理想を求める者達も異世界から来るそうですよ?   作:幻想のtidus

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運命は軽薄である。与えたものをすぐに返すように求めるから。


Levis est fortuna: id cito reposcit quod dedit.

 ───境界壁・舞台区画。“火龍誕生祭”運営本陣。

 

 

 巨大な真紅の境界壁を削り出すように造られた宮殿はゲーム会場と直結している“火龍誕生祭”の運営を行うための本部の謁見の間。

 其処には三つの人影が存在した。

 一人は東側の階層支配者、白夜叉。

 一人は北側の階層支配者、サンドラ=ドルトレイク。

 そしてサンドラの実兄、マンドラ=ドルトレイク。

 

 彼女らの顔は浮かない。

 “火龍誕生祭”を前に、“サラマンドラ”には幾つかの問題に直面していた。

 その内の一つが今、北側を悩ませている神隠しだ。

 北側の多くのコミュニティは件の神隠しに襲撃を受けている。

 ほんの数時間前にも子供達数名が神隠しにあっている。

 

 

「───侭ならんな」

 

 

 小さく白夜叉は呟いた。

 現在、“サラマンドラ”の新党首、サンドラの就任の儀を兼ねた“火龍誕生祭”。だが、其処に付け入らんとする不届き者を何とかする為にジン=ラッセル率いる“ノーネーム”にも協力を要請したが、この神隠しは全くの予想外だった。

 

 

「ふん、此度の神隠し、東が北を妬んで仕組んだ事ではないのか?」

 

「マンドラ兄様ッ!!」

 

「“南の幻獣・北の精霊・東の落ち目”とはよく言ったものだ」

 

 

 臆面もなく、マンドラは白夜叉を前に言い切った。流石の今回の失言を、サンドラは見逃せない。白夜叉はサンドラの補助の為に合同主催の件を受諾してくれている。

 

 

「良いよサンドラ。言わせてやれ」

 

 

 白夜叉は扇子を広げ、笑う。

 怒りはない。マンドラがこの様な態度を取るのは知っているし、それが本当にコミュニティやサンドラの事を思っての行動だと理解している。

 そして、マンドラは続ける。

 

 

「件の神隠し、あれは東側から来たのではないかという噂を耳にした。その噂の是非を問いたい」

 

 

 そう、神隠しは東側より出現したという噂が箱庭で広がりつつある。

 実際の所、確かに“ペルセウス”、“フォレス・ガロ”を始め、幾つかの東側のコミュニティが行方知れずとなっており、その勢力は北へと進行していた。

 

 

「それについては私も聞いている。現在、部下に真偽を調査してもらっておるよ」

 

 

 サンドラは白夜叉の言葉に安堵した。

 四桁以下の外門に座す最強の階層支配者が神隠し程度を野放しにする筈がない。彼女は紛うことなく善神の中の善神。

 彼女が協力してくれるのなら心強いことこの上ない。

 

 

「サンドラ様、少々宜しいでしょうか」

 

 

 そんな中、謁見の間の扉をノックする音と共に衛兵の言葉が響く。

 

 

「は、はい! 何かありましたか?」

 

 サンドラは不慣れながらもコミュニティの長として威厳を崩さぬ様に応対する。

 

 

「ええ、件の神隠しと遭遇した“ノーネーム”の月の兎と少年が御目通りしたいとの事でして………」

 

「構いません。此処に通してください」

 

 

 サンドラは抵抗なく許可を出すが、マンドラの顔が苦々しく曇った。おそらくは名無しを招きたくはないのだろう。

 そうして、謁見の間の扉が開かれる。

 

 

「サンドラ様、急な申し出をして申し訳ありません」

 

 

 入ってきたのは二人の男女。

 一人はサンドラやマンドラも面識のある青みがかった黒髪を靡かせる月の兎。

 元連盟の仲間であった黒ウサギ。

 もう一人は金髪の如何にも問題児、という雰囲気の少年──逆廻十六夜。

 黒ウサギは申し訳なさそうに頭を下げる。

 

 

「大丈夫だよ、黒ウサギ。私も貴女達が無事で何よりだし。だから頭を上げて」

 

 

 サンドラは黒ウサギに駆け寄る中、マンドラは顔を顰めていた。

 それはコミュニティの誇り、威厳を重んじている彼からすれば、“ノーネーム”相手に“サラマンドラ”の長が礼節を重んじるなど不要なのだ。

 しかし、相手は神隠しについて何かしらの情報を掴んだ可能性がある。故に平静を保ち、自制する。

 

 

「して黒ウサギよ。おんしらは何をしに此処に来たのだ?

