オーバーロード 粘体の軍師   作:戯画

43 / 76
~前回のあらすじ~
蜥蜴人に喧嘩を売った。
アルベドが黒くて大きいものにヒィヒィ言わされた。


第37話 ある午後のひととき

 トブの大森林。様々な生物が棲息するこの地は朝も昼も夜も静寂が訪れることが無い。木々のそよめき、虫の鳴き声。そんな中でも一際大きな破壊音と、続けて辺りに響く揺れ。数十回に(わた)ってその音は鳴り続けた。

 しばらくすると、音がした方からゆらりと姿を現した影があった。炎天下に場違いな雰囲気の全身を覆う真紅のローブ姿で、外に出している腕や顔は肉の無い骸骨の容姿をしており、窪んだ眼窩の奥には赤い光がゆらゆらと揺れている。

 死者の大魔法使い(エルダーリッチ)。アンデッドでありながら≪ファイヤーボール/火球≫などの強力な魔法を使用するため、ミスリル級冒険者チームならなんとかなるが、白金(プラチナ)級冒険者チームでは手に余るくらいの脅威として認識されている。当然これは一体の相手に前衛、後衛、遠距離、補助といった手数と対応力がそれなりに整ったチームでの話である。仮に優れた剣技の持ち主でミスリル級に匹敵する強さを誇る者であっても、一対一で遠距離から≪ファイヤーボール/火球≫を連射されたら苦戦は必至だろう。そんな強力なモンスターが何をやっているのかというと、森の奥から丸太を運んできていた。それも二体掛かりである。

 肩には小悪魔(インプ)と呼ばれる体長三十センチくらいのモンスターが乗っている。

 開けた場所には既に何本かの丸太が積まれており、そこへ今運んできた一本を追加すると二体の死者の大魔法使い(エルダーリッチ)は再び森の中へ戻っていった。

 

「いただきまーす」

 

 切り株に腰を落ち着けてハンバーガーを頬張るのは、闇妖精(ダークエルフ)の階層守護者であるアウラ・ベラ・フィオーラ。隣には昼食を運んできたペストーニャ・S・ワンコの姿もある。

 森の賢王が不在になったため、その縄張りだったエリアに万一に備えた避難所を建築しているのだ。練習がてらにコキュートスが本陣を構えるための小屋も少し離れた場所に同時進行で作っている。

 アウラはその現場監督だ。もっともいまは昼休憩のため、こうして食事を楽しんでいる。維持の指輪(リング・オブ・サステナンス)があるため飲食せずとも問題は無いのだが、栄養はキチンと摂らないとダメだと言われたのと、単純においしいものを食べるのは嫌いではない。ハンバーガーとセットになったポテトとコーラもきれいに平らげる。

 

「ごちそうさまでしたっ」

 

 すっかり軽くなったトレイをペストーニャに返す。こんな昼食も悪くない。ただ次はもっと自分の好みに寄せたハンバーガーが食べたい。副料理長に伝えてもらうよう、ペストーニャに要望を言っておいた。

 

 さてどうしよう。思ったより食べるペースが早かったのか、伝令の小悪魔(インプ)にあとで来るよう言った時間までまだ30分以上ある。すぐ作業に戻っても構わないのだが、それではしっかり休憩を取れと言った至高の御方々の御心に背くことになる。

 食後すぐは激しい運動も避けるように言われているが、そうなると困ったことに何をすればいいやら。手持ち無沙汰な感覚は否めない。

 

 何と無しに空を見上げる。今日は快晴だ。ぽかぽかした陽射しとそよ風が気持ちいい。小鳥の(つがい)がピピ、ピュイと絡むように飛んで視界を横切った。あとを追うように視線を流す。トレイを持って(たたず)んでいるペストーニャはナザリックに帰る素振りを見せない。

 

「まだ何か用事あるの?」

「いいえ。アウラ様にお昼を届けるついでに私も休憩をいただこうかと思って」

 

