俺の青春ラブコメはこの世界で変わりはじめる。   作:clp

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本作未読かつネタバレを避けたい方はここで引き返して下さい。
ここまでの流れを確認したり、途中の巻から読む方のお役に立てれば幸いです。
後者を想定して、区切りごとにリンクを設けました。



ここまでのあらすじ(原作1巻〜5巻)

■ここまでのあらすじ

 

 原作とは少しだけ違う世界。

 意識や感覚を保ったまま、現実そっくりの仮想空間にログインできる技術が開発された世界において。

 

 総武高校は、同じ千葉県下にある何校かの高校や大学、そしていくつかの学習塾とともに、生徒に仮想空間を体験させると決断した。

 

 

 高二に進級して早々に、八幡は変な作文を提出したかどで奉仕部に連行された。

 それを偶然みつけた由比ヶ浜も巻き込んで、三人は現実世界にて邂逅を果たす。

 初対面の雪ノ下を相手に持論を展開してしまった八幡。

 自分と対等に渡り合う八幡と身近で接して、評価を上方修正する雪ノ下。

 そんな二人のやり取りを、由比ヶ浜が微笑ましく眺めていた。

 

 仮想空間で待っていたのは、「ログアウト不可」というまさかの展開だった。

 参加校が増えない苛立ちか、国内外のライバル企業に追い越される不安か。

 いくつか推論が出たものの、運営の真意は謎に包まれたまま。

 確かなのは、この世界に捕らわれてしまったという現実だけだった。

 

 事件当日に雪ノ下が今後の指針を提案したことで。

 そして事件翌日には城廻が全校の雰囲気を一変させたことで。

 最後に、現実世界から「日常の延長で日々を過ごすように」と指令を受けたことで。

 二日目にして、VR世界における基本方針が固まった。

 

 そんな状況下でも、喜ばしい変化がいくつかあった。

 

 まずはトップカースト三人娘の結成。

 海老名が趣味を打ち明け、三浦が気になっている男子の話を口にして。

 この事態を恐れる気持ちよりも、ともに過ごせる心強さが上回って。

 由比ヶ浜を含めた三人は、瞬く間に親密になった。

 

 次に、いくつかの運動部が活気を取り戻した。

 この世界で部活をしても意味があるのかと、多くの生徒が疑心暗鬼に陥っていたさなか。

 練習を見学した三浦が葉山に助言をして、サッカー部が変わった。

 その変化は、少しずつ周囲へと波及していった。

 

 そして由比ヶ浜の依頼を通して、奉仕部三人の仲も深まった。

 クッキーと一緒に、飼い犬を助けてくれたお礼を八幡に伝えた由比ヶ浜。

 自分もいずれ打ち明けると、顧問と約束した雪ノ下。

 由比ヶ浜の入部も正式に決まって、これを境に奉仕部は活況を呈することになる。

 

 三人体制になって初めて受けたのは、材木座の依頼だった。

 由比ヶ浜の入部を聞いて、保護者のような心境で見学に訪れていた三浦と海老名も加わって。

 総勢五名は容赦なく作品を酷評する。

 それでも材木座の創作意欲が折れることはなかった。

 

 次の依頼人は「上手くなりたい」「部員に戻ってきて欲しい」と願う戸塚。

 その結果、お昼休みは奉仕部が、放課後は女テニが練習を手伝う形になった。

 だが雪ノ下と、女テニの練習を助ける三浦の間で意見が分かれる。

 はたしてどちらの練習方針が適切なのか。

 平塚の裁定により、二人はテニス勝負で雌雄を決することになった。

 八幡と葉山を加えたダブルスの結果で全てが決まる。

 

 仮想空間に捕らわれたせいで、今も大勢が俯きがちに日々を過ごしていた。

 そんな生徒たちの気持ちを盛り上げるべく、テニス勝負は一大興行として扱われた。

 テニスを楽しむ三浦。

 城山の問い掛けに答える雪ノ下。

 趣味が公になった海老名。

 観客席に潜んで生徒を煽る材木座。

 こうした面々に魅せられて、この世界での過ごし方や部活の意義に悩んでいた生徒の表情が変わる。

 八幡の助言によって、部員の復帰にも、めどが立った。

 

