理想を求める者達も異世界から来るそうですよ?   作:幻想のtidus

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白亜の宮殿──後編

 褐色の光が世界を覆う。

 雲を、同志達を──遍く全てを石に変える。

 

 光を突き破り、十六夜はアルゴールに突貫する。

 彼の興味はルイオスよりアルゴールに向いていたのもあるが、ルイオスの相手は秋世だと理解していた。

 

 “アルゴル”とは悪魔の頭を意味を持つ星。箱庭に召喚されている星座のペルセウスが掲げるゴーゴンの首である。

 一つの星を背負う魔王……アルゴールに十六夜は力で挑む。

 

 両の手が組み合った状態による力比べ。

 均衡している様に見えたのは一瞬だった。徐々にアルゴールは持ち上がり十六夜に軍配が上がる。

 

「ra!? GEEEYAAAAAAaaaaaa!!」

 

「どうしたよ! 本当に悲鳴に聞こえるぞ!」

 

 そして振り回し、投げ飛ばす。

 十六夜の尋常ならざる怪力は拘束されている悪魔などでは相手にならない。

 

 アルゴールは緩慢な動きで体勢を立て直し、その赤い瞳で十六夜を静かに見据えていた。品定めをする如く目を光らせて……

 

 

 

 

 闇が奔り、閃刃が斬り結ぶ。

 幾千もの枝となって、ルイオスを串刺しにする為に天を突く。

 だが、ルイオスは手に持つ二振りの鎌が闇を弾いて、弾いて弾いて弾いて弾いて……弾き続ける。

 

「何を見下している……俺の上に座せるのは彼女だけだ……!」

 

 さらに放たれるのは黒く染め上げられた落石の数々。

 触れれば侵食を開始する闇を纏ったそれに当たれば闇は全てを侵食し、簒奪する毒となり得る闇。

 

 それをルイオスは容易く斬り結び、弾く。

 

 神格を得た事で単純な攻撃でも脅威となる。

 故にこの程度、恐るに値しないとルイオスは笑ってみせる。

 

 それに伴い秋世もテンポを上げていく。

 一で駄目なら十、十で駄目なら百の闇が顕現しルイオスを苛烈に攻め立て、白亜の宮殿を侵食する闇もまた侵略していく。ルイオスが遊びに興じていればいるほど白亜の宮殿は秋世が飲み込み、神殿を増築していく。

 あらゆる局面に於いて無類の万能性を有する彼の闇はこの状況下でも揺るがないが共に千日手……決定的一手を打てずにいた。

 

 そして、ルイオスは動いた。

 左手に携えた鎌を構え、秋世に突貫する。

 何かある。そう考えた秋世だが、此処で攻撃の手を休める道理はなく防御と攻撃を両立させる。閃刃は天を突き、彼の周囲を黒が覆う。

 

「霊格開放……疑似神格・時の翁の鎌(プロト・アダマス)

 

 

 そして断頭の鎌が振り下ろさせる。

 刹那、()()()()()()()()()()

 比喩など無く、まるで空間ごと切り裂いたであろう斬痕が秋世の腕に刻まれる。

 

「は、はははははは! 凄い、凄いぞ! これが神霊殺しだった頃のハルパーの贋作か……!」

 

「ハルパーの……贋作……か」

 

 納得だ、と秋世は一人頷く。

 箱庭に召喚されているのは星座に召し上げられたペルセウス。そしてペルセウスが生前使用したハルパーは外界で神霊を殺す役割を与えられていたこと。

 だが星霊であるアルゴールには神霊殺しの恩恵は通じない。

 それこそ箱庭に於けるハルパーの謎。つまりハルパーは神霊殺しの恩恵から星霊殺しの恩恵に変えられているということだ。

 つまりアルゴールとメドゥーサは別の存在だとすれば説明がつく。

 そして、アダマスの鎌はこの世で最も硬い金属で作られ、万物を切り裂くと言われている。

 

 

「だが……そのレプリカがあるのは少し解せないな……」

 

 だからこそ解せない。

 レプリカが作れているのなら他の騎士達に渡せばゲームの難易度は上がっていたはずだ。だがルイオスはそれをしなかった。

 それと併せてルイオスの霊格の上昇、神格を鑑みれば答えは幾つか絞れる。

 

「……ああ、誰からか買ったのか……」

 

 他人から恩恵を得たからルイオスは強くなっている、と秋世は結論を出す。

 だがそれでも───

 

「……所詮は、その程度……俺の求める形ではない」

 

 綺麗に切断された腕を闇で固定し、再度振るわれる万物を切り裂く一閃を寸前で避けていく。

 

「俺を砕きたいのなら光でも持ってくるんだな」

 

