理想を求める者達も異世界から来るそうですよ?   作:幻想のtidus

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遅くなりました!
コラボ中編です!


地球の理と闇──中編

 ──誰も悪くないのだ。

 ──悪いのは私なのだから。

 

 男はただ一人、自問自答し続ける。

 

 ──誰が悪い?

 それは己の未熟さだ。

 

 ──不幸にしたのは誰だ?

 それも己だ。

 

 友や人々の慟哭を聴き、太陽()に矢を向け射落とした。

 だが、これで良かったのだろうか?

 

 殺す必要があったか?

 和解の道もあった筈だ。己がもう少し粘っていれば彼らは死ぬ事もなく、元の豊かな世界に戻っていたのではないだろうか?

 

 人間として降天した後、天災たる害獣達を殺さずに共存という手もあったのではないか?

 

 その後も……愛する人を悲しませる事も無かった筈だ。

 

 だから、なあ……私はいくら貶されようと構わない。だから、彼女の事を謳わないでくれまいか?

 

 月の様な美しさを兼ねた愛しの嫦娥よ。

 貴女の汚名は我が手で晴らそう。

 だから───

 

 

 涙を流さないでくれまいか?

 

 ☆★☆★☆

 

 

『ギフトゲーム名“大羿”

 

 嗚呼、友よ、人々よ。何故嘆き、悲しんでいるのだ?

 輝く天上の烏たちよ。どうかその御威光をお納め下さい。人々は貴方達の威光に抱かれ、焼き焦がされ、此処を地獄と呼ぶのだ。

 どうか、一人になってはくれまいか?

 でなくば我が一矢は貴方達を射抜いてみせよう。

 

 嗚呼、人々よ。何故困り果てている?

 蔓延る天災の脅威に晒され続けるならば弓を引こう。遍く悪獣を射抜こうぞ。

 

 嗚呼、最愛なる我が妻よ。人の生を忌避する貴女を天へと至らせよう。

 願うならば探し続けよう。貴女が天へ昇るまで。

 

 我が願いは彼女に会う事。

 この軌跡を辿った先を見据えねば、落陽には至らない。

 

 “后羿”印』

 

 光を超えた先──ゲーム盤へと辿り着いた“ノーネーム”を襲ったのは身が焼ける様な痛みだった。

 

「アアアァァアアアァァ!??」

 

 身体を焼き焦がす威光が皆を照らしていた。

 灼熱地獄──此処はそういう場所なのだ、と彼らは刹那の間に認識する。

 

「クッ──!? 待っておれ、今何とかする!」

 

 白夜叉は夜叉としての恩恵を使い、黒ウサギ達に水の加護を与える。

 加護は身体に薄く広がりながら包んでいく。

 

「何なんだ……コレ……!」

 

 彼らが見たのは死の大地だった。

 大地は枯れ果てて、水分など無く罅割れている。

 木々は繁らず、此処に生命の営みなど皆無だった。

 

 そして最も目を惹いたのは──

 

「「太陽が十個ある……?」」

 

 二人の耀が同時に口を開いた。

 やはり別世界と云えど性格などが似ているのだろう。

 

「そりゃあ、あの名高い后羿のゲームだ。后羿の逸話の中で一番知名度のある逸話をなぞってるんだろ」

 

 十六夜は契約書類(ギアスロール)の内容を吟味しながらそう答えた。

 

 后羿は弓の名手と呼ばれ、“楚辞”で説かれている太陽を九つ射落した逸話が知られている。

 

「それと契約書類に書かれている“嗚呼”のくだりが三つ。然も、内容も助けを求めている奴らも違う事から后羿の三つの功績を指してるんだろうな」

 

 射日神話で語られている后羿の逸話で一番の知名度を誇っているのは太陽を射落とした話だが、他にも后羿の逸話は存在する。

 

 十六夜は指を三つ立てて考察を述べる。

 

「一つ、一番知られているだろう太陽を九つ射落とした逸話。

 二つ、神から人間に堕とされた後、天災たる悪獣達を調伏した逸話。

 三つ、妻の為に不老不死の薬を求めた逸話。

 契約書類の内容を鑑みれば、このゲームには后羿を倒す以外に三つの勝利条件が存在している」

 