 あとは勝負の行方のみ。

 練習の成果を全て出しきって、由比ヶ浜の声援を受けた八幡と雪ノ下は見事に勝利を収めた。

 しかし互いの健闘を讃えあう現場に一色が登場して、興行はなし崩し的に解散となる。

 

 奉仕部の二人からご褒美をもらって、八幡は一人になった。

 この世界に巻き込まれてからの日々を振り返り、環境の変化に思いを馳せながら。

 八幡は満ち足りた気持ちで時を過ごすのだった。

 

 

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 この続きを本編で読む場合は、こちら。→22話。

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1.5(幕間)

 この世界に捕らわれてから二週間が過ぎた。

 ようやく校外への外出が解禁となり、八幡はいったん自宅に戻った。

 

 一方、同じ塾の生徒と共にこの世界に巻き込まれていた小町は、総武高校を訪れていた。

 そこで兄の行き先を聞いて帰路に就く。

 

 そして兄妹は、住み慣れた我が家で再会を果たした。

 

 また日が過ぎて、大型連休の二日目。

 妹と外食するために家を出た八幡は、偶然にも由比ヶ浜と雪ノ下と遭遇した。

 その結果、思いがけず校舎外で会話を楽しむ三人だった。

 

 

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 この続きを本編で読む場合は、こちら。→26話。

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 中間試験が二週間後に迫った五月下旬のこと。

 朝は去年の事故を話題にしながら小町と登校し、昼には専業主夫志望を知られた代わりに川崎の黒を堪能して。

 それでも八幡は、ぼっちの時間を懐かしんでいた。

 この気持ちは「孤独を恐れる同級生には分かるまい」などと考えながら。

 

 分からないのはお互い様で、大和や大岡にとって職場見学の班から除外されるのは一大事だった。

 テニス勝負を契機に葉山とそれなりに交流がある八幡、そして同じサッカー部の戸部を警戒して、彼らは密かに噂を流す。

 だが自分たちも含めた四人の悪評は、予想以上に広まってしまった。

 噂がクラスに止まらず一色にまで届いたのを知って、葉山は奉仕部への依頼を決断する。

 

 雪ノ下が二年F組の教室まで出向いて、三浦と一緒にクラス全員に脅しを入れて。

 犯人の検挙こそ無かったものの、こうして事態は鎮静された。

 職場見学は葉山グループ四人と三浦・海老名の実質六人で行動すること、奉仕部の三人は運営の職場に赴くことを確認して、依頼は解決した。

 

 事の顛末を顧問に報告しがてら、雑談に花を咲かせる奉仕部一同。

 しかし話の流れから、犯人が判明しないと「罪を謝罪できない」と指摘して、雪ノ下が口ごもる。

 平塚としばし見つめ合っていた雪ノ下は、かつての事故の話を持ち出して二人に頭を下げた。

 こうして、三人の仲に暗い影を落としかねない要素は解消された。

 

 中間試験を目前に控え、部活は停止期間に入った。

 勉強会に巻き込まれた八幡はカフェで妹と遭遇し、大志の依頼を受けることになる。

 家庭の事情から、一年で現実世界に戻りたいと願う川崎。

 脱落する生徒を出したくないと願い、川崎が深夜に出歩くのを止めさせたい雪ノ下。

 二人の性格が原因でお互いに説明不足なこともあって、初回の交渉は決裂する。

 

 大志から「エンジェル」という店が関与していると聞いて、平塚が調査に赴く。

 川崎がバイトをしている可能性が浮上して、奉仕部の三人と戸塚が店に乗り込んだ。

 二度にわたるやり取りを経て、ようやく事情を把握した雪ノ下と八幡は、川崎に解決策を提案する。

 バーを辞めて、大志の塾で英語を教えるバイトに変更すること。

 雪ノ下が大手予備校の夏期講習を受講後に勉強会を行うこと。

 更には教師の補足もあり、大志の決意表明もあって、無事に話がまとまった。

 

