理想を求める者達も異世界から来るそうですよ?   作:幻想のtidus

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悪魔の縄張り──前編

 ──箱庭2105380外門。ペリベット通り・噴水広場前。

 飛鳥、耀、夏海、ジン、そして黒ウサギと秋世と三毛猫はフォレス・ガロのコミュニティの居住区に向かっていた。

 

 此処に十六夜と龍悠がいないのは昨日のように子供達を攫いに来る可能性がある為、本拠に残っている。

 

 彼らは子供達が攫われるのを良しとしないので、そこまで不満はなかったようだ。

 

 六本傷の旗を掲げたカフェテラスの前を通り過ぎようとした時、ウェイトレスの猫娘が近寄ってきた。

 

「あー! お客さん! もしや今から決闘ですか!?」

 

 ウェイトレスは飛鳥達に一礼し、三毛猫は鳴く。

 

「ウチのボスからもエールを頼まれました! ウチのコミュニティもアッタマきてたところです!」

 

 ブンブンと両手を振り回しながら応援してくるウェイトレスに飛鳥は苦笑しながら強く頷いて返した。

 

「ええ、そのつもりよ。あんな虎には負けられないもの」

 

「おお! 心強いですよお客さん!」

 

 満面の笑みを浮かべてウェイトレスは返すが、急に声を潜めた。

 

「実は皆さんにお話があります。フォレス・ガロの連中……妙に士気が高いんですよ」

 

「士気が……ですか?」

 

 答えたのは夏海。

 彼女の予想では彼らにそんな余裕はないと思っていたのだ。

 何せ、罪を暴かれ、力の差を教えられ、誘拐さえ失敗したのだ。

 

「噂では新しい強力な恩恵を手に入れたとかなんとか……」

 

「この短時間でですか!?」

 

 黒ウサギは驚いたような声を上げた。

 彼女の反応も当然だろう。

 強力な恩恵をこの短時間で手に入れるには、それ相応のギフトゲームをクリアする必要がある。

 もしくは、それなりのコネクションがあるかだが……

 兎に角、ガルド達の士気は上がっている。

 実力は未知数、ゲームの内容も不明、ますます旗色が悪くなってきていたのを黒ウサギは感じていた。

 

「何の恩恵、ゲームか知りませんが、兎に角気を付けてくださいね!」

 

 熱烈なエールを受けて、一同はフォレス・ガロの居住区画を目指す。

 

「あ、皆さん! 見えてきました……けど」

 

 黒ウサギは一瞬、目を疑った。

 そこは居住区画と言うには、あまりにも場違いだった。

 森のように豹変し、門はツタが絡まり、脈打ち鬱蒼と生い茂る木々だった。

 

「……ジャングル?」

 

「……奴らは獣畜生だ……自分たちの有利なフィールドにしたのか……」

 

「フォレス・ガロの本拠は普通の居住区だったのですが……それにこの木」

 

 ジンはこの脈打つ木を、この現象を可能にする方法を知っている。

 だが、そんな筈はないと否定する。

 

「ジンさん。ここに契約書類が貼ってありますよ」

 

 夏海の指差す先には、門柱に貼られた羊皮紙があった。

 そこには今回のゲームの内容が記されていた。

 

『ギフトゲーム名“A day sets, and the hunting is over”

 

 プレイヤー一覧:久遠飛鳥

 春日部耀

 原摘夏海

 ジン=ラッセル

 

 クリア条件

 ・ホフトの本拠内に潜む全ての悪魔の討伐

 

 クリア方法

 ・ホストが指定した武具でのみ討伐可能。指定武具以外は“契約”によって悪魔の霊格持つ主催者側を傷つける事は不可能。

 

 敗北条件

 ・衰退する時が来た時、強制敗北

 ・降参、または上記の勝利条件が満たせなかった場合。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。

 

 “フォレス・ガロ”印』

 

「全ての悪魔を指定武具で打倒!?」

 

「こ、これはまずいです!」

 

