理想を求める者達も異世界から来るそうですよ? 作:幻想のtidus
───親の顔が分からない。
彼は、一人で生きていた。
両親から、星からの祝福を受けた彼は親というモノを知らない。
言葉としては確かに知っている。
だが、その本質を理解していない。
父の背中を知らず、母の慈愛を与えられず、あるのは星から授かった莫大な霊格と恩恵。
そして、両親の結末だけだ。
それはあり得ない光景だろう。
彼はただ産まれたのではない。
母の胎を引き裂き、誕生した瞬間に母の身体は血煙と化す。
誕生の産声だけで、街を半壊。そして父も消え去った。
───親は子供を守るモノ、子供は親から学ぶモノ。
だから、彼は力を振るうのだ。
人として■■を、■■を守る。
■として■■を、■の威光を取り戻す。
力の具現。星の怒り。絶滅の兆し。
彼は恐れられる。
そんな彼を星は讃える。
“それでこそ、■■■■の後継”、
“それでこそ■■■■”だと
☆★☆★☆
──“六本傷”カフェテラス
「さて、どうするんだ?」
龍悠が喜々とした表情でこれからの方針を問う。本来なら、北側へ直様向かいたいところだが、焦っても北側は逃げないと十六夜が龍悠を諭す。
「とりあえず、北に歩けばいいんじゃない?」
北にあるっていんだし、と耀は言う。
無計画にも程があるだろう。
肩を竦めていた夏海が口を開いた。
「ここは、ジンさんに良いアイデアを練ってもらいましょう」
「……皆さん、北側の境界壁まで大雑把に98000kmです。流石に遠すぎますし、短縮するにも“ノーネーム”には貯蓄が無いので無理なんです」
「「「うわぉ」」」
98000km、途方もない数字に龍悠以外の面々が、驚愕する。
嬉々としている者もいれば唖然している者もいる。
「いくらなんでも遠すぎるでしょ!?」
「ええ、遠いですよ!!
面積は恒星級ですし、箱庭の都市は、中心を見上げた時の遠近感を狂わせるように出来ているんです!」
だから諦めてくれ。ジンの目がそう語る。
だが───
「なら、白夜叉に頼めば良いんじゃね?」
普段、頭を使わない
十六夜、飛鳥、耀、夏海は顔を見合わせ、ニヤリと笑った。
☆★☆★☆
──“サンザンドアイズ”支店前。
珍しく、割烹着の女性店員が居ない事を確認した問題児達五人とジン、リリの七人は暖簾を潜り。白夜叉の私室まで歩を進める。
何時もなら、『お帰りください』と断られる展開になるのだが、居ないのなら仕方ないだろう。ちょっと拍子抜けした五人だが、今はそんな場合ではない。
「白夜叉、居るか?」
「良いよ。入れ」
返答があったので襖を開ける十六夜。
だが、以前この部屋を訪れた時と比べると些か以上に散らかっていた。
どれも何かしらの資料ばかりで、どうやら仕事中だった様だが、そんなモノをスルーして部屋に入る問題児達。
「悪いのぅ、早急に調べねばならない案件があった故な」
「別に気にしねえよ。それより白夜叉、あの店員はどうしたんだ?」
「彼奴には北側へ出てもらっておる。それにおんしらに関しては、そろそろ来ると思っておった」
北側、そのワードを聞いた瞬間、龍悠は白夜叉に嬉々とした笑顔で詰め寄る。
「なあなあ白夜叉! 俺達を早く北側へ連れてってくれよ! 祭りだろ? 祭りなんだろ!?」
「う、うむ。連れて行くから少し待て。
ジン=ラッセル、おんしに……“ノーネーム”のリーダーに聴きたい事がある」
「は、はい」
あまりの剣幕に圧され気味の白夜叉だが、ジンを一瞥し、手招きをする。
「一つ問いたい。“フォレス・ガロ”の一件以降、おんしらが打倒魔王を掲げたコミュニティだという噂が流れておるが……真か?」
「はい。名と旗印を奪われたコミュニティの存在を手早く広めるには、これが一番いい方法だと思いました」
ジンの返答に、白夜叉は鋭い視線を返す。
「リスクは承知の上なのだな? この噂は同時に魔王さえ引きつけることになるぞ?」