 この一件は、思わぬ副次効果をもたらした。

 兄の事故を内心では今も引きずっていて、時に他人を責めたくなる自分を嫌悪していた小町。

 その姿を過去の姉と重ねて、小町が辛い時には自分が寄り添いたいと自覚するに至った大志。

 依頼を解決して帰路に就いた兄妹は、寄り道をした公園で小町の想いを共有した。

 八幡の周囲は少しずつ変化の兆しを見せ始めていた。

 

 試験が終わって、大志の依頼に関与した面々を集めて打ち上げが行われた。

 戸塚を含む女性陣がメイド服をまとって八幡にご奉仕するなどして、楽しく過ごした一同だった。

 

 週が明けて職場見学に赴いた奉仕部三人は、ゲームマスターから手荒い歓迎を受ける。

 由比ヶ浜が顧客対応と経理、八幡が千葉村の製作、雪ノ下がペット解禁に向けた会議への参加など、面談までの時間が有意義だっただけに。

 由比ヶ浜の直感を評価し八幡と雪ノ下に厳しい判定を下すその指摘は、各々の心に突き刺さった。

 雪ノ下は、無駄なことに時間を費やしすぎていると。

 八幡は、確実に雪ノ下を上回れると言える分野があまりに少ないと。

 

 運営の職場を出て、まずは雪ノ下が「一人にして欲しい」と言って去って行った。

 そして内心で自覚していたことを突き付けられた八幡が、由比ヶ浜を拒絶する。

 二ヶ月という時間を共に過ごしてなお、八幡は未だ二人を信じ切れていないのだった。

 

 

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 この続きを本編で読む場合は、こちら。→48話。

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 奉仕部の三人は、各々が職場見学を引きずっていた。

 

 由比ヶ浜は二人の力になれない無力感を噛みしめながら、回復の兆しが見えない八幡を気遣っていた。

 八幡は妹と諍いを起こしたり、あえて雨に打たれたりして、孤独を貫こうとしていた。

 雪ノ下は助言をそのまま受け入れて書籍に没頭するなど、先々の不安こそ見え隠れするものの、いち早く調子を取り戻していた。

 

 火曜の部活は中止になった。

 拗らせ続ける八幡とそれを心配する由比ヶ浜は、お互いの誤解も重なって調子が上向かない。

 それでも由比ヶ浜は「何としても八幡を引き留める」と己のなすべき事を決意して。

 八幡にも、平塚に空き教室をあてがわれ居場所ができたお陰で、心理的な余裕が生まれて。

 少しずつ改善の気配が見えてきた。

 そして雪ノ下も、川崎が部室に訪ねて来てくれて、ようやく二人の現状を把握できた。

 

 水曜の放課後、八幡は足の向くままに外に出て、気付けば東京駅にいた。

 駅長と頭を使った会話を交わして、憑きものが落ちたような心境で帰宅する。

 翌日には川崎姉弟と小町の四人で夕食を共にして、気持ちが上向いた状態で週末を迎えた。

 

 同じ頃、雪ノ下は生徒会長から相談を受けていた。

 予算をめぐって運動部と文化部で合意が得られず、仲裁を依頼されたのだ。

 その結果、生徒会室に呼ばれた水曜に続いて木金も奉仕部の活動は中止となった。

 

 迎えた部長会議は上々の結果に終わった。

 城廻と、創作のために部活を立ち上げた海老名に両隣から支えられて。

 城山や戸塚や葉山の協力、そして職場見学で得た経験も上手く活かして。

 無事に大任を果たした雪ノ下は、また一つ成長を遂げた。

 

 同時刻、由比ヶ浜は三浦と共に一色と向き合っていた。

 雨に打たれる八幡の写真を口実に、対話を求められたのだ。

 一色の要求は「夏休みに葉山と出かける際には自分も誘って欲しい」というもの。

 全国に行けない葉山の心情を思い遣りながら、三浦と一色は互いに思惑を抱えつつも合意に至った。

 

 金曜の昼に関係者を集めて、雪ノ下は奉仕部を「元通り」にするために号令をかけた。

 八幡に部活復帰を促すために、まずは戸塚が行動に出る。

 

