理想を求める者達も異世界から来るそうですよ?   作:幻想のtidus

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運命は、強い者を助ける


Fortes fortuna adjuvat.

 飛鳥達三人は赤壁の歩廊を歩いていた。

 無論、自由に行動できるかと聞かれれば、否と答えるしかない。

 何故ならレティシアが二人を逃さない様に手を握って先導しているからだ。

 

 

「レティシアさんも少しは手加減してくれれば良いのに……」

 

「無茶を言うな夏海。私もあの黒ウサギの相手をするのは遠慮したい」

 

 

 苦笑しながらも二人を連れて歩くレティシア。気分は保護者や引率者といったものだろうが、端から見たらレティシアは保護者を連れてはしゃいでいる子供にしか見えない。

 まあ、はしゃいでいる訳でもないのだが、それが関係したのか、クレープをレティシアだけおまけで無料で貰ってたりする。

 

 

「これ……美味しそうだけど少し品が無いわ。確実に口周りが汚れるもの」

 

「そうですか? 結構美味しいですよ」

 

「私もこの温かく柔らかい皮を噛み砕いた時に溢れる赤くて甘いドロリとしたソースが、口の中で滑りながら広がる感触が好きなのだが」

 

「吸血鬼に言われるとゾッとするわね」

 

「同感です」

 

 

 思わず苦笑する飛鳥。どうやって食べようか悩んでいる間にレティシアは半分ほど食べ進め、夏海に至っては完食していた。

 

 

「まあ、箱庭の外から来た者たちは皆一様に飛鳥と似た様な反応をするものだ。故郷とは異なる食文化、建築物、思想、種族etc……だがそれらを全てを愉しんでこその箱庭だ。食べず嫌いは良く無いし、人生経験は大いなる財産になる」

 

 

 意を決して大きく口を開けて齧り付くが、些か思い切りが良すぎたのか、飛鳥の口元にバナナとチョコレートムースがベットリとこびり付く。その感触に一瞬だけ不快そうに眉を歪める飛鳥だが、口の中に広がる甘味は悪くない。

 

 

「……美味しいわ」

 

「それは良かった。これで二の足を踏まれたのでは、南側には絶対に行けないからなあ」

 

 

 レティシアの言葉に何か惹かれるモノがあったのか、夏海は二つ目のクレープを口に頬張りながら問う。

 

 

「南側には一体何が?」

 

 

「ああ、南側の料理は凄いを通り越して、とにかくワイルドなんだ。以前に“六本傷”の店に入ったが、アレは凄かった。斬る! 焼く! 齧る! の三行程を食事だと説明された時は、流石の私も頭を抱えたよ」

 

 

 遠い目をするレティシア。

 その姿に二人は苦笑した時、視界の隅に小さな人影が映った。

 

 

「レティシア。あれは……何?」

 

 

 飛鳥の指さす方向、そこには手の平サイズしかない身長のとんがり帽子を被った小人の女の子が切子細工のグラスを眺めていた。

 それを見たレティシアは目を丸くして口を開く。

 

 

「あれは、精霊か? あのサイズの精霊が一人でいるのは珍しいな。“はぐれ”かな?」

 

「“はぐれ”、ですか?」

 

「ああ。あの類の小精霊は群体精霊だからな。単体で行動している事は滅多にないんだ」

 

 

 飛鳥は物珍しげにとんがり帽子の精霊に近づく。

 背後から飛鳥の影がかかったのか、とんがり帽子の精霊は背後を振り返る。

 その愛らしい仕草に夏海は癒されていた。

 とんがり帽子の精霊と飛鳥の視線が交差する。

 

 

「ひゃっ!」

 

 

 途端、愛らしい声を立てて逃げるとんがり帽子の精霊。

 飛鳥はクレープを夏海に預け、その小さな背中を追う。

 

 

「ちょ、まっ! 飛鳥さん!?」

 

「残りはあげるわ!ちょっと追いかけてくる!」

 

 

 嬉々として猛追していく飛鳥。

 だがそれも仕方ないだろう。何故なら彼女もまた問題児。逃げられれば追いたくなるのは必然だろう。

 

