オーバーロード 粘体の軍師   作:戯画

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第19話 幕間1

 再びシャルティアの≪ゲート/転移門≫によって馬車内へ戻ってきたぶくぶく茶釜。礼を言われたシャルティアはうっとりしながらぶくぶく茶釜の触手に頬擦りをしていた。

 

「ああ……ぶくぶく茶釜様の触手、力強いコレであんなことやこんなこともされたらわたしはどうかなってしまいそうでありんす」

 

(ブレないなぁ……我が弟ながらピーキーに仕上げたもんだわ)

 

 こちらへ戻った直後はあわや大惨事になるところだった。回想しながら内心ため息を吐く。

 

 

 

 

 

 

 馬車に戻ったのを確認してから深呼吸をすると、冷や汗が引いていくのを感じる。姉弟コンプレックスのせいで考え無しに飛び出してしまったが、冷静になってみると他の敵対プレイヤーなどが潜んでいた場合かなりマズいことになっていた。アインズが現地で友好関係を築いている相手のピンチを救ったと言えば一応の言い訳は立つが、リスクに釣り合わないのは明白だ。

 

「ぶくぶく茶釜様、な、何か不手際がありんしたでしょうか」

 

 掛けられた声に視線を上げる。そこにはおろおろと困惑するシャルティアがいた。転移で戻ってきてから黙りこくっているので、こちらへ引き戻すタイミングが悪かったのだろうかと己の非を心配しているのだ。

 万一にも失礼があってはならない相手。そう理解しているからセバスやユリ、ソリュシャンも黙したままぶくぶく茶釜の返答を待っている。

 

「シャルティア……」

 

 軽く頬を撫でる触手に身を(すく)める様は叱られるのを恐れる子供。強く閉じた目元の長い睫毛に涙が滲んでいた。安心させてやるために頭をポンポンと軽く打つ。

 

「大丈夫だよ。何も問題は無い」

「それにしても何故人間をお助けになられたのですか?」

 

 横から掛かる声の主は()()を作って微笑みを讃えるソリュシャン・イプシロンだ。貴族の令嬢のドレス姿から本来の戦闘メイド(プレアデス)の服装に着替えている。出る所が出て引っ込む所が引っ込んだ体型と胸元を強調したデザインは世の男たちを容易に魅了するだろう。

 

「ソリュシャン、控えなさい。お手を煩わせるようなことは……」

「あら、じゃあユリ姉さんが教えてくれるの? 至高の御方々のお考えを、畏れ多くも私達がしたり顔で語るなんて方がよっぽど不敬な行いだと思うけれど。セバス様もそう思いませんか?」

「うっ……」

 

 これはどう見てもソリュシャンの方が上手(うわて)だった。ユリの面白い反応を期待してうずうずした薄ら黒い笑顔を浮かべているが、下を向いて考え込んだユリの視界には入っていない。清廉潔白なのはユリの美点だが、都合のいい理屈を組ませたら妹の方がよっぽど得意らしい。実際ユリは相手の言い分に正しいと感じる部分があるために言い返すことも出来ず困り顔である。

 言い返すも不敬、言わぬも不敬。袋小路の思考に嵌められた時点で勝敗は決している。助け舟を出そうか機を窺っていると、セバスが口を開いた。

 

「至高の御方々を推し量るような行動はお仕えする者として失格です。ましてや分かったような気になって語ると言うのも問題外」

 

 思わぬ辛辣な言葉が出てきた。話を振ったソリュシャンも少し動揺している。そんなつもりではなかったのだろうが、どうもユリが責められているような構図になりかけている。畏れと羞恥でユリの顔色が見る見る悪くなっていく。

 

「……ですが、至高の御方々の崇高なるお考えへの理解を深めることは仕える者としてまた必要なことだと思います。ユリ、ソリュシャン、あなたたち戦闘メイド(プレアデス)は皆違う至高の御方々によって創られた存在ですが、姉妹という絆を持って生まれた。互いが無いものを補うくらいでちょうどいいのではないでしょうか」