 テニススクールの時間まで遊ぼうと誘われて、八幡は駅前に向かった。

 道中もゲーセンに入ってからも、二人の会話は途切れることなく続く。

 奇策で八幡を追い詰めた戸塚だが、「奉仕部を辞めない」と言わせることはできなかった。

 だが「次の依頼を頑張る」という言質を得て、二人の初デートは無事に終わった。

 

 土曜にはペットの飼育が可能になった。

 八幡と小町はカマクラを引き取るため東京わんにゃんショーに向かう。

 その会場で、奉仕部の二人と出逢った。

 

 まずは由比ヶ浜がサシで話をすることになった。

 自爆攻撃で八幡に迫るも、「次の依頼で結果を出す」と言わせるのが精一杯で。

 それでも「現実世界でサブレに会う」という約束を取り付けて。

 関係が無に帰すことを未然に防いで、由比ヶ浜は満足そうだった。

 

 猫を飼うことになった雪ノ下に、八幡を買い物に誘うようにと小町が要請した結果。

 由比ヶ浜の誕生日プレゼントや自前のエプロンも購入して、二人は楽しく時を過ごした。

 誕生日を推測した話から、雪ノ下の数学的なセンスに触れて。

 八幡は別方面の能力を研こうと考え始める。

 陽乃との遭遇というアクシデントも、パンさんのぬいぐるみで印象を上書きして。

 二人のお出掛けも無事に終わった。

 

 一方、雪ノ下の誘い言葉を耳にした由比ヶ浜は、己の妬心を自覚した。

 たとえ雪ノ下が相手でも渡したくないという、自分でも醜いと思う独占欲によって。

 由比ヶ浜は八幡への恋愛感情をようやく認識した。

 小町からの食事の誘いを断って、駅前で二人を見送って。

 何とか顔を上げて、由比ヶ浜は一人家路に就くのだった。

 

 月曜の部活が始まって早々に材木座が現れた。

 勝負をしたいから助っ人をと懇願され、一同は遊戯部の部室に乗り込んだ。

 勝負方法の交渉から戦術までの全権を託された八幡は「この依頼で結果を出す」と意気込む。

 クイズゲームで完勝して、その想いは果たされたかに見えた。

 

 だが些細な発言が原因で、材木座の依頼が仕組まれていた可能性が浮上した。

 勝負こそガチンコだったが、状況をお膳立てされたと考えた八幡は再び無力感に包まれる。

 

 奉仕部に残りたいと願うのは、所詮は利己的な想いに過ぎないのではないか。

 そう口にする八幡に、奉仕部の活動に手応えを感じていた雪ノ下は「三人の願いは相矛盾するものではない」と主張し。

 由比ヶ浜は事故の話を持ち出して、「始めかたが正しくなくても全部が偽物じゃない」「だから問題ない」と反論して。

 八幡がそれらを受け入れたことで、ようやく奉仕部は元通りになった。

 

 その後、由比ヶ浜の誕生日をケーキとカラオケでお祝いして。

 三人は「部活の仲間」という意識を強くして、この日は解散となった。

 

 その週末、由比ヶ浜の誕生祝いと奉仕部が元通りになったお祝いで比企谷家は賑わっていた。

 戸塚と材木座が不参加になったので、八幡以外の八人は全て女子。

 並のリア充には到底不可能な環境を、ぼやいてみせる八幡だった。

 

 

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 この続きを本編で読む場合は、こちら。→74話。

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 八月の到来に合わせて、VR世界は東京と千葉の二都県から関東一円にまで広がった。

 自らが手掛けた千葉村を見に来た八幡は、小学生の団体を目撃する。

 参加者を増やしたい運営が小六まで対象を広げ、教育熱心な塾がそれに応じたがゆえの悲劇だろう。

 そんな推測をしていた八幡は、集団の中に気になる少女を見付けた。

 

 合宿に来た雪ノ下・由比ヶ浜・小町・戸塚と、八幡は予想外の合流を果たす。

 そこに葉山・戸部・三浦・海老名・一色までもが加わった。

 インターハイの期間に気晴らしができるように。

 同時に運動部と文化部の融和の象徴として、共同でボランティアを行う。

 雪ノ下と小町、三浦と一色、そして平塚が各々の思惑を持ち寄った末に合同合宿が始まった。

 

