理想を求める者達も異世界から来るそうですよ?   作:幻想のtidus

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賽は投げられた!


さて、第二巻突入です!


あら、魔王襲来のお知らせ?
Alea iacta est!


 夢を見た。

 とても幻想的で、美しい世界。

 出鱈目で、正に摩訶不思議な世界に自分と同じく呼ばれた五人の者達。

 苦難ありのとても有意義な夢を見た。

 

 

 罪深き少女は、ボロボロのベッドから起き上がり、聖堂への扉を開いた。

 

 

 この聖堂はかれこれ三年前から誰の手も行き届いておらず、至る所が老朽化し、埃が降り積もっている。

 だが、三年前から此処は()()()の溜り場となっていた。

 

 

 一歩一歩進むたび、床は軋みを上げる。

 少女はステンドグラスを見上げて、泣いた。

 己の罪を嘆き、苦しみ、絶壊し続ける。

 七つの大罪を宿しているのが悲しいのか?

 人々が産まれた頃より宿すという原初の罪を宿しているのが悲しいのか?

 断じて否だ。

 

 

 元凶は己と■■■■と乗り越えるべき試練。

 彼女の悲劇はまだ続いているのだ。

 

 

 宝物と言えた三人の友を、彼女は死に追いやってしまった。

 祈りを捧げる少女の胸中に渦巻く七つの凶念。

 

 ───神を越えよ。

 

 傲慢に天上に座す神を引き摺り降ろせと。

 

 ───怒りの業火を絶やすな。

 

 魔の王として、天上に座す神を焼き尽くせ憤怒し。

 

 ───……何もするな。

 

 怠慢な己は何もしなくて良いんだ。

 

 ───恨め、憎め、妬め。

 

 あの座に居座るのは己だと嫉妬し続ける。

 

 ───欲しい、欲しい、だから奪え。

 

 強欲に欲する物を奪い続ける。

 

 ───喰らえ、貪れ、己の欲のままに。

 

 ただ喰らい、貪り、暴食の限りを尽くす。

 

 ───我に愛を向けよ。

 

 甘美な色欲に溺れろ。

 

 

「五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿いィィィィィィ!!!!」

 

 

 暴れ狂い、頭を何度も何度も何度も柱に叩き付け、床に血の華を咲かせる。

 

 

「貴方達の願い、試練なんて知るか……! 私を……! 友達を巻き込むな……!」

 

 

 怒りのあまり、奥歯は砕け、爪が掌の皮膚を突き破り、血が滲む。

 されど悪いのは全て己だ。

 

 

 だから願った。

 この罪深い己を■■と。

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

「─────!?!??」

 

 

 夏海は、何とも言えない息苦しさを感じて跳び起きた。

 シーツは汗で湿っており、手の甲から血が滴っている。

 

 

(ああ、またか………)

 

 

 こうなったのは初めての事ではない。

 箱庭に来る前、彼女は毎日の様に夢を見る。

 しかし、別段困った事はない。

 何故なら、彼女にとって悪夢は戒めだ。

 己が犯した罪を忘れないための。

 

 

「原摘さん、起きてるかしら?」

 

「夏海、起きてる?」

 

 

 コン、コン。

 ノックの音と可愛らしい友人達の声が聞こえる。

 だが生憎、現在の彼女は人前に出られる様な姿ではない。

 なので、居留守もどきをやろうと息を潜め───

 

 

 コン、コンコン、コン。

 ノックのリズムが変わり始めた。

 心が痛むが此処は我慢だと己の心に言い聞かせる夏海。

 

 

 ガチャ、ガチャ。

 ドアノブを回す音が無音の部屋の中に響く。

 

 

(我慢、我慢だ……!)

