理想を求める者達も異世界から来るそうですよ? 作:幻想のtidus
耀は、鬼化した森を疾風のように、時に木々を足場に跳ね回りながら駆け抜けていた。
「GEEEYAAAAAaaaaaa───!!」
「殺せェェェェ!喰い殺せェェェェ!!」
「逃がさねえぞ!」
否、逃げていた。
──耀さんはガルド達を此処まで連れてきて下さい。
そう、ジンが耀に授けた役割とは契約の加護を受けた悪魔達を目的地まで誘導することだった。
だが、ただ連れてくるなど不可能に近い。彼らには知性があり、理性があるのだ。
きっと気づくだろうと夏海が耀に施した恩恵がこの状況に至る為に拍車をかけたのだ。
──ですが、このままでは、心許ないので……アクセス──我が
その詠唱と共に付与された恩恵は、謂わば対象の注意を引くのにうってつけだった。
何せ、今の彼らは
俗に言うフェロモンを強化し、春日部耀を追って彼らも疾走する。
契約の加護を受けている彼らに恩恵は効かない。だがこれは耀自身に使用された恩恵にすぎず、このフェロモンも単純な生理現象にすぎない。
獣としての本能も持つ彼らは本能の赴くままに行動しているのだが、耀自身たまったものではない。
囮くらい楽々とこなしてみせると意気込んでいた彼女だが、思ったよりキツイというか身の毛もよだつ様な感覚を味わっていた。
(うん、ない。これはない!)
絶賛内心絶叫中だが、もうすぐ目的地点に到達する。
そっと後ろを振り向き、ガルドがついて来ているかを確認する。
耀の目が猛禽類の物に変わり、獣の総軍を見る──!
まだ見えない……見続ける。
視界に映らない……奥を見通す様に集中する。
見る。
見る。
──見続ける。
そして───
(見えた!)
遂に耀は獣の総軍の後方から疾駆するガルドを見事捉えた。
それと同時に開けた場所に出るが、瞬く間に耀の周囲は獣達に囲まれる。
下卑た笑みを浮かべる獣達を見るが、ここからどうするのかを耀は詳しくは知らない。
「どうしたよ、小娘……万事休すってやつか? 今なら、俺の元に来ればそれなりに優遇してやるぞ?」
ガルドは下卑た笑みを浮かべ、そう言った。
そんな要求に乗るわけがない。
優遇とは言うものの、恐らくは玩具として弄ばれ、飽きれば捨てられる様な扱いでしかないのは、耀は分かっている。
「テメェらの負けだ……降伏しろ」
降伏しろとガルドは要求するが……
『負けるのは貴方の方よ。エセ虎紳士!』
周囲に木霊する少女の声が勝利宣言。
そして、上空に漂う一つの影。
「貴方達を悪魔達より救わせて頂きます!」
上空より、夏海が焼き爛れる手を見向きもせず、救済を渇望し銀の剣を投擲する。
銀の剣は直進しながら、第二宇宙速度という馬鹿げた速度で飛来する。
『銀の剣よ、魔を祓いなさい!』
飛鳥の威光が轟き、破魔の力が上昇し、銀の剣が光を放つ。
追い打ちをかける様に詠唱が紡がれる。
「アクセス──我が
その言霊が銀の剣を複製する。
複製された剣は、天を覆い尽くすほどの数に増加する。
そして剣は絨毯爆撃の様にガルド達に降り注いだ。
腕を抉り、足を裂き、体を貫き、頭蓋を穿つ。
悪魔の霊格を持つ彼らでなくとも、弱ければ忽ち飲まれ、血煙と成り果てる。
「オオオォォォォオオォォォ!!」
だが血煙舞う場所でガルドは傷つきながらも奮闘していた。
迫り来る剣を一つ一つを生存本能に身を任せて、剣を叩き落とし、食らうべき剣は致命傷を避けて受ける。
その様子を見ていた飛鳥や耀は驚愕していた。
「……やっぱり昨日とは大違いね」
「うん……なんか、別人だけど……」
どことなく秋世に似ている節があると耀は告げた。
勿論外見上の話ではない。
今の彼の行動……生き方には芯、確固たる信念を持ち、理想に向かっている様子が秋世と被るのだ。
滞空していた夏海はガルドを見つめ、複製した銀の剣を手にし落下する。
ガルドに悪魔からの解脱を達成されるため、彼女は悪魔を祓わんと自らの身体を自傷しながら
「───ッ!! 舐めるなよ、小娘がァァァァ!」
ガルドは迫りくる
飛鳥と耀は静止の声を上げるが、夏海の耳には届かない。
彼女にはガルドの悪魔からの救済しか考えていない。
「俺の
上へ、上へ、さらに上へと昇るろうと、死から遠ざかろうと虎は吠え、右腕を振り抜く。
夏海もまた、受けて立つかの様に剣を振るう。
グチャリ、と嫌悪したくなる様な音が耳に響く。
見れば、ガルドの右腕は夏海の臓腑を撒き散らす様に腹部を貫いていた。
ガルドは笑みを浮かべる。
彼の渾身の力を込めたのだ。必殺を謳うに相応しい。
踏み込みも完璧。流れる様な動作で放たれた一撃は寸分違わず彼女の命を刈り取ったと。
そう思っていたガルドだが───
「──これが、私にできる、貴方への救いです」
呆気ない程に簡単に刺さった剣は、彼の霊格を寸分違わず砕いた。
「G、G、GEEEYAAAAAaaaaaa──!?!??」
狂乱するガルドはもがき苦しみながら地に伏し、這いずり回る。
夏海はガルドを一瞥し、黒ウサギが居るだろう門前に向かい踵を返す。
「ちょ、ちょっと原摘さん!? まだゲームは……!」
「いえ、ゲームは……終了です」
え?