 気配を薄くして形だけ小学生の相手をしていた八幡の前に、炊事場を追われた留美が現れた。

 順番にハブるゲームがバカらしくなったと語る留美に、雪ノ下が「中学でも同じ」だと忠告して。

 三人の顔合わせは苦い形で終わった。

 

 留美の状況を何とかしてあげたいと、中高生が話し合うものの良案は出ない。

 葉山に向ける雪ノ下の言葉は辛辣だったが、旧友の話を披露した戸部のお陰で場は保たれていた。

 二人の間に再び緊張が高まったところで平塚の仲裁が入り。

 八幡と海老名が無難に話をまとめて、一日目は解散となった。

 

 ログハウスに帰ってからも男女別に話し合いが続いていた。

 リア充にも色々あるんだなと、葉山や戸部を少し身近に感じながら。

 八幡は「小学生を支配している空気を変える」という閃きを得た。

 話が一段落して、戸部の恋バナが始まった。

 一同は「海老名への想いが確定したら協力して欲しい」との言葉に生返事で応える。

 続けて葉山が好きな子のイニシャルを口にして、男子は気まずい形でお開きになった。

 

 葉山との間に「去年」何があったのかと尋ねられて。

 実は小学生時の話だと悟られぬよう、かつ嘘にはならない言い回しで雪ノ下は難を逃れた。

 話し合いの中で三浦は小町の発言をたしなめ、葉山の意思を挫こうとするかのような雪ノ下の姿勢に異議を唱える。

 自分なら葉山を暴走させないと宣言して、三浦は一人布団にくるまった。

 

 荷物を取りに出た八幡は歌声に導かれ、木立の中へといざなわれた。

 三浦と距離を置くために外に出ていた雪ノ下は、お気に入りの曲を歌い終えて八幡と顔を合わせる。

 木々に囲まれた空間で、二人は夢見心地に会話を交わす。

 歌詞に出てきた「約束」、漱石の作品に書かれていた「愛」、そして「いつか、雪ノ下を」という言葉を共有して、二人は別れた。

 その間、雪ノ下は一度も母親を話題に出さなかった。

 

 帰り道で由比ヶ浜と出逢った八幡は、一緒に雪ノ下を待ちながら雑談に花を咲かせる。

 待ち人に加え布教から逃げてきた小町も合流して、四人は平塚のログハウスに招待された。

 雪ノ下と小町は、八幡に内緒で合流を企んだことが弄りの域にまで至っていたと自覚し、三浦の忠告が正しかったと理解した。

 八幡は、身近な存在に気を遣って負の感情を押し隠すことが、むしろ周囲に悪影響を与えていたと反省する。

 この日の議題が一つ終わった。

 

 雪ノ下は留美の中に由比ヶ浜を見て、由比ヶ浜は留美に雪ノ下を見ていた。

 同じく過去の雪ノ下を重ねているであろう葉山に、失敗を繰り返させないためにも。

 雪ノ下は留美の力になりたいと改めて表明し、由比ヶ浜がそれに続いた。

 

 ぼっち気質ゆえに周囲から距離を置かれ、しかしお陰で酷い虐めには至らなかったという八幡の過去を共有して。

 更には「強さが秘める危うさ」と「弱さこそが大事な場面がある」という教師の教えも胸に刻んで。

 最後に「自分の行動に責任を持って考え続けていれば、間違った思い込みはいつか気付ける」という秘訣を伝授されて。

 四人にとってこの集まりは、忘れがたいものとなった。

 

 同時刻、一色と海老名はそれぞれに今後の行方を考察していた。

 三浦と戸部は既に寝入っている。

 葉山は戸塚の過去に触れて、「見てるだけしかできない辛さ」を分かち合って。

 小学生のあの日から止まったままだった時計は、いま静かに動き始めた。

 

 

