理想を求める者達も異世界から来るそうですよ? 作:幻想のtidus
悪魔と獣人、暴食の嵐を潜り抜け、フォレス・ガロの本拠に辿り着く。
虎の紋様が施された扉は無様に取り払われ、豪奢な外観は塗装もろともツタに蝕まれては剥ぎ取られていた。
「ここの二階に多分居る」
中に入ってみると外観に反して内装はしっかりしていた。
贅を尽くして作らせただろう家具が存在する。
本拠の所々を隅々まで調べるが指定武具らしい物もヒントさえ見つからない。
「残るは二階……ですか……」
「ジン君。貴方は此処で待ってなさい」
「上で何が起こるか分からないからね。ジンには退路を守って欲しい」
理に適っていたが、ジンは不満だった。
しかし、退路を守らなければならない重要性も彼は分かっている。ジンはしぶしぶ階下で待つ事にした。
三人は階段を物音立てずにゆっくり進む。
階段を上った先にあった最後の扉の前に立ち、機会を窺う。
意を決して三人が勢いよく跳び込むと中には、
「よお……名無しの小娘共」
白銀の剣の前に座していたのは、体は程よく鍛えられ、白髪紅眼の色白の男だった。
三人は思う、
「どうした? ……ああ、この体か? 色々あってな、今は生まれ変わった気分だ……」
声は確かにガルドだ。
しかし、本当にガルドなのか疑いたくなる程の変貌だった。
まるで、魂の根幹から変わってしまったかの様に昨日とは比べ物にはならないと感じられる。
「お前らには感謝しなくちゃなあ……ありがとよ」
その言葉と共にガルドの姿が消える。
否、既に夏海達の懐まで潜り込んでいた。
「アクセス──我が
夏海は咄嗟に怠慢なる王の恩恵を行使し、障壁を創り上げる。
ガルドの剛腕が障壁に罅をいれる。
これには夏海も驚嘆する。
自分が行使した罪の王は、仮にも弱体化していたとはいえ魔王だったのだ。
まさかガルドに罅をつけられるとは思いもよらない出来事だった。
「耀さん、飛鳥さん、今のうちに!」
「わかった!」
「木々よ、拘束しなさい!」
夏海の一声で、二人は動き出す。
耀は白銀の剣まで駆け、飛鳥は威光の力を使い時間稼ぎを図る。
「無駄なんだよォォ!」
迫り来る木々を腕の一振りでなぎ払い、耀を追うが夏海がそれを許さない。
「逃がしませんよ……! アクセス──我が
夏海はガルドに接近戦を挑む為に単純な戦闘能力を向上させることが出来る憤怒の罪を呼び起こす。
無論、契約の力で守られているガルドには影響はないが、今は一秒でも時間を稼ぎ、隙を作らなければいけない。
飛鳥と夏海の波状攻撃が繰り広げられる。
木々が槍の様に迫り、憤怒の罪が拳を繰り出す。
「効かないって、言ってんだろうが!」
木々を、拳を全て獣の本能で捌き、躱す。
そして獣の本能が、背後からの脅威を察知し、また躱す。
「……ッ!!」
耀の背後からの奇襲は失敗するが、続く上段からの振り下ろしの二撃、それを返す振り上げの三撃目を一息で振るう。
二撃は受け流されるが、三撃目は鼻先を掠めた。
「チィ……!クソがァァァァ!」
ガルドの標的が耀に変わるが、
(剣を……持ってねえ……! 一体何処に?!)
耀の手に剣がなかった。
ガルドは自らの五感を総動員し、剣を探す。
背後から感じる殺気──
「そっちか!」
ガルドは背後からの襲撃者目掛けて裏拳を振り抜くが、其処に襲撃者の姿はなく、裏拳は空を切る。
そして、床に写る影が目に止まる。
上を見上げれば、宙に投げられた剣と掴み取ろうと跳ぶ夏海の姿が其処にあった。
耀は三太刀目を放った勢いで剣を上に投げていたのだ。
「ガルドさん……貴方に救いを!」
万感の思いを込めて、夏海は手を伸ばし、剣に触れた時───
「───え?」
素っ頓狂な声をあげたのは夏海だった。
理由は簡単……
そも、今回の指定武具は吸血鬼もとい悪魔殺しに特化した武具なのだ。
銀は元来、破魔の力を持ち、西洋では人狼、悪魔退治の道具に用いられることが多い。
さらに吸血鬼の弱点の一つに銀の武器が存在する程、破魔の力を持つ物なのだ。
今回のゲームでは、その破魔の力を持つ剣を使用せねば悪魔は倒さないと言うように、悪魔殺しに最適なものだろう。
だが、今回はそれが裏目に出てしまった。
夏海は煉獄の七冠と呼ばれる恩恵を所持している。
これは、とある悪魔や龍種の魔王を封じ込められている恩恵なのだ。
故に悪魔殺しの力が、夏海にも影響してしまっているのだ。
「い、つぅ……!」
だが、夏海は焼け爛れる手を無視して剣を掴み続け、ガルドに救いを与えるべく斬りかかる。
「アァァァァァァーーーー!!!」
夏海の鬼気迫るナニカにガルドは一瞬気圧されるが、即座に立て直し、迎撃に移る。
斬る、斬る、斬る斬る斬る刺し穿つ──!