 休憩を取れというのは階層守護者だけでなく、一般メイドたちにも同様の命令が出ていた。メイド長であるペストーニャも例外ではない。休憩と言いつつ立ち尽くしているのを見るに、どうも彼女も空白の時間を持て余しているように見える。

 

「とりあえず座れば? 要するにお茶会のときみたいにしてればいいんじゃない」

「そうね、それじゃお隣に失礼します」

 

 切り株に腰を下ろす。トレイを抱えたままだが、たとえ備品の一つだろうとそれがナザリックの物である以上は大切に扱い、不用意に手元から離すことはしない。

 普段はここにユリも混ざって至高の御方々の話などに花を咲かすのだが、時間を気にせず盛り上がっていられる環境でもない。

 どうしたものかと共通の話題を探してみる。そういえば最近コキュートスの配下に加わった人間が一人第六階層の新たな住人になったはずだが、彼とはうまくやっているのだろうか。

 

「え? あー、ブ……ブレインだっけ。まあ、うん」

 

 微妙な歯切れの悪さに嫌な予感がするが、アインズから彼の身の回りの世話も必要に応じてやってほしいと言われているので、生活環境を知ることは重要だ。

 話の先を促されたアウラはブレインと初めて顔を合わせたときのことを回想する。

 

 

 

 至高の御方々に挨拶をした後、アウラは第六階層の奥にある自室へと戻っていた。本来ならお側にいたいところだが、今回の実験にはもう自分の出番が無いことと、側にいられるのは褒美として許可された者だけと言われては仕方が無い。マーレは現場にいるものの、あくまで裏方だということだったし、終わればマーレが呼んでくれるだろうからそれまでフェンたちと戯れていることにした。

 マーレが必要なのは理解しているが、なんだか自分だけ役立たずのような気分で、有り体に言えば機嫌が悪かった。それを敏感に感じ取ったのか、フェンたちは戻ったアウラにすぐには寄ってこず、やや遠巻きな感じで様子を窺っている。動きの少ないクアドラシルはよく分からないが、心なしかフェンよりもさらに遠い。瞬発力の差がそのままパーソナルスペースの違いに現れているのだろうか。

 つまりすぐに逃げられるように身構えておかないといけないくらいにアウラが負のオーラを漏らしていた、ということになるのだが。些細なことでヤキモチを焼いているなどとはあまり認めたくない。

 だがそれはそれとしてシモベに恐怖を与えるのは本意ではない。少し深呼吸をすると、努めて優しく振る舞う。演技ではなく、本当に悪いと思った。自分以外、マーレも、誰も悪くない。このモヤモヤは子供っぽいワガママだと理解(わか)っているから。

 

 そろそろと近付いてきたフェンたちの頭をそっと撫でる。顔を寄せてくるのは親愛の証だ。長い毛並みはふわふわと柔らかく、極上の毛布に包まれているような感覚だった。野外で寝るときにはとてもいい眠りを提供してくれるだろう。

 

「ふゎ……そういえばいつ終わるか聞いてなかった……っけ……」

 

 嫌な気持ちは、寝て忘れてしまうに限る。マーレだってこの階層の守護者なのだから、任せておいてもいいだろう。そう考えると一気に気が楽になった。フェンの温もりも手伝って、身体を預けたアウラの意識は微睡(まどろ)みの中へ沈んでいった。

 

 

 

 ────ちゃん。

 

 ───ね──────ちゃん───。

 

 

「んぅ? あ、フェンごめん。うとうとしちゃってた」

 

 ささっと口元を拭うが、幸いなことに(よだれ)を垂らしたりはしていないようだ。あまり長い時間ではないはずだが健気にも下敷きにされていたフェンは黙って枕の役目を果たしてくれていたらしく、お礼がてらに両手で頭と喉元を撫で回すと嬉しそうな声を漏らした。

 

『お姉ちゃん!』

「わっ! な、何? マーレ? ちょっとボリューム落としてよ」

 