 アダマスの一閃を躱しざまに闇の刺突がルイオスの頬を掠める。

 

 だがルイオスは含み笑って……

 

「そうかい。なら、新しい見世物でも披露してやるよ

 

 

 

 起きろ、アルゴール」

 

 ルイオスの言葉と共に大気が震える。

 一つの星がその場に降り立とうとしている。

 

 

 変化は如実に現れていた。

 十六夜の地殻変動に等しい一撃をアルゴールは片手で掴み、力任せに投げ飛ばす。

 

 容姿は徐々に小さく、霊格は上昇し……否、戻り始めている。

 その力は東側最強の主催者である白夜叉と同格まで戻り、アルゴールの容姿に変化が現われる。

 

 そして其処に立っているのは一人の少女──アルゴールだった。

 

「はあ……戻すなら最初っからすれば良いし! アルちゃんがこんな奴らに負けると思ってるわけ!? ルイオスのくせに生意気だし!」

 

 少女の様に怒っているアルゴールは秋世達に目もくれずにルイオスに文句を言っていた。

 

「……五月蝿い」

 

「余所見してんなゴラァァァア!」

 

 秋世の闇の閃刃がアルゴールに向けて放たれ、同時に十六夜が第三宇宙速度でアルゴールに突き進む。

 

 太陽さえ吞み込むやもしれぬ闇と大地を揺るがす一撃をアルゴールは一瞥し、

 

 

 

 

「邪魔だし」

 

 褐色の光で闇を抑え込み、光は秋世さえも害していく。

 体の所々が石になっていく。闇によるカバーが間に合わないと感じた秋世は周囲の瓦礫を闇を纏わせ投擲するが、それさえアルゴールが手繰る拘束具が砕いていく。

 

 そして十六夜は大量の投擲物の中を縫う様にアルゴールに接近し、大地を揺るがす一撃を放つ。

 だが、十六夜の一撃をアルゴールは片手で受け止める。

 

「うーん……そうだ!

 お前にはさっき投げられたから御礼に殴り方を教えてやるし」

 

「ガァッ!?」

 

 そう言って放たれたのは星を揺るがす星霊の一撃。その拳は十六夜の腹部に刺さり、秋世目掛けて吹き飛ばされる。

 

「案外呆気ないな〜……まあ、所詮は名無しってことだろうけどね」

 

「はあ、なんでアルちゃんこんな奴に隷属されてるんだろ……」

 

 下卑た笑いを浮かべるルイオスとそれに呆れるアルゴール。

 

 アルゴールは空を見上げ、このゲームを観戦している知己に告げる。

 

「白夜王! 此奴らの次はお前だからな!」

 

 覚悟していろ、とアルゴールはの宣戦布告が大気を震わせて響き渡る。

 

 だが、土煙から突き抜けて来る一つの影がアルゴールの視界に映る。

 先程の速度を超えて、十六夜はアルゴールの懐に潜り込み、渾身の一撃を放つ。

 

(無駄な事、大好きなのかな?)

 

 然し、アルゴールは多少の速度の増減程度では彼女が驚愕するような事などない。

 ならば後は単純。先程の様に拳を十六夜目掛けて振り下ろす。たったこれだけの動作で叩きのめす事さえ可能な程、アルゴールと十六夜とでは天と地程の様な実力差がある。

 

 そして、拳を振り下ろし吹き飛んだ。

 

 

 

 

(あれ? なんでアルちゃん、空なんか見てんの?)

 

 アルゴールはいつの間にか白亜の宮殿を覆う夜空を見上げていた。四桁まで回帰した身体に僅かな痛みが奔っている事を実感し、起き上がる。

 

 ルイオス(塵屑)が動揺して騒ぎ立てているが聞こえない。審判の兎が驚愕している事さえ目に入らない。

 彼女の視界に映るのはただ一つ、十六夜だけだ。

 

 何が起こったのは定かではないが、霊格がアルゴールと並んでいたのだ。誤差無く、寸分違わず同等なのだ。

 そして、特筆すべきは十六夜の胸の辺りで廻る()()()()()だった。

 

 あまりにも見覚えのある恩恵だった。

 ■■■……最強の神殺したる彼の魔王の代名詞たる恩恵に類似していた。

 

(レプリカか……?)

 

 確かにレプリカの可能性はある。

 梵天槍に梵釈槍というレプリカがある様に、それと同じ様にレプリカと断ずるのが最良だとアルゴールは判断する。

 

 然し、レプリカといえど侮れない。

 元の恩恵が恩恵だ、基礎性能の差など当てにはならない。故にここからは今まで培ってきた経験がモノを言う。

 

 アルゴールの殺気が最奥に充満し、溢れ出す。

 それに対している十六夜だが、彼には実感がなかった。

 自分に起きている現象がどんなものかなど今はどうでも良かった。自分の求めたモノの探求……最優先すべきはそれのみ。

 

 故に喜々として凶暴な笑みを浮かべて、アルゴールへと突貫する。

 

 速度が上がった──もっと楽しめる!