 合宿は二日目の朝を迎えた。

 打ち合わせの席で平塚は、肝だめしの代替イベントを考えるよう八幡に命じる。

 手を抜いてステルスヒッキーを発動した昨日、幽霊と見まちがえた小学生が複数出た。

 その責任を問われた形だ。

 

 午前中の作業の合間に、八幡が披露した雑学によって葉山は新たな気付きを得た。

 昨夜「自らの手で」というこだわりを克服したのに続いて、ようやく「自分のためでも雪ノ下のためでもなく当事者のために」問題を解決するという意識に至った。

 

 だが事態は急展開を迎える。

 朝の点呼には出ていたのに、留美は宿舎で一人残っていた。

 留美に居残りを認めさせたのだと理解して、一同は状況の逼迫を悟る。

 

 平塚はただちに、向こうの引率の教師と相談の場を設けた。

 雪ノ下は留美にメッセージを送り、女性陣は返事待ちの時間に川遊びをして無理に気を紛らわせる。

 そこに駆け付けた八幡にラブコメの神様が微笑んで、中高生に少し落ち着きが戻った。

 

 留美から指名を受けた雪ノ下と八幡は、急いで研修室に移動した。

 部屋に入って早々に「苗字でしか呼ばれない」現状を訴え「名前で呼んで欲しい」と告げる留美。

 二人は即座に要求を容れて、力になりたい旨を伝えた。

 

 加害者に謝る必要など無いこと。

 だが同時に、身の危険を感じたら何をおいても逃げるべきだと雪ノ下は告げる。

 

 八幡は虐めを「孤立化・無力化・透明化」という三段階に分類する考え方を紹介して。

 加害者にも権威失墜のリスクがあるので、実は時間はこちらの味方だと保証した。

 相手が行動に出た時は、こちらのチャンスでもあること。

 虐めが解決して逆の立場になっても、やり返し過ぎないようにと付け加える。

 

 状況の変化こそ無かったものの、留美にとっては得がたい時間となった。

 

 留美を送り出して二人になると、八幡は「助けたい理由」を尋ねられた。

 昨日までの一歩引いた姿勢を捨てて、八幡は今の心情を語る。

 留美を助けたいと願う雪ノ下と由比ヶ浜のために、二人と共に、そして何より留美のために。

 理由を共有した二人はそれぞれ策を練りながら、話し合いの場所へと移動した。

 

 最初に平塚から「向こうの教師は介入に及び腰」だと教えられ。

 次いで三浦が、昨夜の啖呵の責任を感じてか案を出そうとするものの。

 雪ノ下は普段と変わらず、「見込みなし」と斬って捨てる。

 以前と変わらぬ二人の関係が、緊張感を維持しつつもどこかでお互いを認めている二人の関係がそこにはあった。

 

 葉山の案には、時間と労力がかかる割には救済に繋がらないと雪ノ下が難色を示し。

 雪ノ下の案には個人の負担が大きいと由比ヶ浜が、権限や責任の所在という点でもリスクがあると海老名が指摘した。

 

 平塚の視線に根負けして口を開いた八幡は、まず葉山の案を却下した。

 当事者の救済にならない以前に、当面の結果を出すのも難しいという理由だ。

 そう指摘を受けた葉山が内心で苦悩していることには気付かず、八幡は話を進める。

 

 雪ノ下の案はひとまず保留にして、肝だめしの代わりにゲーム大会を行うこと、留美の班には特殊なゲームをさせることを提案した。

 関係者全員をぼっち状態に引きずり下ろすという八幡の意図を耳にした平塚は、「虐めに虐めを重ねない」「体罰でしか解決できない問題などない」と警告を与えた上で、生徒の自主性を尊重した。

 

 八幡の詳しい説明に一同が納得して、ゲーム案が採用される運びとなった。

 

 準備のために高校に戻って、まずは川崎と打ち合わせをする。

 次いで実況役に遊戯部を呼び出して、雪ノ下と八幡は小学生を相手のゲームに挑んだ。

 

 思い切りの良い留美の動きや、小学生四人が無駄な行動を重ねたことで、ゲームは八幡の思惑通りに進む。

 だが残り時間を盾にドッキリを仕掛ける計画は、留美が四人に手を差し伸べたことで破綻した。

 想定以上の結果を出してみせた留美に二人は兜を脱ぎ、それを実況で伝えられた小学生は留美に喝采を浴びせた。

 