 普段話すときはボソボソ声の弟のそこそこ大きな声が首に下げた金のドングリから響く。アウラからのレスポンスがあったことに安心しているようだが。

 

『だ、だってお姉ちゃん呼び掛けても全然返事しないんだもん』

「しょーがないじゃん寝てたんだから。んで何? 実験終わったの?」

『うん。それでね、アインズ様がお呼びだよ』

「すぐ行く!!」

 

 アウラとの通信を切られたマーレは、少しくらくらする頭を支えて連絡がついたことをアインズに伝えた。

 場所は円形闘技場(アンフィテアトルム)の貴賓席だ。眼下にはアルベドとコキュートスのスパルタ教育に悲鳴をあげながらペストーニャに治癒魔法を掛けられているブレインが見える。シャルティアとユリはぶくぶく茶釜と共に風呂へ向かった。さすがに裸の付き合いをアインズがする訳にはいかないので、あとはぶくぶく茶釜に任せることにしたのだ。

 

「だから何度も言っているでしょうこの下等生物が! コキュートス!」

「承知」

「はあ……≪ミドル……」

「ぐぎゃあああああ!!」

 

 バシッ、というよりドゴォといった感じの重量感を思わせる音とともにブレインがきりもみ状になって吹っ飛ぶ。棘のついた尻尾に殴り付けられた右腕は骨折どころか千切れる一歩手前で、腕一本犠牲にしても殺しきれなかった衝撃は胸筋を突き抜けて肺と気管にダメージを与える。裂けた気管から漏れた血が、無理矢理押し出された空気に混じって中空に舞った。

 意識は真っ白の中にチカチカ星が瞬き、痛みを通り越した身体には遠のく意識を踏み止まらせる力は無い。伝わる振動で、勢いのままに地面を擦っているのが辛うじて分かる。

 

「≪ヒール/大治癒≫」

 

 暖かな光に包まれると嘘のように痛みが消えていき、飛びかけていた意識もそれに伴って鮮明さを取り戻す。咄嗟に右腕を見るが傷の1つも無く、恐る恐る動かしてみても特に違和感などは無い。

 

「し……死ぬかと思った」

「コキュートス様、もう少し加減なさってください」

 

 癒しの魔法を掛けたペストーニャが苦言を呈する。殺したりするなとアインズからの伝言を伝えたことで即ミンチになるような攻撃はされなかったものの、何度も一発で瀕死にされていては今度は精神の方が壊れてしまう。

 コキュートスにとってはこれでも手加減していたつもりだったのだが、いかんせん丁度いい弱さをまだ掴みかねていた。

 

「スマナイ。次ハモウ少シ弱クシテミヨウ」

「いいえ、そのくらいで構わないわコキュートス。そもそも至高の御方々の御名を言い間違えるなど本来ならば死すら生温い。即座に氷結牢獄へ送ってやりたいものを、寛大なる御心によって生を許されているのだから、この程度の痛みはあって当然よ」

 

 有無を言わさぬアルベドの迫力にはペストーニャも説得が不可能と判断した。こっそり手心を加えてやってはくれないかとコキュートスに心配そうな視線を投げてみたが、表情が無いせいで伝わっているかどうか不安が残る。

 しかし曲がりなりにもナザリックの末席に加わるのなら、基本的なことはしっかり理解しておいた方が良いのは事実だ。そう考えるとこのスパルタ教育も一概には否定できない。ペストーニャ自身としてもアインズからは殺すなという伝言を預かって、ブレインの回復を指示されただけである。教育方針については何も言われなかったので、守護者統括であるアルベドに一存していると考えるのが妥当だった。

 

 闘技場に暗い色の穴が出現し、中から出てきたのは浅黒い肌に金の髪を持つ闇妖精(ダークエルフ)の少年。第六階層守護者の片割れ、マーレである。ぴょんと飛び出すと、素早く膝を突き礼を取る。向いた先はいま自分が出てきた転移門(ゲート)だ。

