理想を求める者達も異世界から来るそうですよ?   作:幻想のtidus

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名無しの準備

 秋世はサウザンドアイズの支店を出て何とかノーネームの本拠に店員と共に辿り着いていた。

 

「ここが“ノーネーム”ですよ」

 

 店員は額に汗を浮かべて、相変わらず顰め面をしていた。

 どうやら、白夜叉の命令とはいえ、ノーネームに所属する秋世の案内などあまりしたくなかった様だ。

 

「……何故、俺に付いて来たんだ? 俺は別にいいと言った筈だが」

 

「そんな事言ったって貴方、フラフラどっか行くんじゃない! 見てらんないわよ! コッチだって仕事なんだから最後までやりますよ! さあ、さっさと中入って、引き渡しますから!」

 

 店員は憤慨しながらノーネームの敷地内を進んでいく。

 誤解されやすいが彼女は仕事熱心でノーネームに対して多少良い印象を持っていないだけで、結構良い人なのでは?と考える秋世だった。

 

 ノーネームの敷地に入った時。

 黒ウサギ達のコミュニティを襲った魔王が残した凄惨な爪痕を目の当たりにした。

 まるで自然に何百年も経過し風化したかの様な街並み。白地の街路は砂に埋もれ、木々や建築物は腐り倒れかけている。

 そして、その所為か生物の気配は微塵も感じなかった。

 どう考えても数百年は経過しているだろう光景だった。

 

「……何時見ても酷いですね」

 

「……アンタは此処に来たことがあるのか?」

 

「ええ、白夜叉様の使いで何度か。それにしてもこれがたった三年前の被害だなんて……こんなことできるのは最強種位ですよ」

 

「……これがたった三年だと?」

 

 それは可笑しい。

 これはどう見ても何百年とかけて自然になったかの様な状態だ。

 他人事の様だが、黒ウサギ達の“ノーネーム”に秋世は同情した。

 前の世界でもこんな事しでかす事が可能な人物、あの()()()()()()が頭に思い浮かべる秋世。

 

(……思い出すだけで腹立たしい……!)

 

 怒気と共に溢れ出す、穢れを伴う殺気が辺りに充満するが、

 それを突如敷地内に響く二つの爆音がそれを搔き消した。

 

「……案内はここまででいい。後は音の方に進む」

 

「いえ、貴方をきっちり送り届けます。仕事なので」

 

 どうやら店員は最後の最後まで仕事を全うせねば気が済まないらしい。

 

 二人は爆心地へと向かっていく。

 

 ☆★☆★☆

 

 

 現在、ノーネームの女性陣は大浴場で湯に浸かっていた。

 

「本当に長い一日でした。まさか新しい同士を呼ぶのはここまで大変だとは」

 

「あら、それは私達に対する当てつけかしら?」

 

「め、滅相もございません!」

 

 黒ウサギは慌てて飛鳥に弁明する。

 他の三人は───

 

「あの〜飛鳥さん、耀さん?……少し離れてもらっても……」

 

「「ダメ」」

 

 夏海を左右から飛鳥と耀が離さないように腕を掴んでいるのだ。

 

「夏海さんを含めて女子同士で話すんだから……空気を読みなさい」

 

「うん、夏海は巻いてるタオルをとるといい」

 

「そうでございますよ! ずっとずっと待ち望んでいた女の子同士、私は皆さんに興味深々ですございます♪」

 

 三人は夏海を交えたガールズトークに興じたいらしい。

 夏海も仕方ない、と胸を貸そうとしたその時だった──

 

「えい」

 

 突如自身が巻いていたタオルが消えた。

 否、剥がされたのだ。

 やったのが誰か?──そんなのはわかっている。

 

 右手にいる少女、春日部耀だ。

 彼女がやった事は単純だ。

 夏海が気を抜いた瞬間にチーターから貰った俊敏さで夏海のタオルを掴み、一息で引く。

 たったそれだけの動作で彼女は夏海からタオルを剥ぎ取ったのだ。

 

「なあ!? 耀さん、何をするんですか!?」

 

「ここは女子しかいないし、別に恥ずかしいことあるの?」

 

「そうよ。さあ観念しなさい!」

 

「黒ウサギもお手伝いしますよ!」

 