 神隠し、についてとは聞いているが」

 

「ああ、それについては俺が話す。第一、黒ウサギに頼んで此処まで連れてきてもらったんだ。俺が話すのが筋だろ」

 

 

 十六夜は一歩前に出て、軽薄な笑みを浮かべる。

 しかし、その奥に必死に抑え込んでいる激情を、白夜叉は見抜いていた。

 

 

(成る程、神隠しと遭遇したか)

 

 

 十六夜達とは付き合いは一ヶ月と短いが、彼らの行動はしっかり理解している。

 大凡(おおよそ)、神隠しに一杯食わされたか、矜持を踏み躙られたか、或いは両方を味あわされたのだろうと白夜叉は結論付ける。

 

 

「まあ、多分気付いてるだろうから言うが、俺達は神隠しと遭遇したんだ」

 

「何かしらの情報は掴めたのか?」

 

「ああ、彼奴は自分の事をアリストテレスと名乗ってたぜ」

 

 

 十六夜が気兼ねなく、神隠しの正体をアリストテレスだと告げた時だった

 

 

「何!?」

 

「何じゃと!?」

 

 

 マンドラと白夜叉が驚愕する。

 サンドラや黒ウサギ、十六夜は何事かと見つめる中、白夜叉が口を開く。

 

 

「……小僧。其奴は確かにアリストテレスと名乗ったのだな?」

 

「あ、ああ、確かにそう名乗っ───」

 

「そんな馬鹿な話があるかッ!?」

 

 

 マンドラは声を荒げて、否定する。

 

 

「なあ、小僧。箱庭には幾つかのパラドックスが存在するのを知っているか?」

 

「いや、初耳だ」

 

「そうか。ならば聞いておいて損はないのだろう。箱庭に存在するパラドックスの中にタイムパラドックスというものが存在しておる。まあ、簡単に説明すれば同一人物が存在できん様になっておる」

 

 そう、箱庭には同一人物は存在できないし、不可能なのだ。

 例えば、箱庭にAという人物が功績を残し、召喚されたとしよう。しかし誰かが、別の世界軸から別のAを召喚する事はできないのだ。その場合、召喚自体が失敗するか、成功した場合、霊格の分散により、どちらかが消滅してしまう。

 その最たる例が、幻獣である鷲獅子(グリフォン)だろう。

 鷲獅子は元々、神獣に比する霊格を有していたが、個体数の増加により霊格が分散し幻獣クラスまで霊格が低下している。

 故にそれを阻止するために各神群は常に警戒しているのが現状である。

 

 

「あ、あの白夜叉様。そのパラドックスと今回のアリストテレスはどの様な関係があるのでしょうか?」

 

 

 サンドラは今一、飲み込めない様だ。

 しかし、サンドラを除いた四人は気づいていた。

 

 

「──つい最近、ギリシャ神群所属のアリストテレスが消滅した。詳しい時期は判明しておらんが、少なくとも今日までの約一ヶ月間の間に消滅した可能性が高いようだ。他にも各神群の何人かは行方不明、おそらくは」

 

「全員消滅した、か。白夜叉が今日見ていた資料の数々、アレは全部それについての資料か?」

 

「まあ、のう。大半がその手の資料じゃが、後は神隠しなどの別件、火龍誕生祭についての資料じゃ」

 

「意外に多忙なんだな」

 

「おおい!? 意外とは何じゃ、意外とは。私は東側の階層支配者じゃぞ!? 当たり前に仕事をこなしているに決まっているだろう!?」

 

 

 普段の彼女からは想像出来ないかも知れないが、実際の白夜叉はかなりの働き者なのだ。

 巫山戯ている時は、既に仕事を全て終えた時。時間が余っているから巫山戯ているにすぎない。

 白夜叉と十六夜のコント染みた会話を聞いていたマンドラは痺れを切らして口を開く。

 

「巫山戯るのもいい加減にして欲しろッ!!

 現状、重要なのは神隠し、アリストテレスへの対策を講じる事だ!

 この謁見の間で巫山戯るのならば出て行け“名無し”風情ッ!!」

 

 

 怒りに満ちたその言葉に十六夜の軽薄な笑みが崩れ、真剣な眼差しをマンドラに向ける。

 

 

「そう焦んなよ。俺もあんたらに協力をして欲しいから此処に来たんだ」

 

「何?」

 

「俺と、交渉しないか?」

 

 

 視線と視線が交わる。

 そう、此処からが十六夜にとっての正念場。彼が望むのはアリストテレスを打倒する為の助力だ。

 

 

「俺達、“ノーネーム”も神隠し、自称アリストテレスを捕らえるのに協力する。だから其方も手伝って欲しい」

 

「下らん。却下だ。此方に協力するだけのメリットがない」

 

「マンドラ兄様、それは───」

 

「サンドラは黙っていろッ!!」

 

 

 十六夜の言葉をマンドラはにべもなく切り捨てる。

 

 

(やはり、こうなりましたか)

 

 

 黒ウサギの予感は的中した。

 それは当然なことだ。此方は“ノーネーム”、名無しをいきなり信用できる様なコミュニティなど箱庭では数少ない。

 “サウザンドアイズ”が名無しお断りを掲げる様に、“ノーネーム”には名も旗も何もないのだから。

 しかし───

 

 

「なら、神隠しの恩恵を教えると言ったら?」

 

