オーバーロード 粘体の軍師   作:戯画

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野盗と言う括りが既に死亡フラグ。


第20話 ある野盗達の末路

 数日滞在していた街を離れて、王都リ・エスティーゼへと続く街道に馬車を進める。その足取りは慎重で、馬子(まご)が引く速度と大差無い。辺りは夜の帳が下り、いまは遠く離れた位置に街の灯が僅かに見える。

 日中に雨が降ったせいか、やや湿った空気が肌寒い。この先は林を割るように街道が伸びており、風に擦れる葉音や虫の鳴き声が入り混じっている。夜空に意識を向けて視覚の情報を減らすと思いの外騒々しいものだ。

 

 街道を進む馬車は自分が手綱を握る1台のみ。それもそのはず、馬は夜目が利かないため、走らせれば事故を起こす。脚が折れたら基本的に殺すしかないため、決して安くはない馬を無闇に危険に晒す真似はしないのが常識だ。

 

 だが世の中には扱う金のスケールが違う人間が少なからず存在する。小銭でパンを買うような感覚で、馬だの家だのを買う連中がいるのだ。大抵は豪商や金持ち貴族などの市政でも幅を利かせている者であることが多い。

 

 その点、御者台に乗るザックは庶民的な金銭スケールの持ち主だった。自分のできるやり方で稼ぐ。今日の仕事もその一つだ。

 

 隣に置いていたランプを掲げて、時計回りに動かす。符丁の明かりが返ってきたのを確認すると、自分の仕事は九割方終わりだ。あとは連中に任せて分け前を受け取るだけ。もしかするとあの高慢ちきなお嬢様との()()()()もあるかも知れない。下卑た喜びを胸中に躍らせて、あらかじめ決めておいた合流地点へ急いだ。

 

 

 

 前触れなく止まった馬車の周りをゾロゾロと出てきた男たちが包囲する。御者に扮していたザックは馬車を止めると同時に御者台を飛び降り、集団のリーダーと思しき男に自分の手柄を主張する。

 

 それを鬱陶しそうに受け流し、賊のリーダーは包囲されつつある馬車を観察していた。わざわざ危険度の高い夜に街道を通るのは、人目に付きたくない事情がある者が多い。それも金のかかる馬車でとなれば、いざと言うときのための現金や宝石を隠し持っていることが多いのを彼らは知っている。今日の標的の羽振りがいいのはザックからの報告で聞いている。

 

 包囲が完成したのを確認してから、馬車の小窓からもよく見えるよう得物を一斉に抜き放つ。そのあと五秒か十秒か、絶妙な間でややゆっくりと開いた扉から出てきた存在にその場にいた誰もが虚を突かれた。

 

 夜会巻きにまとめた艶のある黒髪と、銀縁の細眼鏡。馬車を降りたときにふわりと膨らみを増すエプロンドレスは、頭に乗ったホワイトブリムと合わせてどこからどう見てもメイドであった。その表情は全く動揺しておらず、微笑みすら浮かべていた。

 

 地に降り立ったメイドは自然な動作で横へ寄り、少し腰を落とすと馬車に手を差し出す。天に向けられた掌に一回り小さな手が乗せられ、現れたのは暗めの色調のボールガウンに身を包んだ少女。

 白蠟じみた血の気を感じさせない肌と、血を煮詰めてルビーに閉じ込めたような眼が対照的に月夜に映えた。

 

 不意打ちに続く困惑。だが誰よりも混乱していたのは他でもないザックであった。確かに乗客は二人だった。だがそれは世間知らずのお嬢様と執事のジジイであって、あんなメイドと少女(ガキ)ではない。滞在していた宿にいた貴族でもない。正体不明の連中がいまのいままで自分が手綱を握っていた馬車に潜んでいた。得体の知れない恐怖のために背筋に痺れにも似た震えが走る。

 

 しかし細かいことを知らない賊の頭の中は非常にシンプルだった。確かにザックから伝わっていた人相風体と違うが、なんのことは無い。()()()()が増えただけだ。ジジイよりは若い女の方がずっといい。その考えに至った者たちから野次が飛ぶ。

 

