理想を求める者達も異世界から来るそうですよ?   作:幻想のtidus

10 / 29
恩恵

 白夜の地平は消え、元の白夜叉の私室に世界が変わる。

 重症の秋世は奥の部屋に移され、サウザンドアイズが所有する治療用の恩恵を総動員して処置に取り掛かっていた。

 

「秋世さん……大丈夫でしょうか……」

 

 黒ウサギは心配していた。彼とは会って一日とはいえ、同じコミュニティの仲間だ。彼の傷は下手をしなくても死に至りかねない。

 

「案ずるな黒ウサギ、彼奴の傷はサウザンドアイズ……いや、私が責任を持って完治させる。──私との決闘に引き分けた者に死なれては困るからの」

 

 白夜叉は手を一回叩き、気を取り直した。

 

「さて、グリフォンの試練をクリアしたおんしら五人にも主催者として褒美をやらねばの」

 

「あ、あの白夜叉様。そのことなのですが……此処には元々ギフトの鑑定を依頼しに来たのです」

 

 黒ウサギがそう言うと白夜叉は本心から困った顔をし、

 

「ギフトの鑑定か?私には専門外もいいところなのだがな」

 

 そう言った。

 こと戦いに於いて無類の強さを誇る彼女でも、苦手なことが幾つかある様だ。

 すると、白夜叉は他の五人を見透かすかのような瞳で見つめた。

 

「うむ、あの小僧は言わずもがなだが、おんしらも破格の恩恵を持っておるのは分かるが……なんとも要領が得んのう。おんしら、自分の恩恵をどれぐらい把握しておる?」

 

「企業秘密」

 

「右に同じ」

 

「以下同文」

 

「知らんッ!!!」

 

「罪深いのは確かです」

 

 十六夜達三人は茶化しながら答え、龍悠は元々考えたことさえなく、夏海は罪深いことがわかっていると答える。

 

「うおおおい!いやまあ、確かにさっきまで対戦相手であった者にギフトを教えるは、気持ち的に複雑な所もあろうが、それでは話が進まんだろう!」

 

「別に鑑定なんていらねえよ。人に値札貼られるのは趣味じゃない」

 

「私は罪深いのはわかってますので別に……」

 

「そもそも考えたことねえわ」

 

 ハッキリと拒絶するような声音の十六夜と、同意するように頷く飛鳥と耀。そもそも考える必要がないと夏海と龍悠の二人。

 

「なんにせよ主催者として、星霊のはしくれとして、試練をクリアしたおんしらには恩恵を与えねばならん。ちょいと贅沢な代物だが、コミュニティ復興の前祝いとしては丁度良かろう」

 

 白夜叉が柏手を打つ。すると五人の眼前に光り輝く五枚のカードが現れる。

 

 コバルトブルーのカードに逆廻 十六夜。

 ギフトネーム・“正体不明(コード・アンノウン)

 “ホゥ■■タ■・■パス■■ク”

 

 ワインレッドのカードに久遠 飛鳥。

 ギフトネーム・“威光(いこう)

 

 パールエメラルドのカードに春日部 耀。

 ギフトネーム・“生命の目録(ゲノム・ツリー)” “ノーフォーマー”

 

 シルバーグレイのカードに原摘 夏海。

 ギフトネーム・“煉獄の七冠(セブン・シンズ)” “原初の罪(オリジナル・シン)

 

 クリムゾンのカードに竜童 龍悠。

 ギフトネーム・“名無しの龍(ドラコーン)

 

 それぞれの名が記されたカードを受け取る。

 黒ウサギは興奮したような顔で五人のカードを覗きこんだ。

 

「ギフトカード!」

 

「お中元?」

 

「お歳暮?」

 

「お年玉?」

 

「ポイントカードか?」

 

「免罪符?」

 

「ち、違います!というかなんで皆さん息ピッタリなんですか!?このギフトカードは顕現しているギフトを収納できる超高価なカードですよ!耀さんの“生命の目録”だって収納可能で、それも好きな時に顕現できるのですよ!」

 

「つまり、素敵アイテムだな!」

 

「だからなんで適当に聞き流すんですか!あーもうそうです、超素敵アイテムなんです!」

 

 黒ウサギに叱られながらも五人は茶化しながらもそれぞれのカードを物珍しそうにみつめる。

 

