以上の6色は独自設定です。
ゴブリンの大群は南へ向け歩みを進めていた。どれ程の距離を進んだのかは彼らには分からないが、未だゴブリンの大国を発見できないことから歩みを止める訳にはいかないだろう。
「お、おい! あそこを見ろよ!」
一人のホブゴブリンが声を上げた。指差す方向に一同が視線を向けると、小さいながらも赤い全身に先の鋭い帽子の様な物を被った姿――レッドキャップが数人、何かをしていた。
距離があるため詳細までは視認できないが、同族を見つけられたのは心強い。レッドキャップはゴブリンの中でもトップクラスに強い存在。彼らこそゴブリンの大国を率いるリーダー核だろう。
やっと長きに渡る旅路に終点が見えてきた。張り詰めた緊張は弛緩し、思わず笑みが溢れ出してしまう。
「あれは……小屋か何かか?」
小さな建物……しかし扉は高く、不思議な作りをしていた。もしかしたらゴーレムが入るために背を高く設けているのかも知れない。
外に出ていたレッドキャップ達は小屋に入っていき、視線が見渡す範囲に動く存在は居ない。近づくにつれ不穏な気配が強くなっていくが、突然根城を襲われた恐怖に比べれば不安にすら成らない。
「――――!?」
突然殺意にも近い鋭い視線がゴブリン達に向けられた。それは一瞬であったが、凄まじい恐怖に打ち震えるゴブリンが何人も居た。
「伝説ノゴブリン王ノ眼光カ」
一人のゴブリンが漏らすように呟いた言葉に一同は顔を合わせ、噂通りの強さに高揚感すら抱いていた。恐らくは自分達を見定めているのだろう。
自らのテリトリーを守るように外周を覆う巨大な城壁は圧巻の一言で、この土地を支配するゴブリンの強大さがひしひしと伝わってくる。
しかし見渡す限り草原が広がっており、生活感が無い。ぽつんと真新しい小屋が隅に建てられている程度だった。
首を傾げつつ、大勢で押し寄せては迷惑だろうと集団で一番強い者――ホブゴブリンの彼がドアをノックし、叫んだ。
「申し訳ない! 我々は森に済むゴブリン一族! この度は住処を追われてしまい、逃げてきたところだ。何でもする! 取り敢えずは話がしたい!!」
……
…………
………………。
返事がない。どうしたものか、と互いに顔を合わせていると扉が少しだけ開いた。入って来いと言う意味だろうか。不穏な空気から未だに抜け出せないまま、扉を全開にし足を踏み入れた。
もぬけの殻だ。辺りを見渡すもゴブリンの気配は感じ取れず、緻密な装飾が施された全身鏡がぽつんと置かれた光景は異様と言わざるを得ない。
ごくりと唾を飲み込み、引き寄せられるように鏡へと近づくと何かがおかしいことに気づいた。いや、この土地を発見した時から普通など何一つとして無かったが、それでもおかしいことに変わりない。光を反射させるそれは誰がどう見ても鏡。なのに目の前に立つゴブリンの姿が映らないどころか、見たこともない通路が広がっていた。
鏡ではないのか、と不思議に思った彼は裏側を見たり持ち上げたりして確認をした。決して繋がっている訳ではない。しかし目の前の光景は、まるで別の場所を映し出している様だった。通路に掛けられた松明からは灯火が風に煽られ常に姿を変えている。鏡に描いた訳ではない。
疑問は尽きない中、ふと鏡に触れると吸い寄せられるように腕が吸収され彼――一人のゴブリンは鏡に先に吸い込まれてしまった。
鏡には先ほどと変わらぬ通路が映っているが、一点だけ違いを述べるとするならゴブリンが動いている所だ。
「コノ鏡、繋ガッテ居ルンジャナイカ?」
これが数分……いや、数秒前なら誰も信じないで笑い話と流されただろう。しかし目の前のゴブリンが鏡に入っていく姿を見てしまっては、何らかの魔法が付与された鏡としか思えず、この先にレッドキャップ達が居るのだろうと推測している。