「……これは……中々」

 

 ジンと黒ウサギは悲鳴のような声を上げ、秋世は感心していた。

 

「あ、あの黒ウサギさん……これはそんなに危険なんですか?」

 

「いえ、問題なのはこのルールです。このルールでは飛鳥さんの恩恵で操る事も、耀さんや夏海さんの恩恵で傷つける事も出来ない事になります……」

 

「……つまり恩恵ではなく絶対である契約で身を守ってるんだよ」

 

「すいません、僕の落ち度です。……あの時にルールを決めておけば……!」

 

 ここでジンの経験の無さが祟った。

 ルールが白紙のゲームに参加するなど愚の骨頂だ。

 

「どちらにせよ指定されているのなら武具はあるはず……悲観することではありません」

 

「そうね、あの外道相手なら寧ろハンデじゃないかしら」

 

「うん。私も頑張る」

 

 やる気を見せる耀と飛鳥。

 これは喧嘩だ。勝機があるなら諦めるわけにはいかないと奮起する。

 

 その陰で秋世はジンに昨夜の事を話していた。

 

「……ジン……わかっているな?」

 

「はい。この勝負は絶対に勝ちます」

 

 ここで躓くわけにはいかない。参加者四人は門を開けて突入した。

 

 

 ☆★☆★☆

 

 門が閉まると木々が退路を塞ぐ。

 同時に皆、ゲームが始まったのだと理解する。

 

「……今のところは大丈夫。だけど何時来ても可笑しくない、かなりの数の匂いが遠くでする」

 

 耀は犬の嗅覚で周囲の索敵を開始する。

 

「詳しい位置はわかりますか?」

 

「風上に立っている筈なのにガルドの匂いがないから、多分建物の中にいると思う」

 

「彼の行動を考えれば指定武具もガルドの付近だと考えるのが妥当ではないでしょうか」

 

 彼らは瞬時にゲームの攻略、考察を開始する。

 すると、夏海が自己暗示の様な──いや、内なるものに接続する為の言の葉を吐く。

 

「アクセス──我が強欲(シン)

 

 夏海は存在は急激に変化する。

 それは正しく、悪魔のように溢れんばかりの欲が辺りを渦巻く。

 夏海がそっとある方向を指差す。

 

「あっちです。あっちにかなりの数の欲が存在します」

 

「欲?」

 

 飛鳥は夏海に問う。

 

「ええ。私の罪ですから……近しいものがあれば感知できるんです」

 

「うん。夏海の言う通り、建物の中に影が見えた」

 

 耀は猛禽類の目で建物の中の影を捉えていた。

 

「わかったわ……じゃあ、その建物に──」

 

 飛鳥の言葉は最後まで紡がれなかった。

 理由は単純だった。夏海が飛鳥を押し倒していたのだ。

 さらに耀はジンを地面に無理矢理伏せさせる。

 

 

 直後、頭上を通り過ぎる二つの影……

 それは明らかに此方の命を刈り取ろうとしていた。

 

「な、なんで!? さっきまで気配も何もなかったのに!」

 

 耀から驚愕の声が上がる。

 先程まで、耀の嗅覚にも夏海の索敵にも、この周囲には誰もいなかった筈なのだ。

 まるで、突然現れたかのように、襲撃しに来たとしか考えられない程に余りにも唐突だったのだ。

 

「くっ!? 炎よ、奔れ!」

 

 夏海は、襲撃者目掛けて、炎を放つ。

 太陽のプロミネンスに匹敵する炎は木々を焼き、万象全てを焼き尽くさんと言わんばかりに猛り荒ぶる。

 

 襲撃者の一人はその炎に真っ向から突き進む。

 そして彼女達はさらなる驚愕を受ける。

 

 炎に飛び込んだ襲撃者は炎を裂いて、無傷で夏海の眼前に現れたのだ。

 

「な!? 無傷な筈が──!?」

 