 膂力が上がった──まだ戦える!

 元魔王(アルゴール)と同じ土俵に居る──もっと強く、激しく戦いたい!

 

「ヤハハハハハハハハハハ!!!!」

 

「お前ウザいし! さっさと潰れちゃえ!」

 

「やれ、アルゴール!」

 

 アルゴールに指示を出すルイオスだが、その体を地上より伸びる闇が体を絡め取ろうと唸りを上げる。

 

「無駄なんだよ根暗野郎! お前が何千、何万とやろうが僕を捉えることなんか出来るか!」

 

 だが、その闇も先程同様にアダマスによって切り裂かれる。

 闇は障子紙を切るように容易く切り裂かれるが、途端にルイオスの体捌きが格段に()()()()()のだ。

 

 何があった、と周囲を見渡せばルイオスの影が闇に縫いとめられていた。わ

 然し、この程度では体捌きが鈍る理由がない。あるはずがない。

 

「類感呪術、感染呪術併合──」

 

 秋世の周囲を何かが漂う。

 それは文字のようであり、何かの災厄を形取っているかのように不吉な予感を感じるものだった。

 

 事実、彼が行使しているのは呪うためのモノ。彼は外界にて数多の術を習得し、それを一纏めにした恩恵“外法”を有している。

 然し、“外法”は全能の逆説により、制限を受けており一部の術法が使用不可能だった。

 

 だが、白夜叉との戦いで彼は負けも同然の引き分けを機に考える。

 使えぬのに持っているものなど、唯の欠陥品だ。

 

 今、使える術法では戦闘に役立てる事は出来ない。ならば答えは単純明解。

 

 使えぬなら、使()()()()()()()()()()()

 

 そして、その結果が如実に現れる。

 彼がやっているのは類感呪術と感染呪術の複合術式。

 類感呪術の類似の原則に基づく特性を利用し、ルイオスを止めるために影を闇で抑え込み、感染呪術の接触の原理の基づく特性が遠隔地であろうとルイオスと接触している影を縫いとめる事で動きを鈍らせようとしている。

 

 この二つの呪術体系が相互に作用し、ルイオスの動きを鈍らせるに至っている。

 

 然し、それだけでは終わらない。

 闇がさらに独創的な魔法陣を組み上げ、火の手があがる。

 拡散する様に放たれる焔火が、最奥の間を埋め尽くす様にルイオスを追い立てる。

 

「チッ──!?」

 

 ヘルメスの靴で空高く飛翔するルイオス。

 それを狙い撃つように術式が変化し、足場が隆起していく。

 

 天を穿つ岩の塊と闇の閃刃をルイオスはアダマスとハルパーで斬り裂いて難を逃れようとするが……

 

 

 

 一陣の風と共に形勢が変わろうとしていた。

 

 

 

 その現象は1755年、リスボン地震や1923年に起きた関東大震災に於いて観測された天災。

 

 炎を伴うその旋風───

 

 

 

 

 

 名を火災旋風……人体に致命をもたらす天災なり。

 

「ぐっ……ォォォォォオオオオ!!!!」

 

「ちょっ! 待てやゴラァァァ!」

 

 すぐさま十六夜は最奥の間の足場に力を一点集中した拳を放ち、穴を開けて黒ウサギとジンを連れて下層に逃れる。

 今や下層の者達は石化している為、見つかる事はない。故に最善手とも言える一手だ。

 

 ルイオスの体を1000度を超える旋風が襲い掛かる。

 高位生命たるルイオスでも徐々に体が焼き焦げていくが、問題はそこではない。

 

(息が……!)

 

 彼の呼吸器が高温のガスで損害を受けていたのだ。

 火災旋風の恐るべき点は多くの死者が高温のガスや炎を吸い込んだ事による窒息死である。

 

「ふん、お前生意気なんだよ!」

 

 アルゴールはその背に持つ翼を動かす。

 その一挙動のみで旋風を巻き起こし、秋世の作り上げた火災旋風を打ち消した。

 

 然し、ルイオスが受けた被害は軽微では無い。呼吸器は損壊を寸前、体は焼き焦げ気味……致命とまではいかないが傷は浅くない。

 

 故にアルゴールは秋世へと仕掛ける。

 稚拙ながらも魔王としての天賦の才を持つアルゴールに策など不要。アルゴールは自らの持つ力でねじ伏せる為に拳を握るが……

 

「テメエの相手は俺だろうがよ元魔王様! 相手を間違えんな!」

 

