小分けにしてロールの掛かったミディアムの金髪に、グラマラスという言葉が相応しい出るところは出て引っ込むところは引っ込んだシルエット。胸元が開いたデザインのメイド服はセクシーな谷間を惜しげも無く披露している。スリットの入った丈の短いマイクロミニスカートの下には絶対領域、ガーターベルトと繋がった目の粗い網タイツが拳一つ分程チラリとのぞく。そこから下は
他の姉妹たちの例に漏れず美しく妖艶さの漂う整った面立ちはどこか儚げで厭世的な雰囲気を纏っている。光の無い目はある者には弱々しく、またある者には淫靡に映るであろう千変万化の色を内包している。だが彼女をよく知る者はこう言うだろう。
目に宿る光はそれこそが偽りであり、闇を
自分を含めて
日々の変化は徐々に減り、供歩きを命じる至高の御方も少なくなった。それどころか、その御姿を目にすることが無くなってさえいった。ある一人を除いては。
その至高の御方は、このナザリック地下大墳墓を、至高の御方々がともに作り上げた貴い地を他の者に奪われまいとたった独りで守り続けた。そのためには外で何かをする必要があるらしくナザリックを空けることの方が多かったが、来る日も来る日も必ず自分たちの前を通る姿を目にしていた。時間はまちまちだが円卓の間から出てこられて、外から戻られたら第十階層へ立ち寄り再び円卓の間へ戻られる。一度円卓の間に入ると早くとも15時間は出てこられなかった。丸一日以上出てこられないこともあったが、三日以上姿を目にしないことは無かった。
それでも、いつかその姿も見なくなるときが来るのではないかという不安は尽きることがなかった。
ある日を境に、劇的な変化が訪れた。
いつもと同じように円卓の間から姿を現した至高の御方、その人影は一人ではなかった。久しく見掛けることの無かった、第六階層の双子の守護者の創造者でもあるぶくぶく茶釜を伴っていた。
セバスを筆頭に二人の至高の御方々に付き従い、玉座の間への入室を許される。
未知の事態にナザリック地下大墳墓が巻き込まれていることについて調査を命じられたが、自分の感知能力に普段と変わった異常は無かった。如何にして至高の御方は未知の事態とやらを認識されたのか。分かっていたことではあるが、深淵なる叡智に畏怖を抱かずにはいられなかった。
夜空を星々が彩り、草原を撫でる風と虫の鳴き声。この世界において未知の世界への第一歩を踏み出したのは、かつて世界の隅々を飛び回ったと聞く至高の御方ではなかった。
上司にあたるセバスと共に至高の御方の命を受けたソリュシャン・イプシロンの目前には、記憶にも知識にも全く合致しない風景が広がっていた。確か以前聞いた話ではナザリック地下大墳墓は毒の沼地に位置していたはずだ。念のため足元の植物や土を確認するが、毒性は無かった。
ナザリック地下大墳墓から一キロの地点へ移動し、気配感知の
静止した状態の方が高い精度で観測できるが、いまそこまでの詳細は必要無い。まずこちらが先んじて相手を発見し、常に先手を取れる状況を作ることが肝心なのだ。円周をなぞる軌跡で移動を開始する。
拍子抜けなことに感知の網にはネズミなどの小動物が引っ掛かるばかりで、至高の御方が警戒せよと言ったような危険な存在は見付からなかった。手分けしていたセバスも特にこれといった発見は無かったらしく、調査を終えて合流後、帰路に着いた。
自分たちがナザリックを出たとき玉座の間にいた至高の御方々と
足早に第六階層へと向かうセバスの背を見送り、特に急ぐ用も無いソリュシャンは決して早くはないがキレのある足取りで、大半に土が被って僅かにしか見えない石畳をカツ、カツ、と正確に一定のリズムで迷い無く進む。
いかにもアンデッドたちの庭といった感じのする、人の手入れがされていなさそうな乱杭歯状に立ち並ぶ墓石。オリエント調の神殿を模した霊廟の柱も部分的に風化しており、生ある者を拒む荒涼とした風情がそこにはあった。これで暗雲でも立ち込めていれば言うことは無い。豪雨と雷というのも良い。
雲1つ無い夜空に輝く星々の彩りはこの場所とちぐはぐな印象だった。
メイドの本懐とは、自らの仕える主人の役に立つことである。それは戦いを主な役割とする