「今宵はわたしたちのために集まってくださってありがとうございんす。ところで交渉をしたいのでありんすが、こなたでいちばんお偉いのはどなたでありんしょう? わたしにはとんと見分けが付きんせん。ぬし?」

「交渉だあ? おいおいお嬢ちゃん状況分かってる?」

 

 鈴を転がすような声を持つ少女の場違いな発言と男のやり取りを見て賊に笑い声が広がる。世間知らずは危険知らず。いよいよもって金持ち貴族の可能性が上がり、男たちは内心ほくそ笑む。

 

 その直前に奥の方へいた一人の男に視線が寄ったのをシャルティアは見逃さなかった。

 

「ふふ……交渉と言うのはお茶目な冗談でありんす。ユリ、把握しんしたか?」

「はい、シャルティア様。彼とザック様は私が責任を持ってお守り差し上げます」

 

 不意に上がった自分の名に反応し、メイドの方を見てしまった。夜の闇の中、馬車の側とは違ってザックのいる辺りは暗がりになっている。しかしそれでも確かに見た。眼鏡に指を添えたメイドがこちらをはっきりと見据えていたのを。

 

「ああ? なんの話だそりゃ。つーか、そっちが守るってんならこっちは攻めちまうぞぉ。ガキの割にゃいいもん持ってんじゃねえか」

 

 馬車に近い位置取りの男が少女を引き出そうと手を伸ばした。貴族のガキを人質に取れば他の者もおいそれと抵抗できない。男の思考はすでに手柄の要求をどうしようかと別の所へ飛んでいた。

 

「汚い手で触りんせんでくんなまし」

 

 乾いた音が一つ。その後続けて少し重い音がする。

 

「あ、あっ! 手っ、手がああああ!」

「あらぁ、なんて声。もそっと静かにしなんし」

 

 手首から先を無くした男。次の瞬間には頭と胴が泣き別れになり、絶命する。無造作に払ったシャルティアの手で刎ね飛ばされたのだが、その手には刃物の類は何も持っていない。それどころか血の跡すらも付着しておらず、相変わらず青白い肌が月夜に照らされていた。

 

 死体の傷から噴き出た血が吸い上げられていく。空中には赤い球体が浮いており、吸い上げた血を中へ巻き込みながら胎動していた。シャルティアの特殊技術(スキル)、<鮮血の貯蔵庫(ブラッド・プール)>によるものだが、賊にそれが分かろうはずもない。血液の大半を絞り出されて(しな)びた死体が硬直したまま地に転がった。

 

「マ……魔法詠唱者(マジックキャスター)だぁっ!」

 

 原始的な攻撃手段しか持たない連中にとって魔法の存在は脅威だ。一口に魔法詠唱者(マジックキャスター)と言っても、魔力系魔法詠唱者(マジックキャスター)や精神系魔法詠唱者(マジックキャスター)など、様々な職によっても細分化されている。系統が違えば警戒するべき対策も変わるのに、そういった方向性に関する警告が発されないということは賊が魔法について非常に浅識であることを示していた。

 

 それを見たシャルティアは顔を歪める。自分は戦闘狂という訳ではなく、撫でれば死ぬ程度の連中をちまちま片付けるのは性に合わない。甚振(いたぶ)って愉しむ前に動かなくなってしまうのだから。

 かと言ってそれは任務を雑に行ってよい理由にはならない。ちゃんと役目を果たして褒めてもらえる瞬間を思い浮かべてやる気を奮い立たせた。

 

 そこからの惨劇はこの世に現出した悪夢だった。振り下ろしたショートソードは相手に届く前に刃が砕け散り、柄を手放すより早く手刀で腹を突き抜かれる。突っ込まれた両手を勢い良く開くと衝撃に耐えられなかった男の上半身が宙を舞い、辺りに文字通り血の雨を降らせた。

 

 普段から力自慢をしている大柄な男は掴んでしまえば何とかなると思ったのか両手を突き出して迫ったが、両腕をへし折られて前傾姿勢になったところに真下からのアッパーカットで頭部を粉砕された。恐怖で身を凍らせていた者もいた。

 

 ある者は足払いに足首ごと持っていかれ、またある者は殴られた頭が爆散して血の混じった脳漿を飛び散らせた。一撃で絶命しなかった者は裂けた腹から腸がこぼれ出し、それでもなお吸い上げられる血と共に残り僅かな命も失われていった。