「ふぅん……もしかして水樹って奴も収納できるのか?」

 

 何気なく十六夜は水樹にカードを向ける。すると水樹は光の粒子となってカードに呑み込まれた。そしてギフトの欄に“水樹”の名前が並んでいる。

 

「おお?これ面白いな。もしかしてこのまま水を出せるのか?」

 

「出せるとも。試すか?」

 

「だ、駄目です!水の無駄遣い反対!」

 

 つまらなそうに舌打ちをする十六夜。

 白夜叉はそんな五人を笑いながら見つめた。

 

「そのギフトカードは、正式名称を“ラプラスの紙片”、即ち全知の一端だ。そこに刻まれるギフトネームとはおんしらの魂と繋がった恩恵の名称。鑑定は出来ずともそれを見れば大体のギフトの正体を知ることができるだろう」

 

「へえ?じゃあ俺のはレアケースってわけか……それに一つ文字化け起こしてるぞ」

 

 何?と白夜叉は十六夜のギフトカードを覗き込む。

 

 そこに書かれているのは正体不明の四文字と文字化けを起こしている恩恵だった。

 

「……いや、そんな馬鹿な」

 

 白夜叉は十六夜のギフトカードを手に取り驚愕していた。

 

「正体不明だと……?いいやあり得ん。全知であるラプラスの紙片がエラーを起こすなど……」

 

 白夜叉の疑念は尽きない。そして、思考を文字化けを起こしている恩恵に目を向ける。

 

(それにこの恩恵……ラプラスが観測しているのに文字化け……いや、抗っているのか?)

 

 この箱庭に於いてラプラスの紙片に抗う恩恵。白夜叉の脳裏にある魔王の姿が浮かぶ。

 

 かつて、箱庭の黎明期に誕生した悪の御旗を背負い、駆け抜けた魔王の代名詞たる魔王。

 

(ギフトを無効化……そして相殺しようとしているのか!?)

 

 浮上してきた可能性を、苦笑と共に切り捨てる。

 

 この箱庭では無効化のギフトなど珍しくもない。だが、それは単一の能力に特化した武装に限られた話だ。

 十六夜のような強大な奇跡を身に宿す者が、奇跡を打ち消す恩恵を宿すなど大きく矛盾している。

 それならば“正体不明”については“ラプラスの紙片”に問題があるという結論の方が納得しやすい。

 だが、もう一つの恩恵が白夜叉の予想通りならば、文字化けしている恩恵は元々“拝火教”に属する恩恵の筈なのだ。

 それも全能を超えるとされる恩恵の筈だが、恐らくはレプリカと白夜叉は結論付ける。

 

「何にせよ、鑑定は出来なかったってことだろ。俺的にはその方がありがたい」

 

 すると黒ウサギの声が響く。

 見れば龍悠と夏海のギフトカードを見ていた。

 

「“名無しの龍”……それに“煉獄の七冠”そして“原初の罪”……!龍悠さん、夏海さん!どうしてこんな高位の恩恵を!?」

 

 黒ウサギが驚くのは無理もなかった。

 龍悠の恩恵“名無しの龍”は字面通り龍種の恩恵。然も蛇神の時の事を考えれば龍の純血の恩恵と考えられる。

 だが、彼の霊格は人間だ。なのに龍の霊格がある。この矛盾を解かねば龍悠の恩恵のルーツを知る事は不可能だろう。

 

 そして夏海。

 夏海の恩恵は恐らくは七つの大罪、そして原初の罪とくれば原罪と捉える事が出来るだろう。

 思えば彼女の霊格も可笑しいのだ。

 人間かと思えば悪魔。悪魔かと思えばまた別の霊格を発するのだ。

 まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 それに切り替わる霊格は白夜叉も感じていたし、既にその霊格が何なのかを知っている。

 だが、彼女に伝えて良いものかと白夜叉は迷う。

 何せ、かの七天大聖に並ぶ魔王連盟を組織したの七体の魔王。

 かつて旧約聖書群に歯向い数多の神々に啖呵を切った者たちなのだ。

 夏海は罪に対して、かなり救済に拘っているがこれが原因なのではと白夜叉は考えてしまう。

 

 

