太い腰に手を回す。口腔を弄んでいた指を引き抜いて、日本号は深い口付けを。それはきっと愛とは言わなかったけれど、今のところは気付かない振りさえしていれば良かった。お互いに。