 その動作を見て、素早くアルベド、コキュートス、ペストーニャが続く。理解が及んでいないブレインも、戸惑いながらそれに(なら)う。そのまま棒立ちしていたら恐らくまた痛い目を見る予感がしたからだ。

 

 アインズが姿を現す。さっきブレインと対峙した時と違い、神器級(ゴッズ)装備に身を包んだ威容は墳墓の主と言うに相応しい堂々たるものだ。

 静寂が辺りを支配する。絶対的上位者の来訪、その言葉に従う以上に優先することなど無い。

 

 

 

 転移した先では右手にどこから持ってきたのか会議で使うような移動式ホワイトボード、その側にアルベドがいる。ホワイトボードには『至高の四十一人』『ナザリック地下大墳墓』などといくつかのキーワードが書かれているので、組織の構成などの話をしていたことが窺える。やや手前にはコキュートス。武人なだけあって礼儀という点には信用がおける。将来的な選択肢を増やす意味でも、ブレインの引き出しが増えるのは好ましいことだ。

 その後ろにブレインがいる。まだ見様見真似感が否めないが、声を掛けられなくても礼を取るというのは大した進歩なのではないだろうか。逆説的だがNPCたちが誰かに何かを教育することが可能ならば、これは大きな収穫だ。

 さらに向かって左手奥にはペストーニャ。ブレインが死なないように急ぎ来るよう伝えておいたのが間に合ったようだ。カルネ村の一件で、人間が肉体的に非常に弱いことは分かっていたので、人間を直接はほとんど見ていないアルベドとコキュートスだと下手をするとあっさり殺してしまう可能性があった。というかスパルタ教育を見てブレインが死にそうだと感じたからこそ彼女を呼んだ訳だが。とにかく神官として優秀な彼女がいればブレインの心配は無いだろう。見たところブレインに生傷は無いようだし、スパルタ教育も加減を覚えてきたのかも知れない。

 

「ああ、楽にしていいぞ。手間を掛けているところへ邪魔をして済まないな」

「あっ、お前もしかしてさっきのヘンな骸骨戦士(スケルトンウォリアー)か!?」

 

 真っ先に立ち上がったブレインが驚愕の表情でこちらを指差す。ヘンなも何もそもそも骸骨戦士(スケルトンウォリアー)ではないのだが、魔法を使った訳ではないし正体を見破れという方が無茶なのかも知れない。そういえばクレマンティーヌも初め自分のことを死者の大魔法使い(エルダーリッチ)と勘違いしていた。もしかして死の支配者(オーバーロード)は種族としてあまりメジャーではないのだろうか。

 この世界の強者がどの程度かはまだ底が知れないが、いまのところレベル40程度の強さを感じる相手とは遭遇していない。亜種の多い死の支配者(オーバーロード)だが、最低でも80レベルからの存在だと考えれば、何一つ噂話にも上らないのは少々不自然に思える。存在していないのか、あるいは自分のように世間の目を逃れて隠遁しているのか。自分やぶくぶく茶釜のようなプレイヤーならまだしも、モンスターがそんなことをするだろうかと疑問は生まれるが、いま考えても仕方がない。

 考え事をしているアインズであったが、それを断ち切るように鋭く恐ろしいアルベドの声が闘技場に響く。

 

「……コキュートス!!!」

「承知。アインズ様、御前ニテ失礼致シマス」

「ぐっはぉあああああああ!!」

 

 フォン、と風を切ったのはコキュートスの尻尾。ちょっとした丸太くらいの太さがあり、竹のような節を持ち、所々に結晶化した外殻が生えている。最も結晶が集中した尾の先端が後方にいたブレインの左頬を痛打し、ぐるんぐるんと勢いよく捻りが加えられた身体が吹っ飛び、ボロ切れのようになってペストーニャの前に転がっていった。絶句していたアインズが頷くと、ペストーニャが慌てて≪ヒール/大治癒≫を掛ける。

 

