これはテロ屋に対して、国や政府がとる姿勢と全く同じ事である。
近い将来、国や政府自体がテロリスト・カルトと全く変わらない存在に成り果てる時代が必ず来る。
そのときには国民を守る盾はもう何もなくなっている。
武器はおろか、牙や爪だけはあるか、
それすらもないか、それだけである。
社会のつまはじき、不適合者と呼ばれていた者たちこそ、むしろ純粋であり、体制の支配にも侵されず、屈しなかった豪傑である。
~ Streak 051 ~
- 提督室 -
「――イスズ?」
「ああ。話は通してある。まずはそいつから"OK"をもらってきな」
「今もグラウンドで教習指導してるはずだから、そこで会えるわ」
「……わかった」
短く返答した赤毛の艦娘は一瞬、何か言いたげな表情を見せた後、あからさまにそれを飲み込んで踵を返す。
「...Hey, 手は抜くなよ、アン。それだけパーティーに出遅れることになるぜ?」
「……うっさい。言われなくてもわかってるよ。そっちこそ、いつものお気に入りの"オモチャ"の手入れでも念入りにして待ってなよ、嫌みなギルバート」
一室には、"ギルバート"と呼ばわれた男の短い笑い声が小さくこもり、"アン"は早々にドアを開けて出ていった。
「……そういえば、ウォースパイトがぼやいてたわよ」
「ア?」
「誰も艦名で呼んでくれなくなった、って……」
「……実際長いだろ、あいつの名前は。つーか、他の奴らが好き勝手に呼んでるのは別に俺のせいじゃ――」
「だから、皆があの子を呼ぶときの名前が、あなたが冗談半分で付けた名前なのよ」
「……」
「……オードリーって呼ばれて、もう自然と返事しちゃうようにもなったって言ってたわ……」
「……じゃあ何も問題ねえだろ」
「……アメリカとか海外じゃ、ニックネームって文化的にわりと普通らしいけど、海外艦の子たちをそれで呼ぶのはそういうことなの?」
「別に。ただ、長い名前のやつとかはとっさに言ってられねえときもあるからな。そういうときのためにも短ければ短いほどいいってだけさ」
「ふーん……」
「それに、忘れやすいとか覚えてられねえようなやつのときも便利だ」
「呆れた……。やっぱり、結局それなんじゃない……」
「仕方ねえだろ……。いい加減覚えてらンねえよ。今はもう100近いだろ……」
「……アトランタは何で"アン"なの?」
「それも別に、対して意味があるってわけでもないぜ?」
「言って。……何か気になるから」
男は、"出たよ……"といった風な表情をあらわにした。
今目の前にいる彼女がこうなると融通が効かない、ということは、彼の中ではもう散々思い知らされていることなのだ。
「Hum... 赤毛だったから、適当にそう呼んだだけだ」
「赤毛のって……あの?」
「へえ、さすがに日本でも有名なんだな」
HAHAHA! と多少わざとらしいようにも感じられる笑い声を男は上げる。
まるで、ネタばらしの直後に彼女が"さっきまでの事"に気付いて、それを話題にさせないようにでもするかのように……。
「……ん……さっき、アトランタが言ってた"嫌みなギルバート"って……」
「登場人物の一人、だな」
やはり予想はしていたのだろう。突っ込まれそうな態度などはおくびにも出さずに、すかさずと男は返した。
「なるほどね、そういう……。それで?どんな役なの?」
「…………さぁな。俺もよくは知らねえんだよ。作品自体はポピュラーだから、"うわべ"だけは知ってたってだけさ」
「……ふ~ん……」
「……」
「……ねえ」
「……なんだよ」
「……あれって、赤毛っていうかピンクブラウンだと思うんだけど……」
「……赤毛だろ。つーか、今さら言うなよ……」
ネタばらしして以降、ずっと唇を尖らせ気味なその秘書艦はなぜか釈然とせず、少々不機嫌なご様子だった。
「なんか強引な気がするけど……」
「……もういいだろ、それはよ。とりあえず、イスズがOKを出したら知らせてくれ。多分、3、4日はかかるだろうけどな」
「あら、意外に早いわね。わかったわ」
「...Huh...」
「?」
(ギルバート…………ギルバ、か……)
わずかに笑っているのか、それとも悲しげな想いの表れか。
どちらともなく、あるいはどちらとも取れそうな、そんな微妙な表情の男の顔を、理由を尋ねるでもなく秘書艦の彼女は静かに見つめていた。
◇
- グラウンド -
「――よし、それじゃ皆、休憩に入ってー」
「は~い……」
「……」
教習監督の号令の後に、力ない駆逐艦たちの返事がこだまするのを、アトランタは静かに見ていた。
「――ごめんなさい、待たせたわね」
「……別に。楽にしてたから」
「アトランタね。よろしく、五十鈴よ」
「ん……」
軽い握手が交わされる。
「なんか、"OK"もらえないと、出撃できないとか聞いたんだけど」
「また端的に話したわね……。まぁ遠からずなんだけど……」
「……マジ?」