 問題児二人とそれに同調した黒ウサギに観念したのか夏海はおとなしく湯に浸かるが、三人の視線はある一点を凝視していた。

 

 

「……大きいわね」

 

「……大きいね」

 

「……大きいですね」

 

 夏海にたわわに実ったボリュームのある胸。

 普段はダボついた修道服のせいで分かりづらかったが、絶妙なまでのボディラインである。

 

「あまり見ないで下さい……」

 

 夏海の恥ずかしいそうに頬を赤らめて言った。

 三人は不覚にも夏海に見惚れ、心臓の音が大きくなっていた。

 

「ま、まあ御三人とも明日のギフトゲームでは存分に力を発揮しちゃって下さい! ガルドごときならきっと勝てますよ!」

 

 黒ウサギは無理矢理、話を変えた。

 

「勿論よ。あんな外道に負けるなんてありえないわ」

 

「うん、負けない」

 

 飛鳥と耀は元より負けるつもりなどない。

 

「当たり前です。彼には相応しい救いを与えねばなりません」

 

 夏海は最初からガルドを救うつもりでいる。

 

「それに………」

 

 夏海は一拍開けてこう言った。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ここで黒ウサギ達は首をかしげた。

 箱庭に来る際に飛鳥達は前の世界での全てを捨てて箱庭に来いという文句によって此処、箱庭に来たのだ。

 然し、夏海は友達を今なお離さないと言っている。

 

 黒ウサギは夏海はただ──友達との思いは常に私と共ににある、と言いたかったのだと結論付ける。

 だが、飛鳥と耀は言い知れぬナニカをその身で感じた。

 今、この言葉が意味している()()()()()を彼女達は知らない。

 

 

 ☆★☆★☆

 

「おい! 早く逃げるぞッ!!!」

 

「こんなの聞いてねぇぞ! これじゃあ龍種と変わらねえじゃねえか!!」

 

「くそッ! ダリルの奴がやられたッ!!」

 

 ノーネームの別館付近で絶叫が木霊する。

 彼らはフォレス・ガロのメンバーだ。

 此処に来た理由は単純だ。ノーネームに在籍する子供を攫いに来たのだ。

 

 本来、この役は傘下のコミュニティの者達が請け負っていたのだが、今回のガルドは用心深く二手に分かれ子供を攫いに行かせたのだ。

 

 片方は先の爆音を聞く限り、見つかったのだろうが問題はなかった。

 此方は一人外を出歩いていた狐耳の少女を捕らえることに成功したので問題はなかった……いや、問題はなかったが障害が存在したのだ。

 

 確かにガルドの目論見通り、狐耳の少女を捕らえ、後は本拠に運ぶだけの簡単な仕事の筈が龍の逆鱗に触れてしまったのだ。

 

「■■■■───ッ!!!」

 

 別館付近の森に星をも震わす咆哮が響き渡る。

 大地は揺れ、木々は投げ払われ、これは常識を逸脱した破壊の嵐が此処に具現化していた。

 

 だが、これ程の惨状を前にしても目の前の少年の本質は()()()()()()

 他者の撃滅など願った存在ではないのだ。

 なぜなら、彼の本質は守ること──大切な存在、守るべき人を守り抜くことのみなのだ。

 

 故に、この現状は彼の望んだ事ではない。

 

「今が黒ウサギとの約束の第一歩だよなーーッ!!!」

 

 黒ウサギとの約束──それはコミュニティの仲間を守る事……

 それこそ龍悠がやり遂げるべく使命だと彼は猛威を振るう。

 

 獣の一団は天災の具現を前に逃げ惑う。

 巻き込まれた者達は為す術もなく、地に捩じ伏せられる。

 

「クソガァァァッ!!舐めやがって!」

 

「ジュード!やめろッ!!」

 

 ジュードと呼ばれる人狼が龍悠に向かって突貫する。

 それを龍悠は右拳による正拳突きが大気を唸らせ人狼に迫る。

 

