理想を求める者達も異世界から来るそうですよ?   作:幻想のtidus

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始まり……?

 ──“サウザンドアイズ”2105380外門支店

 

「やはり得体が知れんの……」

 

 白夜叉は煎餅を齧りながら“ノーネーム”と“ペルセウス”との戦いの顛末を見ていた。途中アルゴールが元の姿……否、四桁まで回帰した時は神格を返上する事を考えたが杞憂に終わった。

 

「カタストロフェ……何故そんなものが疑似創星図に……?」

 

 カタストロフェ……カタストロフィーとも呼ばれるそれは宇宙観などではない。本来は演劇用語や不連続現象を扱う数学的理論を指すモノであり、転倒や破滅を意味する語なのだ。

 

 何故、疑似創星図として確立しているのか……

 これは容易に分かる。

 

「詩人にそう謳われたか……」

 

 カタストロフェを疑似創星図として機能させる為に何処かの詩人が謳った……いや、そうでなければ可笑しい。

 疑似創星図は神群の秘奥。そう易々と持ち得る物ではない。

 

「然し、白夜叉様……なら彼は何処かの神群の加護を、或いは何か特別な何かなのではないでしょうか?」

 

「ほう……おんしはあの小僧をどう考察する?」

 

「はい。彼は詩人が謳った事によって誕生した何かではないでしょうか。疑似創星図も彼の外界での功績……そして何か特別な役割によって成された物ではないかと」

 

「ふむ……」

 

 確かに詩人が謳った事で発掘された逸材……確かにその可能性は高く、外界での功績が関係しているだろう。

 

 然し───

 

「だとすれば何故、アルゴールは私の名を呼んだ……?」

 

 彼の世界を切り裂く一撃を見た瞬間……アルゴールは確かに白夜王と彼女の名を呼んでいた。

 白夜叉はある仮説を……最悪の結果を導き出したが、口に出さず胸の内に留めた。この仮説が正しいならば最強の武神集団“護法十二天”が出張る事態となりかねない。

 

「おんし、一つ頼めるか?」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「ラプ子に外界での小僧(秋世)を調べてもらいたい」

 

「畏まりました」

 

 店員は白夜叉の私室を出て、ラプ子の元に向かっていく。

 誰も居なくなった部屋に溜め息を吐く白夜叉。

 謳った詩人は知っている、いや一人しかいない。

 

 その詩人は正に癌細胞……箱庭という世界に居座る最悪の詩人。

 ディストピアに生まれた希望の片割れたる絶望。

 神殺しの魔王を擁立した規格外……数々の者達に傷跡を付けた化物の存命の可能性に舌を打つ。

 

「私が神格を返上する日も近いな……」

 

 ならば新たな階層支配者の選定を、と白夜叉は次の階層支配者を選び始めるのだった。

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

「「「「じゃあ、これからよろしくメイドさん」」」」

 

「「「「はい……?」」」」

 

 レティシアの所有権が“ノーネーム”に移ると十六夜達は揃って宣言した。これには黒ウサギやジンは言うに及ばず、レティシアと夏海さえ開いた口が塞がらず、秋世は呆れていた。

 

「はい? じゃないわよ。今回のゲームで活躍したのは私達六人じゃない。黒ウサギ達は付いて来ただけだし」

 

「私や飛鳥、夏海、龍悠も十分露払いしたし、石化したし」

 

「……俺はメイドなど要らない」

 

「なら、富久音は除外して俺達五人で等分でどうだ!」

 

「何を言っちゃってんでございますかこの人達は!?」

 

 もはや黒ウサギのツッコミは問題児五人に追いつけず、完全に混乱している黒ウサギとジン。

 唯一の当事者であるレティシアだけが冷静だった。

 

「……ふむ。そうだな。今回の件で私は皆に恩義を感じている。コミュニティに帰られた事に、この上なく感動している。だが親しき仲にも礼儀あり、コミュニティの同士にもそれを忘れてはならない。君達が家政婦をしろというのなら、喜んでやろうじゃないか」

 

「レ、レティシア様!?」

 

 黒ウサギは今までにないくらい焦っていた。尊敬していた先輩をメイドとして扱う日が来るなど考えもしなかった。

 困惑している黒ウサギを余所に飛鳥が嬉々として服を用意し始めた。

 

「夢にまで見た金髪の使用人……私、ずっと憧れていたのよ。華も無い可愛げも無い人達ばかりだったもんだから……

 これからよろしく、レティシア」

 

「よろしく……いや、主従なのだから『よろしくお願いします』のほうがいいかな?」

 

