オーバーロード 粘体の軍師   作:戯画

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第1章 不死と粘体の支配者
第1話 始まりの終わり


「はぁ……」

 

 広い円卓の間に、ポツンと座るのは一人のオーバーロード。見た目はゴツいローブを着た骸骨である。プレイヤー名の欄にはモモンガと表示されている。

 おもむろに手を空中に差し出すと、登録されたショートカットコマンドが起動し、所有しているアイテムの一覧が表示される。

 

 それらを眺めていると、この円卓に連日他のプレイヤーが集まっていた日々を思い出す。

 

 DMMO-RPGユグドラシル。

 

 自分の所属するギルド、アインズ・ウール・ゴウンは異形種限定の悪のロールプレイを標榜する上位ギルドであり、もれなく運営頭おかしいと言われた公式ぶっ壊れチートである世界級(ワールド)アイテムを十一個所有している。

 所有数第二位のギルドが三個であることを考えれば、異常と言って差し支えない数だ。

 その凄まじいまでの世界級(ワールド)アイテム所有数と、PKKを至上にするギルドの行動原理もあり、一部のプレイヤーから過剰な誹謗中傷を受けるのは日常茶飯事であった。

 

 そのギルドメンバー全員で作り上げたギルド拠点、ナザリック地下大墳墓。全十階層から成る各階層領域にはギルド謹製のNPC守護者、仕掛けた本人以外はごく一部の者しか把握していない複雑怪奇な罠が攻め入ったプレイヤーを待ち構える。

 以前受けた千五百人規模の大侵攻も激戦の末、最終防衛ラインである第八階層まで侵入を許したものの全滅させたという伝説じみた実績も持っている。

 

 栄華を極めたギルドのメンバー達は、それぞれのやむにやまれぬ事情のために一人、また一人と櫛の歯が抜けるようにユグドラシルを去っていった。ついにはギルド長たるモモンガのみが残り、ソロプレイでギルド拠点の維持を続けていたのだ。いつか戻ってくるかもしれない、ギルメン達のために。

 

 ギルメン(ゆかり)の品々を眺めていたところ、あるギルメンが運営の厳しい目を逃れて下ネタを仕込んだタイマーを見付けた。

 

 

-モモンガさんの発言-

<お待たせ☆寂しかった? ごめんねお兄ちゃん!>

「ぶくぶく茶釜さん! 来てくれたんですね!」

 

 

 ぶくぶく茶釜さんだけでも来てくれないかなーと思い、誰一人ログインして来ない寂しさもあってオープンメッセージとボイスチャットで独り芝居をしてみたものの、虚しさは増すばかりだった。

 

 

 

「さーせんモモンガさん! 遅くなりました!」

「うおおあっ! ぶ、ぶくぶく茶釜さん……! いえ、お忙しい中呼びかけに応じてくれてうれしいです」

 

(ログ見えてないよな? 見られてたらぜったいネタにされてるよ。危なかった……)

 

 噂をすればなんとやら。いきなりログインしてきた異様な物体、外観はピンクの肉棒としか表現し難い存在が、謝り顔のメッセージアイコンを浮かべている。

 返事をするオーバーロードことモモンガ。こちらは笑顔のアイコンで応えた。

 

「いえいえ……長いから前みたいに茶釜でいいですよ。他にも誰かインしてるんですか?」

 

 ぶくぶく茶釜と呼ばれたピンクの肉棒は部屋の中をぐるりと見渡して、自分とモモンガの二人しかいないことを確認する。

 

 現在二人は第九階層の一角に位置する円卓の間にいた。今回ぶくぶく茶釜が久しぶりにログインしたのは、ギルド長であるモモンガからサービス終了日くらい集まらないかとの打診をしたのだが、それに応えてくれたのだろう。

 

「いえ、他は誰も」

「そうでしたかー。それは残念」

「まあ、仕方ないですよ。それにしても茶釜さん呼んどいてなんですけどよく来れましたね? お仕事忙しいのでは?」

 

 ぶくぶく茶釜が困り顔のアイコンを出す。

 

「もう毎日ドタバタですよー。死ぬ。いやマジで。でも今日は奇跡的についさっきスタジオのトラブルでフリーになっちゃいまして」

「ええ!? すごい偶然ですね! っと、もうこんな時間か」

 

 視界左上に世界共通時刻のタイマーカウントが表示されている。時間は二十三時五十分を回ったところ。今夜二十四時ちょうどに全てのサーバーがダウンし、ユグドラシルは十二年のサービスに終止符を打つことになる。

 

「茶釜さん、時間もいい頃ですし最後は玉座の間へ行こうと思うんですが、いいですか?」

「いいですよー。あ、折角だしコレ持っていきましょうよ」

 

 体を向けて壁に埋め込まれたディスプレイ、その中に安置されている黄金の杖を指し示す。

 

 スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。

 