「………何が言いたい」

 

「恩恵の起源が分かれば、何処の誰だか粗方絞れる可能性があるんじゃねえか? それに、そっちの神隠し専門の機関じゃ、何の情報も掴めてねえんだろ?」

 

 

 十六夜のカードはアリストテレスと接触した際に使って見せた恩恵の数々の情報である。

 その起源を辿れば、何処の誰かを推測するのは可能だ。

 

 

 マンドラは考える。

 “サラマンドラ”の誇りを維持する為にも火龍誕生祭の成功と神隠しの打倒は急務だ。

 何より、今回の神隠しは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 つまりは想定外の異常事態(イレギュラー)なのだ。

 ならばどうするか。確かにメリットはある。これが他のコミュニティの謀略ならばコレを交渉の材料に“サラマンドラ”の名声、地位を磐石にし、尚且つ階層支配者にサンドラは何の問題もなく就任可能だ。

 思案に暮れるマンドラに十六夜はもう一押し仕掛ける。

 

 

「俺達は確かに名無しだ。だが実力は保障する。確実に神隠しを討ってみせるぜ」

 

「Yes! “フォレス・ガロ”、“ペルセウス”を倒した我が同士、そしてリーダーたるジン坊ちゃんならば確実にお役に立ちましょう」

 

 

 更に黒ウサギもマンドラに“ノーネーム”の有用性を語る。

 現状、彼女が十六夜にできる最大限の助力。

 それを白夜叉は笑みを浮かべて眺め、サンドラも心を決めた様だった。

 

 

「マンドラ兄様」

 

「………わかっている。貴様、名は?」

 

「ヤハハ、粗野で凶悪で快楽主義者の逆廻十六夜だぜ。……まあ、宜しく頼むよ。マンドラ」

 

「ふん、今回は特例中の特例だ。後で衛兵を通して必要な物を言え、明日までに全て用意させる」

 

「ええ、私達“サラマンドラ”は協力を惜しみません!」

 

 

 そりゃ心強い、と十六夜は笑みを浮かべる。

 すると白夜叉は懐から()()の封書を取り出した。

 

 

「私も一つ情報提供といこうかの。今回、“ノーネーム”、おんしらを呼び出した理由が書いてある。己の目で確かめよ」

 

 

 白夜叉は一枚の封書を十六夜達に渡す。

 封を開け、十六夜は内容を目で追う。

 そして、その内容が気になるのか、黒ウサギが覗き込む。

 

 

『火龍誕生祭にて、魔王襲来の兆しあり』

 

 

 絶望的な一言が、淡々と並べられていた。

 

 

「おい白夜叉。コレは予知かなんかか?」

 

「応とも。“サウザンドアイズ”の同士の一人が予知した結果じゃ」

 

「────当たる確率は?」

 

「上から下に落ちる、程度かの。彼奴には誰が、どうして、どうやるのかさえ分かる完璧な未来予知が可能だから安心せい」

 

「成る程な」

 

 

 つまり、確実に魔王はやってくる。

 上から下に落ちるのは当たり前の事。最早、魔王が襲来してくる未来を予知したのなら、それはもう変えられない事実に他ならないだろう。

 サンドラとマンドラが絶句している中、これで合点がいったと十六夜は考える。

 

 

「神隠しに魔王襲来? おいおい、何だよ。コレ計画的な犯行か?」

 

「さあな。しかし、タイミングが良すぎる。おそらくは神隠しと魔王、この二つは協力関係にある可能性が高いだろう」

 

「で、ではもう一枚は………?」

 

 

 黒ウサギの疑問。

 それは白夜叉が握るもう一枚の封書。

 魔王襲来についての予知の内容は見たのだ。もう一枚の封書には何が記されているのだろうと考えるのは当然の帰結。

 だが、白夜叉の表情は暗い。

 まるで、これが本命だと言わんばかりの何かを四人は感じた。

 そのまま、もう一つの封書を手渡す。

 其処に記された内容は、箱庭で過ごしていた者達にとって絶望的なものだった。

 

 

「嘘、だって、金糸雀様は、倒したって………」

 

 

 うわ言の様に呟いて、耳を塞ぎ、恐怖で身体が動かせずにいる。

 彼女が受けていた傷は浅くない。

 

 

「そんな馬鹿な……! あれらは護法十二天に、連盟に、各神群に調伏された筈だろう!?」

 

 

 八〇〇〇万の犠牲を払って消滅させた魔王の脅威を、アレらが残した爪痕の大きさを、マンドラは知っている。

 

 

「うむ……俄かに信じがたいがな」

 

 

 故に同じ存在である白夜叉も、この予知の内容を知った時は、驚愕と戦慄を露わにした。

 だが、これは正しく真実。具現する悪夢。

 其処にはこう記されていた。

 

 

『終末が、動き出す』

 

 

 全知の悪魔が綴った絶望が、謁見の間を埋め尽くした。

 

 

 






今回はちょっと強引な感じが否めない……


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