「覚悟の上です。誘き出して迎え撃ちます」
ジンの返答に、傍で控えていた十六夜が不敵な笑みを浮かべて補足する。
「無関係の魔王が来たところで、それらを隷属させ、より強力な魔王に挑む“打倒魔王”を掲げたコミュニティ───箱庭広しといえど、こんなにカッコいいコミュニティは他にないだろ?」
「……ふむ」
二人の言い分を噛み砕く様に瞳を閉じる。
しばし瞑想した後、呆れた笑みを唇に浮かべた。
「そこまで考えてのことならば良い。では打倒魔王を掲げたコミュニティに、東の階層支配者から正式に頼みたい事があるのだが……よろしいかな、ジン殿」
「は、はい! 謹んで承ります!」
白夜叉の頼み、それは要約すれば北側の階層支配者が世代交代が行われ、その後継はジンの知り合いであるサンドラが襲名したという事。
さらに事情を説明しようとした時、耀は気が付いた。
このままでは黒ウサギに追いつかれる事に。
さらに耀の仕草から察したジンは咄嗟に立ち上がり、
「白夜叉様! どうかこのまま、」
「ジン君、
飛鳥の威光がジンの下顎を閉じる。
その隙に夏海が白夜叉を促す。
「白夜叉さん! 今すぐ北側へ連れてって下さい!」
「む、むぅ? 別に構わんが、何か急用か? というか、内容を聞かずに受諾してもよいのか?」
「ああ、その方が面白い筈だ! 俺が保証する」
「そうそう、祭りは面白おかしくねえとな!」
十六夜と龍悠の言い分に白夜叉は呵々大笑を上げて頷いた。
「そうか。面白いか、それなら乗らずにはおれんのぅ。すまんなジン、面白いなら仕方ない」
「………!? ………………!??」
白夜叉は娯楽が何たるかを理解している。
娯楽こそ修羅神仏の生きる糧なのだから。
声にならない悲鳴を上げ、暴れるジンや嬉々としてる問題児達を余所目にパンパンと柏手を打つ。
「───ふむ。これでよし。これでおんしらの御望み通り、北側に着いたぞ」
「「「「「───………は?」」」」」
素っ頓狂な声を上げる五人。
全ての疑問を一瞬で彼方に置き去り、次の瞬間に、五人は期待を胸に店外へ走り出した。
☆★☆★☆
美しい……そう感じさせる黄昏時の街。
頬を撫でる熱い風。眼下に広がる黄昏の街一帯を一望できる高台に彼らはいた。
「すごい……赤壁と炎と……ガラスの街……!?」
二足歩行で街中を闊歩するキャンドルスタンド、色彩鮮やかなカットガラスで飾られた歩廊。美しい街並みに彼らは瞳を輝かせる。
「へぇ……! 980000kmも離れてるだけあって、東とは随分と文化様式なんだな」
「ふふ、違うのは文化だけではないぞ? 其処の外門から外に出た世界は真っ白な雪原でな。それを箱庭の都市の大結界と灯火で、常秋の様相を保っているのだ」
「今すぐ降りましょう! あのガラスの歩廊に行ってみたいわ! いいでしょう白夜叉?」
「ああ、構わんよ。先程の話の続きは夜にでもしよう。暇があればこのギフトゲームにも参加していけ」
白夜叉が着物の袖から取り出したゲームのチラシ。問題児達がチラシを覗き込むと、
「
空から一陣の風が吹き荒れた。
ドップラー効果の効いた絶叫と共に現れたのは帝釈天の眷属、月の兎の黒ウサギ。
しかし、今や淡い緋色の髪を戦慄かせ、仁王と成り果てていた。
「ふ、ふふ、フフフフ………! ようぉぉぉやく見つけたのですよ、問題児様方………!」
着地した衝撃で、地面は小規模のクレーターを刻む。その中心から歩み寄る緋色の仁王。
十六夜達は筋繊維の一本一本に力を張り巡らせ、直様逃げる準備を整える。
地上には黒ウサギ。おそらく空にはレティシアが潜んでいる。
状況は最悪……とまでは言えないが、悪い事に変わりはない。
そして、全員が打ち合わせしたかのうように一斉に動き出そうとしたその時だった。
「お前ら………俺を置いていくとは何事だ………」
男の声と共に到来する黒の奔流。
瞬時に“サウザンドアイズ”の支店の周囲を覆い尽くし、黒く染め上げる。
