そこには多くの犯罪者や影で動く悪人共が潜伏していた。
何も知らない表の人々の裏で非道な者達が取引が行っている。
この日は特にヤバかった。
一つは、人の道から外れた研究を繰り返し、数多の世界で厄災を振りまいているマッドサイエンティスト集団。
もう一つは、悪逆非道の犯罪を繰り返し、数多の世界で厄災を起こしている犯罪組織。
幾度もなく取引を行い、成功を収めた二つの組織は互いに利があると判断し、たった今時空管理局の管理外の世界で手を組もうとしていた。
白衣を着たギョロ目の男は数十人の手下を従えて、目の前の同じように十数人の部下を従えた黒スーツを着た厳つい男と対している。
「我々は今日をもって、一つの組織となるのです。壊し尽くしましょう。この世界を。」
「おうとも。げっはっは。暴れ回ろうゼ。この世界でよぉ!」
この二つの組織は賢い。
大きな犯罪はすれど、証拠は残さず。追われはすれど、一度も捕まらない。それ故にどちらもまだ完全には時空管理局にリークされていなかった。
今まさに、荒れた星の廃れた宴会場にて、大きな犯罪組織が誕生しようとしていた。
「そこまでだ。」
それまで上がっていた歓声が静まり返る。
声がした方向をみれば、一つ影が見えた。
「あん。誰だテメェ。出て来い!」
「煩い。悪党ども。俺は時空管理局武装隊の山口ハジメ。御用改めである。神妙にお縄に付け。」
聞こえたのは少し高い音程の、子供で男の声。現れたのはまだ小学生位のバリアジャケットを展開している少年だった。
特徴的なのは、見たことのないマークを付けた黒色の時空管理局の服。手には世界でも珍しいシンプルで最低限の魔法でしか補助されていないであろう刀。
黒い髪と瞳で白い肌がそれを一層際立てている。どこにでも居そうな少年だが、その少年の目は、狼のような恐ろしく鋭い眼光をしていた。
「時空管理局ぅ?げっはっは。笑わせるゼ。まだガキじゃねぇか。どうした。迷子か?ん?」
「なんであれ、我々の顔を見られたのです。生きて返しませんよ。」
「おいテメェら、このガキを殺せ!」
「まあ、生け捕りでも構いませんよ。良い実験体になりそうですから。」
襲いかかったのは二人。
彼らは今まで色んな者共を片付けてきた。強いと言われていた敵も周りの弱い兵も簡単に。だから、目の前にいるガキの一人を片付けるなんて訳ない。今までと同じように。
だが、その判断は間違いだった。
刃を振り下ろす。その瞬間、少年が消えた。
よけられた。一瞬そう思った。だが、数歩歩き、鮮血が辺りに飛び散る。実は殺していたのか。
いや違う。その血は少年のものではない。
二人はそれに気が付くことなく、目の前が暗転した。
そう、崩れ落ち、赤く咲いたのは二人の方だ。
周囲には、二人が突然バラバラになったように見えた。
「「なっ!」」
少年は既に通り過ぎている。その服に血は付いていない。だが、手には抜き身で血の滴る刀があった。
何時斬ったのか。実は二人が刃を振り上げた時点で勝負はついていた。
達人の剣は敵を斬り、それから三歩歩いてようやく斬られたことに気がつき、崩れ落ちるという。
少年は、見事にそれをやってのけたのだった。
少年は歩く。ゆったりと、その目に獲物を見据えて。
「全員武装しろ!急げぇ!」
「皆さん取り乱さず、編隊を組みなさい。」
仲間が殺された怒りよりも目の前のガキの恐ろしさが勝った。おかげで冷静に判断することができた。
仲間が崩れ落ちたとき、自分たちが思うよりもヤバイ状況であるということを本能的に理解した。楽しげな宴会場は一気に戦場と化したのだった。
「良かった。素直に降参されたらどうしようかと考えていた。」
少年の声が響く。だがそれを埋め尽くす銃声が鳴り響く。
「だが、その心配もなくなって安心した。」
少年の声が響く。少年は無傷。そして銃声が止んでいた。また斬った。魔弾を。銃を。人を。