躱す、躱す、流す躱す、止め迎撃──!
夏海は自らに及ぶ力を意に介さずにガルドを斬ろうと迫り、
ガルドは自らの身体能力、五感を駆使し夏海の攻撃を捌いている。
お互いに引けを取らぬ戦いだった。
このままでは埒があかないと感じたガルドは、戦局を動かそうと手を打った。
「来い、悪魔ども!」
ガルドは、バックステップで距離を取り、手を床にかざす。
すると置かれている家具が形を変え、先程の無貌の悪魔が出現した。
「クッ……! 木々よ!」
飛鳥は即座に木々で無貌の悪魔を拘束しようと威光が駆動する。
耀もまた、飛鳥のサポートに回り、悪魔達を迎撃する。
夏海はこの状況に歯噛みしていた。
圧倒的なまでの数の差。そして、契約の加護に正体不明の恩恵が状況を覆す決定打となる作戦を練らせてはくれない程、彼女達は追い詰められていた。
(このままでは、押し切られる……!)
すぐに頭の中で現状の打開策と撤退するための策を練り上げる。
「飛鳥さん。耀さん。一旦離脱します。ジンさんと共に屋敷の外へ出て下さい。
私はすぐに追いつきますから、出来るだけ遠くに!」
二人は夏海を信用して、階下のジンを連れて屋敷の外に出る。
飛鳥達が外に出たことを確認した夏海は、自らの存在を変化させる。
「アクセス──我が
使用する罪は万象総てを奪い尽くさんとする魔王の罪。
「来れ欲に塗れし強欲なる王」
そして、今より放たれる一撃は、彼の王がとある神群で使用した、太陽の具現。外で放った炎などとは比べ物になどならない。
「されば人の子よ、欲を白日に晒せ」
元より、彼の王は二度目に戯れに招かれた神。
偽りの神と呼んだ神々を滅する太陽の一撃が放たれる。
「化身の炎」
膨大な熱量が執務室に充満し、解き放たれる。
炎は柱となり天を貫き、大地を穿つ──!
太陽のプロミネンス現象に神格を乗せた極限の炎は周囲の無貌を容赦なく巻き込む。
勿論、ガルドには通用しないことはわかっている。
この炎の用途は目眩し、飛鳥達と合流し作戦を練る時間を得るためのものだ。
放たれた炎の中から脱出し、強欲の二翼で羽ばたき飛鳥達と合流を開始する。
☆★☆★☆
ガルドの居た屋敷から脱出した三人の目には、極大の炎柱が映っていた。
「あの炎……原摘さんの」
「はい、私のです」
「夏海! 手は大丈夫なの?!」
三人は夏海が無事だったことに安堵したが、夏海は安心すべきではないと三人に言う。
「このままでは恐らく、我々はゲームをクリア出来ません」
「ど、どうして? 指定武具を手に入れたし、後は──」
「あの数の悪魔達を一掃すること……!」
ここまで言って彼女達は夏海が言わんとしていることに気がついた。
「そう、このゲームには期限が設定されています」
このゲームには、敗北条件に期限が設定されているのだ。
ただでさえ指定武具で打倒という面倒なゲームに期限が存在する事が、今回のゲームを難関にしている要因だ。
「問題は、その期限が何時までなのか……これに尽きます。
まあ、それについてはゲーム名を改めて見た時に分かりました……今回のゲームを日本語訳してみると分かりますよ」
三人は、ゲーム名を改めて見る。ここで耀が声を上げた。
「……日が沈み、狩りは終わる」
「はい、今回のゲームの期限は恐らく日没まで
後、数時間で狩りを終わらせねばなりません」
無論、言葉にするのは簡単だが、実行するにはあまりにも難しいだろう。
未だに一人も倒せていないのだ。
それをこの数時間で終わらせるとなると、難しいだろう。
「あ、あの僕に一つ作戦があります」
ジンは恐る恐る、挙手していた。
「この作戦ならガルド達を一掃できて、すぐに準備に取り掛かれます
──ですが、皆さんには少し……危険が伴います」
「ええ、構わないわ。教えてくれるかしら。ジン君」
「うん。聞かせて」
「今は一分一秒が惜しい。お願いします」
三人は了承し、ジンの策を聞くが、耀の顔は引きつっていた。
彼女達はゲームクリアに向けて最後の仕上げに取り掛かっていた。