理想を求める者達も異世界から来るそうですよ? 作:幻想のtidus
ガルドは迷っていた。
彼はただノーネームのピンチを好機と思い、黒ウサギと異世界から召喚された人間達を引き抜きに来たのに、待っていたのは自分の罪の露呈と自らのプライドを粉砕されただけだった。
部屋を幾ら荒らそうと怒りは、恐怖は消え去らない。
だが、このままではいられない。
明日までに難関なギフトゲームを用意せねば、自分は負ける……それだけでは済まない。
負ければ刑罰を受け、今まで積み上げたモノ全てを奪われてしまう。
(冗談じゃねぇ!)
彼は執務机を窓に放り投げる。
「あの女の恩恵……アレは直接精神に接触する類の恩恵だ。一体どうしたら……!」
不安要素はそれだけではない。
原摘夏海と富久音秋世……彼らは彼の恐怖の対象だった。
アレはただの人間ではない。
外見や雰囲気は何とかとり繕っている様だが、その根底にあるのは壊れきった狂気と破綻した願望が渦巻いている。
「くそ……!くそォォォォォオオオオッ!!」
感情に任せて執務室を荒らしていく。
豪華だった部屋だが、この部屋はもうすぐ必要がなくなるかもしれないと思うと身体を虚脱感が支配する。
「──ほう。
「っ、誰だ!?」
割れた窓から突如、黒い影が現れる。
現れた金糸に見紛う華麗な金の髪を靡かせた女性だった。
「情けないな。三桁の外門の魔王の配下がコレとは……情けなさすぎて同情するよ」
呆れるように頭を振る金髪の女。
その言葉はガルドを逆なでする。
「テメェ……どこのどいつか知らねえが、俺は今気が立っているんだ。牙を剥かねえうちにとっとと失せろ」
ガルドは獰猛な唸り声を上げて威嚇した。
「ふふ、威勢だけは達者じゃないか。だが、成り上がり風情が“鬼種”の純血である私に牙を剥くのか?」
ガルドは声を詰まらせて驚愕する。
先ほどまでの勢いは一瞬にして萎え果てた。
だが、怒りが引いて金髪の女をよく見れば、鬼種の純血に見えなくもない。
だが、それでも信じられないとガルドは震えた声で吠える。
「き、鬼種の純血だと……!そんなの殆んど神格じゃあねえか! ま、まさか名無しの尖兵か!?」
系統樹の起点に位置する純血と呼ばれる恩恵を指す言葉だ。
ガルドなどの多種が混ざった成り上がりとは、名実共に格が違う。
「まあ、それはそれだ。私はあの名無しとは少々因縁があってな。もう再建は望めないと思っていたんだが……
どうやら新しい人材が神格保持者を倒したと聞いて、様子を見に来たのだ ……まさか、龍の純血の恩恵を持つ者までいるとは思わなかったが……」
今度こそガルドの精神は折れかけ、打ちのめされたように跪く。
久遠飛鳥や原摘夏海、そして富久音秋世の他に神格を倒せる化け物が二人……しかも、うちの一人は龍の純血の恩恵持ちが居るようなコミュニティを相手にしなければならないという事実に絶望したのだ。
悪い夢なら覚めて欲しい、と咄嗟に黒ウサギではないのかと金髪の女に問いかける。
「いや? 聞いたところでは、まだ若い少年らしい。まあ、お前と問題を起こした者達とは別の人間だよ」
「じょ、冗談じゃねえ!」
ガルドは錯乱した様子で隠し部屋を開き、金品を荷に掻き込む。
女は金の毛先を指先で弄びながら呆れたようにその様子を見る。
「随分とため込んでいるようだな……しかしゲームからは逃れられんぞ」
「知ったことか! 俺が一体どれだけの野望を抱いて箱庭に来たと思ってやがる! 何年も、何年も……ただの獣だった時代から箱庭の上を目指してきたんだぞ!? それなのに……あの小娘共が……畜生!」
悔し涙と恐怖で顔が歪み、嘆き悲しむ。
ただ自分なりの方法で、自分が思いつく最善を尽くしてきただけなのに。
「……悪魔などに魂を売らなければ俗物にまみれる事も無かっただろうに」
「うるせえ! うるせえ! 黙れ!」
半狂乱で叫び散らすガルド。
当然だ、彼の運命は破滅する道しか残されていない。
「要するに、お前が勝てば済む話じゃないか?」
「む、無理だ! 話を聞いたなら知ってるだろ! お、俺はあのガキ共に手も足も出なかったんだ!」
「ならば鬼種の恩恵を手に入れたなら……勝ち目はあるかもしれんぞ?」
ガルドの手が止まる。驚愕して固まったいたが、初めて金髪の女に向き合っていた。
「裏切れってのか……俺に六百六十六の獣を……」
「結果的にはそうなるだろうが……かの魔王は戻ってくるつもりはないのだ。将来性のない場所にいてもお前の運命も変わらんだろう」
ガルドは冷静さを取り戻し、思考していた。
確かに悪い話ではない。
だが、問題はどの鬼種なのか……これが問題なのだ。
「……お前、一体何処のコミュニティの者だ?」
「それは言えんな。詮索は無用だ。私は月の出ているうちに帰る」
「……選択肢はねえか」
ガルドは覚悟を決めて、鬼種の恩恵を受け取ることを了承する。
「いいぜ。種族そのものを変えるのにどれだけ時間がかかる?」
「ああ、それについては気にするな。すぐに終わる……」
金髪の女はガルドの胸倉を掴み、その牙が首筋を食い破っていた。
ガルドの血は吸い上げられ、瞬く間に種族が変化していく。
(吸血鬼の純血──箱庭の騎士だと!? この女、まさか!)