 真下より足場をぶち抜いて現れた十六夜の拳がアルゴールの顎を捉える。

 死にはしないとはいえ、その拳は今やアルゴールと並ぶ威力だ。

 

「アル……ゴール、宮殿の悪魔化だ……!」

 

「お前がアルちゃんに命令するな!」

 

 そしてアルゴールが放つは魔獣を生み出す与える側の力。

 

 壁が、外柱が、足場が魔獣へと変幻していく。

 然し、十六夜の判断は早かった。

 すぐさま地殻変動に匹敵する拳を放ち、一つの悪魔と化した宮殿を粉砕する。

 

「良くやった……」

 

「上から目線だな、オイ」

 

 然し、彼らは止まらない。

 すぐさま秋世は外法をアレンジし、錬金術を行使する。

 死骸と化した魔獣達を用いて新たな魔獣を創生させる。

 錬金術は元より肉体や魂をも対象としており、それらをより完全なモノとして錬金する試みなのだから、この程度の事は造作もない。

 

『GOAAAAAaaaaaa!』

 

 作り上げられた魔獣の合成獣(キメラ)は十数体。それらが一斉にルイオス目掛けて襲い掛かる。

 

「アルゴールの相手はしなくていい……ルイオスさえ抑えれば勝ちだ……」

 

 このゲームはルイオスの打倒だ。

 アルゴールが最大の障害だが、此方には星霊を倒す手段がないのだからルイオスのみにしぼるのが鉄則だ。

 

「やれ……」

 

『GOAAAAAaaaaaa!』

 

「チィ───!」

 

 アルゴールはルイオスを庇うように前に出る。

 合成獣はアルゴールなど目もくれずにルイオスに標準を合わせ、走り出す。

 

 だがアルゴールは歴戦の魔王……合成獣の頭蓋を即座に叩き割る。

 獣という体系を取っている以上は急所は存在する。ならば頭部が妥当と判断したのだ。

 

 さらにアルゴールは自らの最強の一手を繰り出す。

 それは開戦のおり放たれた石化の褐色光。

 

 褐色の光が収束し始め、そして──!

 

 

 

「死にさらせェェェェ!」

 

 万象を石に変える光が二人の名無し目掛けて放たれる!

 

 それに十六夜は真っ向から挑み……

 

「しゃら……くせぇ!」

 

 ()()()()()()()()()()

 

「んな……!」

 

 信じられない現実をアルゴールは目の当たりにした。あまりにも出鱈目すぎる。

 彼の魔王と同じ恩恵を持ち、人間という規格から外れた膂力と恩恵さえ無効化する異能。

 

(此奴本当に人間!?)

 

 古くから箱庭に存在する者がこの光景を見れば、十人中八人は同意していたであろう。

 

 然し──

 

「上出来だ……下がっていろ……!」

 

 大気が、空間が鳴動する。

 白亜の宮殿は軋み、悲鳴をあげていた。

 

 その震源に目を向ければ、そこには秋世と()()()()が存在していた。

 

「白夜王……?」

 

 何故、この言葉が出たのか……アルゴール自身も分からなかった。

 ただ、あの球体を見た瞬間に白夜王の姿を幻視していたのだ。

 

「“カタストロフェ”起動……終に廻りて閉ざせ──疑似創星図」

 

 球体は闇の極光を放ち、その存在感を強める。

 

「ペルセウスよ……此処で散れ。お前は勝利すべきものにあらぬから……」

 

「アルゴォォォォォオオオオル!?」

 

「こんな奴にアルちゃんが負けるか!」

 

 それは白夜叉とのゲームに於いて秋世が最後に放ったモノ──白亜の宮殿が余波で崩れ始める。

 

 闇の極光を構え、秋世は駆ける。

 時間の定義を書き換えて加速していき、アルゴールとルイオスが重なるように放つ。

 

「アアアァァ!」

 

 闇の極光をアルゴールは体を張ってルイオスを守るが、アルゴールはこの一撃に違和感を覚えた。

 

(何故、固有の能力を使わない──!)

 

 疑似創星図と呼ばれた恩恵には全能を超える固有の能力を持っている。そしてデフォルトの能力として星を砕く一撃、外宇宙と内宇宙のズレを利用することさえ出来る。

 

 今、秋世が使っているモノはデフォルト機能である。

 然し、同時に彼の疑似創星図は()()()の様に感じられる。

 大事なモノが欠けているような感覚にアルゴールは感じていた。

 

「さあ、英雄譚を彩る端役達……お前らでは主役の光を超えられない」

 

 暗い闇の極光がアルゴールを飲み込む。

 その余波の直撃を受けたルイオスは塵芥の如く、その身を宙に舞わせた。

 

 

 

 

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