 

 

 ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン。

 

 

「すいません、居留守使ってました」

 

 

 結果、飛鳥と耀、そしてリリの三人の勝利。

 夏海の部屋のドアは無念にもドアノブが壊れ三人の入室は強制的に成された。

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

 ───“ノーネーム”本拠。地下三階の書庫。

 

 十六夜は水没して壊れたヘッドホンを付けて、とある資料に目を通していた。

 

 

「……これでもないな」

 

 

 一通り読み終えた“ヨハネの黙示録”の写本を机の上に置き、新たに“創世記”の写本を手に取る。

 

 

 十六夜はここ数日、いくつもの神話に存在する闇について探していた。

 

 

 理由は簡単だ。

 富久音(ふくね) 秋世(しゅうせい)の恩恵の詳細を探る為だ。

 しかし、幾つかの宗教、神話に語られる闇について調べてみたが符合する点は存在するものの、それがモチーフかと問われれば是と言えないモノばかりだった。

 

 

 ならば人類の叡智の賜物か?

 あり得ない話ではない。学術的な意味での闇を恩恵としている可能性は存在しているが、何故かそれではないと心の底から感じてしまう十六夜。

 

 

 ふと、隣に目を向けるとジンが寝ていた。

 無理もない、ジンは昨夜遅くまで書庫で資料を漁っていたのだ。

 

 

「十六夜君! 何処にいるの!?」

 

 

「……ん……ああ、お嬢様か」

 

 

 十六夜を見つけた飛鳥は積み上げた本を足場に駆け上がり跳躍。

 自身が揮える膂力を行使し、目の前の十六夜を強襲する。

 

 

 その技の名を“シャイニング・ウィザード”。

 外界に於いて閃光魔術、閃光妖術と呼ばれる飛び膝蹴りである。

 

 

 しかし、飛鳥が強襲している相手は最強の問題児、逆廻十六夜だ。飛鳥の常人と同等の動きなど簡単に見切れる。

 故に、十六夜は慌てることなく、躊躇いなく眠っているジンを掴み、盾として利用する事にした。

 

 

 後は、自分が予想した通りジンは吹き飛び、己はそれを肴に楽しむという魂胆は───

 

 

「残 念 だ っ た わ ね !」

 

「なッ───!?」

 

 

 十六夜の顔が驚愕に染まる。

 飛鳥は“シャイニング・ウィザード”を放つ事なくジンを越え、十六夜の背後へと着地する。

 そして運動エネルギーを利用し、足を後方へと降り出す。

 

 

 その技を、十六夜は知っている。

 “シャイニング・ウィザード”の派生技───“ブラックマジック”

 

 

 吸い込まれる様に飛鳥の踵は十六夜の延髄めがけて放たれた。

 

 

「やった───!?」

 

「やってないぜ、お嬢様……!」

 

 

 だが、渾身の技を十六夜はジンで受け切っていた。

 

 

「失敗……ね」

 

「いや、良くやってたと思うぞ? 流石に俺もお嬢様がフェイントをかましてくるとは予想外だったよ」

 

 

 ヤハハ、と笑う十六夜。

 十六夜の言っている事は紛れもない事実だった。

 常人と同じくらいしか身体能力を発揮出来ない飛鳥が“シャイニング・ウィザード”からの派生技を放つなど思いもよらなかった。

 素直に意表を突かれた事を賞賛する。

 

 

「で、お嬢様。俺に用件があったんだろ?」

 

 

 完全にノックダウンしたジンを床に捨て、十六夜は飛鳥に用件を問う。

 その目には、多少の期待が含まれていた。

 

 

「ええ、きっと十六夜君も気に入るわよ」

 

 

 そう言って飛鳥が取り出したのは双女神の刺繍が成された封書。

 十六夜はそれを手に取り、封を切り、一読する。

 

 

「何々……北と東の“階層支配者による共同祭典───“火龍誕生祭”の招待状?」

 

 

 すると“ノーネーム”の書庫に地響きが響きわたる。その震源は徐々に大きくなり、書庫の扉が吹き飛んだ。

 

 

 ──そして、扉と一緒にジンも吹き飛んだ。

 

 

「祭りって聴こえたんだけど!?」

 

龍悠(たつはる)君、ジン君が扉に巻き込まれて吹っ飛んじゃったよ!?」

 