 

 馬車から離れた位置取りだったためにまだ無傷だったザックは、ただその光景を見ているより無かった。こうしている内にあの化け物がこちらへ襲い掛かってきてもおかしくない。いま彼の胸中にある思いは賊が全滅する切っ掛けを作ってしまったことへの後悔ではなく、生物の本能的な死への恐怖であった。また1人仕留めた化け物はこちらへ一直線に突っ込んでくる。

 

 悪態をつくこともできない自分とのあいだに割り込んできた影があった。手を引かれて身を躱す。

 

「あ? あー、そこな者は違いんしたか」

 

 一瞥をくれるとシャルティアは即座に反転して次の獲物に襲い掛かっていった。

 

「ザック様、こちらです」

「あ、ああ……?」

 

 眼鏡のメイドに手を引かれ、森のさらに奥へ進む。馬車からそれほど離れてはいないが、不思議と化け物の追撃は無い。徐々に思考能力が戻り始めた頃、今度は見覚えのある女が目に入った。ロールされたボリュームのある金髪、あの世間知らずのお嬢様だ。

 

「では、ザック様は確かに届けたわ」

「ええ、ありがとう。ちゃんと報告しておくから心配しないで」

「はあ……とにかく私はもう1人護衛対象がいるから戻るわ」

 

 短い会話をするとユリと呼ばれていたメイドは踵を返して闇の中に消えていった。それはいま二人が来た方向、少女の形を取った圧倒的な暴力が吹き荒れる死地だ。

 

「おまっ、お、俺を守るんじゃないのか! おい!」

 

 馬車から降り立った様子からしてユリはあの化け物側の存在であることは誰が見ても明らかだ。だが追い詰められた、藁をも掴む者に正常な思考を期待する方が間違いだ。

 

「もうその必要はありません。考える必要も。さあ……」

 

 いまだ森の奥から仲間の断末魔の悲鳴が薄っすら聞こえてくるこの場に似つかわしくない、(あで)やかさすら感じる声にザックの視線は正面に戻る。ザックが街で見ていた、金髪の女性。本来なら彼女があの包囲された馬車から出てくるはずだった。

 もやもやした疑問の答えが出るより早く、目の前の光景がザックの最後の判断力を奪い去る。元々胸元が大きく開いたデザインのドレス、両腕を交差させた体勢から肩を撫で下ろすと、支えを失ったドレスは二つの豊満なバストに引っ掛かって今にも溢れそうだ。

 そのまま掴まれたザックの手は、彼女の胸元へと導かれる。

 

「あまり激しくすると壊れてしまいます……。優しく、ゆっくりとお願いしますわ」

 

 現実離れした感覚の中でザックの脳は自分を安心させたい結論ありきの理屈を捻り出す。このどこかしかの貴族の娘が呑気にここにいるということ自体が安全の証明であり、事態が沈静化するまでのお楽しみは死ぬ思いをした自分に与えられたご褒美、権利であると。無意識のうちに口元はだらしなく緩み、濁った目にはもはや隠すことすら忘れた肉欲がありありと言葉無く語られている。

 

 そんな儚いガラスの妄想を打ち砕くように、胸に触れた手にピリッとした刺激が走った。「がっ」苦悶の声を漏らしたときにはもう遅い。液状化したソリュシャンの身体に両腕が肘まで飲み込まれている。分泌された強烈な酸によって腕が焼け、飲み込まれている境界から白煙が上がる。

 

「ぎゃあああああああっ!!」

「ユリ姉様はちゃんと約束を守られました」

 

 にちゃあ。粘性を持った液体、固まった水飴を練った時に似た音を立てて、ソリュシャンの顔が歪む。それは笑顔と言うにはあまりにも残忍で(おぞ)ましく、邪悪なものだった。顔の半分程まで大きな三日月を形作る口は、彼女が人外の存在であることを実に分かりやすく表していた。

 

 確かにユリは守ると言った。だがそれはあくまでシャルティアから守ると言うだけの話だ。ぶくぶく茶釜が馬車から離れていたときにザックを好きにしてもいいか、セバスを通してシャルティアにお伺いを立てており快諾をもらっていた。セバスの部下であるユリとしては立場上、シャルティアから譲られる形になったザックを無事にソリュシャンに届ける努力をする必要があった。

