理想を求める者達も異世界から来るそうですよ?   作:幻想のtidus

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これより■■が語りますは、とある少女の願いの形。
運命に弄ばれ、己の生を閉ざされた哀れな少女。

死を与え、復讐の炎を滾らせた少女の名はペスト。


幕間
幕間の物語──黒死の願い


 ──東北の境界壁・赤窓の歩廊。

 

 彼女は悠々と歩いていた。

 黄昏色の街でステップを踏んで、周囲に溶け込み、本来の自分を隠し、隠し、隠し抜いて……来るべき日まで牙を研ぎ続ける。

 

 

 何故なら彼女の本質は“死”だから。

 振り撒くのは最悪の贈り物()は人類史に屍山血河を作り上げた死の形。

 ()()()は怠惰なる太陽への復讐者。

 

 そんな彼女達の願望(復讐)は後少しの辛抱で実行に移れる段階まで進行していた。

 

 人材も己の持つ人脈をフルに使い、とあるコミュニティから一柱、増援を送って貰えた。

 

 幸先が良すぎる。この復讐が失敗するんじゃないかという位に。

 だが、使える物は使わなければ損だ。

 

 

 喜びと一抹の不安を抱えながら歩いていると……

 

 

「そこのお嬢さん、宜しければ寄って行ってはどうだろか?」

 

 不意に声を掛けられた。

 声の聴こえた方向を向けば、如何にも胡散臭いローブを身に纏った男が居た。

 気づけば周囲には誰も居らず、静寂に包まれている。

 どうやら、何時の間にか裏道に入り込んでいた様だ。

 

「あら、こんな誰も通らない様な場所で商売?

 もう少しまともな場所で商売したら?」

 

「これはこれは……手厳し指摘をありがとう。そんな事より、お嬢さんの運命を見て差し上げましょうか?」

 

 胡散臭い男だ。少女は口元に笑みを浮かべて、男に歩み寄る。

 

「どうやって占ってくれるのかしら?」

 

「その前にお名前をお聞きしても宜しいか?」

 

「そうねぇ……魔王様とでも名乗っておこうかしら」

 

「ふふ……では魔王様、この中から1枚選びたまえ」

 

 それで運命を占おう、彼はタロットカードを横に並べてそう言った。

 

「驚かないのね」

 

「此処は修羅神仏、悪鬼羅刹が犇めく箱庭だぞ?

 魔王が何処に潜んでいても可笑しくない。

 それに、魔王とて俺にとっては商売相手だ、臆しては商売にならんだろう?」

 

 自称魔王の少女はカードを1枚、めくった。

 其処に描かれていたのは逆位置、愚者のカード。

 

「不吉ね」

 

「ああ、不吉だね」

 

 逆位置の愚者が表しているのは不安定。

 無理に動けば動くほど、その手に何も残らなくなる。

 少女からしたら、あまりに不吉だ。

 復讐を果たす前にこんな結果が出た少女は苦笑いを浮かべて、目の前の男を見る。

 

 男は笑っていたのだ。

 まるで見下ろし、俯瞰しながら嘲笑うかのうように。

 その表情にどうしても苛立ちを覚えてしまう少女は、金貨を二、三枚ばかり置いて立ち去ろうとするが、

 

 

「おやおや……ご立腹かな? 黒死病(ペスト)

 

 空気が凍った。

 少女は直様、ローブの男を凝視する。

 何故、ばれた?

 どうして私が黒死病(ペスト)だと知っている?

 殺意の波動が、周囲に重くのしかかる。

 

「どうして………何時から気づいていたのかしら?」

 

「ああ、既知感………と言ったところかな?

 俺は君が()()()()()()()()()()()()。ただ、それだけだよ」

 

 巫山戯てる。

 目の前の男は占い師などではなく、詐欺師だとペストは確信した。

 ペストが召喚されたのはごく最近のことであり、知っている者は僅か数人ばかり。

 その数人に、目の前の男は該当していない。

 故に、それ以外の解答としては、()()()()()()()()()()()()()か、それとも………

 

 

「それで、君は何を望んでいたのかな?」

 

「愚問ね。それに聴かなくても知ってるんじゃない?

 私が黒死病によって死んだ八〇〇〇万人の悪霊群だってことくらい」

 

「ああ、知っていたとも。故に問いたい。

 君は本当に太陽に復讐したいのか?」

 

「だから、愚問だって何───」

 

「それは総体としての願いだろう?」

 

 間髪いれずに否定してくる詐欺師の言葉がペストの胸中に水銀の様に染み込んでくる。

 ドロドロと、まるで絡めたとられる様な不快感を伴いながら会話をいち早く切り上げようとするが、

 

「君は恨んだのだろう?