「だから……何が言いてえんだよォォ!? 俺、全然わけわかんねえよ!」

 

 龍悠は唸り声を上げる。

 龍悠は十六夜が言っている内容を理解する事が出来ず、頭が故障しているかの様に頭から煙が出ていた。

 

「……続けるぞ。つまり、あの空にある太陽もゲームギミックなら──

 

 他にも記されている悪獣、不老不死の薬が存在する筈だ」

 

「つまり、幾つかに分かれて勝利条件を満たそうという訳ですか」

 

「成る程」

 

 夏海と悠雷は納得した様だ。

 然し、飛鳥だけは契約書類をずっと眺めていた。

 

「どうかしたかお嬢様?」

 

「ええ、私にはその后羿という人の逸話を全然知らないのだけど……この終盤の文章おかしくないかしら?」

 

「えと……この“我が願いは彼女に会う事”という一文ですか?」

 

 真は契約書類に記された一文に指を指して問いかける。

 

「ええ、彼の逸話を辿るというなら、この一文は何を指しているのか気になってたのよ」

 

「それは恐らく……彼奴の妻に会う事も何かしら関わっているのだろう」

 

 白夜叉は空を見上げながら同情するかの様な声音だった。

 

「兎に角……后羿に勝つには奴を倒す以外の勝利条件三つを攻略する事が先決だ」

 

「なら……アレらは僕と悠雷が相手をしましょう」

 

 真が指差した方角。

 その先は今いる灼熱地獄とは変わったモノだった。

 

 それは一つの軍勢。

 天災と称されるに相応しい魔獣の進撃。

 十六夜の目に映るのは六体の天災だった。

 窫窳(あつゆ)

 鑿歯(さくし)

 九嬰(きゅうえい)

 大風(たいふう)

 修蛇(しゅうだ)

 封豨(ほうき)

 どれも后羿がその一矢で葬った天災だった。

 

「行くよ……悠雷」

 

「ああ、本当なら后羿の所に行きたいが……勝つ為にはその方がいいだろ」

 

 悠雷は后羿と相性が悪いと断じた。

 本来なら真っ先に突っ込んでいく所なのだが、相手が后羿となれば話は別だ。

 

 神を、星を落として見せた大英雄相手では半神である悠雷では消滅されかねない。

 

「なら俺が后羿を───」

 

「お前も駄目だぞ赤髪ショタ」

 

 当てもなく后羿の元へ向かおうとする龍悠の襟首を十六夜は掴んで龍悠を抑え込む。

 

「何で止めんだこの野郎!」

 

「お前も后羿と相性が悪いんだよ。彼奴らにでも任せて……」

 

 急に十六夜は言葉を切った。

 そのまま悠雷と真に視線を向けて──

 

「お前ら誰なんだ?」

 

 十六夜は今更な事を口にした。

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

「へえ……別世界の箱庭か。そんなものまであるんだな」

 

「まあ、それは置いといて……

 僕と悠雷、それと龍悠君はあの魔獣達の相手をするとして、君達はどうするんだい?」

 

「俺は后羿を抑える。他の奴らは大抵、后羿の逸話から考えると不利だしな」

 

 十六夜の言う通り、后羿の功績は神霊や星霊、純血の龍種、魔獣の類を殺したモノが多い。

 龍種の恩恵を所持する龍悠や七つの大罪の悪魔達。

 悠雷は半神ゆえに神霊殺しの恩恵が効いてしまい、真は空間跳躍を完全に読み切られ、尚且つ后羿が人間に降天している為に思う様に戦えない。

 

「俺か富久音、そっちの城崎とかいう奴なら可能性がない訳じゃない。

 白夜叉が后羿と戦えれば良いんだが、奴を相手にそれは悪手だ」

 

 だから、と続けようとした時。

 彼らの頭上を飛ぶ五つの巨影に目が止まった。

 

『GEEEYAAAAAAaaaaaa!!!!』

 

「な!? なんでギャオスがこんな所に……!」

 

「大方、俺たちがこっちに来た時に一緒に来てたんだろうよ」

 

 咆哮を響かせ、空を飛翔するギャオスはある方向へと殺到していた。

 そしてギャオスの進行方向へ視線を向けるる“耀”は十六夜に提案する。

 