 生真面目な長姉のお陰もあって、ソリュシャンはザックの断末魔を存分に味わうことができた。全身を取り込んだあとも活きが良ければ半日は楽しめるだろう。

 

 

 

 ユリが戻ると、死の臭いが充満した空間には事を終えたシャルティアが血の回収をしながら陶然と佇んでいる。そのあいだに探し物を見付けることにした。

 

 血に塗れた死体たちの中に賊のリーダーを見付けると、襟首を両手で掴んで引き上げる。気絶しているが、傷一つ無く五体満足で生きていた。ザックを連れ出す前に闇夜に紛れて意識を奪っておいたのだ。取り敢えず倒れて動かなければ即座にシャルティアに殺されることは無い。放置しておけばいずれは危険だろうが、ザックをソリュシャンに届ける程度の時間なら問題は無い。

 

「ふぅ……ユリ、終わりんしたぇ」

「はい、こちらも目を覚まします」

 

 

 

 意識を取り戻した男の目の前には、愛らしい顔立ちに無邪気故の残酷さを滲ませた微笑みを浮かべる少女の姿をした化け物。先の惨劇がフラッシュバックして無意識のうちに座らされた体勢から逃げ出そうと(あが)くが、背後にいる誰かの拘束は魔法でも掛けられたのかと思う程びくともしなかった。

 

「少し気を落ち着けなんし。ぬしにはちょっとした質問に答えて欲しいだけ。わたしもオニじゃありんせん、正直に答えてくれれば解放するし他の者のように命を奪ったりもしないと約束しんしょう」

 

 いまのいままで素手で仲間を引き裂いていた奴の言葉が信じられる訳がない。とは言えそんな化け物に眼前に迫られては否やも無く、逃げられないこの状況で首を横に振ればまず十中八九殺されるだろう。

 

「あ、それともし断ったらそこな方々とあの世で仲良うしてくんなまし」

 

 ニッコリとした小悪魔的な笑顔から出てきた言葉はこの世のものとは思えないドス黒い最終通告だった。

 

 しかしその実、シャルティアに悪意は無かった。無闇矢鱈に相手を苦しめようとは考えていない。ただ、アインズからは人間社会と表立ってトラブルを起こさないよう注意されている。それを自分のできる最も簡単なやり方で実行しているだけだ。

 死人に口無し。人間をオモチャくらいにしか考えていないシャルティアにはどこからどこまでが殺していい相手なのか判断が付かない。なのでその辺りのバランサーはユリに任せると決めていた。

 

 アライメントが善に傾いているユリはナザリック内でも稀有な存在だが、忠誠心に紛れは無い。

 聞いた話ではユリは現地人への対応能力についてアインズから太鼓判をもらったらしい。ならば、その判断を信じることもまた忠義の証だ。自身の考えと絶対的存在である至高の御方々の指示と、どちらを優先するかなど秤に掛けることすらおこがましい。

 

 ユリが何も言わないなら良し、止めに入ったり苦言を呈するならヤメる。そのくらいシンプルな方がシャルティアとしても分かりやすくていい。そして今のところユリからのストップは無い。

 

「…………分かった。何を聞きたいんだ」

「ふふ、話が(はよ)ぅて助かりんす。ぬしらの(ねぐら)はどこ? まだおりんしょう?」

 

 何をする気なのか分からないが、案内すればまず他の者の命はないだろう。かと言って断れば自分もこの場で骸の一つになるだけだ。なりふり構ってはいられない。

 

「この先だ。木々が切れた所の窪地に」

「それはそれは、うってつけとは正にこの事でありんす」

「も、もういいだろ! そっちの欲しい情報は手に入ったじゃねえか!」

 

 身を引いて立ち上がるシャルティア。その身は小柄だが男が無理矢理座らされているため、見下ろされる格好になる。唇をぺろりと紅い舌が舐めた。

 

「もちろん、約束は守りんす。ユリ」

 