 父を、母を、友を、市井の諸々を。

 死ね、死ね、死んでしまえと」

 

 ──我が一族に呪い在れ。

 ──我が領地に災い在れ。

 

 全て真実。確かに生前の彼女はそれらを呪った。深い悲しみに囚われて、万斛の怨嗟と断末魔と共に、底知れぬ闇に身を沈めた。

 

「別に悪い事ではないと思うが……今の君は君本来の色を失っている、と俺は感じているのだが……」

 

「私、本来の色……?」

 

 聴きたくないのに、聴きたくもないのに、まるで落ちていくかの様に目の前の詐欺師のペースに引き込まれていく。

 

「君の本来の願いはね───」

 

 ──やめろ、やめろ、やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ!

 心の中で幾ら呟こうと、その言葉が口から出てこない。

 そして詐欺師は決定的な一言を告げる。

 

「──殺したい、だよ」

 

「殺、したい……」

 

「太陽への復讐?

 八〇〇〇万の犠牲が生まれる運命を改変する?

 それらは君が最初に感じた思いが発展したにすぎない」

 

 太陽への復讐を果たす為に太陽神を殺す。

 運命を改変する為に数々の壁を討ち滅ぼす。

 しかし、ペストが最初に強く感じたのはそんなモノではなく、皆殺しを謳う鏖殺の祈りだと詐欺師は嘲笑を浮かべる。

 

 

「……れ……」

 

 嫌だ、認めたくない。

 

「……まれ……!」

 

 こんな奴に認めてなんか欲しくない。

 私は自分の意思で、太陽への復讐を誓った、そう誓ったはずだ。

 しかし何度心の中で答えても、目の前の詐欺師の言葉の毒は止まらない。

 

「君は流されているだけだ。他の怨霊達が太陽への復讐を謳っているから、自分も太陽への復讐心を芽生えさせた」

 

 詐欺師はペストに一歩、歩み寄る。

 言い知れぬ何かを感じて、ペストは無意識の内に徐々に後退してしまう。

 

「確かに、君が太陽への復讐を成さねば他の怨霊達にも恨まれるだろうが、君はそんな事には頓着しないのだろう?

 何故なら、本来の目的、本質が違うのだから」

 

 壁まで追いやられ、ペストは詐欺師の顔を仰いだ。表情も、その素顔も分からない。

 

「君は素直になるべきだ。その願いは決して誰にも否定する事は出来るはずもないのだ。

 何故なら、君が死んだのもきっと……神とやらの悪戯か何かなのだから」

 

 

 そっと、詐欺師はペストに手を差し出す。

 

「俺なら……君の願いを叶える為の手助けが出来るぞ?」

 

 これは駄目だ。

 詐欺師の放つ、言の葉の数々は魔性の類を孕み、老若男女を籠絡し、破滅へと導くだろう。

 では、目の前の男は本当に詐欺師なのか?

 

 占い師、詐欺師、魔術師、呪術師、錬金術士、奇術師、研究者etc……

 

 きっと、どれでもあって、どれでもない。

 男が何者であろうと死、終焉、終末を連想させるだろうと本能的に察する事が出来る。

 そして、この誘惑に負けてしまえば、何か大切なモノを失う様な気がしてならないペストだが───

 

「本当に……手を貸してくれるの……?」

 

 ───全て正しいと感じてしまう自分がいた。

 ───太陽への復讐、黒死病の運命、全ては己が覇道の先にあるモノ。

 

 堕ちては駄目だ、流されては駄目だ。

 誘惑に負ければ、原初の女と同様に碌な事にしかならない。

 しかし、縋り付きたかった。

 

 太陽への復讐は困難。黒死病の運命は強固。

 分かっている、分かっているからこそ……

 

「私に……協力してくれるの……?」

 

 目の前の男が、()()()()()()()()という確信があるからこそ、ペストは男の手を取った。

 

「ああ、勿論。元より俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のようだからな」

 

「貴方の目的?」

 

「いずれ分かるさ」

 

 二人は微笑を浮かべて、向かい合う。

 

「“グリムグリモワール・ハーメルン”のリーダー、“黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)”ペストよ。貴方は?」

 

「俺か? 俺は……」

 

 男は言い淀みながら、暫く一考して、

 

「俺の事はアリストテレスと呼べば良い」

 

「そう……宜しく、アリストテレス」

 

 

 “ペルセウス”のメンバー全員の消息が途絶えてから3日後、五桁以下の北、東側で幾つかのコミュニティが神隠しにあうという異例の事態が起こった。

 

 神隠しの魔王が現れたのか、

 箱庭から人知れず去ったのか、

 それとも魔王に蹂躙され、消え去ったのかは誰も分からない。

 そして、闇の中で脈動する■■が、動き出す。

 

 ───英雄はまだか?

 

 

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