 そこに追い討ちをかけるように襲撃者の剛腕が唸る。

 咄嗟に夏海は飛鳥を抱き上げ、咄嗟に身を捩る。

 

「ガッ!?」

 

 襲撃者の剛腕が夏海の背中を強打する。

 肺の空気を全て強制的に吐き出されたが、なんとか飛鳥を無傷で守る。

 

「つまり、これが契約の力ですか……!」

 

 夏海は瞬時に思考を切り替え、敵の考察を開始した。

 先程放った炎は、とある神群の主神の炎なのだ。

 決してこの程度の輩に防げる代物ではない。

 故に彼女はこの現象を見て、契約の力だと確信する。

 

「耀さん! 急いで指定武具を探しましょう! 恐らくこの人達は契約書類に記された悪魔の一体です 恩恵は通用しない!」

 

「ッ……!わかった……!」

 

 耀は即座に恩恵を使用し、周囲の索敵を再開しようとした時───

 

「GEEEYAAAAAaaaaaa───!!」

 

 もう一人の襲撃者の雄叫びが上がる。

 

 それを合図に一人、二人とフォレス・ガロの者達が此方に急速に近づいてきたのだ。

 

 二十秒経った時には、十人ほどの獣人が周囲を囲っていた。

 

「ダメ! もう囲まれてる!」

 

「ッ!! 止まりなさい!!」

 

 耀の声が響き、飛鳥の威光が轟く。

 その威光に獣人の半分が動きを止めたが、未だ半数は動き続けていた。

 

「悪魔じゃない者達も混じっているのね……春日部さん!

 原摘さん!」

 

「わかった!」

 

「わかりました!」

 

 飛鳥の真意を理解し、二人は弾丸の様に獣人の踊る戦火の中を駆け抜ける。

 狙うのは、動かぬ獣人達。

 今は飛鳥の威光で動かないが、何時動き出すともわからない者達を残しておけば、忽ち周囲を囲まれ劣勢に立たされる。

 

「GEEEYAAAAAaaaaaa──!」

 

 獣人達は尚も集まり続け、減るどころか増え続けている様にさえ感じる。

 

「止まれ! 止まれ! 止まれぇぇ!!」

 

 飛鳥の威光が駆動し続ける。

 悪魔達を絶え間なく止め続ける為、彼女は集中し続ける。

 

「ハァァァッ!!」

 

 耀の体技が冴える。

 死角からの攻撃を耳で、鼻で、肌で感じ取り捌く。

 さらに彼女の友人達の力が猛威を振るい、数多の獣人に突き刺さる。

 

 チーターの如きスピードで疾駆し、

 象の重さとゴリラの怪力で重き力が迫り来る獣人を叩きのめす。

 さらにグリフォンの恩恵が繰り出す広範囲に撒き散らす風の暴威は敵を一網打尽にする。

 

 夏海は周囲を地獄に変化させる。

 猛火は木々を焼き、大地を焦がす。

 契約の力無き者達は一瞬で灰さえ残らぬ程に焼き尽くされる。

 

「凄い……!」

 

 ジンの感嘆の声を上げ、内心歯噛みする。

 それも無理もないだろう。

 彼女達は共に一騎当千──迫り来る獣人など恐るるに足らない。

 

 そして何も出来ず、ただ守られているだけの自分を嫌悪したくなる。

 だが、今はそれどころではないと、気を引き締める。

 

 その時、ジンの目に信じられない物が映った。

 焼けた木々、焦げた大地が歪み、軋みながら膨張する。

 

 それは形を変え、人型の何かに変える。

 

「なっ!?」

 

「■■■■ーーーー!!」

 

 まるで奈落の底から響くかの様な絶叫が響いた。

 その絶叫を放った其れ等にジンは驚愕する。

 

「なんで……悪魔の霊格を……!」

 

 そう、木々や大地を糧に現れた化物は、悪魔の霊格を宿していたのだ。

 これでは悪魔は無限数いる様なモノだ。

 

 無貌の悪魔は、夏海目掛けて飛びかかる。

 その数、約三十体。

 