 

(おお……セバスGJ(グッジョブ))

 

 ユリの表情を見るにセバスのフォローを受けてもまだもやもやした気持ちが抜けないようだ。このまま気落ちされていては折角の楽しい道中も楽しめない。

 

「ぶ、ぶくぶく茶釜様何を……あっ」

 

 触手を素早く伸ばす。短い距離だが空中をお姫様抱っこの体勢でユリを引き寄せ、シャルティアの反対側に座らせるとぎゅっと抱き寄せた。

 

「そうそう、姉妹なんだから仲良くね。ソリュシャンもあんまお姉ちゃんいじめないの」

「え?」

 

 潤んだ目でこちらを見上げるユリ。どうやらソリュシャンに軽く遊ばれていたことに気付いていないようだった。

 

「畏まりました。羞恥に染まるユリ姉さんかわいかったわよ。ふふ……」

「ソ、ソリュシャン……あなた、後で覚えてらっしゃい」

「あ、あら。悪かったわよ。もうしないから。許して」

 

 ドスの利いた声で発される長女の恨み節は、たとえ稀代のドS妹も恐れを抱かずにはいられないものだったらしい。

 

「ああ、可哀想なユリ。どれ、私が慰めてやりんしょう」

 

 白磁のような手に頬を撫でられ身震いをするユリ。流石にこれ以上負担を掛けるのはやり過ぎだ。ユリを解放した分の触手でシャルティアを縛り付ける。

 

「ぁん! ぶくぶく茶釜様……ご無体な……」

「私ゃ悪代官か! いやアリだな。ほ〜れほれ」

「あ〜れ〜」

 

 シャルティアに触手でじゃれながら、再度思考に没頭する。

 

 アインズともまた情報交換をしなければならない。NPCたちはナザリック万歳な点においては基本共通しているものの、個の考え方は様々だ。アライメントや種族設定が影響しているのかも知れない。詳細は比較検証しなければ分からないが、彼らのことを深く知るのは今後のためにも良いことに思えた。

 守護者や戦闘メイド(プレアデス)たちは直接話す機会も、供として外へ出た際にこっそり観察する機会も多い。だがナザリックは彼女らだけによって成り立っている訳ではないのだ。守護者達にはさらにシモベがいるし、副料理長兼第九階層のバーのマスター、第十階層の大図書館(アッシュールバニパル)の司書たちや戦闘メイド(プレアデス)以外の一般メイドたち他。それら全員を面談するとなると膨大な時間が掛かるが、機会があれば順次やっていきたいとぶくぶく茶釜は考えていた。

 

 ナザリック地下大墳墓内ですら未知の部分が多く、以前との違いが分かるのはプレイヤーであるアインズとぶくぶく茶釜だけだ。

 

 そもそもユグドラシル時代は拠点のコスト分配による設定と配置をしただけなのでメイドたちの仕事がどれだけあって、それらがいまの人員で物理的に回るものなのかも全く分からない。

 次から次へと連鎖的にあれはどうだこれはどうだと疑問が津波のように溢れてくる。改めて直面した組織運営の難しさに茫漠とした不安を感じずにはいられなかった。

 組織全体のことは今考えても仕方が無い。思考を少し戻して、NPCたちの観察について考えを巡らせる。

 

「…………様!」

 

 ルプスレギナはアインズと2人だけで外出しているから、特に様々な面を見れるんじゃないだろうか。

 仮にもアインズ・ウール・ゴウン古参の指揮官役としては、各人の個性と特性を理解することは必須にして急務だ。

 

 特にナザリック地下大墳墓の階層守護者には、アウラとマーレというぶくぶく茶釜自身が作り出した存在がいる。見た限りでは設定から逸脱した様子は無かったが、他の者たちもそうだとは限らない。愛情を持って作った二人に対しても疑いの目を向けざるを得ない状況には歯噛みする思いだが、それとこれは別の問題だと半ば強引に自分を納得させる。

 かつての仲間たちが作った他のNPCに対して、アインズも同じ葛藤と闘っているのだろうか。

 