「私は后羿の所に行く」

 

 それはとても容認できる様なものではなかったが、悠雷と真は得心がいった様だった。

 

「別世界の春日部……それは無理だ。実力差は歴然だってわかるよな」

 

「うん。だからこそだよ。きっと甲だって分かってる。だから彼は后羿の所にいる」

 

 そうに違いない、と“耀”は言う。

 悠雷と真も分かっているかの様に無言で頷く。

 十六夜は暫く無言で考え込み、そして──

 

「分かった。但し、誰もフォローは出来ねえぞ」

 

 了承した。

 これより始まるのは魔王の試練。

 本来なら行かせる訳にはいかないが、“耀”が自信満々に言うのだ。

 仲間である二人も頷くなら致し方ない。

 

「なら、最終確認だ。

 俺とそっちの“春日部”は后羿を抑えに行く。

 天駆、魂奏、赤髪ショタ……それと原摘は魔獣退治。

 残りは不老不死の薬探しだ」

 

「オオオオォォォォォオオオオ!!!!」

 

 龍悠は自分自身を鼓舞する為の咆哮が灼熱の大地に轟く。その咆哮だけで大地はクレーターを形成し、龍悠は大地を強く蹴って駆け出した。

 

「漸くだ! お前ら、無事でいられると思うなよォォ!」

 

 魔獣の軍勢に無策で挑む子龍に一瞥した魔獣達内の一体が躍りでる。

 

 名を修蛇。洞庭湖に住まう水害の化身たる龍種である。

 

 龍悠は修蛇を踏破しようと自らの胸筋を膨らませる。開かれた口の隙間からは、喉の奥より溢れる星の息吹が姿を覗かせる。

 

 なんだ、そういう嗜好か。

 修蛇は嗜虐の笑みを浮かべて胸筋を膨らませる。開かれた口の隙間からは、喉の奥より溢れ出る蒸気が姿を覗かせる。

 

 これこそ龍の代名詞。暴虐の象徴。

 

 

 即ち、龍の咆哮(ブレス)である。

 

「GEEEYAAAAAaaaaaa!!!」

 

 龍悠の雄叫びが響き、同時に咆哮(ブレス)が放たれる。

 放たれるたのは星の息吹たる極光と圧縮された水の放射が極光となってぶつかり合う。

 

 大地を削り、消滅させながら極光は拮抗する。

 なまじ同じ龍種の力ではあるが、龍悠と修蛇では力の差、もとい経験の差が如実に姿を現した。

 

 徐々に押し返される星の恩恵を孕んだ咆哮。

 龍悠の両足が大地に減り込んでいく。

 無駄だ、諦めろ。ここがお前の限界だ。

 修蛇の失笑めいた目が龍悠を奮い立たせる。

 

 だが結果は変わらない。

 徐々に迫り来る修蛇の咆哮。

 意思の力で難関を乗り越える事は確かに可能だ。然しそれは英雄(主人公)足り得る者の専売であり、この場でその様な奇跡は起こり得ない。

 

 この現状を打開するには──

 

 

「アクセス──我が怠慢(シン)

 栄えある我らが原初の海()よ。

 貴女の抱擁を私は真摯に受け止めたい。

 故に全ての生命の深淵を、愛を求めて溺れる(おちる)のだ。

 権能(コード)原初の海(ティアマト)実行」

 

「ミョルニィィィルッ!!!!」

 

「オオオオオォォォォォッ!!!!」

 

 原初の海が灼熱の大地を抱擁せんと優しき慈愛(津波)と共に流れ出す。その後を追う形で雷が奔り、魂奏者は舞う。

 

 母の慈愛は十の太陽に焦がされ続けるが、干上がる事なく、余す事なく抱き締める。

 

 当然、害悪、天災、悪獣と謳われた魔獣達も例外ではない。そして追い討ちをかける雷と斬撃。

 豪華絢爛と咲き誇る、威烈の花が炸裂する。

 

『GEEEYAAAAAaaaaaa!!』

 

 然りとて、これで終わる魔獣達ではない。

 荒れ狂う大嵐が、何も恐れぬ狂した獣の進撃が、威烈の花を散らしてみせる。

 