 

 夏海は慌てて飛鳥から預かったクレープを口に口に入れ、レティシアに一礼した後、飛鳥に着いていく。

 レティシアは困った様に苦笑しながら、その背中を見送った。

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

 

 ───時計台跡地。

 

 

 十六夜と黒ウサギを静寂が包み込む。

 二人の胸中に渦巻くのは神隠し、アリストテレスを取り逃がしてしまった事への慚愧。

 おそらくは空間跳躍の類。それによって後を追おうにも手掛かりも何もない。

 黒ウサギの耳にもアリストテレスの手がかり一つ手に入らない。

 そして問題はもう一つ。

 

 

「十六夜さん………」

 

 

 十六夜が一番悔しい筈だ。

 彼は優しい人だから。自分の正義に自信を持っている。だからこそ一番、悔しい筈なのだ。矜持を踏み躙られ、仕返しをしようにも出来ない。

 

 

「………やっぱり妙だ」

 

「十六夜さん?」

 

 

 ふと、今まで無言だった十六夜が口を開く。

 

 

「アレは()()()()()()()()()()()

 

 

 十六夜の口から聞き流せない言葉が出てくる。確かに神隠しの男はアリストテレスと名乗っていたが、それを黒ウサギも聞いている。

 

 

「偽名、ってことですか?」

 

「まだ確証がないがな」

 

 

 箱庭に於いて、名のある名前は弱点になり得る。その名から自身の功績を、恩恵を推察されてしまうから。

 だとしたら、あと男がアリストテレスを名乗る意味はなんなのだろう。

 だが、だからと言ってなんなのだろう。

 今この場で、十六夜が何を思って言葉を紡いでいるのか黒ウサギにはわからなかった。

 それを察してか、十六夜は真剣な面持ちで言う。

 

 

「まだ終わってない」

 

「へ……?」

 

「彼奴は絶対にまた俺達の目の前に姿を現す」

 

 

 一体、何を根拠に言っているのだろう。

 黒ウサギは十六夜の気が可笑しくなってしまったのではと顔面を蒼白にしながら、顔をペタペタ触り始める。

 

 

「………何のつもりだ?」

 

「あ、いえ十六夜さんが傷心のあまり幻覚でもみてしまったのでは、と……」

 

「ヤハハ、面白い冗談だな。面白すぎてスカートの中を覗きたくなってきたよ」

 

 

 十六夜は笑いながら、黒ウサギのスカートへゆっくり手を伸ばすが、黒ウサギは慌てて距離をとる。

 傷心故の戯れかと思ったが、彼の目は本気だった。十六夜はやると言ったら本当にやる類の問題児なのだと黒ウサギは再認識する。

 

 

「そ、それにしても何故、アリストテレスがまた来ると?」

 

「ああ? そんなもん───

 

 

 

 

 

 ───ただの勘だよ」

 

 

 黒ウサギはずっこけた。それはもう盛大に。

 漫画のようなリアクションだったが、十六夜のあまりにもらしくない発言だったのだから仕方ない。

 普段の十六夜ならキチンとした仮説、考えられる可能性を吟味し、そこから推察して発言する筈だ。

 だからこそ、今の十六夜は()()()()()

 

 

「おい、黒ウサギ。顔に出てるぞ、誰がらしくないって?」

 

「あ、すいません十六夜さん。でも───」

 

「らしくねえってのは俺だって自覚してるよ」

 

 

 十六夜はキッパリと言い切った。

 更に十六夜は続ける。

 

 

「だがな、よく分からねえんだが、こう………()()()()()()()()()っていう確信めいた予感がするんだよ」

 

「──────」

 

 

 黒ウサギは言葉を紡げない。

 十六夜も何を馬鹿の事を言っている、という感じだが、その予感が心の内にどうしても引っかかりを覚えているのだ。

 確実に、奴は確実に仕掛けてくるぞ。十六夜の魂が、本能に、或いは霊格(本質)がそう叫ぶのだ。

 

 

「なあ、黒ウサギ」

 