 いきなり解放された男の身体は、よく分からない力に引っ張られて立ち上がらされる。振り向くとそれがいままで自分を拘束していた人物の手によるものだと思い至り、同時に自分より屈強にはとても見えないこのメイドがやっていたことなのだと思うと得体の知れない怖気に襲われた。

 

 静かに佇むメイドには、こちらをどうこうする気は無いように見える。男は恐る恐る距離を取ると、森の奥へ全力で走り出した。

 

 

 

「そうそう、うっかり言い忘れておりんした」

 

 その声は自分の耳のすぐ隣から聞こえた。横を見る間も無く、左肩に痛みが走る。炎を打ち込まれたかと錯覚する二点の熱は瞬く間に広がり、(かえ)って痛みの起点が分からなくなる。それがその人間の最期の感覚だった。

 

 背後から男に組み付き、シャルティアは牙を突き立てた。吸い出される血液を嚥下して、小さな喉がこくり、こくりと何度も悦びの音を鳴らす。

 やがて男の身体が痙攣するのも忘れた頃、血を飲み切ったシャルティアはやっと口を離した。

 

「わたしはオニじゃないと言いんしたが、残酷で冷酷で非道で──そいで可憐な吸血鬼でありんす」

 

 

 

 

 

 

 暗闇の森を疾走する影がある。軽装に身を包んだ男には悪路や罠を気にしている様子は無く、何より異様なのはその速度だった。

 たとえ知った道だとしても、枝葉を揺らしながら駆け抜ける脚力は人間の領域を逸脱している。

 

 その影にもう一つ、後ろを付いて走る者がいた。

 

「さっきの彼の話ではもうすぐ着くはずですが」

「そうかえ? もうちょっとこうしていたい気もしんす」

 

 追う影はユリ・アルファ。その腕にはシャルティアがお姫様だっこの要領ですっぽりと収まっている。いたずらっぽい笑顔を浮かべる彼女は心底この状態を楽しんでいるようだ。セバスたちとは既に別れている。彼らは馬車の手綱を取り換えて王都へ向かった。

 

 先導していた賊の元リーダーの足が不意に止まる。仕掛けられたベアトラップに引っ掛かっていた。鋭利な刃が脛に深々と食い込んでいるが、(うめ)き声の一つも上がることはない。

 シャルティアの吸血によって眷族化され、下級吸血鬼(レッサー・ヴァンパイア)となったことで痛覚が極端に鈍くなっているからだ。

 

 並んで足を止めたユリが一旦下ろしたシャルティアは成りたての眷属にツカツカと歩み寄ると、トラップから助ける訳でもなく前髪を指で弾きながら冷徹極まりない口調で問い掛ける。

 

(ねぐら)はこの近くか?」

「ググ……ソウ、で ス。あど、アど……1き、ろ」

 

 鈍重な応答と共に進行方向に指を向ける。その先は話通りに森が切れており、視界も比較的開けた窪地がある。洞穴から漏れ出ている明かりが薄っすら滲んでいた。

 

「もう見えていんす。ならもうぬしの役目はおしまい」

 

 シャルティアが両手を軽くパンッと閉じると同時に下級吸血鬼(レッサー・ヴァンパイア)の男の動きが止まり、頭から地面に倒れ込む。その衝撃で全身の肉体は塵と化し、男の着ていた衣服と軽装が硬質な音を立てた。こうして街道沿いにそこそこの被害を出していた野盗グループ『死を撒く剣団』の半数は人知れずこの世から消滅した。

 

「ん」

 

 両手を広げて待機するシャルティアを横から(すく)い、再び抱き上げる。ユリの肩を掴む手はしっかりと握られているが痛くはない。

 

 月明かりに照らされる一つの影は、『死を撒く剣団』の残り半分の下へと着実に迫っていた。




 1つだけ言い訳をさせていただくと、このエピソードの初期案書いてたのが5月くらいでした。その後原作10巻が発売しまして、まさかのアウラに「ん」されてしまいました。被ったのが嬉しい様な、後出し確定なのが気が引けるやらで変更するか迷ったんですが、シャルティアに割りを食わせるのが忍びなくてそのままにしました。
 要するにオマージュするつもりは無かったのにそれっぽくなってしまったよほほいと言う余談でした。

2018/11/3 行間を調整しました。
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