考えていても結論は出ない。一人、また一人とゴブリン達は入っていき、気がつくと集団の全員が鏡に映し出されていた。
◆
プレアデスは交代でナザリック地表に建てられた小屋から侵入者を監視していた。だが帝国に出張している中、誰が侵入者の監視を行うかと言うとカルネ村へ進行しに来た王国民を滅ぼすときに召喚されたレッドキャップ達が適任だと抜擢されている。
元々ナザリックの住民ではないレッドキャップの序列は最下位に位置づけられ、万が一に死んだとしても問題のない存在。だが彼らとてナザリックの財産を文字通り溶かして召喚した魔物。有事の際には直ちにナザリック内へ連絡し、報告を待てと命じられている。
「レレレのレッド〜♪ キャップップ〜♪」
鼻歌交じりに地表の掃除に勤しむ彼――当然レッドキャップであるが――は小屋の中から見張っていれば良いと言われているが、何もせずじっとしていられないと率先して地表部分の掃除に勤しんでいる。掃除に精を出しすぎて監視が厳かになってはいけないため、レッドキャップ達が交代で監視と掃除を行うことにしている。
常に監視をし続けると集中力が欠けてしまうため、睡眠不要の指輪を持たない彼らは息抜きとして箒を手にしているのだ。決して業務を放棄しているわけではない。
ふと流れてくる風に獣の臭いを感じ取った。視線を凝らすとその先にはゴブリンの大群が近づいているではないか。向こうもこちらと同じく存在に気がついただろう。
慌てて周囲の仲間達に声を掛け、ナザリックに緊急事態を伝えに走った。
この時仕事中のレッドキャップ全員が報告に走る必要は無いのだが、そこまで詳細な指示を受けていない彼らの頭では考え及ばないのだ。対応マニュアルの不足はナザリックでの今後の課題だろう。
◆
「ふんっ! ふんっ!」
訓練前に筋肉を温める意味合いも込めて素振りを続ける彼は
四至宝が一つ
「ソコマデ!」
機械質な声。
彼が
「デハ、コレヨリ
「はい! 腕が鳴ります!」
「今日こそ俺の右腕で一撃必殺を食らわせたいですね!」
右腕が異常なまでに肥大化した彼は同じ
自動でPOPするアンデッド達は時間経過により蘇るため、ナザリック側にコストを掛けること無く経験値を貯めることが出来る。
「ウム? アノ胎児ハ“ヴィクティム”カ?」
ふよふよと、人間の赤子がよちよち歩きをする速度で飛んでいるのは第八階層守護者のヴィクティムだ。帝国にシャルティアを置いているため、今は第一から三階層までを代理として任されている。
ではヴィクティムが守っていた第八階層はと言うと
こちらに気が付いたヴィクティムが方向を変え、近づいてきた。
「
「コンニチハ“ヴィクティム”。
仮に文字として起こすのであれば非常に読みにくい会話として認識されただろう。しかし会話は違う。意味が頭の中に伝わってくるこの世界において、滑舌の悪さなど例外はあるだろうが理解できない言葉というのは存在しない。
「ヴィクティム様お疲れ様です!」
「「お疲れ様です!」」
リーダーを務めるシャースーリュー・シャシャを筆頭に、数人の
レベルアップ――成長により賢さの値が上昇した時、言語能力も発達するのか気になるところだ。
「
「今ハ私モ居ル。何カアレバ直グニ連絡シテ欲シイ」
「
ヴィクティムの戦闘力は低く、ナザリックの中では下から数えたほうが早いだろう。彼――ヴィクティムが“死ぬことで発動するスキル”によりナザリックの防衛を可能とする。コキュートスとて仲間が殺されるのを黙ってみているわけにはいかない。助けられるのであれば全力で救うのが仲間と言うものだ。