「使い勝手がいいのを使えばいいよ」

 

「そ、そうか。……いや、そうですか? んん、そうでございますか?」

 

「黒ウサギの真似はやめとけ」

 

「……馬鹿に映るぞ」

 

「酷くありませんか秋世さん!?」

 

 ヤハハと笑う十六夜と辛辣な秋世。意外と和やかな彼らを見て、黒ウサギは力なく肩を落とした。

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

 ───“ペルセウス”との決闘から三日後の夜。

 子供達を含めた“ノーネーム”一同は水樹の貯水池付近に集まっていた。

 

「えーそれでは! 新たな同士を迎えた“ノーネーム”の歓迎会を始めます!」

 

 ワッと子供達の歓声が上がる。夏海や龍悠は微笑ましそうに眺めていた。無論、十六夜や飛鳥、耀も子供だらけの歓迎会も悪い気はしてなかった。

 

「だけどどうして屋外の歓迎会なのかしら?」

 

「うん、私も思った」

 

「黒ウサギのなりに精一杯のサプライズってところじゃねえか?」

 

「なら黒ウサギさんのご好意に甘えて楽しみましょう」

 

「良し! じゃんじゃん食べるぞォォ!」

 

 夏海は笑みを浮かべて飛鳥と耀の手を引き、龍悠は子供達に混じって料理を食べる。

 すると、黒ウサギは大きな声を上げて注目を促す。

 

「それでは本日の大イベントが始まります! みなさん、箱庭の天幕に注目してください!

 

 皆が箱庭の天幕に注目した。

 視線の先には燦然と輝く満天の星空。そしてその中のペルセウス座に異変が起きた。

 

「……あっ」

 

 最初に声を上げたのは誰だろうか。

 夜空を駆ける流星群。皆は口々に歓声をあげる。

 

「この流星群を起こしたのは他でもありません。我々の新たな同士、異世界からの六人がこの流星群のきっかけを作ったのです」

 

「え?」

 

「で、でも黒ウサギさん。あの流星群ってもしかして……ペルセウス座ですよね?」

 

「はい! 夏海さんがおっしゃる通り、“ペルセウス”は“サウザンドアイズ”から敗北の為、追放されたのです。そして彼らは、あの星々からも旗を降ろすことになりました」

 

 十六夜達は驚愕し、完全に絶句した。

 

「───……星空から旗を降ろすって……!?」

 

 刹那、一際大きな光が星空を満たした。

 そこにあった筈のペルセウス座は、流星群と共に跡形もなく消滅したのだ。

 

「星座の存在さえ思うがままにするなんて……ではあの星々の彼方まで、その全てが、箱庭を盛り上げる為の舞台装置という事なの?」

 

「そういうこと……かな?」

 

 絶大ともいえる力を見上げ、夏海と耀、飛鳥の三人は呆然としている。

 

「へえ……面白いな」

 

 龍悠は不敵な笑みを浮かべて天を見続ける。

 だが十六夜だけは、流星群を見ながら感慨深くため息を吐いていた。

 

「ふっふーん。驚きました?」

 

 黒ウサギはピョンと跳んで十六夜の元に来る。

 十六夜は両手を広げて頷いた。

 

「やられた、とは思ってる。色々と馬鹿げたものを見たつもりだったが、まだこれだけのショーな残っていたなんてな」

 

 世界の果てに存在する大瀑布、水平に廻る太陽、そして流星群。

 数多の未知がこの箱庭にはあった。

 

「おかげ様、いい個人的な目標もできた」

 

「おや? なんでございます?」

 

「あそこに、俺達の旗を飾る。……どうだ? 面白そうだろ?」

 

 黒ウサギは十六夜の目標に絶句するが、途端に弾けるような笑い声を上げた。

 

「それは……とてもロマンが御座います」

 

「だろ?」

 

「はい♪」

 

 満面の笑顔で返すが、その道のりはまだまだ険しい。奪われた物を全て奪い返し、その上でコミュニティを更に盛り上げなければならないのだから。

 だが、きっと秋世以外の面々は反対しないだろう。そんな予感が十六夜にはあった。

 

 “家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて箱庭に来い”

 それだけの対価を支払った彼らの新しい生活は、まだ始まったばかりなのだから。

 

 これより始まるのは名無しの物語……これにて彼らの物語は幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───本当に?