 大嵐が原初の抱擁を巻き上げ、獣の進撃が斬撃をその身に浴びてなお、突進する事を止めない。

 封豨と呼ばれた猪に並大抵の武具では歯が立たないが、如何に封豨でもこの剣閃は防ぎきれぬと判断を下した。

 そのまま身体を捩らせ、斬撃を逸らしながら突進し続ける。

 猪突猛進とはまさにこの事だった。

 

 大海を突き抜け、雷を、剣閃を掻い潜り、猪は夏海の懐まで到達し、かち上げる。

 

「させっかよォォォォーーーー!!!!」

 

 そんな事をさせてたまるか、と防衛する事に長けている子龍の魂が燃え上がる。

 誰も散らせぬ、殺させぬ。

 彼の腕は守護(まも)るモノ。

 傲岸不遜な猪などに負けるものかと猛り吼える。

 

「お、おお、おおおおおおおォォ!」

 

 雄叫びを上げ、封豨を投げ飛ばす。

 そして四人は並び立つ。

 

「龍悠……だっけか? お前、先走りすぎだ」

 

「無鉄砲すぎじゃないかな? とてもじゃないけど得策とは言い難いな」

 

「あの……もう少し優しく言ってあげた方が……」

 

「五月蝿え! さっさと構えろよ……次、くるぞ」

 

 龍悠の視線の先、未だ致命傷という致命傷を負っていない魔獣達。

 

『GEEEEEEYAAAAAaaaaaa!!!」

 

 魔獣の進撃、蹂躙、進軍。

 獣の軍勢を前に四人の人間はその真っ只中に特攻した。

 

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

 灼熱の大地を甲は疾駆する。

 その一歩一歩は音を超え、ただひたすらに撹乱し続ける。

 足を止めれば即座に射抜かれる。首を刎ねられる。死神の手は徐々に甲の首に手を掛けようと迫っていた。

 

「──無駄だ」

 

 慈悲に満ちた声音が響く。

 それに続くかの様に空気を裂いて飛来する射日の矢。その速度たるや第三宇宙速度を優に超えている。

 

 一矢一矢が必殺を秘めて飛来する。矢は連続して甲に殺到し、その命を刈り取ろうと迫り続ける。

 

「チィッ!」

 

 矢から背を向ける事を止め、甲は極大の熱線として放ち、矢の半数を焼こうとする。

 然し、矢は熱線を裂きながら進むモノが存在するが、それは甲の想定内。

 

 例え防ぐ事は出来ずとも、逸らす事は出来ている。甲は焔の剣を形成し、直撃するであろう矢だけを逸らして逃げるを繰り返す。

 

「はぁ……はぁ……! 畜生……!」

 

 甲の疲労は蓄積されるばかりだった。一つのミスが死へと繋がる為、甲に余力はあまり残されてはいない。

 甲の視界には嘗てギャオスだったモノが映る。

 

 ほんの数分前、五体のギャオスが甲達に強襲して来たのだ。

 遺伝子的に完璧すぎるほど完璧と称される地球の理の天敵。その天敵を后羿は一体ずつ簡単に処理していった。

 

 粉砕し、斬り裂き、風穴を開け命を絶っていく……最早、ギャオスとの戦いは勝負ではなく唯の作業と言わんばかりの蹂躙だったのだ。

 されど后羿は汗一つかいておらず、淡々と矢を射る続ける。

 

「貴方達……早々に月界神殿を渡しなさい。

 命を落としたくはないだろう?

 渡していただければ……危害も何も加えない」

 

「は! どの口が言ってんだ。仲間の恩恵を奪おうとしている奴を信用できると思うか?」

 

「同感ですよ」

 

 矢を絶え間なく放ち続ける后羿。

 油断なく、慢心なく、淡々と甲を追い詰め続ける。

 

「貴方の霊格……おおよそ魔獣や幻獣の類と予想を立てたが……どうやら当たっていたらしい

 

 

 貴方のような者を魔物、魔獣と呼ぶの大変失礼だが……結果がこれなのだ。許さなくて良い」

 

 甲……否、地球の理(ガメラ)は怪獣に分類されている。彼の霊格の大部分を占めている怪獣の霊格が、后羿の功績が甲の首を絞めていた。

 

「……このままでは埒があかない。

 あまり貴方一人に使いたくないのだが……」

 