主人が敵を仕留めるための隙を一瞬だけでも作る。そのためには命を捨てる必要があるだろう。もっとも、至高の御方々のために己が命を惜しむ者など誰一人としていないことをナザリックの誰もが知っている。
敵に攻め入ってほしい訳では当然ない。そのような無礼者は自分には理解し難い趣味嗜好を持つニューロニストの拷問でも永遠に受けていればいいと思う。ただ、いざそのときが来たとして、自分の忠誠心には僅かな揺らぎすら生まれないという確信があった。
◆
「次はソリュシャン・イプシロンです」
「この前調査に出したときは割と普通っぽかったですけど」
唯一気になると言えば目が死んでいることくらいだが、あの姿も一種の擬態と考えればさしたる問題ではない。
シズの面談のすぐあとにデミウルゴスへの協力を指示するために呼んでいたアウラとの話も終わり、
引き出したプレートはうろ覚えの記憶を頼りに履歴書を模したものだ。写真は貼り付けられていないが、名前欄の下には区画毎に大きさを変えた枠線が引かれている。項目名が指定されていないのは技能的な部分を知るのが今回の目的ではないことと、あとで共有するならアインズとぶくぶく茶釜がそれぞれの観点で気になったことや聞きたいことを書き留めていった方がより多くの情報を得られるとの判断だ。
箱については演出過剰というか、単に使用済みと未使用のプレートを分けたかっただけなのに「至高の御方が直筆された極めて貴重な物を粗末に扱う訳には参りません!」と何故か嬉しそうなアルベドに電光石火の勢いで用意されたのだ。書き損じた物は二つの箱のあいだにスペースがあるためそこに伏せて置かれている。
「失礼致します」
準備ができたちょうどいいタイミングで、ソリュシャン・イプシロンが姿を現す。スラリとした体型はモデルのそれを彷彿とさせ、少し
もちろん眼前でくるりとターンをする訳も無く、椅子の隣に来ると深々と頭を下げた。
「ソリュシャン・イプシロン、
「うむ、座れ」
膝を揃えた両脚をやや斜めに構えた座り方は、いやらしくない程度に女性的だ。僅かに浮かべた微笑みはユリなどとは全く異質で、素朴さよりも妖艶さ、謎の多い神秘的な印象を受けた。息を呑むほどの美人であるが、それだけでは言い表すことのできない雰囲気の持ち主だ。
早速一つ目の質問をする。それに対してソリュシャンは特に気負った様子も無く、淀み無く答えた。
「人間は取るに足らない存在ですが、命を懸けて足掻く瞬間は大変好ましく思いますわ。それが無垢な者であれば尚のこと」
「なるほど。ふむ……無垢?」
確かに。命を懸けて、つまり掛け値無しの全力で何かを成そうとしている者はアインズから見ても眩しく映るものがある。大人しそうな外見に反して、意外と熱血系のシチュエーションが好きなのだろうか。無垢な者、という表現に少し引っ掛かりを覚えるが、裏表の無い人物と言うことだろうか。
アインズの脳裏にはカルネ村で出会った王国戦士長ガゼフ・ストロノーフが思い起こされた。あの片手で数える程に少なく交わした言葉であっても、彼の実直さが滲み出ていた。
和やかなムードで進行するかと思われた面談は、ぶくぶく茶釜の投げ掛けた2つ目の質問から俄然物騒な雰囲気が立ち込める。
「んじゃ二問目。人間に喧嘩を売られたらどうする?」
「問題が無ければその場で、まずい状況であれば
「おー、流石
「お褒めに与り光栄です」
正直なところ、人間を殺すことに抵抗が無いのはあまり問題視していない。それを言えばアインズやぶくぶく茶釜とて、カルネ村を襲った騎士達に手を下している。そのときに嫌悪感の類いが無かったのは身を以て理解していたことだ。要は、表と裏を使い分ける分別があるかどうかこそが本質的に大事なことなのだ。
殺人に抵抗が無いと言っても、人間憎しで狩り回すような考えは一切無い。邪魔だったり危険だったり、必要があれば殺すのも厭わないと言うだけだ。愛着が湧いたものや目を掛けた者を守ろうとするのもおかしくはあるまい。人間が動物に抱く感情に近い。例えば野犬は危険性や衛生面の理由で排除の対象となるが、家畜化した犬は愛玩の対象や、ときには本物の家族同然の扱いを受けることだってある。