「奔れぇぇぇぇ!」

 

 再度、放たれる神炎。

 大地を駆ける炎は無貌の悪魔の何体かを焼き崩したが、未だ二十体以上存在する。

 

「止まれ!」

 

 威光が悪魔達に響く。

 だが、そんなものなど存在しないと言わんばかりに悪魔達は進軍し続ける。

 

「な、なんで止まらないの!? 原摘さんの炎は効いているのに……!」

 

 驚愕の声を上げる飛鳥。

 彼女の今までの人生で、初めて自らの恩恵が効かないのだ。

 

「お、恐らく霊格の差が影響していると思います!」

 

「霊格の差?」

 

「はい。飛鳥さんの霊格とあの悪魔の霊格では飛鳥さんは些か劣っています……それが原因だと思います」

 

 ジンが恐る恐る伝えた事実に飛鳥は歯噛みした。

 飛鳥も箱庭に来て、たくさんの人物にあった。

 月の兎や太陽の化身……自分でも勝てるかもわからない者達を見てきて、確かに力の無さを多少感じていたが、ここにきてそれを痛感させられる。

 

「飛鳥さん、後ろ!」

 

 は、と気がついた時には眼前に獣人の剛腕が迫っていた。

 飛鳥の体は、耀や十六夜ほど頑丈な部類ではない。

 寧ろ箱庭に於いては貧弱な部類だ。

 そんな体で一撃を貰えば、良くて重傷、最悪死ぬ可能性がある。

 飛鳥の危機に新たな詠唱が響き渡る。

 

「アクセス──我が暴食(シン)!」

 

 突如、飛鳥の足場が腐食し、泥濘む。

 体勢を崩した飛鳥は後ろに倒れることで、難を逃れた。

 

「キリがないわね……!」

 

「うん、倒しても湧いてくる悪魔、契約で守られた獣人……やる前にこっちがやられちゃう……!」

 

 飛鳥と耀は互いに背を付き合わせ、現状を整理する。

 

「原摘さん、何か策はある?」

 

 飛鳥は夏海に策はあるかと問う。

 だが、夏海が返事を返さない。

 

「原摘さん……?」

 

 まるで、此方の話が聞こえていない様な……そう感じさせた。

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

 夏海は自分の中に巣食う七人の王と対話していた。

 

 ──ヒャハ、どうしたどうした! お前らしくねぇ……此処には来ないんじゃなかったか?

 

 暴食の化身たる王は下卑た笑いを浮かべながら、まるで玩弄するかの様に夏海に話しかける。

 

「……私とて此処に来るつもりは毛頭ありませんでしたよ……友達の窮地だから仕方なく貴方達の下に来た迄です」

 

 夏海は嫌悪するかの様に暴食の王に返す。

 ノーネームの面々が見れば、驚愕するだろう。

 ガルドさえ救ってみせると豪語した夏海がここまで嫌悪する理由が彼らにある。

 

 ──まぁ待て蠅。そう遊んでやるなよ……それで何が望みなのだ?

 

 強欲の王は彼女に問う。望みはなんだと。

 彼は元より人の欲を司る悪魔……彼女がどんな欲を持つのか気になったのだ。

 

「私が望むのは、()()()()()()()()()()

 

 その言葉を聞いた時、空気が死んだ。

 強欲の王以外の王は濃密な殺気を放ちながら、夏海を見続けた。

 

 ──私、達の、権能を……寄越せだと?

 

 怠慢な巨龍は夏海を睨んでいた。

 当然だ、元より権能とは恩恵の上位に存在する力だ。

 この箱庭に於いて、権能は二桁へと上り詰める為にも必要不可欠な重要、且つ強大なモノだ。

 

 強欲の王は大層愉快そうに、それを寄越せなどとぬかす、無知蒙昧な娘を見ていた。

 

「いえ、この一戦のみでいい……どうかお力添えを」

 

 ──ぬかせ、誰が貸すか。

 ──弁えろ、小娘。

 ──貸さ、ない……。

 ──貸したくないなぁ……そんなことより揉ませて!