 そう言うと后羿はギフトカードから赤い弓と白羽の矢を取り出した。

 

「さっきのか!」

 

 ギフトゲームが始まる前に悠雷に放たれた神殺しにして星霊殺しの太陽を射落とす功績の再現。だが、悠雷に放ったのはただの弓、ただの矢でだ。

 

 今、放たれる一矢こそ射日の一撃の真なる再現。一度のギフトゲームに十回しか使用出来ない奇跡の一矢を甲に向ける。

 

 光が消える。闇が版図を塗りつぶす。

 その一矢は太陽の威光を消す、落陽の具現。

 これぞ射日の逸話。

 

「穿て……射日神話!」

 

 瞬間、光が爆ぜた。

 矢が描く軌跡は流星の如し。輝く威光が尾となり飛翔。

 然し、その美しさと相反して、それが生み出す結果は脅威だった。

 奔る軌跡は大地を抉り、大気を裂き、ありとあらゆる威光を剥ぎ取る落陽の一撃は救世の怪獣目掛けて突き進む。

 

 これぞ落陽、ただの一矢が生み出したとは思えない力場に飲まれれば誰も残らぬ黄昏をとなる。

 

「くっ、そぉぉぉおおお!!!!」

 

 甲は落陽の一撃を己の全てを懸けて飲まれれば百は殺される力場を迎え撃つ。

 

 身体能力を強化する炎を纏い、

 炎弾を、熱線を放ち、落陽の一撃を食い止めようとする。

 

 然し、落陽の一撃は決して止まる事なく突き進む。

 

 落陽の一撃はそんなものでは止まらない。

 元より后羿の功績は自然調伏の功績だ。

 太陽への畏怖、天災への畏怖……太陽や天災の具現たる神、魔獣達を調伏した事に起因する。

 

 よって、星からの使命を受け給う怪獣である地球の理(ガメラ)は最初から后羿の功績に嵌っているのだ。

 

「諦めろ。御身では……落陽からは逃げられない」

 

 迫る落陽が、死神の鎌が甲の喉元まで迫る。

 根源的な恐怖に身が震えるが、自身を叱咤する。

 最後の瞬間まで思考を止めない。

 考えて考えて考えて考えて考えて考えて……考えぬく。

 

 そして甲は、賭けに出た。

 

「───一に無」

 

 これが通じるかどうかは皆無。

 失敗すれば死。成功しても致命傷を免れるかどうかわからない。

 

「───二に絶」

 

 だが、諦める訳にはいかないのだ。

 仲間を狙う奴を野放しに出来る筈もない。

 

「───三に勝」

 

 故に我が命よ、燃え上がれ。

 求めるのは勝利。完全無欠のハッピーエンド。

 

「ガーディアンビートォォォオ!!!!」

 

 未来を、勝利を紡ぐ一撃を落陽の一撃へと叩きつけた。

 それは到底勝てる筈もない勝負。

 全力全開決死で挑んでなお、かけ離れている実力差を前にしても甲は折れない。

 

「負けられねえ……負けらんねえんだよォ……!

 俺の背にはみんなの命が懸かってんだよ!

 負けられる筈……ねえだろうが!!」

 

 思い、想い、渇望(おも)い続ける。

 意思の力で覚醒を促し、意地を見せる。

 

「ぐッッッアアアァァァァァァ!!!」

 

 そして未来を紡ぐ一撃が、落陽の一撃をほんの少しだけ軌道がズレた。

 第三者の視点から見れば蟻の一穴にも劣る僅かなモノ。然し、当人達からすればそれは大きなズレとなる。

 

 そのまま巻き込む形で未来を紡ぐ一撃を大地へと放つ。

 爆ぜる大地と共に甲は爆風に身を委ね、その場から離れる。

 

 数km程吹き飛ばされ、灼熱の大地に意識も朦朧となって横たわる甲。

 その身は焼け爛れ、マナは枯渇しかけている。マナの枯渇は生死に関わる、故に周囲からマナを少量ながら摂取してなんとか命を繋いでいるのが現状なのだ。

 ───然し、

 

 

「やはり頑丈だ。流石です」

 

 

 己が決死の一撃を放っても目の前の英雄は無傷。絶望的な状況を前に甲は目の前の英雄に疑問を抱く。

 それは何故、()()()()()()()()()()使()()()()()()、という事だ。

 

 使えば早々に終わった筈。

 慈悲?