と飛鳥は上を見上げれば羊皮紙が舞っていた。
『ギフトゲーム“A day sets, and the hunting is over”
上記のゲームがクリアされたことをお知らせします。
勝者:ノーネーム
達成条件:全ての悪魔の討伐』
羊皮紙にはゲームクリアの報告を受けた四人だったが、腑に落ちないことがあった。
「ガルドはまだ生きているのに……!」
一体どうしてだとジンは頭をひねる。
「簡単ですよ……今回のゲームは全ての悪魔を指定武具での討伐……なら悪魔の霊格を持たない者は対象から外れます」
今現在のガルドには悪魔の霊格は、強化された銀の剣の力で砕かれてしまっている。
だが霊格の一部でもあった悪魔の霊格を砕かれた彼は魂を砕かれたに等しい。
最悪、死んでも可笑しくない状況ではあるが、吸血鬼の霊格が存在するなら多少の傷程度は耐えきれるだろうと夏海は言う。
「まあ、悪魔に身を売るよりはマシな筈です、そ、れに──」
言葉を続けようとした時、夏海の視界が暗転し、地に倒れ伏した。
当然のことだが、彼女の腹部には大きな穴が空いているのだ。
これで普通なのが可笑しいのだ。
「ふふ、無理、しすぎましたかね……」
何故か満足気に笑う夏海だが、このまま出血し続ければ死んでしまう。
だが、門の方向から駆け抜ける影が現れる。
「皆さん、ご無事ですか!?」
「私達は問題ないけど、原摘さんが……」
「わかりました。急いで本拠に夏海さんを運びましょう」
そう言うやいなや黒ウサギは夏海を担ぎ、疾風の様に駆ける。
踏み込みで地面はひび割れる。
「春日部さん……原摘さん助かるかしら……」
「大丈夫だよ。黒ウサギが治療してくれるし」
二人は内心心配しながら、ノーネームへと歩を進めていった。
☆★☆★☆
飛鳥達が去った数分後、ガルドはなお呻いていた。
「俺は……死に、たくない!」
まだ、一歩も踏み出していない。俺の覇道はこんな所では終われない。
そんなことを考えながら、地に伏していた。
「ぢぐじょう……なんで、俺が……!」
悪魔に魂を売り、吸血鬼に当て馬にされ、折角与えられた力を振るっても惨めな敗北を味わう羽目になった。
なんと、自分は弱いんだ。
そう自分を卑下しながら、胸の内に溜まるのは極大の憎悪。
こんな結末など許せないと願った時───
「よお……まだ生きてるか? ガルド=ガスパー……」
聞き覚えのある声がガルドの鼓膜を揺らす。
激痛が奔る体に鞭を打ち、首を向ければ、其処には何故か秋世が居た。
「テメェ……何故、今更、俺に何の用が……!」
ゲームは終了し、ガルドは時間が経てば死に絶える。勝者であるノーネームのメンバーである秋世がこの場にいる理由がない。
ガルドの顔を見て、何が面白いのか秋世は嗤う。
「……何、そう難しい事じゃない。カフェでのお前には興味が湧かなかった。だが、今のお前には価値がある。用途がある」
だから取りに来たと秋世は言った。
その言葉は今のガルドを激昂させるには十分だった。
「巫山戯るな! また俺に物になれとでも言うつもりか!? 何で、俺の理想を邪魔をしやがる!」
怒りに満ちた言の葉を吐くが、闇の閃刃がそれを押しつぶすようにガルドを黙られる。
「……るせえよ。俺はお前にチャンスをやると言ってるんだよ」
「チャンスだと……?」
再び持ち込まれる
「……力が欲しいか? 誇りを取り戻したいか?
二度と光を浴びる事がなくともそれを手にする覚悟は……不倶戴天の覚悟はあるか?」
不倶戴天の覚悟……それが意味する事はガルドにはわからなかったが、彼は性懲りも無く闇へと手を伸ばす。
「寄越せ……! 寄越せよ、力を俺に……!」
するとガルドの体を闇が包み込んだ。
今までのガルドならば、恐れ慄いていただろうが、不思議な事に恐怖はなかった。
「契約成立だな……俺が強くしてやるよガルド……」
闇は膨張と収縮を繰り返し、ガルドは闇に溶け、やがて消えた。
「まあ……お前が施術に耐えられたらの話だけどな」
秋世は日が暮れゆく天を仰ぎ、三日月のような笑みを浮かべ嗤い続ける。
新たな、否、復活の英雄譚が紡がれる日は近いと。
「だから……待っていてくれ
負けはしないと、何度目になるであろう誓いを立てるのだった。
例え、自らが砕け散ろうと止まらない。
最悪の日は音もなく近づきつつあった。