 留美たちを長く支配していた空気が、明確に変わった瞬間だった。

 

 キャンプファイヤーを後にした留美たちが、すぐ横を無言で通り過ぎるのを見て。

 八幡は雪ノ下が「報われない」ことを軽い口調で宥めていた。

 雪ノ下がそれを素直に受け入れるはずもなく。

 環境の激変に戸惑う小学生とは違って、二人はそれぞれ先の未来を見据えていた。

 

 中高生が集まった振り返りの場で、川崎と打ち合わせた内容を説明すると。

 平塚は報連相の重要性を強調した上で、それでもすぐに動いてくれた。

 これで二日目も解散となり、男女に分かれてログハウスに帰る。

 戸部と戸塚が眠っている横で、八幡と葉山は濃密なやり取りを交わした。

 

 疲れからすぐにベッドに入った雪ノ下は、小町に留美の今後を託して眠りに就いた。

 由比ヶ浜と海老名は、それぞれ恋愛と趣味に思いを馳せながら、親しい会話を重ねていた。

 お昼の話し合いの時に、良いところがなかった葉山を見てなお情が増しているのを自覚して、三浦はようやく自身の恋愛感情を認めた。

 それを一色に伝え、葉山をより深く知るために協力し合うと約束を交わす。

 二人は共に、今すぐ葉山と付き合えるとは思っていなかった。

 

 その頃、留美はバラバラになった四人に向けて「誰も仲間外れにする気は無い」という意思を示していた。

 

 

 一夜明けて、小学生向けに新設する英語クラスの勧誘のために、川崎が千葉村を訪れた。

 小学生が今ある関係とは別の繋がりを持てるように。

 現実世界に戻った後もそれを継続できるように。

 そうした八幡の目論見に平塚が賛同し、相手方の引率教師も積極的に動いてくれたお陰で。

 更には川崎から事情を聞いた塾が、実利と共存のバランスを見出したことで、説明会が実現した。

 

 質疑応答が行われている中で、小町が留美に接触した。

 互いに好感触を得て別れようとしたところで、別の小学生が小町に話しかける。

 

 かつて留美と親しかった少女は「もう名前で呼ぶ資格はない」と諦め口調で。

 留美を思ってあえて口に出した言葉が、実は間違っていたのだと自嘲気味につぶやく。

 兄に対して同じ経験をしたばかりの小町は、平塚から伝授された秘訣を少女に伝える。

 とはいえ少女は、慰めを期待していたわけではなく。

 最後に小町に向かって「あの子が困っていたらお願いします」と告げて去って行った。

 

 こうして結果を出して、顧問からお褒めの言葉を貰ってもなお、八幡の自己評価は低いまま。

 それでも平塚は、二学期が楽しみだと前向きに考えていた。

 

 小学生を見送り葉山グループとも別れ、駅前まで帰ってきた。

 待ち受けていた陽乃は「八幡を奉仕部に入れるよう提案したのは自分だ」と語る。

 加えて、月初めに現実世界と映像通話が繋がったので「母が待ってる」と妹に告げて。

 姉妹は車中で睨み合いながら、駅前から去って行った。

 

 雪ノ下を心配する由比ヶ浜だったが、八幡は「大丈夫」だと断言した。

 仕組まれた状況をどう考えるかは、既に六月に経験したことだからと。

 

 そんな二人のやり取りを眺めながら。

 小町は兄への弄り行為を再度反省して、同時に兄の現状を寂しくも羨ましいと思う。

 平塚は、自分や陽乃の手を離れて仲を深める三人を微笑ましく思う。

 そして戸塚は、三人の関係が長く続くことを願っていた。

 

 

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 この続きを本編で読む場合は、こちら。→92話。

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 映像通話が可能になったことで、仮想空間はまた少し現実に近付いた。

 現実とVRという違いはあれども同じホテルで同じ時間に。

 八幡は誕生日に小町を連れて、通話を繋いだ両親と共に食事会を堪能した。

 