 憐れみ?

 であれば何故、ギフトゲームを仕掛ける理由があるのか。

 

「つくづく……分からねえよ……あんた」

 

「そうですね……私自身、矛盾している事は重々承知している」

 

 后羿は燦々と輝く十の太陽を見つめる。

 いや、未だ空に映らぬ別の何かを見ているのか……

 

「そうか。君も愛に狂していたのだね」

 

 二人の耳に全てを玩弄しているかの様な逆撫でする声が響く。

 秋世が笑みを浮かべて其処に居た。

 彼はギフトゲームが始まってから、ずっと俯瞰していたのだ。

 甲が命を張って后羿を抑えていた時も、ずっと。

 

「なればこそ、聞いておこう。后羿……射日の英雄よ。君の愛は其処までに尊いものなのかな?

 

 裏切られ、捨てられてなお、その情熱を絶やさずに燃やしていたのかな?」

 

「無論」

 

「では、もし君が愛しき人に会えたとしよう。それで君は目的を果たしたとしよう。

 

 ならばその後は?

 その後、君の行いは徒労となるのではないのかな?」

 

 秋世も今の実力では勝てないと知っている。

 故に舌戦……否、毒を吐く。水銀の如く、魂の根幹にまで届く呪詛を。

 

「徒労? それで私が止まるとお思いか?」

 

 だが、英雄は揺るがない。

 

「貴方達には分からないですよ。

 嫦娥は美しい、可愛らしい。彼女が貶されるのも、傷つくのも、私には許容できない」

 

 英雄は在りし日の事を思いながら言葉を紡ぐ。

 

「彼女の呪いも、穢れも、何もかも……

 つまりこういう事です。

 英雄? 神? 冗談はよして欲しい。

 私は屑です。こんなに醜い者が輝かしい者ではない。

 私を討つのであれば、それは貴方達ではなく嫦娥か……或いは……」

 

 自虐的な言葉ではあったが、その様は聖人のそれに似た輝きを放っていた。

 その言葉は愛の証明であり、后羿の高潔さを物語っていた。

 

「ふはは、ははははははははーーーー」

 

 身をよじり、腹を抱えて、秋世は笑い狂っていた。

 その様子に言い難い嫌悪と、そして寒気を覚え、甲と后羿は動けなくなっていた。

 甲も、或いは后羿までも、終世の闇を凝視したまま沈黙している。

 その中でひとしきり笑い続けた後に秋世は──

 

「結構、結構……実に浪漫溢れる事で素晴らしいよ、喝采しよう。

 俺も賛成するに躊躇いはない。

 

 男なら、誰しも愛した女に抱かれて眠りたいと願うものなあ……はははは、ははははははははーーー!」

 

「……ッ!」

 

 木霊する笑い声。弾けながらも豪快という印象からは程遠かった。

 それは魂にへばりついてくるような重さと粘性を孕んでいた。

 内に潜む感情の密度と深度が普通じゃない。

 一体何が嵌ったのかは知らないが、()()()()()()()()()()()()()

 

「おい、富久音……そのくらいにしておけよ。気持ち悪くて敵わねえよ」

 

 吐き気すら催し始めていた時に、駆けつけてきた十六夜がすべてを断ち切っていた。

 

「甲!? 大丈夫!?」

 

 遅れて駆けつけて来た“耀”は甲に駆け寄る。

 自分が血で濡れる事も厭わず抱きかかえる。

 

「ああ、大丈夫……だよ」

 

 甲は“耀”の肩を借りて立ち上がる。

 

「ヤハハ……此処からは四対一だぜ。どうする后羿」

 

 十六夜は大胆不敵に笑みを浮かべる。

 今までは数の優位が活かせなかったが、此処からは甲も更に先の領域へと手をかける事が可能。

 埋まらぬ実力差も多少埋まるやも、と期待を持つが……

 

「ええ、構いませんよ」

 

「なに?」

 

「元より苦難は承知。この様な状況を踏破出来ずして嫦娥を救えません」

 