 故にそれに気づかぬまま黒ウサギは興奮気味にはしゃぎ回る。

 今日一日でこれほどの同志が加入してくれたおかげで、ノーネーム復興への第一歩を大きく踏み出し事が出来たのだ。

 

 だが、そんな黒ウサギの質問に二人は、

 

「知らん」

 

「あまり、見ていたくはありません……その恩恵」

 

 一人は言い切り、一人ははぐらかす。

 

 そして、秋世を除いたノーネームのメンバーは暖簾の下げられた店前に移動した。

 

「まあ、あの小僧の事は任せろ。しっかり完治させて其方に向かわせよう」

 

「本当にありがとうございます白夜叉様」

 

 黒ウサギは心の底から感謝する。

 今までノーネームが存続できたのは白夜叉の支援が大きく影響している。

 彼女が居なければノーネームは既に滅んでいただろう。

 そして耀、飛鳥、夏海の三人は一礼した。

「今日はありがとう。また遊んでくれると嬉しい」

 

「あら、駄目よ春日部さん。次に挑戦するときは対等の条件で挑むのだもの」

 

「そうですね。私も今度は対等な挑戦を受けたいものです」

 

「ああ、そうだな。確かにこのままじゃ格好が付かねえからな。次は渾身の舞台で挑むぜ」

 

「俺も同意見だ」

 

 問題児達は未だに東側最強にいつかは挑みたいらしい。

 

「よかろう。楽しみにしておけ……ところでおんしらは自分たちのコミュニティの現状をどこまで理解しているのか?」

 

「ああ、名前とか旗の話か?それなら聞いたぜ」

 

「それを取り戻す為に魔王と戦わねばならんこともか?」

 

「聞いてるわよ」

 

「……ではおんしらは全てを承知の上で黒ウサギのコミュニティに加入するのだな?」

 

 黒ウサギはドキリとした顔で視線をそらす。

 もし彼らに不義理な真似をしていれば、自分は友人を失っていたかもしれない。

 

「そうよ。打倒魔王なんてカッコいいじゃない」

 

「カッコいい、で済む話ではないのだがの……全く、若さゆえのものなのか。まあ、魔王がどういうものかはコミュニティに帰ればわかるだろ。それでも魔王と戦う事を望むなら……そこの娘二人。おんしらは確実に死ぬぞ」

 

 白夜叉の予言めいた言葉に飛鳥と耀は言い返そうと言葉を探すが、魔王としての白夜叉の助言は、物を言わせぬ威圧感があった。

 

「大丈夫ですよ」

 

 それに否を告げるのは罪に塗れた少女だった。

 

「飛鳥さんや耀さんは大丈夫ですよ。二人は貴女が思うよりずっと強い。私なんかよりずっっっと強い……自慢の友人です。だから魔王になんて私達は負けません!寧ろ魔王を救済します!」

 

「魔王を救済……できるかはわかんねえけど俺のやる事は最初から決まってる───俺はコミュニティを死ぬ気で守る、ただそれだけだ。魔王だとかそんなの関係ねえ」

 

 傲岸不遜に夏海と龍悠は言い放つ。

 

「──ふふハハハハ、そうか……ならばギフトゲームに参加し力を付け、証明してみせろ。その言葉が真実ならばな」

 

「……肝に銘じておくわ。次は貴女の本気のゲームに挑みに行くから、覚悟しておきなさい」

 

「望むところだ。私は三三四五外門に本拠を構えておる。いつでも遊びに来い。……ただし、黒ウサギをチップに賭けてな!!」

 

「嫌です!」

 

 黒ウサギは即答で白夜叉の言葉を斬り捨てる。

 

「つれない事を言うなよぅ。私のコミュニティに所属すれば生涯遊んで暮らせると保証するぞ?三食首輪付きの個室も用意するし」

 

「ソレ明らかにペット扱いですから!」

 

 黒ウサギは赤くなり、白夜叉は笑う。

 こうして彼はサウザンドアイズを後にした。

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

「………ん」

 

「ふむ、一日二日は起きんと思ったが存外傷の治りが早いな」

 

 秋世は黒ウサギ達がサウザンドアイズの支店を発ってから約二時間後に目を覚ましたのだ。

 仮にも上半身と下半身を切り離されたのだ。

 人間として、どう考えても異常な治癒力が浮き彫りになる。

 

「……奴らは帰ったのか」

 

