理想を求める者達も異世界から来るそうですよ?   作:幻想のtidus

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我々は危害を加える力を持っている。




Ad nocendum potentes sumus.

 煉瓦とカットガラスで彩られた赤窓の歩廊の中心にある、龍のモニュメントの前で夏海と飛鳥は休憩しながら駄弁っていた。

 

 

「凄く綺麗な場所。私の故郷にはこんな場所は無かったわ」

 

「私もです。私の所にも此処まで幻想的な街なんかありませんでした」

 

 

 二人は黒ウサギから逃げ出した後、十六夜や龍悠とは別行動を取っている。

 あの二人の事だから、何処かでギフトゲームをしながら、この黄昏の街を観光しているだろうと楽観しながら、夏海は飛鳥の顔をまじまじと見つめた。

 二足歩行のキャンドルを子供の様に嬉々として見惚れる飛鳥は夏海の視線に気が付いた。

 

 

「………? どうかした、夏海さん」

 

「いえ、何でもありませんよ。

 それより、そろそろ移動しましょう。早くしないと黒ウサギさん達に追いつかれてしまいます!」

 

「そうね………でも………」

 

 

 忙しなく周囲を見回す飛鳥に夏海は問う。

 

 

「どうかしました?」

 

「いえね、カボチャのお化けは居ないのかと思って。夏海さんは見てない? ハロなんとかっていうお祭りに出てくる妖怪なのだけれど」

 

「ああ、ハロウィンのジャック・オー・ランタンの事ですか」

 

 

 ハロウィンとは、簡単に説明するならケルト民族が行った、太陽に感謝する収穫祭である。

 そして、ジャック・オー・ランタンだが、生前に堕落した人生を送ったまま死んだ者の魂が死後の世界への立ち入りを拒否され、悪魔からもらった石炭を火種にし、萎びて転がっていたカブをくりぬき、それを入れたランタンを片手に持って彷徨っている姿だとされる死霊である。

 

 

「そう、そのハロウィンよ。私の居た世界だとね、ハロウィンとかいうお祭りは広く認知していないものだから、小耳に挟んだ時からずっと見てみたかったのよ」

 

 

 飛鳥が居た時代は第二次大戦後である。

 ハロウィンが広く認知され始めたのは最古まで遡っても1980年代だ。知識に差があっても仕方ないことだろう。

 しかし、夏海は少しの間考え込んで、

 

 

「………そうです。ハロウィン、やりましょう」

 

「へ?」

 

「ですからハロウィンを私達が主催者になってギフトゲームを開くんですよ! 農園を復興させれば収穫祭が出来ますし、白夜叉さんへも借りを返せて一石二鳥です!」

 

「ああ、そうだな。神話の区分は違うが白夜叉なら些細な事だと笑って流して楽しむだろう」

 

「………そうね、そうよね。なら早いとこ農園を復興させないとね!」

 

「はい!!!!」

 

 二人は手を取り、笑い合う。

 片やハロウィンを楽しんでみたい少女。

 片や友達の夢を叶えてあげたい少女。

 だが、二人は気付かない。

 あの会話の中に、一人紛れ込んでいた事に。

 

 ポン、と二人の肩に手が置かれた。

 小さな可愛らしい手が。

 

 

「へ?」

 

「あ………」

 

「捕まえたぞ、二人とも。農園の復興は黒ウサギの説教を受けてからだぞ」

 

 

 こうして夏海と飛鳥は割と普通に捕まってしまった。

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

「ヤハハ! 大量大量! そっちはどうだ、赤髪ショタ」

 

「あ? ああ、コッチは………普通だ」

 

「龍悠君、ギャンブル関係弱すぎだよ……」

 