ではここでソリュシャンの言った問題とはどの程度のものなのか。特に因縁が無いのなら、『命を狙われた』くらいが妥当なところだろうか。もし『気に障ったので始末する』程度の判断ならば、軽率と言わざるを得ないのだが。ここは変に迂遠な言い方をせずにもう少し突っ込んでみる。
「その、まずい状況とは具体的にどのような場合を想定している?」
「はい、例えば人目に付きたくない場合や、その者に危害を加えることがナザリックの不利益に繋がる場合は一考するべきかと存じます」
感情的ではない。ナザリック至上主義とでも言うべきか、答えた彼女に嘘を吐いている様子は無かった。だがもう一つ、サラッと言ったので流してしまいそうになったがどうしても気になったことがある。
ソリュシャンの種族であるショゴスの細胞は優れた延性と可塑性──簡単に言うとよく伸び、変化させた形を維持できる性質を持つ。複雑な器官も体内に発生させることができるため、内臓レベルの擬態を可能にしている。だから体内に何かを包み込むのも、やってできないことはないと思うが。
「すまない。少し話が戻るが、一人くらいならとは体内に取り込むということだよな? だが仮に人間一人分だと相当その……外観に変化が出るのではないか?」
「いえ、大人一人くらいなら外観に変化は出ません。そういう能力ですので」
「そういうものなのか……中に入ったモノはどうなる?」
実に興味深い。何しろ
そもそも出番が無かったうえに、細かい能力なんか彼女たちを作ったギルメンしか詳しく知らないんじゃないだろうか。階層守護者と同等のレベル100NPCであるセバスだけは唯一例外で、たっち・みーに他の皆もあれこれ質問していたけれど。
「普通は酸で溶かしてしまいますわ」
「ほう。では溶かさないこともできるのか」
「仰る通りです。中のものが暴れたりしなければ運動性にもさほど影響はございません」
つまり人一人分が入れる一体型
隠密能力の高いソリュシャンとは実に相性のいい能力だ。というか使い方によっては恐ろしく便利な能力だ。
「へー、そうなんだ。知らなかったよ。アインズさんは知ってました?」
「いや、初耳ですよ。ヘロヘロさんも教えてくれませんでしたからね」
「ヘロヘロ様ですか!」
クールが売りかと思っていたソリュシャンだが、このときばかりは熱の籠った声が思わず出たらしい。やはり自分の創造者が別格なのは誰も彼も同じと見える。
肩を並べたギルメンたちをNPCの誰もが大事に思ってくれているのはアインズの中に暖かい雫となって心をじんわりと
ナザリックを、ギルメンの残したNPCたちを失って、涙も流せず慟哭するなんて死んでも嫌だ。何が何でも守る。そのためにはもっともっと彼女たちのことを知らなければならない。
「そうだ、ソリュシャン。私たちはおろか他の至高の四十一人も恐らくヘロヘロさんからお前の持つ能力やステータスの詳細を聞いた者はいないだろう。唯一可能性があるとするならメイド繋がりでホワイトブリムさんくらいだが、あの人は外装を気にするタイプだからな」
「そう、ですか……」
「どうした」
花がしぼむようにソリュシャンがうなだれる。目に光が無いのはデフォみたいだが、声の雰囲気にも張りが無い。何かマズいことを言ったのだろうか。ぶくぶく茶釜にも視線を向けてみるが、彼女も思い当たることが無いと器用に頭を横に振る。表面の粘液がぷるんぷるんしているので辺りに飛び散らないか無駄に気になる。
目の前の金髪のメイドは俯いた顔を上げると何かを言いたそうにしているが、左右に泳ぐ視線は胸中の迷いを如実に表していた。やがて意を決したか実に申し訳無さそうに、しかし絞り出すようにソリュシャンが紡いだ言葉は。
「私は、ヘロヘロ様にとって……取るに足らない、いいえ、他の至高の御方に語るも
流れる涙は顎の辺りで体内に吸収されている。これもショゴスの擬態だ。だが涙を流す彼女の心は擬態などではない。いまの独白も聞きようによってはヘロヘロへの批判とも取れる。もちろん彼女にそんなつもりは全く無い。ただ、悔しく、悲しい。自分が忌み嫌われるような存在であったことが。よりによって至高の御方々から遠ざけられる運命を背負って生み出されたなんて。知りたくなかった。
「フ……」
「ぶ……」
「「あーっはっはっは!」」