 

 扉から現れたのは狐耳の少女、リリと龍悠の二人。

 そして二人の背後から耀と夏海が顔を出す。

 

 

「ああ……完全に伸びてますね、ジンさん」

 

「うん、夏海が教えたあの技、飛鳥上手だったもん。きっとクリーンヒットだったんみたいだね」

 

「夏海様も耀様、落ち着きすぎですよ!?」

 

 

 リリは黒ウサギが担当していたツッコミに回るが、問題児達のペースに追いつけないでいた。

 

 

「どう、十六夜君。面白そうでしょ?」

 

「オイ、ふざけんなよお嬢様。こんなクソくらだないことで1日惰眠を貪りつくそうと思っていた俺は側頭部をシャイニングウィザードで襲われたのか!?

 しかもなんだよこの祭典のラインナップ!?

『北側の鬼種や精霊達が作り出した美術工芸品の展覧会及び批評会に加え、様々な“主催者”がギフトゲームを開催。メインは“階層支配者”が主催する大祭を予定しております』だと?

 クソが、少し面白そうじゃねえか行ってみようかなオイ♪」

 

 

 瞬く間に北側へ行く事を確定しようとする十六夜達に……

 

 

「待って下さい!!!!」

 

 

 復活したジンが立ち塞がった。

 

 

「北側へ行く為の蓄えなんて、此処にはないんですよ!?

 それに此処から境界壁までの距離も膨大なんです!!

 第一、黒ウサギから大祭の事は秘密にと───」

 

 

 ジンの言葉に夏海とリリを除いた四人の目が猛獣の様に光った。

 

 

「……そっか。こんな面白そうなお祭りを秘密にされてたんだね私達。ぐすん」

 

「コミュニティを盛り上げようと毎日毎日頑張っているのに、とても残念だわ。ぐすん」

 

「ここらで一つ、黒ウサギ達に痛い目を見てもらうのも大事かもしれないなぁ。ぐすん」

 

「兎に角、祭りに行こうぜ!!!!」

 

 

 四人の問題児達に囲まれたジンは、縋る様に夏海とリリに視線を向ける。

 

 

(ジン君、強く生きてね)

 

(すいません、罪深い私には無理です)

 

 

 心の中で謝罪を述べながら合掌。

 二人は問題児達を止める術を持っていないのだ。

 

 

「さて、黒ウサギに書き置きでも残しておくか」

 

「そうね、コミュニティの脱退を仄めかしてみましょう」

 

「そうだね、黒ウサギには丁度良いかも」

 

「少しやり過ぎでは……」

 

「祭り♪ 祭り♪ 祭り♪ 祭り♪」

 

 

 こうして彼らは北側へ赴く為の策を話しながら、とりあえず“六本傷”のカフェまで向かうのだった。

 

 

 その後、黒ウサギが飛鳥達が残した書き置きを見つけたのは、彼らが本拠を出て、一時間程後の事。

 響き渡るのは、黒ウサギが風となって地面を踏み砕く音とレティシアの羽音。

 

 

 逃げるは五人の問題児。鬼は黒ウサギとレティシア。

 問題児達による鬼ごっこは始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 否、訂正しよう。鬼は一人だ。

 彼らの思考から抜け落ちてしまっている一人。

 もう一人の問題児は誰も居なくなった書庫で残された書き置きと惨状で悟った。

 自分が置いて行かれた事を。

 

 

「いや、責めまい……奴らならやりそうな事だからな……」

 

 

 思考は澄み渡っている。

 問題ない、そう問題などない。

 だが問題はないとはいえ、このまま一人取り残されては面目が立たないだろう。

 

 

 ならば、やる事は一つだ。

 

 

 彼の足元で、闇が蠢く。

 膨張、伸縮、侵食、拡張……闇が捉えているのは健脚を誇る月の兎の後ろ姿。

 

 

「さあ………鬼ごっこを始めようか」

 

 

 闇が、進軍を開始した。

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