理想を求める者達も異世界から来るそうですよ? 作:幻想のtidus
世界は騙されることを欲している、それゆえ世界は騙される
──どうして?
目の前に広がる光景を彼女は信じられなかった。大切な友人達。そこには友情があった、愛情があった、絆は確かに繋がっていた。
現に彼女らは自身の呪いを解くと息巻いてくれていた。
素直に嬉しかった。
そして、イスラエルの地で彼女達は見つけたのだ。
聖槍、聖十字架、聖釘、聖骸布、聖杯。
どれも至高の聖遺物にして、贖罪の属性を帯びる最高の贈り物。
協力してくれた者達に万感の思いは涙と共に吐き出された筈なのに、
───どうしてそんな事をするの?
私達、友達だったじゃないですか……!
高層ビルの屋上から、彼女は突き落とされた。翼を広げれば、すぐに助かる。仮に落ちたとしても傷一つつかないだろう。
されど、彼女は翼を広げる事は出来なかった。
目の前では、五つの聖遺物を手にした、自身の最高の友人達が、下卑た笑みを浮かべて嗤う。
そして、口を揃えてこういうのだ。
『狂い哭け、貴女の末路は悪魔だよ』
その呪いの言葉と共に、彼女の身体は墜落していく。
神話をなぞるが如く、天上より奈落へと────
☆★☆★☆
───“サウザンドアイズ”旧支店
飛鳥と夏海は、あの騒動の後、“サウザンドアイズ”の旧支店に戻ってきたのだが──
「今すぐお風呂に行ってください!
早く! 駆け足! その様に薄汚れた格好で“サウザンドアイズ”の暖簾はくぐらせません!」
夏海や飛鳥は鼠達との騒動で、身体中傷だらけで、服には返り血がべったりと付着している。
さあ、早く湯殿に。と女性店員の気迫に押され、湯殿に駆け出そうとするが、女性店員は二人を抱えて駆け出す。
さらに脱衣所に着いた途端、女性店員は手際良く、ほんの数秒で二人の衣服を脱がしていたのだ。あまりに良すぎる手際に空いた口がふさがらない夏海。
「衣類の方は洗濯と修繕をしておきますので、しっかり身を清めてきてください」
そう言って、女性店員は湯殿を後にし、脱衣所には唖然としている二人が立ち尽くしていた。
「ねえ、原摘さん。こう二人きりになれたから、一つ聞きたいんだけど良いかしら?」
「何ですか? 飛鳥さん」
湯に浸かりながら、飛鳥は夏海に声をかける。
夏海は小首を傾げて飛鳥の問いを待つ。
「貴女、どうして
返答を即座に返すことが、彼女にはできなかった。
思えば初めて会った時からそうだった。
罪深い、罪深い、私はなんと罪深い。彼女があの時から何度も口にした言葉。
だが、自身や耀、黒ウサギ達には彼女が罪深いと卑下する様な要素は全く見受けない。
友を守り、道徳を重んじ、自分のするべき何かを持っている。
なのに何故なのだろうと考えずにはいられない。
「………別に、単に私自身、自己評価が単に低いだけですよ」
「それにしたって────」
「飛鳥さん、夏海さん! お怪我の程は大丈夫でございますか!?」
「待て待て待て黒ウサギ!! 家主より先に入浴とはどういう了見だいやっほおおおおお!」
二人の会話は突如として来訪する駄兎と駄神によって遮られてしまった。
しかし、勢いよく飛び込んできた黒ウサギはトリプルアクセルで湯船にダイブした影響で、湯船の底に嵌っていた。
「ちょ、ちょっと黒ウサギ!?」
慌てて夏海と飛鳥は黒ウサギを湯船から引き抜いた。
若干怖かったのか半泣きになりながらも、黒ウサギは二人のボディチェックを開始した。
大丈夫ですか、傷は、投げかけられる優しい言葉の数々。
それだけで彼女がどれだけ心配してくれているか如実にわかった。
(ふむ……黒ウサギは問題なさそうじゃな)
白夜叉は黒ウサギの様子を安堵する。
謁見の間での黒ウサギの精神状態は危険だった。幼い頃に刻まれた恐怖と悲しみはそう簡単に払拭できる代物ではない。
だが、彼女は同士の状態を聞いた時、血相を変えて駆け出したのだ。
──コミュニティの仲間は同じ屋根に住む家族。
黒ウサギは同じ“ノーネーム”に所属する者を家族だと思っている。