「よりにもよって至高の御方たるアインズ様になんて無礼な口の利き方を! やはりこの下等生物はいまからでも殺して別の者に代えるべきかと」

「お、落ち着けアルベド。折角シャルティアとユリが苦労して得た成果なのだからな。ブレインとて悪気はなかったのだし、許そうではないか」

「アインズ様……なんとご寛大なお心でしょう。私、感動致しましたわ」

 

 もうアルベドの思考からブレインの存在は限りなく薄くなっているらしい。視界の端では体を起こしたブレインにペストーニャが指を振って意識レベルを確認している。大丈夫のようだ。

 タイミング良くこちらへ走ってくる足音が聞こえる。居住エリアの方から来たのはアウラだ。

 

「すみませんお待たせしましたアインズ様!」

 

 砂埃を立てて目前に現れる様は以前にも見た覚えがある。いつも元気なのは良いことだ。事情を説明していなかったアルベドが疑問符を浮かべているので、アウラを呼んだ理由の説明も再度しなければなるまい。ちょいちょいとマーレを手招きして、姉の隣に並べる。次にブレインを手招きしても、あまりピンときていない。アルベドがまた殺気をムンムン出し始めたので顔を蒼白にして駆け寄ってきたが。

 

 ブレインをナザリックの末席に加えるにあたって、住まわせる場所は第六階層にする予定だ。というより他に選択肢が無い。人間が住むのに適した環境を持つのは第六、第九階層くらいだが、第九階層の居住区といったら至高の四十一人のために作られたロイヤルスイートだ。部屋を余らせるのは勿体無いが、人間を快く思っている者が多くないナザリック内で、あんなモロに内輪のエリアに新参者を招き入れるのは流石に反発が予想されるため候補から外した。そのため第6階層に実験を兼ねた居住区を作ることにして、その()えある住人第一号をブレインにやってもらおうという訳だ。

 

 もちろん、アウラとマーレの居住区とは区別しておき、彼女たちへの負担をできる限り減らすよう配慮する。コキュートスには面倒を掛けて悪いとは思うが、ブレインに稽古を付ける際には都度この円形闘技場(アンフィテアトルム)まで足を運んでもらうことになりそうだ。

 

 その話をすると、コキュートスは二つ返事で了承した。アウラとマーレはどうにも煮え切らない反応だ。やはり年頃の女の娘たち(?)には歓迎されない話だったのか。だがこれがアウトになると下手をすればナザリックに属する全員にブレインを第九階層に住まわせる理由の説明をして回らなければならなくなる。多少怖くとも突っ込んでいかなければ。

 

「ど、どうしたアウラ、マーレ?」

「ボ、ボクはその、アインズ様がお決めになったことなら従います」

「あたしもマーレと同じ意見なんですけど……うーん」

 

 人間は弱っちくてあんまり好きじゃないとか言ってたっけか。どうにか無理強いせずに受け入れてもらえる方法は無いか、頭を捻っていると、不意にコキュートスが二人に声を掛けた。

 

「アウラ、マーレ。少シ耳ヲ貸シテモラエルカ」

「なになに?」

 

 とたたっとコキュートスの方へ寄るが、体格差があり過ぎて耳打ちは難しい。それに気付いたコキュートスが仕方無くしゃがみ込み、両側から挟む形で双子が耳を傾ける。ゴニョゴニョと、小声のため内容はアインズには聞こえない。至高の御方の前で内緒話などとアルベドがキレそうになっているのを制して反応を待った。

 ほどなくコキュートスが立ち上がり、闇妖精(ダークエルフ)の双子がこちらへ向き直る。

 

「アインズ様、あたしたち……」

「「全力でご協力させていただきます!」」

「手始めにゴーレムで人間が住む小屋を作らせますね!」

「ぼ、僕は人間が食べられる植物の栽培を進めてみます」

 

 どういう訳か、一転してやる気マンマンになっていた。

 