 人狼はそれを決死の覚悟で正拳を全力で逸らそうと試みる。

 人狼……ジュードの霊格は本来、ガルドなど到底及ばないほど高位のモノだ。彼のルーツを辿れば北欧神群の者なのだ。

 北欧の人狼とは元来、ベルセルクなどの英雄に起源を持つ。

 オーディンより神通力を賜った経歴を持つ英雄の功績を多少なりとも持っている。

 彼は自らの恩恵──忘我の恩恵を用いて膂力の底上げを行い、本能の赴くままに力を込める。

 そして肉の皮を巻き込まれ、抉られたが何とか逸らすことに成功し、反撃の掌底が龍悠の顎を直撃し、脳を揺らす。

 龍悠の暴力の嵐が一瞬弱まったのを人狼は見逃さない。

 本能に身を任せ、暴力を行使する。

 乱打、乱打……拳で巻き起こす嵐がたった一人の少年を殺害する為に行使される。

 ここで漸く体格差が機能し始めた。

 龍悠の体格は年相応の11〜12歳の少年のそれだ。対して人狼の体はガルドと同等の体格だ。

 接近戦になれば如何に龍悠が龍の純血に近かろうと人間であり、少年なのだ。

 急所が変わる訳でも、急激に体の組織や構造が変わっている訳ではない。

 ようは龍悠の射程の問題なのだ子供と大人の射程は歴然だという事など稚児でも判る。

 それ故に龍悠は直接人狼を沈める為には眼前に飛び上がり、殴り飛ばすか、一点に凝縮した一撃を放つ一撃が必要なのだ。

 勿論、龍悠の一撃の余波でジュードは簡単に負けるだろう。

 だが()()()()()()()()()()()

 下手に拳を振るえば、人狼の背後にいる狐耳の少女が吹き飛んでしまう。

 龍悠の一撃はかなり抑制されていた。

 

 好機を逃さぬ人狼の乱打が現在、宙を無様に舞う龍を捉える。

 

「おいおい。ジュードの奴、勝っちまうんじゃねえか!?」

 

「やっちまえ!」

 

 逃げ惑っていた獣人達は人狼の善戦に余裕を取り戻していた。

 そうだ相手は所詮名無しなのだ、と心に言い聞かせ、目の前の光景に心を躍らせる。

 

 狐耳の少女──リリはそんな光景を見て、涙を流し、自責の念に駆られていく。

 自分の所為で、ごめんなさい、ごめんなさい、私は大丈夫だから、早く逃げてと心の中で叫ぶが、その思いは届かない。

 

「ウォォォォォオオオオッ!!!」

 

 人狼の咆哮が響く。

 それは正に勝利の確信だった。

 人狼の一撃は心臓目掛けて貫手が放たれる。

 

 獣人達の勝利を確信した雄叫びが上がる。

 

 

 

 

「■■■■■■───ッ!!!」

 

 

 

 だが、龍の怒号が甘い理想ごと掻き消した。

 怒号は大気を震わせ、ジュードの足場である地上を彼は事もあろうに怒号で破砕する。

 ジュードは破砕した足場に足を取られ態勢を崩してしまった。

 そこに追い討ちをかける様に龍悠は空中で一回転。態勢を無理矢理修正し、踵落としを放つ。

 

 必中の一撃を前に人狼は両腕で防御しようと頭上で腕を交差し、防御する。

 然し、それを嘲笑うかの様に龍の一撃は人狼の腕を玉砕する。

 だが、彼自身の一撃は外したが、さらなる暴威が吹き荒れる。

 踵落としの余波であるダウンバーストに酷似した暴風が人狼を的確に狙い撃つ。

 龍悠は最初からコレを狙っていたのだ。

 ただ拳を振るえば四方八方に暴力が撒き散らされる。

 故に彼は真下に余波が行く様にしたのだ。

 

 あまりの余波にジュードはまるで、超重力の網にでも引っかかった様に地面に叩きのめされた。

 

 何より印象に残ったのが……

 

「無傷……だと……!?」

 

「嘘だろ……!