 十六夜と龍悠は、飛鳥達の予想通り、この街でギフトゲームを荒らしまくっていた。

 どんなゲームも全戦全勝……とはいかず、龍悠がギャンブルや頭脳を競うゲームで相当数負けていた。

 因みに十六夜は今の所は全勝中だ。

 余程悔しいのか、もう一度ギャンブルに繰り出そうとする龍悠を諌めるリリとそれを肴に笑う十六夜というのが現在の状況である。

 そして十六夜の目に、ふと何かが映り込んだ。

 

 

 それは一枚のステンドグラス。

 描かれているのは笛吹き男と、それに着いて行く子供達。

 

 

「へぇ………“ハーメルンの笛吹き男”のステンドグラスか」

 

「ん、何? ハーメルン?」

 

「“ハーメルンの笛吹き男”、ドイツの街、ハーメルンで起きた出来事についての伝承だ」

 

 

 この伝承は14世紀から17世紀にかけて複数の仮説が残されている。

 そして、この“ハーメルンの笛吹き男”のステンドグラスはハーメルン市の悲劇的な史実を記念して造られたとされる。

 さらに、この伝承は1284年の出来事を起点にし、語られる。

 

 

 ───1284年、聖ヨハネとパウロの日

 6月26日

 あらゆる色で着飾った笛吹き男に130人のハーメルン生まれの子供らが誘い出され、コッペンの近くの処刑場で姿を消した───

 

 

 この様に記されているが、笛吹き男の物語に隠された歴史的な出来事についての明確な説明を与えられていない。

 

 

「この伝承には幾つか仮説がある。

 人身売買、小児兵隊、自然災害、黒死病etc。

 現代だと新たな国を作るという説が主流だ」

 

「へぇ、そうなんだぁ」

 

「十六夜様は博識なんですね」

 

 

 十六夜の解説に、理解の追い付かない龍悠と感嘆するリリ。龍悠に至っては頭がショートして煙が上がっていた。

 それを笑ってスルーした十六夜は、このステンドグラス付近に他の作品がある事に気が付いた。

 時に鮮やかに。時に濃く、暗い色使いで描かれた幾つかの絵画が展示されていた。

 

 ───作品名『フラスコの中の小人』

 

 ───作品名『笛吹き男と奴隷』

 

 ───作品名『闇』

 

 

 どの絵もテーマに一貫性は無く、共通点はたった一つだけ。

 

 

 ───作成者『アリストテレス』

 

 

 どの絵画を見ても、作成者はアリストテレスと書かれていた。

 

 

「十六夜様、この絵画がどうかしたんですか?」

 

「なんだなんだ………って、げえ。気持ち悪い絵だなぁ………」

 

 

 十六夜を心配したリリと興味本位で覗き込んだ龍悠。

 完成度はどれも高いと言えるだろう。

 しかし、しかしだ。今までの人生の殆どを直感と本能で生きてきたも同然であった龍悠には分かるのだ。

 この絵には何かある。

 恩恵や権能、契約など付与されていない筈のただの絵とは到底思えない何か。

 作者の魂が宿った、と言えるかもしれない。

 

 

「アリストテレス、ね………」

 

 

 だが、この絵は十六夜の興味を引いていた。

 理由は作成者である、アリストテレスにある。

 そもそも彼が知っているアリストテレスとは、この様な絵を描く芸術家ではなく、哲学者なのだ。

 彼を西洋最大の哲学者と呼ぶ声も少なくない。彼は多岐にわたる自然研究の業績から付いた異名は『万学の祖』、まさに相応しいものだろう。

 では、彼本人か否か。万学の祖たる彼ならこの程度できて当然なのかもしれない。

 そして同時に十六夜は思う。

 もしかしたらアリストテレスを騙る者かもしれない、と。

 どちらにしても───

 

 

「もし会えるんなら会ってみたいもんだな」

 

 

 自身が探し求めたモノがあるかもしれない。そう思い耽っていた時だった。

 

 

「───“神隠し”だ! また神隠しが出たぞッ!!」

 

「今度こそ逃すな!! これ以上、被害を増やさないためにも!!」

 