平面の闇から腕が這い出てくる。
奈落から、地獄から這い出る死者のように、闇を纏う秋世が其処に居た。
「え、えあ? 秋世さん、今北側に来たんですか!?」
黒ウサギは信じられないモノを見るかの様な目で秋世を見た。
「あ、忘れてた」
『同じく』
十六夜に同意する他の問題児達。
見かねたレティシアが地上へ下り、秋世の肩に軽く手を置いた。
「……まあ、良い………黒ウサギ」
「はい、なんでしょう?」
「俺は、街に行く」
止めたら殺す、と秋世の黒い眼が告げていた。
黒ウサギが一瞬萎縮したその時、
「今だ!!!!」
十六夜の合図と共に散開する問題児達。
夏海は傲慢の罪と同調し、黒い三対の翼を顕現させ、飛鳥の手を取り、飛翔する。
龍悠は持ち前の身体能力の高さを活かし、十六夜と共に黄昏の街へと飛び降りる。
「しかし、それではお前に悪いだろうから………一人くらいは捕まえてやろう」
その一声と共に秋世の闇が形を変え、『腕』を形成する。そして逃走する問題児達を捕まえるべく、闇が放たれる。
───耀に向かって。
「くっ……!」
耀の対処は迅速だった。
直様、鷲獅子の恩恵を顕現。大気を踏み締めて闇を撒こうと上下左右前後と駆け抜ける。
しかし、この場に居るのは秋世だけではない。
「私達を忘れてはいないか、耀」
背後からの声。
振り返れば其処にはレティシアが音速を超えた速度で目前まで迫っていた。
逃げようにも、避けようにも、この位置からの逃走は困難だ。
眼前には、音速を超えた速度で迫るレティシア。
地上では黒ウサギが控えている。
それに何よりも枝分かれするかの如く、耀を追い立てる闇が邪魔なのだ。
そして、耀は観念したのか両手を上げて降参した。
☆★☆★☆
「秋世も拗ねないで私達に加担すればよかった」
「知らん……それより服の袖を掴むな」
耀は頬を膨らませ、秋世の袖口を引っ張り、座り込んだ。
秋世が何度も振り解こうと引っ張るが、どういう訳か離れない、というか離してくれない。
秋世は耀の眼を見た。
──街に行きたければ、自分も連れてけ。
そういう意図がある事を静かに察した。
「はあ………白夜叉。此奴を引き剥がす手はないか?」
「ん、別にそのままでも良いだろう。少女の健気な願いと言う奴じゃ。連れてってやれば良いだろうに」
「断る」
即答だった。
白夜叉が肩を竦めて懐から一枚の羊皮紙を取り出した。
「……春日部、白夜叉が黒ウサギとの仲直りさせる方法を渡すそうだ……」
そう秋世が告げると、耀は直様、羊皮紙の内容を凝視する。
その隙に秋世は黄昏色の街へと降り立った。
☆★☆★☆
───チク、タク、チク、タク……
彼女は一人、時計の針が動く音と共に謳っていた。
“汝、■■の影法師。今の世に■■の引き金を引くモノ。
汝、■深き化身。この世の悪性を詰め込まれた哀れな少女。
汝、■と■の混ざり者。星に祝福された無知なる少年。
汝、■■の■■。斯くあれかしと願われた人類の理想の到達点にして■■■”
彼女に謳われた者達は例外無く、悲劇だろう。何故なら、彼女は全てを嘲笑う。
人間は勿論のこと、幻獣、龍種、神霊、星霊etc……全て、全てが些事なのだ。
彼女にとって重要なのは、その先である。
「さあ、観測を開始しましょう」
女の掌に光が溢れ、縮小した宇宙が展開される。
まるで、映画のフィルムのように彼女の周囲を廻り、投影し、観測し続ける。
「貴方の運命は無用です」
アレは星の断末魔が産み出した、故に無用。
「貴女の運命は関係ない」
アレは人の穢れの象徴。私の欲しいモノではない。故に不要。
「貴方の運命は確約されている」
故にその運命を覆し、新たな世界の礎となれ。
女は嗤う。鈴の音のような声で謳いながら。
女は視る。その果ての結果が知りたいから。
───物語の歯車が、噛み合い始める───
大変、遅くなりました!
次回も楽しみに待っていてください!
感想などお待ちしています!