そんな優しい彼女は自力でなんとか立ち直っていた。
「杞憂だったな……ならば───」
そう、ならば────
「───揉ませろ黒ウサギィィィッ!!!」
───己が欲望に忠実に、楽園へと飛び込もうではないか。
湯殿に、桶が鳴らす小気味良い音が響く。
☆★☆★☆
白夜叉の私室で、十六夜は一人考える。
謁見の間で見た二枚目の予言。綴られた未来は絶対にやってくると白夜叉は言っていた。
現在、火龍誕生祭に参加している者達で二枚目の未来の事を知っているのは白夜叉、サンドラ、マンドラ、黒ウサギ、十六夜の五人のみ。
そして、白夜叉よりこの件に関しては内密にとの事だった。かの魔王達の脅威を知っている者達には心に深い傷を負っているの者も少なくないらしい。
そして、白夜叉は黒ウサギのメンタルケアを兼ねて先程湯殿に向かっている。
あの黒ウサギの狼狽え方からして尋常ではない事を十六夜は肌で感じ取っていた。
「“
白夜叉の口から語られた試練の具現。
最強の魔王。黒ウサギが恐れていた魔王は問題ないと彼女は言っていた。
そしてマンドラ達の語る魔王達は消滅、或いは討伐された魔王達であるらしい。
ならば、一体何を指している?
考えれば考えるほど深みに嵌っていく中、襖の開く音と共に、十六夜は我に返った。
「何だ……誰も、いないのか……?」
「何だ、お前か」
襖を開けたのは
すると十六夜は思い出しかの様に口を開く。
「お前、一体何処行ってたんだよ」
「……露店を回り、ギフトゲームに参加し、恩恵の情報収集だ」
「へえ………」
十六夜は素直に感嘆した。
彼はこの一ヶ月、暇があれば、というより暇を作っては街に繰り出し、ギフトゲームを荒らし回っている。
そこまでして生き返らせたい人───十六夜は純粋に興味が湧いた。
「なあ、お前の言う“生き返らせたい奴”ってどんな奴なんだ?」
「……なんだ急に……気味が悪いぞ?」
「ひでえなオイ。他意はねえよ、単純な好奇心さ」
「………アレは夢見がちな女だったよ………誰かの為に、誰かの為にと奔走した英雄の如き女」
闇を砕く極光。
鎧袖一触する、あの雄々しさ。
あの全てが今も変わらず目に焼き付いている。
恍惚な笑みを浮かべて熱く語る秋世に若干引いていた。
「………あの時の事を思い出すだけで俺は───ああ、足りん足りん、まだ足りん。
俺の全てを持って必ずや───」
「ああ、そう言えばお前の“外法”って魔術や錬金術の事を指してんのか?」
「───………」
十六夜に水を差されて若干不快そうな秋世は、一睨みして回答する。
「………お前の想像通り、“外法”は俺が外界で学んだ術法の総称だ。
まあ、箱庭に召喚されたおり………多少の弱体化はしたが、まともに使えるようになっているがな………」
そう言うと秋世は主な使用方法を語ってみせる。
死霊魔術による死体の操作。
錬金術による合成獣創造。
魔術、呪術による戦術視野の拡大。
「成る程、そういう術もある訳か………」
その知識の数々、引き出しの多さに素直に感嘆しながら十六夜は考察する。
アリストテレスも目の前の少年同様、術法を扱う存在。ならば同業に聞いた方が早い。
そして十六夜は意を決して語る。アリストテレスの詳細を。
「成る程、アリストテレス………が、魔術をね………まあ、万学の祖と言われた奴ならやりそうなことでは、ないだろう」
事も無げに彼は一人納得する。
「まあ、だとしたら、簡単だろう………術法に完璧というモノはない……対策さえ取ればどうとでもなる、“ギフトゲーム”と同じだ………対応できない方が悪いのさ」
「つまり、付け入る隙はあると?」
秋世は首を縦に振って肯定する。
あの小賢しい万学祖にも必ず付け入る隙がある。それさえ分かれば後は迷うまい。
己が拳一つ、身体一つで必ず万学祖に一発決めてやろうと覚悟を決めると、丁度白夜叉達が戻ってきた。
そして“ノーネーム”と白夜叉が行き着いた推測が語られ、時間は移り、
───魔王襲来の日は訪れた。
今回は難産だった………感想、アドバイス、お待ちしています!