ガルドの意思が沈みかけていく。
金髪の女はガルドを一瞥し、
「さあ、どう出る、新生ノーネーム」
そう呟いて夜闇に消えた。
☆★☆★☆
「ガァァァァァァァッ!?」
金髪の吸血鬼が夜闇に消えてから数分経ってなお、霊格の変革で沈みかける意思で必死に粘っているガルド。
その胸中は怒りに染まっている。
自分はあのノーネームの当て馬にされているのが、否応が理解せざるを得ない。
「随分と頑張るんですね虎の方。予想ではものの数秒で堕ちると思ったのですが……どうやら私は貴方を過小評価し過ぎた様です」
突如、執務室に声が響く。
抑揚のない口調の女の声。
ガルドは残る力を振り絞り、その女を見た。
ベールハットを被り、喪服に身を包んだ麗人。
見れば見るほど、蛍のような儚さを感じさせる女性だった。
だがそれはあくまで、外見上の話だ。
目の前の女の本質はそんなモノではないと、ガルドは本能で察知していた。
「テ、メエ……は、一……体……!」
息も絶え絶えに言葉を紡ぐ。
「ふふ、そんな事は些細なことでしょう? ……まあ、貴方が鬼化した所を見ようと思ったのですが……存外、堪えるものですね」
麗人はガルドを抑揚のない声で称賛する。
すると、おもむろにギフトカードを取り出して一言。
「助かりたいですか?」
「な、に……?」
「まだ夢を見たいですか?」
女は慈愛に満ちた表情で手を差し伸べる。 その目は、諦めるのか? 貴方はそんな器ではないでしょう? とでも言いたげだった。
「貴方の夢はここで終わりなのですか?」
ガルドは沈みゆく意識の中でその言葉はガルドを奮い立とうと、その手を掴む。
「生、ぎ……たい! まだ……終わ、れない……!」
まだ上を見たい、その一心でもがくガルドを見て女は微笑み、ギフトカードから
「これを使えば貴方は自我を保て、さらに強くなれるますよ……どうしますか?」
考えるまでもなく、ガルドは赤い霊薬を手に取り、飲み込んだ。
その変化は劇的だった。
まず霊格、人間の霊格は鬼化の影響で消えたが、己が悪魔として確立されたのだ。
さらに体は活性化し、何故か永久に動けるような感覚を覚えた。
「これは……!!」
「これなら貴方にも勝つ目が見えてきたでしょう?」
確かにこれならば、勝ち目は見えてくる。
しかし、ガルドには解せないことが一つあった。
「アンタ……何が目的だ」
「……いえいえ、目的なんてそんなにありませんよ……強いて言うなら……」
女は陰りのある笑みを浮かべる。
その笑みは人々の不安を掻き立て、心の拠り所を奪うかのようだった。
そして女は言葉を紡ぐ。
「……まあ一言で言ってしまえば……変革ですかね」
「変革だと?」
「まあ、この話はもういいでしょう」
で、これなら勝てますか?
と女は問うた。
「……ああ、可能性が見えてきた」
「そうですか……必要とあらば幾つか霊薬を置いてゆきますが?」
「頼む」
「わかりました……では期待していますよ、ガルド=ガスパー」
女はガルドの執務室から突如消えた。
まるで其処にいたという事象が消えたかの様に。
「さて……やるか……!」
そしてガルドはゲームの準備に取り掛かった。
その様子を遠くで見ていた女はただ一つ。
心の中で、一言告げた。
──“さあ、貴方は神々の脚本の上で踊る道化なのか……今からでも楽しみです”
女は笑う、嗤う。
まるで、その様を侮蔑するかの様に嗤い続ける。
そしてガルドの運命の日を迎える。
結末は誰も予想できない……