 

 ☆★☆★☆

 

 

 ───“ペルセウス”本拠。

 

 三日前まで栄華を誇り、元魔王を隷属していたコミュニティ“ペルセウス”の本拠は静まり返っていた。

 

 否、それだけではない。

 星の光を受けて、白亜に輝く宮殿は()()()()()()()()()()

 

 それは決して比喩ではない。

 轟々と燃え盛る白亜の宮殿の火は天までをも焦がし、夜空を更に黒煙で染めている。

 

 地獄絵図──そう、地獄絵図だ。

 此の光景は正に、地獄の()()()と称するに相応しい。

 助けを求め、泣き叫ぶ兵士達は肌を黒く焦がしのたうち回る。

 涙は地に落ちる前に熱で消え失せた。血は滴ると同時に赤から黒へと変色した。

 

 極限状態で発露される自己愛に、博愛の精神が芽生える余地などない。

 人の尊厳を剥がされた彼らは、さながら災害から逃れる獣の群れのようだ。

 

 然し、此処には暗雲に蠢く偶蹄の王も、

 呵々と笑う死眼の巨人も、

 八つの顎で波風を荒れ狂わせる龍王も、

 金毛を靡かせながら慙愧に伏せる猿神も居ない。

 

 

「お前、なんの真似だ……!」

 

 白亜の宮殿の最奥で今尚そこに立っているのは傷だらけの青年──ルイオスと───

 

「なんの真似──とは?」

 

 此の元凶たる終世の影法師だけだった。

 

「惚けるな! ギフトゲームで敗北した僕達に何の用なんだ! 箱庭の騎士は返しただろう!?」

 

 ルイオスは激昂し、あらん限り声を張って糾弾する。

 

「ふむ……それで?」

 

 然し、目の前の影法師はどこ吹く風と言わんばかりだった。

 

「別に大したことではないよ……お前も有象無象の一人だっただけにすぎん。まあ……主催者権限についての理解が深まったので、それだけは感謝もしよう」

 

「巫山戯るな……!」

 

 ルイオスの怒りは頂点へと達しようとしていた。

 六桁に落ちるのもやむなし、と考えてたルイオスだがこの様な展開など望んでいない。然し、同時に()()()()()()()()()()()()()事に違和感を覚えている。

 

「さて……そろそろ時間だ。お前の出番はまだ先なのだ……舞台裏へ戻ってもらおう」

 

 ルイオスはすぐさまアダマスの鎌を取り出し、目の前の男を頭から叩き切ろうと振り下ろす。

 万物を切り裂く神霊殺しは影法師に直撃するが……

 

「神殺しの鎌も使い所が悪いければ……すぐさま塵へと成り下がる」

 

 目の前の男には無傷だった。ルイオスは目を見開く。

 

(三日前は確かに効いていた、右腕を斬った筈だろ!?)

 

 然し、影法師には傷一つ付いていない。

 まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()

 影法師は掌をルイオスに向けて告げる。

 

「さらばだ……ルイオス=ペルセウス……お前の出番はもう少し先だ」

 

 そうしてルイオス……否、“ペルセウス”の者達は全員、闇に呑まれていく。

 白亜の宮殿には唯一人、彼は嗤う。

 

 “三千世界よ、彼女の為に災いあれ”

 

 嗤い、嗤って呪詛を吐く。

 何を惚けている、お前らなど彼女を主演とした舞台装置、演出する為の端役であろうが。

 

 “汝、()であれかし”

 

 始まり?

 ああ、既に始まっていたな。彼女の為の復活劇が。ならば彼女が復活の為の贄を焚べよう。

 

 影法師は瞠目する。自らの始まりを反芻する為に。

 

 ───私はね、世界を救いたいんだ。平和の為にこの身を使いたい。その為なら私は全てを救う光になってみせる。

 

 光に見紛う程の笑顔で言い切った彼女は常に身を削っていた。

 世に絶望を振り撒く(終末)を光で砕き。

 平等たる愛を与える破壊の君を打倒し。

 羅刹の王を、代替え品の兵器達をその身一つで砕いた少女は──

 

 

 

 ───志半ばで敗れた。

 

 ああ、嫌だ。認めない。この様な結末など許さない。

 このような結果をもたらす世界の方が間違っている。彼女が世界を救わずに死ぬ?

 戯けか貴様ら。死んだとしても彼女は蘇る。英雄譚は復活劇により激動を迎えるのだ。

 

 故に場を整え、蘇らせよう。

 彼女が求めたモノを、俺が魅せられた光の為に。

 

 




皆さん、幻想です!
これにて一巻の内容は終わりです。

そして次回から何と……
『問題児たちと地球の理が異世界から来るそうですよ?』の阿喪to鴉紋さんとコラボする事になりました!

なので次回からコラボを投稿致します。
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