 

 憤怒、嫉妬、怠慢、色欲の王は即答する。

 色欲だけは何か言っていた気がしたが、アレは女の敵、塵なので無視をする夏海。

 

 ──そも、貴様……勘違いをしておらぬか? 我らは誰一人として貴様を認めておらぬ。多少の恩恵を貸しているのも、貴様が死ねば我らも死なねばならぬからに他ならぬ。

 

 憤怒の王は王威を放ち、眼前の娘を見下し憤激する。

 汝、そうあれかし。

 人類に、神々に願われ、あまつさえ罵られた四柱の王達は人間という者達を価値なしと見下す。

 見下していないのは暴食、強欲、色欲の王達だけだ。

 然し、彼らが見下さないのは人間を玩具の様にしか思っていない。

 

 ──まあ、いいじゃねえかよ。ようやく夏ちゃんが俺たちの所まで落ちてきたんだならよぉ〜、俺の権能なんて貸してやってもいいぜ? ヒャハハハ!

 

 ──確かに蠅の言葉には一理ある。俺も此奴の行く末には興味が尽きない。

 

 暴食と強欲は嗤いながらそう言った。

 勿論、彼らは夏海のことを気遣っている訳ではない。

 夏海が壊れるのを今か、今かと待っているに過ぎない。

 

 ──どうでもいいけど……その決定権は僕たちじゃなく、()だろでしょ?

 

 色欲の王がそう告げると、六柱の王と夏海は中央に座し、見下ろしている王を見た。

 六対の黒翼を携え、背後に輝く明星と天の神すら引けを取らない王……

 

 ──私の答えは最初から決まっている。

 

 その一言一言が強烈な星の殺意の具現だった。

 夏海はその殺意に必死で抗う。

 

 ──負けるな、勝て。我らを宿して、負けるなどあってはならない……故に命じる。

 

 勝て……これは我らの総意である。

 

「それはつまり……権能を貸して頂ける……そう解釈してよろしいでしょうか……?」

 

 ──無論。それでいて、尚も無様な姿を晒せば、我らは今にでも貴様の身体を食い破り外界に顕現しよう。

 

 傲慢の王は厳かに告げる。

 そして、夏海は覚悟を再度決めた。

 このゲームで醜態を晒せば、自分に後がない事を刻みつける。

 

 ──して、お前らに問う……誰が貸す?

 

 憤怒、嫉妬、怠慢、色欲は答えない。

 まあ、色欲は夏海にアレやコレやをやらせれば、案外簡単に貸してくれるだろうが、夏海にそんな気はない。

 答えたのは暴食と強欲の二柱。

 

 ──ヒャハハハ! 俺の権能、“第五のラッパ”を貸してやるよ。

 

 ──それは、俺の権能でもあるだろうが! 何、我が者顔なんだよ!?

 

 強欲と暴食はもみ合いになっていた。

 五柱は呆れながら見ていた。

 

「で! 貸して頂けるんですね?」

 

 夏海の大一喝が玉座に轟く。

 

「時間がないんです!」

 

 ──それはわかっておるよ、蠅……さっさと渡してやれ。

 

 ──はいはい。分かりましたよーだ……夏ちゃん、言っておくけど契約の力には勝てないからね?

 

「わかっています。私の駆除したいのは無貌の悪魔です」

 

 きっぱりと言い切る夏海。

 彼女は踵を返し、煉獄の玉座を出ようとした時、傲慢が声をかけた。

 

 ──お前はアレがなんなのか分かるか?