 ギルメン全員で作り上げたギルド武器であり、その仕様は七つの神器級(ゴッズ)アイテムを凝縮した破格のポテンシャルが秘められている。その価値は先の世界級(ワールド)アイテムにも引けを取らないだろうとギルメンの誰もが自負していた。

 このギルド武器に何かあれば、それはすなわちギルドの崩壊を意味する。そのため定石にもれず拠点の奥地、つまりこの円卓の間に保管され続け、日の目を見ないままに今に至るという代物だった。

 手に取ると亡念のようなおどろおどろしいエフェクトが立ち上り、全ステータスが大幅にアップする。

 

「うわぁエフェクト凝り過ぎ」

 

 これも凝り性なギルメンの仕込みだろう。闇色のオーラは怨嗟の如き唸りを吐き出しながら煙のように湧いては消える。

 

「いいじゃないですか。似合ってますよ」

「そ、そうですか? まあ、折角ですし、持っていきましょうか」

 

 円卓の間の外に待機していた家令のセバスと戦闘メイドのプレアデスを最後の務めと思い引き連れて、第10階層玉座の間へ向かう。

 

 ナザリック最奥の間には、純白のドレスに身を包んだ守護者統括、アルベドが配置されている。彼女の創造者は重度の設定魔で、改めて確認すると入力限界まで詰め込まれた設定テキストに圧倒される。

 

 モモンガは玉座へ腰を落ち着け、ぶくぶく茶釜は久しぶりを通り越して懐かしいレベルになっている玉座の間を徘徊しながら、過去の思い出を反芻している。

 

 そろそろ終わりの時間だ。

 

「ねぇ、モモンガさん……モモンガさん?」

 

 玉座におわす我らがギルマスはなにやら慌てた様子でアルベドの設定コンソールを閉じた。

 

「ん、んん! な、なんですか茶釜さん?」

 

(……? まあいいか。大したことじゃなさそうだし)

 

「いや、その今更私が言うのもなんですが、ここをずっと守ってくれてて、ありがとうございました」

 

 ぶくぶく茶釜は丸く膨らんだ頭? らしき部分をひょい、と下げる。どうやらお辞儀のようである。

 

「……みんなで作ったナザリック地下大墳墓は俺にとっても大切な場所ですからね。お礼を言われるようなことじゃないですよ」

「それでも、ですよ。おかげで私は今ここにいられる。ありがとう。わたしたちのぎるど☆ますたー」

「突然幼女にならないで下さい。いやーこんなやり取り前にもやりましたね懐かしい」

「ですねー」

 

 サーバーダウンまであと三分と差し迫っている。それでも、二人は焦って闇雲に思い出を投げつけ合うようなことはしない。あるがままに。

 それは在りし日のアインズ・ウール・ゴウンに対する憧憬と敬意の発露であり、自分たちでも不思議なほど心は穏やかだった。恐らく独りで最後の時を迎えていたならば、もっと精神は荒涼としたものになっていただろう。残す僅かな時間、取り留めの無い会話に花が咲く。

 

「落ちたらすぐ寝ないと、俺明日四時起きなんですよね」

「うわーそれはキツいですね。『無理しちゃダメだゾ☆おにいちゃんっ♡』……どう? 元気になった? あ、今更ホネだから元気になるとこ無いですねサーセン☆」

「フレンドリファイアがあったらギルド武器でぶっ叩いてますよ。それより発言が危ないですって! 最終日に垢BANとか誰にも語り継がれない伝説作るのやめて下さいよ?」

 

 時計のカウントはあと一分を切った。

 

「それは私も御免被る。モモンガさん、最後はいつものでしめましょうか」

「そうですね。時間もいい頃ですし」

 

 サーバーダウンまであと五秒。

 

「モモンガさん────」

「茶釜さん────」

 

「「乙でした!!」」

 

 時間ピッタリ。

 

 視界に浮かんでいたステータスやフレンドリスト、ギルメンリスト、メッセージ履歴、コマンドボックス、アイテムボックスが消失し、ダイブから帰還する時の意識だけが引き上げられるような感覚に襲われ、視界が暗転する。

 

 目を開けた先には、狭苦しい自分の部屋────。

 

 ではなく、混乱しているのかわたわたと身を捩るピンクの肉棒が突っ立っていた。




 基本的に自分は前書きを書きません。捏造や独自解釈がある分は必要に応じて後書きに書きます。
 理由としては、単純にその方が原作との違いを楽しんでもらえると思ったからです。

 なので、読んでいて見付けた違いは「あーここはこう変えたんだ」と後書きで答え合せをするも良し、「ここって原作と違ってたっけ」と原作を手に取ってみるも良しだと思っています。

 ちなみに大勢に影響が無いと考えている部分の描写は省略してたり描写がショボくなってるところがあると思います。改変なのか伏線なのか自分でもよく分かりません(ヲイ

 こんな感じですけどよろしくお願いします。

2018.8.13 指摘のあった大規模侵攻の記述を修正、数字表記を修正。
2018.11.3 セリフの行間を調整。
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