「………くぶ……釜様! ぶくぶく茶釜様!」

「んっ、ああ、なに、どうしたのユリ」

 

 呼ばれる声に意識を引き戻す。右手を見ると両手を胸元に寄せて、何かを懇願するような眼差しを向ける黒髪の美しいメイド。

 

「ボッ、ボクは大丈夫ですから、畏れながらこのままではシャルティア様の任務に支障をきたします」

「シャルティア?」

 

 言われて視線を左に向けると両手両足を空中に触手で拘束され、胸元に口に下腹部にと触手で揉みくちゃにされたシャルティアが涙目でじたばたしていた。蠢く触手に合わせて跳ねるように痙攣している。

 

「んぐっ……ふぐ、ふぐひゃぁ、んぶぅっ!」

「シャルティアー!」

 

 驚いた勢いで思わず力を入れた触手がさらに喉の奥を刺激してしまったらしい。

 歯に引っ掛けないよう注意しながら触手を引き抜くと、だ液と絡んだ触手が透明の糸を引いた。拘束が緩み、床にあひる座りに降ろされる。

 乱れたゴシック調の服装から覗く血の気の薄い白肌が少女の容姿と相俟って背徳的な淫靡さを引き立てていた。

 

 少女にイタズラをするという(くら)い快感に身を震わせながらも、流石にいまのはマズかったと思い直す。

 

「ご、ごめん、シャルティア。ちょっと考え事してた」

「とんでもありんせん! 最高に良うございんした!」

「そうだね、とんでもないことしたね……って、あれぇ」

「流石は至高の御方、触手責め一つとっても遥か高みにおわしんす」

 

 引いていくぶくぶく茶釜の触手にもう嬲るつもりがないと判断したシャルティアは手早く着衣の乱れを直し、確認のためにくるりとその場で一回転のステップを踏む。

 すかさずソリュシャンからチェックOKが出ると、再びユリと挟む形でぶくぶく茶釜の隣にちょこんと座った。

 

 

 

 

 そして冒頭へ戻るのだが、のんびりした時間も終わりを告げる。

 

「ぶくぶく茶釜様、馬車の左手前方に十人程潜んでいるようです」

「お、釣れたかな」

 

 ソリュシャンの感知網に引っ掛かった連中。それはこの辺りを荒らし回っている野盗の一味だった。滞在していた宿でも、夜間の街道には野盗が出没するため危険だと注意を受けていた。

 だがむしろこちらの目的はその野盗なのだ。世間知らずなお嬢様のワガママに振り回された体であれば夜間の出立もあり得ないと言う程不自然ではないし、野盗の規模がはっきりしない以上誰かに目撃される可能性が低い夜間に接触した方が都合が良い。

 

「じゃ、私はとりあえずここまでかな。シャルティア、ナザリックに転移門(ゲート)繋いでー」

「名残り惜しいけど仕方ありんせん。≪ゲート/転移門≫」

 

 三たび馬車内に楕円が広がった。セバスと戦闘メイド(プレアデス)の二人が背を正し、拠点へ戻る主人を見送る。

 

「じゃあねー。帰ってきたらまた女子会でも開きましょう」

「それは素晴らしいですわ。ねえ、ユリ姉さん」

「ええ、楽しみにしています」

 

 ぶくぶく茶釜の姿が消えたしばらく後、馬車が一際大きく揺れる。それきり止まった揺れは、馬車が停止していることを示していた。

 

 

 外にはわらわらと統一感の無い軽装の男達が十人程三日月型に広がり、これ見よがしに剣や手斧をチラつかせている。報酬の取り分けなどを雑談しながら馬車を取り囲む彼らに警戒する様子は見られない。それもそのはず、この手順での襲撃は彼らにとってはルーチンワークであり、緊張しろと言う方が無理な話なのだ。

 

 誘い出されたことを疑う者は誰一人としていなかった。




次回、名も無き夜盗死す!

2018/11/3 行間を調整しました。
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