 ジュードがあんなに殴って傷ついてたろうが!?」

 

 彼の体の傷が消えているのだ。

 戦闘に於いて、最も他者が絶望する事……それは攻撃が効かないや当たらないなどといった事ではない。

 それは効いているのに意味がない事。

 事実、彼らの目の前に広がっている光景がそれに当たる。

 

「まだ、やんのか?」

 

 龍悠はジュードに一瞥し、残りの獣人達に言い放つ。

 この中で明らかに実力者である人狼を倒した今、龍悠を止められる者などフォレス・ガロには存在しない。

 

 獣人達は慌ててリリを手放し、脱兎の如くノーネームの敷地を後にした。

 

 龍悠はリリを拘束する猿轡と鎖を引きちぎると──

 

「大丈夫!? 怪我はない!?」

 

 矢継ぎ早に安否を、怪我の有無を聞いてきた。

 

「怪我は大丈夫だよ。そっちは?」

 

「あ、大丈夫です。えっと……」

 

「龍悠だよ。狐耳の」

 

「リリです。龍悠君」

 

 リリと龍悠はさっきまでの出来事が嘘の様に和んでいる。

 

「そうか……リリ、お前が無事でよかったよ」

 

 龍悠はリリの手を掴み、微笑みんだ。

 

「いやあ〜本当に良かったよ!」

 

 ブンブン、とリリの手を振る。

 

「え?え……あの……」

 

 リリは龍悠の変貌に驚いて上手く言葉が紡げない。

 

「まあ、そんなこんなで今回は一件落着? みたいな感じ? じゃあ本拠まで行くぞ、リリ」

 

 すると龍悠はリリを抱き抱え、本拠へと駆け込んで行った。

 然も第二宇宙速度で。もう一度言う、第二宇宙速度で。

 

「キャアアアアーーーー!?」

 

 リリの絶叫が木霊する。

 だが、それは何処か暖かいナニカを感じさせていた。

 

 

 ☆★☆★☆

 

 ──ノーネーム本拠内

 

 店員は秋世をジンの元まで連れて行った事で役目を果たし、サウザンドアイズへと帰って行った。

 

「……然し、大きく出たものだ……魔王を倒す為のコミュニティとは……」

 

 秋世もコレには呆れてモノも言えなかった。

 先程、秋世は元魔王の白夜叉にボロボロになるまで叩きのめされたばかりだったのだから無理もない。

 

 然し──

 

「……まあ悪くはないだろうな」

 

 妥当な方針だろうと、肯定もする。

 

「どこが良いんですか!?

 これではコミュニティを滅亡に追い込む様なモノだ!

 御二人はあの惨劇の爪痕を見たでしょう!?」

 

 ジンは内心、気が気じゃなかった。

 もし、目の前の二人がコミュニティを破滅に追い込む様なら、追い出さねばならなかった。

 

「ああ、見たぜ。だからこそ、これはコミュニティ発展に必要不可欠な作戦だ。なあ秋世」

 

「お前と同じ意見なのは遺憾だが、認めざるを得ないだろう……ジン、貴様のそれは机上の空論だ」

 

 誠に遺憾だ、と何処か不快な様子の秋世。

 

「……机上の空論……?」

 

「ああそうだぜ御チビ。お前の考えじゃどうやったってコミュニティを再建できない」

 

「お前……どうせ堅実に力を付けてコミュニティを大きくするとでも思っていたんだろう?

 ……そんなのは大前提だ」

 

 彼らは悪びれもせずに言葉を続ける。

 

「いいか御チビ。御チビがやろうとしているのは先代の二番煎じでしかない。それじゃあまた滅ぼされるだけだ」

 

「……このコミュニティを復興させるには先代を超える偉業を成し遂げる必要がある」

 

「先代を……超える……!」

 

 ジンは少しばかり驚愕した。

 先代を超える……口にするのは簡単だが、決して簡単な事ではない。

 だが、その位の気概がなければコミュニティの再建など夢のまた夢だろう。

 

「……故に逆廻はお前の名を使った」

 

「ああ、俺たちのコミュニティに名も旗もないからな。なら、リーダーの名前を売って“打倒魔王”を掲げたコミュニティ、っていう泊なら知名度も上がるし、協力関係を築けるコミュニティも出てくるだろうよ」

 

「……後は、ジン……お前の采配次第なんだよ」

 

 秋世はジンの目を闇に酷似した暗い目で見つめる。

 ジンの目にはまだ諦めの色など見えない。

 そしてジンはただの子供ではなく、リーダーとして二人に告げた。

 

「……なら十六夜さん、秋世さん。貴方達にサウザンドアイズ主催のギフトゲームに参加して僕らの大切な物を取り戻してください」

 