 静かに燃ゆる后羿。

 一息で距離を取り、ギフトカードから何かを取り出した。

 それは玉で出来た弓懸だった。

 

 一目で皆が理解した。

 先程の落陽の一撃は確かに后羿の最強の一矢だった。然し、玉の弓懸は()羿()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 后羿の霊格が上昇する。

 白羽の矢をギフトカードに戻し、普通の矢を取り出した。

 例え、ただの矢であろうと后羿が放てば神の身業。自然調伏という功績が付随した一撃は星の意思さえ脅かす。

 

 弦が引き絞られる。

 死線が奔る。

 

「耀、やるぞ……!」

 

「おいおい、城崎だっけか?

 あんま無理すんな。今のお前じゃ──」

 

「退がってろ、別世界の十六夜。俺一人なら確かに負けてたかもしれねえけどよ……でも、()()耀()()()()()()()()()()()

 

 絶対の覚悟と共に言い切る甲。

 “耀”も無言で肯定している。

 そんな二人を見た秋世は笑みを浮かべる。

 

「逆廻よ、行かせると良い。彼らは今、この世界で愛を謳っているのだ……築き上げてきた絆で、愛情であの一矢を跳ね除けようとしている。

 

 ああ、凄まじいな。素晴らしいな。止める事など誰であろうと出来んだろう」

 

 相も変わらず仰々しい態度を崩さない秋世に十六夜は頭を痛めながら、

 

「城崎、春日部……やれるんだな?」

 

「当たり前だ」

 

「問題ない」

 

 二人は共に並び立つ。

 自分達の愛はあの様な一矢で負ける筈がない、と証明する為に。

 

「……貴方達の絆、誠に感服します。ですが私も折れる訳にはいかないのです」

 

 限界まで弦を引く。

 この一矢は今までの比に非ず。正真正銘、后羿が出し得る本当の一矢。

 これぞ彤弓と玉扳指を使用した一撃。

 常に勝利を、栄光を得てきた英雄が誇る号砲と知れ。

 

 

「堕ちろ、疑似神格・射日神話……!」

 

 

 放たれた一矢は先程連射していたモノとは比べようがなかった。

 

 矢が生む軌跡は奇蹟の具現そのもの。

 太陽を落とす──その奇蹟を体現する一矢は吸い込まれる様に甲達へと進む最中……

 

「私は理に祈りし者。理と共にありし者」

 

 灼熱地獄に静謐な祈りが響く。

 

「地球の理よ、私の願いを叶えて欲しい」

 

 祈りに込められたのは絆の証明であり、勝利であり、二人の愛。

 

「私の祈りは貴方の勝利。全てを護る、貴方の勝利」

 

「我、地球の理。その願い──」

 

 男は女を背に語る。目の前の英雄は紛れもなく己よりも強者だ。

 だが、格上を相手にするのは何時もの事だ。

 この身は地球の理。

 破壊ではない、人々を護る怪獣だ。

 

「叶えよう!」

 

 落陽の化身たる后羿を前に、地球の理は意地を示す。

 

「──これが彼らの物語」

 

 秋世は外界で学んだ術という術をアレンジ、新たなに術を誕生させる。その全てのリソースをつぎ込み甲を上の領域まで押し上げる。

 

 その末に創成されるは守護の怪獣。

 沈むのはお前だ、と地球の理()は落陽の化身へと吼えるのだ。

 

 

 

 

 

守護者創成(バーニングシフト)──我らの光輝は不滅なり《overload》!!」

 

 

 

 

 此処に新たなる超越を創成された。

 煌めく炎は灼熱地獄に勝るとも劣らない熱量を放ちながら揺らめいている。

 

「ウルティメイト──」

 

 両の手に光が収束していく。

 勝利の二文字を手に入れる為に己が全力を、己の全霊を懸ける。

 

「──プラズマァァァァッ!!!」

 

 極大の炎と落陽の一矢が重なり合う。

 衝撃で大地に風穴を開け、嵐を巻き起こす。

 后羿は未だ健在だが、甲は一歩踏み出して大胆不敵に口に三日月を浮かべる。

 

「さあ、覚悟しろ后羿。此処からが本番だッ!」

 

 落陽の英雄との本当の勝負が今、始まる。

 

 

 

 

 

 

 

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