「俺達の子供を返してくれェッ!」

 

 

 鼓膜を打つ、怒号と悲鳴と絶叫。

 怒りと哀絶の大合唱が、黄昏色の街に響く。

 

 

「神隠しだと?」

 

 

 十六夜の言葉に、リリは二尾を揺らして答える。

 

 

「は、はい! この北側では珍しくない事ない、らしいですけど………」

 

 

 言い淀むリリの視線の先には、子を奪われ泣き叫ぶ母の姿。

 自らの宝と形容できる我が子を奪われた母の形相は悲しみと怒りで歪み、血涙を流していた。

 

 

「………北側には、神隠し専門の機関がある、って聞いてます。でも───」

 

「そのエキスパートの連中でも手に余る神隠し、か」

 

「………気に食わねえな」

 

 

 十六夜と龍悠の二人は怒気を露わにする。

 強い力は強い者にのみ振るうべきモノ、十六夜は今までそう思って生きてきたし、これからもこの持論を曲げるつもりはなく、

 また龍悠とって弱い者は守護すべき対象だと思って生きてきていたのだ。

 だが、この神隠しの主犯は彼らの矜持を真っ向から否定している。

 そして、その主犯は二人の怒りを更に強める。

 何故なら、───

 

 

「“神隠し”の主犯が、呑気に高見の見物かよ……!」

 

 

 建物群の屋根の上、色とりどりのローブを身に纏い、暴れる子供を腕に抱えた男が一人、眼下で泣き叫び、怒号を響かせる群衆達を見下して、嘲笑を浮かべているのだから。

 

 

「赤髪ショタ。お前は此処にいろ」

 

「ハァ!? なんでだよ! 俺だって───」

 

「リリが神隠しにあったらどうする」

 

「────ッ」

 

「そういう事だ。じゃあ、後は頼んだ」

 

 

 そう言うと十六夜は一息の内に、ローブの男目掛けて跳躍し、その目前まで迫っていた。

 

 

「──────」

 

「よお、神隠しの主犯。いきなりだが殴らせてもらうぜ」

 

 

 十六夜は右拳をローブの男の顔面目掛けて放つ。それを男は上体を限界まで仰け反らせして回避。

 追い打ちをかける様に、先の拳撃の勢いを利用し、回転。そのまま後ろ回し蹴りで男の脇腹目掛けて狙い撃つ。

 上体を限界まで仰け反らせた回避をした以上、回避は困難。今や十六夜の蹴りは必中となる。

 

 

「────唵」

 

 

 当たる筈だった。

 突如、男の足元が爆ぜた。男は爆破の勢いを利用して飛び退き、十六夜の蹴りを難なく回避してみせた。

 十六夜から30mほど距離を取った距離から男は暫く考え込み、口を開いた。

 

 

「ふむ……成る程。単純な素養は高いな。武、智の二つは高いと見える」

 

「そうかよ。そういうお前は逃げる事だけは上手そうだぜ?」

 

 

 二人は笑みを浮かべて互いに言葉を交わすが、その心の奥底は怒りで燃え滾っている。

 いや、男に関して言えば嘲笑しているのかもしれない。

 

 

「で、突然飛びかかってきて、なんのつもりかね?」

 

「ああ、単純な理由だよ。お前が俺の眼の前で俺の矜持を踏み躙ったからをぶん殴りたかっただけだよ」

 

「そうか………」

 

 

 交わした言の葉はほんの二言、三言。

 だが、それだけで両者の間ではある事が決定された。

 十六夜が男を叩きのめすか、男が逃げ切れるかというたった二つの事。

 無論、十六夜は逃すつもりなど全くない。

 緊張が高まり、音が消える。

 余分なモノを全て排除し、眼前の標的だけに注意を払い、そして────

 

 

「行くぞ、神隠しッ!!!!」

 

 

 足場を踏み砕き、クレーターを作りながら十六夜はローブの男へと駆け出した。

 

 

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