「ああ、帰ったぞ。──それと小僧、おんしに聞きたい」

 

「……何だ?」

 

「おんしが蘇らせたい恩人とやらを本当に蘇らせたいのか?」

 

 白夜叉が聞きたいのはそこだった。

 確かに白夜叉は試練を通して秋世の心情には共感できたし、応援したいと思った。然し、その反面で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 秋世が言う恩人が誇りを尽くして死んだなら、それを蘇らせるとなどその人に対する冒涜だろう。

 

「……当たり前だ。俺が彼奴に殺されるとしても絶対にやり遂げる」

 

「たとえ、その道が険しくてもか?」

 

 箱庭には確かに死んだ者を蘇らせる御業は存在する。

 だが、この場合は秋世が死んだ者の死を認識、知覚して観測してしまっている。それ故箱庭には召喚できない。

 それ以外でも死んだ事実を改変する方法があるが、これは秋世自身が消えてしまう。

 

「……決まっている。彼女を英雄(ヒーロー)にする。それは彼女の夢だし、俺の夢だ。それを叶える為なら相手が誰であろうと牙を剥くぞ」

 

「……ふむ」

 

 その覚悟は素直に驚嘆に値するが、それはあまりに狂気的だった。

 愛、そして依存。

 

「……まあ良い。おんしは私との戦いで引き分けたのだ。最大限の協力は惜しまん───そしてコレは選別だ」

 

 すると秋世の目の前に一枚のギフトカードが現れる。

 

 リッチブラックのカードに富久音 秋世。

 ギフトネーム・“終世の闇” “カタストロフェ” “外法”

 

 秋世の恩恵を見た時、白夜叉が一瞬だけ険しい表情をしたが、すぐに表情を戻した。

 

「……どうかしたか?」

 

「……いや、何でもないが」

 

「……そうか」

 

 だが、白夜叉は内心驚いた。

 まさか、箱庭から消えた()()()()()()()()()()()()が、まだいた事に。

 

「……おんしが蘇らせたい恩人とはどんな奴なのだ?」

 

 白夜叉は秋世に問う。

 

「……どんな奴か……そうだな」

 

 秋世はまるでそれを誉れかの様に答える。

 

「……夢がちな女だったよ。英雄に憧れ、光の正道を歩み続け、闇の中にいた俺を救い出してくれた最高の女だ……世界で一番慈愛に満ちた英雄だった。そんな奴だからこそ、俺は負けを認めたんだ」

 

 だからこそ蘇らせたい、と言う。

 

 その答えに白夜叉は苦虫を噛み潰した様な顔をする。

 その人物が白夜叉の想像通りなら()()()()()()()()()()()()()()可能性がある。

 そうなれば箱庭の存続が危うい。

 

 すると秋世は立ち上がる。

 

「何処に行くつもりだ?」

 

「……何処ってノーネームに行くんだが」

 

「傷は完治している筈がないだろう!」

 

 白夜叉は慌てて止めに入るが秋世の体を見た時、目を見張った。

 

(傷が治っているだと?)

 

 秋世の体に刻まれた傷は重症などと言う範疇に収まらない程の傷だった筈なのだ。体は焼かれ、両断され、更に被爆している。

 

「……治ったんだから、俺は戻るぞ」

 

「場所……わかるのか?」

 

「……適当に歩く」

 

 白夜叉は呆れた様にため息を吐く。

 

「ならば一人案内を付けるが……小僧」

 

「……何だ?」

 

「……ノーネームを頼んだ」

 

 白夜叉の頼みに彼は何も答えない。

 それはどういう意図があるのかはわからない。

 そして彼は暖簾を潜り、サウザンドアイズを後にした。

 

 

 余談だが、秋世の案内についた店員だが、彼がフラフラと何処かに行ってしまい苦労したのはまた別の話だ。

 

 

 ☆★☆★☆

 

 白夜叉は誰も居ない私室で一人苦悩する。

 

 秋世の願いが叶わなければ目先の問題を先延ばしにできる。

 だが、そうしてしまえばあの少年は数多の神群に牙を剥きかねない。

 

「はあ……根源候補者か……雲雀の奴も厄介なモノを残してよって──のお、金糸雀」

 

 今は亡き詩人に悲哀に満ちた言の葉を吐いたのだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。