「さて、お前たちは言ったな。生きて返さない、と。」
少年の声が響く。もはや誰も聞いていない。少年が言葉を発する間にも声を上げ、斬りかかり、あるいは殴りかかる。
「俺もだ。お前たち悪党どもには非殺傷なんて事はない。最初からそのつもりだったしな。」
少年の声が響く。逃げることができなかった。何故なら逃げようとした者から殺されるから。
「全員ここから、生きて帰れると思うな。」
三十分後、そこには死体の山が築かれていた。
白衣もスーツもみんな同様に赤く染まっていた。
もう生き残っているのは、いよいよ最後の一人。だがその男ももう、体中を切り刻まれ、虫の息だった。
「なん・な・・ん・だ。お前、・・・は。」
「言っただろう。時空管理局武装隊だと。」
男は諜報に長けていた。だからそういった情報には強かった。そして最後の諜報活動に移る。
ブレる視界を必死に動かして、自分を殺すであろう少年を見た。
百人超を相手をしといて、息一つ乱さず、未だに無傷で返り血すら浴びない、そんな無敵の化物。だがそれは珍しいわけでもない。この数多有る世界には探せば幾らでもいるだろう。
キーワードは時空管理局というところだ。
やはり見たことのない紋章。制服も細部が異なっている。
これだけでも情報は限定される。年齢、服装、人相、職、肩書き。
「ただし、海でも陸でもなく暗部と付くがな。」
そこで男は、最近聞いた噂を思い出した。聞いたばかりといって良い。それほど最近の出来事だ。
裏社会で最新の都市伝説のようなもので近頃、いろいろな犯罪組織やテロリスト、凶悪な違法者がいきなり消滅するということが何件も起きているそうだ。時空管理局に捕まえられたというのが定説で時々現れる正義ヅラした人殺しかタガが外れた復讐者、力試しの戦闘狂というのが次に来る。
だがそんな話の中で、一つだけこんな話があった。小さな死神の噂。
数年前、幼子がたった一人で組織一つを潰したという。
その後から色々な世界の戦場で目撃が相次ぎ、更にテロリスト本拠地や違法研究所を襲撃。ついには時空最大の悪とやらを相手にしたと聞いてから、ぱたりと噂が消えた。その幼子が復活したという噂だ。
てっきり、死んだと思っていたが、どうやら首輪が付いたらしい。
そう結論に達して納得した瞬間、暗転したのだった。
少年、山口ハジメは最後の首を落とすと通信ツールを開いた。
そこに表示してある名前は『レジアス・ゲイズ』と『ゼスト・グランガイツ』の二つしかない何とも寂しいものだった。
そして、慣れない手つきで操作を続け、レジアスと通信を開始させる。
「任務完了致しました。」
《そうか。良くやった。》
「はっ。では次の指示を。」
《しばらく任務はない。何かある場合は追って連絡する。それまで自由にしていろ。》
「はっ。」
通信はこれだけで終えた。
現在、形としてはレジアスの下となっているが本当にただそれだけである。ハジメに決まった階級はなく、複数の戸籍を作っていて、それぞれを任務や状況に合わせて使い分けている。レジアスのところでは平のように扱われているが、あくまでそれは表での話。ハジメが動くのはそれより上の命令である。
個人としても基本的に関わらない。互いにあまりよく思っていないからだ。
「ふう。さて、久しぶりの自由だな。」
ハジメは移動を開始した。この血生臭い光景の後始末はそれ専用の奴らが片付けるだろう。
外に出ると近くのトイレに行き、通常の時空管理局の制服に着替え、予定の船へと乗ったのだった。
ハジメの趣味は異世界探検。
用意された部屋で座り、近くの世界でまだ行ったことのない世界を発見した。
しばらく仕事がない。
ハジメはこの世界に行くことに決めた。
その世界こそが『魔法少女リリカルなのは』の最初の舞台。それも時期は原作開始直後である。
山口ハジメの物語が始まろうとしていた。