「……それは昔の仲間か?」

 

「はい。元魔王の仲間です」

 

「……成る程、名案ではあるな」

 

 秋世はジンの采配を未熟ではあるが評価する。

 確かに元魔王が加入すれば、“打倒魔王”を掲げるコミュニティという噂に信憑性が増す。

 戦力としては申し分ないだろう。

 

「まあ、元魔王なら俺並みとは言わねえが俺の足元並みの奴である事を祈るぜ。──此奴よりはマシだといいがな」

 

 すると秋世は聞き捨てならないと十六夜を睨む。

 

「……ふん。お前とて、その傲慢なまでの自尊心が剥がれなければいいな」

 

「やんのか?」

 

「……是非もない」

 

 売り言葉に買い言葉。

 一瞬で剣呑な雰囲気と化していく場をなんとか収めようとジンは考えるが……

 

「あやや、何かお話でもしてましたか?」

 

 救世主(女性陣)来たれり。

 

「……いや、別に」

 

「今、話終わったところだ」

 

 先程までの剣呑な雰囲気は霧散し、ジンはホッと息をつく。

 すると窓ガラスが割れ、龍悠とリリが颯爽と現れる。

 

「俺、参上ッ!!! この登場ならインパクトバッチリだ。そう思わないリリ?」

 

「……まあ、そうだね」

 

「窓ガラスが!? もっと普通に入ってきてください!」

 

 子供っぽく笑う龍悠と苦笑するリリ、そして絶叫する黒ウサギ。

 すると龍悠は真剣な表情で辺りを一瞥した。

 

「みんな、居るな。なら話は早い。さっきフォレス・ガロが来たよ……子供達を攫いにな」

 

 黒ウサギやジンの真剣な面持ちで聞いていた。

 例の如く、ガルドは同じ手を繰り出してきた。

 だが、十六夜はケラケラと笑いながら問い返す。

 

「ああ、来てたな。そっちはお前が対処したんだろ赤髪ショタ」

 

「当たり前だろ?

 そう簡単にやられねえし、砕けねえよ俺は」

 

「……まあ、言える事は一つだな……お前ら」

 

 秋世はガルドとのギフトゲームに参加する飛鳥、耀、夏海を一瞥すると──

 

「……絶対に勝て、俺からはそれだけだ」

 

 彼女達に激励の言葉を送ったのだ。

 これには皆、驚いた。

 ガルドにアレだけの罵詈雑言を浴びせた彼が激励の言葉を送るとは誰も思いもよらなかったのだ。

 

「……お前ら、失礼な事を考えなかったか?」

 

「いや、何。お前がそんな事言うとは意外でよ」

 

 十六夜も意外だったようだ。

 

「……俺だってやたら滅多に罵詈雑言を浴びせない……浴びせるのは価値がないものだけだ」

 

「……つまり、私達には価値があると?」

 

 飛鳥は秋世に自分達の価値を認めているのかと問う。

 

「……それなりの価値があるとは思っている……見下されるのが嫌なら示せよ……虎狩りでもしてな」

 

 飛鳥と耀、夏海は今の秋世の言葉を聞き捨てならないと、秋世の方を向いて、

 

「ならいいわ秋世君。その評価を改めさせてあげるわ!」

 

「うん。秋世に“俺ではお前達の価値を測れなかった”って言わせよう」

 

「そうですね。飛鳥さん、耀さん、私の友達は貴方の評価を大きく覆しますよ秋世さん」

 

 そう、言い放つ。

 そんな三人に秋世は笑みを浮かべ、立ち上がる。

 

「……まあ期待しておいてやる」

 

 そう言うや否や、秋世は大広間を後にする。

 そして、誰にも聞こえぬような小さな声で呟いた。

 

「……お前らが俺の英雄の英雄譚に華を添えられる者達(モブ)になれるといいな」

 

 そうなれば光栄なことだろう、と呟いた言ノ葉は空に消え、霧散した。

 そこに込められた燃え盛る業火のような信念は決して揺るがぬ様に自分に言い聞かせているかの様だった。

 

 そして、虎狩りのギフトゲーム、罪深き虎に死刑宣告をするが如く日は昇り、飛鳥達の戦いの日を迎えた。

 

 

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