ふよふよと警備を再開したヴィクティム。何時もと変わらぬ光景に安堵するも束の間、慌てて走っているレッドキャップを発見した。
ヴィクティムが方向転換のため弧を描くように半周し終えた頃にはレッドキャップ達が自分の元へ到着した後だった。
「ヴィクティム様! 大至急お伝えしたい事が御座います!」
「
ヴィクティムが喋り終えた頃に、彼らは階層守護者に対しての敬礼が足りないことに気づき慌てて片膝を付き頭を垂れた。
「はっ! 現在、ゴブリンの大群がナザリックへ接近中です! 武器を持たないこと、怪我を負うものが多数居たことから、何らかの敵に襲われ逃げてきたのだと思われます!」
ゴブリン程度ならレッドキャップに任せれば苦もなく倒せる。だが問題はそこではない。悪意を持った侵入者であれば答えは一つだが、救いを求めにナザリックへ縋ってきた者ならば話くらいは聞くべきだ。
話を聞いたうえで侵入者には警告を、迷い込んだ者には帰り道を与えてあげるのが門番としての本来の役割。レッドキャップはそこまで説明を聞いていないのだろう。彼らの直轄の上司は――とヴィクティムが考える中、複数の……それこそ数えるのが馬鹿らしくなるくらい大勢の足音が通路の向こうから響いてきた。
「バ、化物ダアアアアアアアアアアア!」
「ココモ、白服ノ連中ニ支配サレテイルノカアアアアアアア!」
「オカサアアアアアアン!!」
ゴブリン達はヴィクティムの姿を見るや否や絶叫を上げ、中には白目をむいて倒れるゴブリンを支えている姿もあった。
「落ち着かんかお前達! 神の使いの御前だぞ!!」
同族のレッドキャップに叱咤され、急速に静けさを取り戻した。冷静に観察をすると自分達を襲い掛かった無機質な化物とは違い、胎児の姿をした存在は神々しさすら感じられ、レッドキャップを従えることから上位者――神の使いもさながら嘘ではない。いや、この者こそ神話に謳われる存在だろう。
「
「実は――――」
ホブゴブリンから聞いた話を纏めるのなら、南に位置するゴブリンの大国を目指していたらレッドキャップを見つけたため、ここが大国だと肝違いをして来たという。
ヴィクティムには最早彼らへの殺意は消失し、むしろ哀れみすら抱いている。それは異形種だからと理不尽な理由で虐られてきた至高の御方々の話を聞いているからこその感想だ。
「
ナザリックの周辺は知識として記憶に収めているが、聞いたことのない情報だ。彼らに恩を売っておくことはナザリックとしても悪くはない。少しでも手助けを出来ればと思い、周辺知識により詳しい
一本の糸のようなものが繋がった感覚と共に、頭の中に声が広がっていく。
『もしもーし! ヴィクティム? どうしたの?』
第六階層に居るのだから直接転移したほうが早そうに思えるが、転移用の指輪を装備できないヴィクティムにはかえって時間のかかってしまうやり方である。
「
『うーん……』
ゴブリンから聞いた詳細を受け、王国で血塗れと呼ばれた少女が率いるゴブリンが滞在する村に行き当たった。
『もしかしたらカルネ村のことかも』
「
アインズ様の庇護下の村だ。確かに亜人種のゴブリンにとっても、同じゴブリンの済む村であれば安全だろう。
『良いって良いって、ゴブリン達が押し寄せるならルプーに連絡しておくね。彼女、ああ見えて誠実だから悪いようにはならないと思うよ』
じゃあねー、と明るい言葉で
「
「畏まりました!」
先ほど掃除をしていたレッドキャップが率先して名乗り出た。元はと言えば自分が先に発見したのだから、最後まで面倒を見ようと考えたのだ。
「
別のレッドキャップに抱かれながらゴブリン達を見送ったヴィクティムであった。
翌日、大勢のゴブリンが押し寄せてんてこ舞いになるエンリだがそれはまた別のお話。