「この鎮守府近海の、新敵性体については聞いてるわね?」
「ん……ギルが言ってたやつか」
「ギル……?」
「……"提督さん"からちゃんと聞いてるよ。あとその秘書艦さんからも」
「……そう。いいわ、それなら――」
「待って。話聞いただけで、まだ疑ってるんだけど……。それもマジなの……?」
「アメリカ艦なのに、意外に信じてないのね……」
「いや、ていうか……さすがにってところなんだけど……」
「……まぁ、実際のところ、日本艦だろうと海外艦だろうと、そういうリアクションを取る子たちが実はほとんどなんだけどね……」
「……」
「そういうこともあって、この鎮守府では、そのメンタル面の対策に今は万全を期す方針になったの」
「……メンタル面の対策?」
「半信半疑っていうか、何の先入観もないままっていうのは逆にすごく危険って事よ。今のそのままの心持ちで出撃されても、いきなり例の対象と遭遇したときに、驚いたりして、それが牽制になって初動を取られるってことも考えられるから。っていうか実際にそれは何度かあったし」
「……ウェ……」
「そういうわけで、事前情報の教育で、その手の気持ちの切り替えと……あとは扱う兵装に関しても、少し勝手が変わるわ。正確には使用する弾薬ね」
「……対、とか専用ってこと?」
「そういうこと! 他は……これは正直、貴女がどうなるかはわからないんだけど……」
「……?」
「もう一つ、あの人……提督ね。から、特別な兵装の担当に任命されることもあるわ」
(……担当? 任命……?)
「その兵装自体が本当に特殊なこともあって、それが与えられた場合は、もう艦隊戦とはまったくの別物になるからそれも一応合わせて覚えておいて。それから、ここではそれぞれその兵装の種別に、名称が付けられてるんだけど……まぁそれは追々ね……」
「……正直、全然想像がつかないんだけど……」
「……まぁ、それもまちまちっていうかケースバイケースだから、一概に一まとめで説明もできないのよね……」
「……例えば?」
「そうね……。普段は普通の犬の姿なんだけど、ヌンチャク……えっと、鎖で繋がった三叉の警棒?になったり、赤と青の二振りの喋る剣だったのが、突然ランプの精みたいな姿になったり、エレキギターだったりコウモリだったり女の人だったり、レオタード服だったのかサキュバスだったのか……」
「…………ご、ごめん……なんかもうその辺で……意味わかんなくて途中から入って来なかったし……。不用意に聞いて悪かったよ……」
「……いいえ、知ろうとすることは大事なことだから……」
「……」
「……ただ、ここでこれから見聞きすることになる、そういった不思議な物事は、理解するっていうより、ただただ受け入れるようにしていった方が確実に楽ね。下手に考えるより、いろいろと、ね……」
「……よく覚えておくよ……」
◇
「イスズは何かもらったの?」
「二挺のサブマシンガンをね。H&K MP5Kっていうモデルの」
「え……ただの普通のサブマシンガン?」
「ええ。撃ち出すのは特殊な弾丸だけどね」
(……なんか、いまいち、な……。特殊な弾丸って言われてもだし……)
―prrrr
「っ……ちょっと、ごめんなさいっ」
「あ、うん。どうぞ」
―p
「……はい、五十鈴です」
「……」
突然、五十鈴の携帯電話が鳴り出し、五十鈴はアトランタに断りを入れて、電話に応じる。そのときの五十鈴の声が若干上ずっていたのを、アトランタは何の気なしに感ずいていた。
「――え? ……あぁ……ええ、そうね。……ええ、わかったわ。…………了解よ。……うん、それじゃあ……」
「…………」
―…p
「……提督からだったわ」
「……ふーん……」
「まず先に、工廠に向かってくれって。そこから先は明石が案内してくれるそうだけど……。なんか見せたい物もあるからって」
「Turning around... ま、いいけど」
「ごめんなさいね。駆逐艦たちに最後、指示出してくるから、その後一緒に向かいましょうか。提督も後で見に来るとも言ってたからそのときにでも――」
「え、ギルバートも来んの?」
「……ギルバート……?」
「...Oops...」
◇
- 工廠 -
「――なるほど、そういうことね……」
「皆もそうなの?」
「どうかしら……五十鈴たち日本艦は多くても音数4文字の名前のほとんどだけど……ニックネームで呼ばれてる艦娘は…………いたような、いないような……?」
「音数……あたしは?」
「……言われてみれば貴女も4文字よね……」
「……意味わかんね……」
「……アトランタはその作品読んだことあるの?」
「……あぁ~……全部は知らないかな……。有名だからちょっとは知ってるけど。登場人物とかくらいは……」
「ふ~ん……」
「――あっ!! 待ってましたよ!」
他愛もない話をしながら工廠に足を運んでいた二人。入り口にて、今度は正真正銘のピンク髪の艦娘が二人を出迎える。