思わず顔を見合わせたアインズとぶくぶく茶釜だったが、どちらからともなく漏れた息は、大爆笑となって執務室に響いた。
笑いが落ち着くまであっけに取られていたソリュシャンは、何が何だか分からず問うことすらできずにいた。やっと落ち着きを取り戻したアインズが口を開く。
「いやすまない、あまりに予想外だったのでな。ねえ、茶釜さん」
「全く。ソリュシャン、あなた意外と迷妄なとこもあるのね」
「お……畏れながら、仰っている意味が分かりかねます」
どういう意味の笑いなのか。最初は忌み嫌われる自分に自覚が無いことを
自分の創造者であるヘロヘロも絡んだ話であり、三者面談という場、つまりいま二人の至高の御方の時間は自分が独り占めしているのだ。ここで聞けなければ永久に聞くチャンスを失う。無礼者と
「自分の嫌いなものをコスト掛けて作るなんて人はアインズ・ウール・ゴウンにはいないって。無駄なものを作る人はいたけどさ。しかもわざわざよく目にする第九階層に配置した
「し、しかしそれでは至高の御方々にお話しにならなかった理由にはなりません」
「ソリュシャンよ」
「は、はいアインズ様」
至高の御方々四十一人のまとめ役は名を呼ぶと落ち着けと白く美しい手を軽く振る。確かに自分もヒートアップし過ぎだ。怒鳴りつけるでもなくそれを自ら気付かせてくれるとは、至高の御方の優しさにソリュシャンの心の波は少し穏やかになった。
こちらが落ち着いたのを見て取ると、そのままアインズが言葉を続ける。
「これは私の想像なのだがな、しかし確信も持っている。ヘロヘロさんはお前を嫌ってなどいない。むしろ我が子のように慈しんでいたと思うのだよ。それゆえに独り占めしていたかったのだ」
「なぜ、そう確信されているのでしょうか」
「ヘロヘロさんがお前をショゴスとして作ったからだ。ヘロヘロさんは
「そ、そうだったのですか」
初めて聞いた。確かに、そう言われてみると至高の御方が作り出した存在は双子の例外を除けばものの見事に種族がバラバラだ。至高の御方々と同じ種族どころか、自分の知る限りでは近親種すらもほぼ皆無である。
そこまで思い至ると、自分という存在の異様さに気が付いた。ではなぜ、ヘロヘロは数ある選択肢から自分を近親種とまでは言わないにしても類似種であるショゴスとして作ったのか。その理由に思い当たっても、とても口には出せなかった。もし間違っていたら、不敬と言うにも度を越した思い上がりになってしまうからだ。怖い。嫌だ。再び空恐ろしい想像にソリュシャンは身体の底から震えがくるのを抑えられなかった。
そして望まずとも答えは組織の長から語られる。
「ヘロヘロさんはな、自分の生む者は自分と同じだと信じていたんだ。つまりソリュシャン、お前こそは間違い無く、ヘロヘロさんの愛情を受けて生まれてきた『娘』だと私は思うよ」
「うっ、あああっ」
嗚咽とともにソリュシャンの頬を擬態の涙が流れた。それは歓喜と自責の念。自分の辿り着いた答えが間違いではなかったことと、一時の気の迷いとはいえ己の創造者を疑ってしまったことの。沈んだ闇から彼女を優しく引き揚げたのは、最後まで残った慈悲深き御方だった。諭すような声が心地良く響いた。
「さあ、ソリュシャン、ヘロヘロさんの娘よ。私たちが知りたいお前のことをもっと教えてくれ」
「ア、アインズ様……。もったいなきお言葉。このソリュシャン・イプシロン、ヘロヘロ様の名にかけてさらなる一層の忠誠を誓います」
◆
「だからさぁ……もう私が代表してアインズさん刺しとこうか?」
「何を言ってるんですか!?」
ショゴスについて軽く調べてみたけど、色んな器官個体レベルで発生させられるとか生物としてチート過ぎる。
ナザリックの登場人物みんな好きだけどソリュシャンは動かしても置いといてもこっちの意図を無視して暴走することが(今のところ)無いから好きです。
ルプーとかフリーダム過ぎて正直扱いに困ったり。
それもこれもキャラが魅力的だから頭の中で一人歩きしちゃうんですよね。まあ嬉しい悲鳴ということで。
1/20 誤字報告の適用とそれに伴う一部訂正をしました。
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