 

 真剣な表情で十六夜は黒ウサギの目を見る。

 彼の目は、まだ死んでいない。

 

 

「何でしょう」

 

「“神隠し”への対策をしたい。白夜叉や北側の階層支配者のコミュニティにも協力を仰げる筈だ」

 

 

 黒ウサギはその想いに応えたい。彼女の魂に刻まれた月の兎、献身の象徴の魂が熱く猛る。

 まだ、やれる事があるのだろう。

 まだ、諦めてはいないのだろう。

 ならば手を貸さない道理は無いし、何より彼はコミュニティの大切な仲間、家族同然なのだ。

 しかし、十六夜の提案はどうなるか分からない。白夜叉は確実に手を貸してくれるだろう。だが、北側の階層支配者のコミュニティ“サラマンドラ”は協力してくれるだろうか。

 

 

 現在の党首のサンドラならば問題ないかもしれないが、彼女の傍には兄であるマンドラがいる。彼はおそらく“ノーネーム”を名無しと嘲り協力などしてはくれないだろう。

 彼は礼節よりも誇りを重視しているのだから。

 だからこそ黒ウサギは忠告する。

 

 

「十六夜さん、白夜叉様は兎も角、北側の階層支配者は……」

 

「大丈夫だ、手はある。それに彼奴らもこのカードは欲しがる筈だ」

 

 

 傲岸不遜に十六夜は言いのける。

 彼は今回の追走劇で交渉の材料を手にしている。

 

 

「だからその為に───」

 

 

 十六夜は建築物の上から眼下に存在する時計台の跡地に存在する、炎の龍紋の旗印を掲げる蜥蜴の鱗を肌に持つ集団を、“サラマンドラ”の者達を一瞥し、笑みを浮かべる。

 

 

「彼奴らに御協力願おうか」

 

 

 全ては踏み躙られた己の矜持を取り戻す為。

 問題児筆頭はアレを倒す理想(ビジョン)を描きながら、動き出す。

 

 

 

 ☆★☆★☆

 

 

 ───境界壁・舞台区画・暁の麓。美術展、出店会場。

 

 

 黄昏時、飛鳥はとんがり帽子の精霊と壮絶な追いかけっこを制していた。

 走り疲れたであろう小さな精霊を肩に乗せ、後ろを振り向く。

 其処には、飛鳥を必死で追いかけていた夏海の姿があった。

 額に汗を浮かべ、身につけていたダボついた修道服は汗で肢体に張り付いていた。

 

 

「あら、夏海さんならもう少し早いと思ったのだけれど」

 

「ちょ、無理を……言わ、ないで下さい……!

 確か、にッ恩恵を使えば、追いつきますが……使うと、周囲に被、害でちゃいます」

 

 

 どうやら彼女は恩恵を使わないと飛鳥より体力がないらしい。余程疲れているのか、夏海は息を切らし、声は途切れ途切れだった。

 そして同様に疲れている精霊を肩に乗せる。

 

 

「別に貴女をとって食べようなんてしないから安心しなさい」

 

 

 精霊は肩の上で大の字で寝そべり、「ひゃ〜」と疲れ切った声を上げる。

 すると飛鳥は麓の売店で買ったクッキーを割って分け与えた。

 

 

「───!?」

 

 

 甘い匂いに釣られて起き上がった精霊は自身の背丈ほどの焼きたてのクッキーに齧り付く。

 どうやら飛鳥の餌付けは成功したらしい。

 

 

「それじゃ、仲良くなったところで自己紹介しましょうか。私は久遠飛鳥。それでこっちは原摘夏海。言える?」

 

「………あすかー、なつみー?」

 

「少し伸ばしすぎですね。だらしないので、最後にメリハリをつけてみて下さい」

 

「あすかっ、なつみっ?」

 

「もう少しよ、頑張って。最後を綺麗に区切って発音するの」

 

 

 幼い口調の精霊は二、三度頭を横に振る。

 その様子を笑みを浮かべて見守る飛鳥と夏海。精霊は可愛らしく小首を傾げて名前を呼ぶ。

 