 同じ形で家族旅行に行くという由比ヶ浜にサブレを託されて。

 翌日には海老名から文化祭の劇の主演を打診された。

 続けて「二学期に八幡周囲の環境が変化するかも」と警告を受けたが、ぴんと来ない。

 

 更に翌日、午前中はサブレを連れて小町とデートして。

 道中で会った一色とも、お互いに少しだけ理解を深めて。

 並んでラーメンを食べながら、平塚から「限界を許せる時が来る」「その先が用意されている」という教えを受け取って。

 午後には戸塚と材木座と城廻の四人で映画とお茶を満喫した。

 

 また翌日、旅行から帰ってきた由比ヶ浜にも環境の変化を示唆された。

 深く考えずに雑談を続けていると、由比ヶ浜が「両親からプレゼントをもらった」と言い出した。

 浴衣のデータが届いたからと、花火大会に誘われて。

 二人の週末の予定が決まった。

 

 校舎で待ち合わせて駅に向かったが、普段と違って会話がぎこちない。

 注意事項を繰り返す八幡に、由比ヶ浜は「お兄ちゃんみたい」との感想を口にした。

 雪ノ下の話題になって、体力を懸念した由比ヶ浜は「二人で助ける」と約束を迫る。

 頷いた八幡に慣性力が働いて、電車の中で壁ドンを体験する二人だった。

 

 花火大会の会場で、二人は相模と遭遇する。

 好意的な態度を示され訝しむ八幡だが、由比ヶ浜が語る自分の境遇はリア充のそれだ。

 理屈は解ったが落ち着かないなと考える八幡を、陽乃が視界に捉えた。

 

 貴賓席に招かれて、意味深な発言をいくつか受け取る。

 曰く「無理に取り繕う」「また選ばれない」「八幡とどう違うのか」等々。

 決定的な言葉を口にする気はなさそうだが、陽乃の意図が読み切れない。

 

 会場からの帰り道に「できれば関わりたくない」と口にする八幡。

 由比ヶ浜は「この世界に巻き込まれなくても、三人は奉仕部で一緒になって陽乃とも関わると思う」と答えた。

 続けて決定的な言葉が出かかったが、そこに雪ノ下からのメッセージが届く。

 また遊びに行こうと約束して、由比ヶ浜はそのまま去って行った。

 

 八月最後の土曜日。

 雪ノ下は、五月に川崎に提案していた勉強会を開催した。

 

 休憩中に雑談を楽しみながら、八幡は内心密かに自己評価の低さと向き合った。

 他人に誇れる何かを得て、自分と他人を信じられるようになりたい。

 ごく少数との仲を更に深めるには、それが必要だと考える八幡は、心中でこっそり「次の依頼でも結果を出す」と誓った。

 

 勉強会が終わって三人が残り、文化祭の話になった。

 雪ノ下が「奉仕部でバンドを組むのはどうか」と提案し、即座にパート分けが行われる。

 楽器を未経験なのは同じなのに、両手と右足を動かしてドラムを叩く八幡を見て。

 才能の差を感じて気落ちする由比ヶ浜を雪ノ下が宥め、八幡は得意分野の話を持ち出した。

 気を取り直して、人間関係では「最後には、あたしが頑張る」と言い切る由比ヶ浜だった。

 

 

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 この続きを本編で読む場合は、こちら。→97話。

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更新が遅れに遅れた上に、ここで分割という形になって申し訳ありません。
いちおう書いたもの準拠で(=書いていない事は書かないという方針で)まとめたつもりですが、予想以上に時間と、何より精神力を費やしました(昔の文章怖い……)。

6巻は更に複雑な構成なので、次回の更新を明言しにくいのですが。
何とか7月中に7巻に入れるようにと考えていますので、今後とも本作をよろしくお願いします。

ご意見、ご感想、ご指摘などをお待ちしています。


追記。
2巻で川崎に提案した解決策の内容を追加しました。(7/11)
細かな表現を修正しました。(7/29)
改行の調整、表現の修正、後書きの簡略化を行いました。(8/11)
前書きを修正し区切りごとにリンクを設けました。(9/3)

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