 そうしてブレインの第六階層への入居が決まった。小屋はその日の内に建てられ、食事についてはマーレの作った畑が十分に機能するまでは副料理長に腕を振るってもらうことになった。

 

 翌日からのブレインの生活は、一日も休まることが無い壮絶なものになった。朝一からコキュートスとの実戦形式の訓練で死にかけ、食事を持ってきたペストーニャに回復してもらったあとに食事を取りながらナザリックに関する座学。ここでも超スパルタ教育のためペストーニャに去り際回復魔法を掛けてもらう。そのあとは致命的な怪我をしない程度のボロボロになるまで再度コキュートスとの訓練。睡魔がやってくる時間帯にドラゴン・キンに担がれて小屋へ運び込まれる姿をアウラは何度も目にしている。

 

 

 

「……って感じ」

「じゃあほとんどあなたと接点無いじゃない」

 

 ドラゴン・キンはアウラのシモベなので、一応協力はしているが。まあ確かにブレインの一日の大半は訓練なのだから、アウラたちが直接関わることの方が少ないのは理解できるが。

 そういえば。あの時気になっていたことをこの際だと思い聞いてみることにした。

 

「ねえ、アウラ。あのときマーレ様も一緒にコキュートス様からされた話は何だったの?」

「あー、あれね。ブレインを大事に扱うのはアインズ様のご希望で、それをきっちりやることが真にアインズ様のため、ひいてはナザリックのためになることだ。ってさ」

 

 なるほど。バリバリ戦闘系のコキュートスだからこそ真に重みのある言葉だと思う。律儀な気性の彼にとっては至高の御方がなされた配置を信じて待つことが忠義とて、もどかしく思う時もあったのだろう。その彼がいま、ナザリックの外で晴れの舞台に立とうとしている。日頃から忠義の証を立てる場を求めていた彼だ、今回の抜擢に身を震わせたのは想像に難くない。

 

「そう、それじゃ私たちも応援して差し上げないといけないわね」

「うん。コキュートスが指揮を()る小屋もいま作ってるからさ、バシッとカッコイイやつ作ってあげるんだ……っと、もう時間かな」

 

 一時間後に来るよう言っていた小悪魔(インプ)がふよふよと空中をこちらへ向かってきているのが見える。切り株の上に立ち、気持ちを切り替えるために背伸びをする。

 

「ん~~~っっと! よし。ペス、あたしは作業に戻るね。ごはん持ってきてくれてありがとう」

「どういたしまして。こちらこそ、貴重なお話が聞けて楽しかったわ。ありがとう。それじゃ」

 

 腰を上げてメイド服を軽く手で払い、トレイを両手でしっかり持つ。湿気を程良く含んだ風がフリルを揺らし、森の木々を撫でていく。耳障りではない葉波の音が穏やかな昼下がりに優しく流れた。

 

「本当に心地の良い、そよ風────」

 

 視線の先には報告のあった現場を回るため颯爽と森の中へ走り去っていくアウラの後姿が見える。休憩時間もちょうど終わったメイド長のペストーニャ・S・ワンコは次なる奉仕活動のために仕える主人(あるじ)の座するナザリック地下大墳墓へと帰っていった。

 

 それはある日の午後のひととき。




ブレインはダメージの深さをより正確に把握する能力が身に付きました。死にかけても「これならすぐには死なねえな」「あーこりゃ回復してもらわないと1分以内に死ぬな」とか頭のどこかで冷静に考えています。

でも痛いものは痛い。


2/19 少し指摘をいただき自分も考えてたことをうっかり忘れてたので説明しておくと、ペストーニャは普段基本的に語尾に「わん」を付けます(たまにというか割と本人も忘れる)。原作ではそのくだりをアウラにお昼持ってきた時点でやってますが該当シーンを飛ばした&アウラとのやりとりでは休憩中のオフなので無理に語尾を付けることはしなかった(これは改変にあたるかも)。という訳です。本文中にそのあたりのフォロー書いておくべきでしたね。反省。

2018/11/6 行間を調整しました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。