 

「………あすか? なつみ?」

 

「惜しいです」

 

「その発音で元気よく、疑問形抜きで」

 

「………あすか! なつみ!」

 

「よく出来ました」

 

「ふふ、ありがとう。それじゃあ、貴女の名前を教えてもらえるかしら?」

 

 

 夏海は名前を呼んでくれた精霊の頭を撫で、飛鳥は精霊に名を尋ねる。

 そして精霊は立ち上がり、元気よく答えた。

 

 

「らってんふぇんがー!」

 

「………? ラッテン………?」

 

「直訳すると、鼠取りの男………ですか。随分と厳つい名前ですね。コミュニティの名前ではないでしょうか?」

 

 

 ラッテンフェンガー。ドイツ語で鼠取りの男を意味する言葉。鼠取りの男と言えばグリム童話のハーメルンの笛吹き男の隠語だ。

 そんな物騒な伝承の名称がとんがり帽子の精霊の本当の名前なのかと疑う夏海と飛鳥。

 

 

「それ、貴女の名前?」

 

「んー、こみゅ!」

 

「コミュニティの名前なんですね? では、貴女のお名前は?」

 

「?」

 

 

 意味が分からない、と精霊は首をかしげる。

 ふと、脳裏にレティシアが彼女の事を群体精霊と呼んでいた事を思い出す。

 つまり、彼女は個別の名前を持たない類の精霊。

 

 

(この子もある意味“ノーネーム”なのね………)

 

 

 ならどう呼ぶか。

 ラッテンフェンガーと呼ぶのが正しいのだろうか。しかし、これだと厳ついイメージが拭えない。

 暫く考え込んでいる間に精霊は展示してある作品に興味を引かれて展覧会の会場へと向かってしまう。

 

 名前の事は諦めて精霊を追う二人だが次の瞬間、展覧会に展示された作品の数々に魅せられた。

 趣向を凝らしたキャンドルグラスにランタン。

 大小様々なステンドグラス。

 そして絵画の数々。

 

 

「凄い数………こんなに多くのコミュニティが出展しているのね」

 

「流石に壮観ですね………」

 

 

 外で見る物よりも美麗に映える作品に二人は見惚れていたが、精霊は奥へ奥へと進んでいく。

 そして精霊は立ち止まった。

 精霊の目前に座すのは二つの展示品。

 

 

「紅い……紅い鋼の巨人と……錆びれた勾玉?」

 

 

 一つは紅い鋼で作られた巨人。

 その全身が兎に角ド派手で馬鹿デカイ。

 そして、もう一つは錆びついた銅の勾玉。

 長い年月を経たであろう勾玉は異様な存在感を放ち、見る者にまざまざと、その存在を魅せつけている。

 この二つの展示品の前には、どんな言葉も陳腐となるのは必至だろう。

 

 

「あすか、なつみ! らってんふぇんがー! くぃーん!」

 

「ラッテンフェンガーって、これ二つとも貴女のコミュニティが作ったの?」

 

「ううん! でぃーん!」

 

 

 どうやら“ラッテンフェンガー”が造ったのは、この紅い巨人らしい。では、この勾玉は誰が造ったのか?

 それを問い詰めようと夏海が口を開こうとしたその時だった。

 

 

 

 

 

『ミツケタ、ミツケタ、ミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタミツケタァァァァ───ッ!!!!』

 

『“ラッテンフェンガー”ノ名ヲ騙ル不埒者ッ!!』

 

 

 

 

 万の呪詛を孕んだ言の葉が、展覧会の会場に木霊する。

 それと同時に近づいてくる振動、そして蠢めく壁が異常事態だと警告を鳴らす。

 

 

「隠れてなさい……!」

 

「ムギュ!?」

 

 

 飛鳥は即座に精霊を服の中に押し込む。

 夏海も既に臨戦態勢を整えており、来る脅威に備える。

 

 

「来るか、来るか来るか来るか───来い!」

 

 

 そして、それは現れた。

 天井から、壁から、闇の中で光る血走った眼光が十、百、千と膨れ上がり、進撃してくる。

 