 

「なんなのか? アレは悪魔でしょう?」

 

 そう、アレは悪魔だ。それ以上でもそれ以下でもない。

 だが、傲慢は夏海の答えに解答を付け足す。

 

 ──否、アレは悪魔だが……同時に人類の敗れ去った夢の一つでもある。

 

「人類の夢? あんな物が?」

 

 ──然り、アレを顕現している術者が単純に雑魚なのよ。確かに多少マシにはなっているが、ダメだな。秋世とかいう小僧なら使いこなせるだろう。

 

 何故、此処で秋世の名が出てくるのは分からなかったが、今は時間がないのでスルーする。

 

 ──では、武運を祈るよ……罪深き少女よ。

 

 七柱の王が座す、玉座に祈りが響く。

 人々よ、我らの試練を()()()()()()()()

 貴様らが、まだ人でいたいなら……

 

 この祈りに気づく者は誰もいない。

 

 ☆★☆★☆

 

 意識が玉座の間から浮上する。

 眼前の状況は相も変わらず、劣勢だ。

 

「原摘さん!」

 

「ヒャイ!?」

 

 飛鳥の大声が夏海の鼓膜を揺らす。

 

「もう、漸く気づいたかしら? 気づいたなら、貴女は何か策はあるかしら?」

 

「うん、私達としては、このまま強行突破して指定武具を探すぐらいしか現状を破れない」

 

 でも、これは余りにも危険、と耀は言う。

 確かにこの場を切り抜けるには強硬突破する方が可能性があるが、同時に危険度も増す。

 

 だが、危険を減らす為に頼んできたのだと、夏海は奮いたつ。

 

「我に策ありです。ジンさん、飛鳥さん、耀さん……私から一切離れないで下さい! この力は貴方達にも被害が及ぶかもしれないので」

 

 そう言うや否や、即座に飛鳥と耀は夏海の周囲に着く。

 

「では、いきますよ……

 

 我は汝を召喚す、天の星すら暴食する悪なる蟲共。罪業を喰らい、貪れ!」

 

 彼女の手に形成されるのはラッパだった。

 だが、そのラッパには禍々しいほどの気配を放っている。

 それは正しく暴食の塊だ。

 

 夏海はそのラッパを吹き鳴らす。

 その音色は天地魔界に響くかの様に重く、暗い。

 終末を予感させる音色が鬼化の森に響き渡る。

 

 だが、何も起こらない。

 不発……誰しもがそう思った時。

 

 

 

 

 

 何かが聴こえた。

 

 

 十秒経つとジジジと音が聴こえる。

 二十秒経つとそれが何かの羽音だとわかった。

 三十秒経つと音がかなり近くなっていた。

 空が暗くなる。夕暮れになったわけではない。

 空を見た時、誰もがそれがなんなのかを悟った。

 

「む……し……?」

 

 天を覆い尽くす、暴食の権化が其処にあった。

 それは時に黒死病と共に天災と恐れられ、暴食の霊格を宿す、悪なる蟲共。

 

「イナゴ……?」

 

 その言葉と共に天の星に等しいとさえ見紛う大軍勢が無貌の悪魔と獣人達に襲いかかる。

 

「GEYAAAaaaaaaッ!?」

 

 契約の加護のない獣人達に苦悶の声があがる。

 当然だ。彼らはイナゴに喰われていたのだ。

 

 幾ら払いのけても、傷口をさらに喰らい、死に至らしめている。

 コレは正に記されている黙示録の厄災の再現に等しい。

 狙われれば最期、骨さえ残らず食い尽くされる。

 

 これを前に可能性? 不死性? そんなモノなど無意味と言わんばかりに蹂躙するイナゴの大軍勢。

 

 無貌の悪魔は出現する度に喰われ、数を減らされていく。

 

「今の内です。指定武具を探しに行きましょう! 幸い敵の嗅覚は血で紛らわせています。今が絶好の好機です!」

 

「ええ、原摘さんの言う通り、今のうちね」

 

「いた……ガルド見つけた! あの奥の建物の中にいる!」

 

 四人は一斉に駆け出し暴食の嵐が吹き荒れる中を駆け抜ける。

 だが、四人は気づかない。

 このゲームの敗北条件が刻一刻と近づいていることに……

 ハンティングは未だ終わらない。

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