 

「ね、鼠!? 来いと言いましたが、これは流石に多すぎませんか!?」

 

 

 夏海の驚愕を他所に、鼠の軍勢は進み続ける。

 

 

「じ、“自分の巣に帰りなさい”!!」

 

 

 威光を帯びた一喝が、会場に響き渡る。

 彼女の威光は格下の支配に適している。故に鼠風情の霊格なら支配されるのが道理。

 なのだが───

 

 

「駄目です飛鳥さん! 全く効いてないです!」

 

 

 そう、飛鳥の威光は鼠相手に全く機能しなかったのだ。

 これもまた異常だ。一瞬であれど格上であるルイオスさえ嵌った威光の効果が、明らかに飛鳥より劣る鼠に効かないなど有り得ない。

 しかし、目の前にこうして起こっている不条理。

 飛鳥は咄嗟に、白銀の十字剣をギフトカードから取り出し、二人は鼠の群れに突貫し、出口へと駆け出した。

 

 

 相手が少数ならば此処で戦えるが、相手は鼠と云えど多数。更に小さな精霊を庇いながらとなれば至難だ。

 故に逃走する。兎に角、精霊の安全を確保するまで逃げ続ける事。

 これが二人の最優先事項だ。

 鼠の歯が、爪が、身体に小さい傷を刻み続ける。

 

 

「あすか……」

 

 

 心配して精霊が、胸元から顔を出す。その瞳には涙で潤ませて怯えていた。

 無理もないだろう。普通の人間にとって鼠など単なる小動物に過ぎないが、小さい彼女にとっては大型の獣だ。

 

 

「大丈夫よ。心配しないで、隠れてなさい」

 

 

 心配させまいと飛鳥は笑みを浮かべる。

 しかし、白銀の十字剣を振るっても、まるで鼠の軍勢相手では効果が薄い。

 現状において、必要なのは広範囲に及ぶ範囲攻撃だ。

 それを可能にする恩恵を所持している夏海だが、彼女の恩恵は此処では全く使えない。

 

 

 確かに彼女の恩恵は強力無比。大凡、鼠風情に負ける道理はない。

 だが、この場で恩恵を使えば飛鳥や精霊、周囲への被害が計り知れない。

 故に取れる手は身体能力を駆使した攻撃のみ。

 打つ手なし。しかし、その時。

 

 

「────鼠風情が」

 

 

 聞き慣れた、赫怒に染まった声が鼓膜を打つ。

 そして、無尽の黒が鼠を切り裂き、串刺し高々と掲げる。

 その様子は、とある国の串刺し公の逸話のそれと良く似ていて────

 

 

「我が同胞に牙を突き立てるとは何事だ!? 分際を知れ、この畜生共!!」

 

 

 出口より現れた人影───レティシア=ドラクレア。“ノーネーム”の現メイドが其処に居る。

 だが、気迫や気配はまるで別物だ。

 幼い少女の姿は妖艶な美女のそれへと変貌していた。

 彼女の足元で荒れ狂う影は顎を震わせて獲物を喰らう。

 

 

「術者は何処に居る!? 姿を見せろ!!」

 

 

 彼女の詰問に対する答えは返ってこない。

 逃亡した可能性が高いと見切りをつけたレティシアは傷だらけの飛鳥達に詰め寄った。

 

 

「貴女……レティシアなの?」

 

「劇的ビフォーアフターですね」

 

「私の事は後で話す。それより先にお前達だ。一体何があった?」

 

「あすかっ! なつみっ!」

 

 精霊は飛鳥の服の中から飛び出し、夏海と飛鳥に抱きついた。非力ながら力一杯抱き着き、もう離さないと言わんばかりに二人から離れようとしないのだ。

 

 

「やれやれ、すっかり懐かれたな。日も暮れてきているし、今日の所は連れて帰るとしよう」

 

「え、ええ」

 

「……再び襲いかかってくる前に離れましょう」

 

 三人は急いで展覧会を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───遥か後ろから監視する視線に気付かずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

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