現場監督アウラ様休憩中
森の中を小柄な人影が、シニョンの頭をメトロノームのように左右に揺らしながらちょこちょこと歩いている。首元で右前に重ねた布地、胴帯の上に大きな蝶々を作った赤縄が和装を思わせる。
一方で肩口と大きく開いた袖口、膝丈のスカートの裾に付いたレースはこれがメイド服であることを頑健に主張する。
膝あたりから下が覗く足には複雑な文字や印が書かれた長方形の札が何枚も貼り付けられているように見える。
「よい、しょっとぉ」
自分の身長の半分くらいある荷物を運んでいるのは、エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ。
彼女は至高の御方の命により、手伝いをするために現場指揮を執るコキュートスのところまで行く途中だ。今回は
至高の御方々にまた呼び出されたときはおっかなびっくり部屋に伺ったが、話をするうちに緊張は幾分か和らいだ。いま思えば随分気を遣わせたのではないだろうか。畏れ多いやら申し訳無いやらで御礼の一つでも申し上げたいところだったが、いまは与えられた任務が優先だ。
「お腹空いたけどぉ、至高の御方々のご命令だから頑張るぅ」
普段の話し方はこっちの甘ったるい口調であるが、至高の御方の前では許可が無い限りはキチッとしていた。ユリに姉妹の中で最も従順な二人のうちの一人と評されるだけはある。
「えっとぉ、どっちだっけ?」
「んー、こっちぃ。もうすぐもうすぐ」
左の
蜘蛛の性質も併せ持った
人間の肉と違っておやつはヘルシーなので大丈夫だとは言ったが、確かに無闇に食べない方が余計なカロリーを摂取しないという点ではダイエットに有益ではある。
じゅるり。
ああダメだダメだと欲望を振り払う。アインズ様と約束したのだから。叶うことならナザリックに帰ったその足で
「むむっ」
突然足を止めてキョロキョロと辺りを見回す。頭の触角は忙しなく上下に動き、感知できる範囲を広げている。
落ち葉を踏む音をエントマの聴覚が拾ったのとほぼ同時に、森の奥から飛び出してきたピンク色の塊が派手な砂煙を上げた。
視界を遮るものが風で流れた先には膝まで覆う金属製のブーツと同じ素材でできているらしいスカート状のアーマー、左目にアイパッチを着け腰まで届く
アーマーの内側には持ち運びに適したブルパップ型の銃が吊られているのが見える。
「……エントマ」
ポツリと呟いた言葉は警戒して損したとでも言わんばかりの調子を隠そうともせず、無表情さも手伝ってエントマの機嫌を害するのには充分過ぎた。
「シズぅう……」
互いの名を呼んだきり沈黙する二人。交差する視線は火花を散らしている。
すでに勝負は始まっていた。視線を逸らした方の負け。どちらかが言い出さなくとも互いの目を見れば一歩も譲る気は無いのが分かる。
いつも通りの小競り合いになるのを予感させるように二人の距離は縮まりつつあったが、突如シズが目を伏した。手をついていた壁がいきなり消失したような肩透かしを食らった気分のエントマは疑問を含んで訝しい目を向けた。
「今日……ユリ姉いない」
「あ」
少ない言葉でもシズの言いたいことは伝わってきた。
多少エスカレートしたところで姉にたしなめられて手を打つ。そんなお約束とも言えるやり取りを何度も演じているのだが、止める役目がいなければどうなってしまうのか当の本人たちにもまるで想像がつかなかった。
加えてエントマは至高の御方から直々に命を受けた身であり、いくら寂しかったのだろうとは思ってもこれ以上
かたやシズもアウラの手伝いなどを除けば、ナザリックの外へ用事も無いのに出ることはない。珍しい外出の際にたまたまエントマを見掛けたので、緊張で失敗したりはしないか様子を探りに接触したのだ。なにせ自分と違ってこの
互いに届くことのない姉としての一方的で自分勝手な愛情と憐憫を込めた視線を交わす。それはそれは生温かい視線を。
そのためことあるごとに相手に『妹』の称号を押し付けあっているのだが、気心の知れた相手との悪乗りみたいなもので心底からの怒りや憎しみがある訳では当然ない。よって止める役目がいないという事態を理解した二人はこの場に他には誰もいないにもかかわらずアイコンタクトで暗黙の合意に至った。
「……もう行く。しっかり。エントマ」
「そっちこそぉ、至高の御方々のために頑張ってよねぇ。シズぅ」
手甲付きの迷彩柄グローブを軽く引っ張って、シズは再び森の奥へと走っていった。途中で同じく迷彩柄のマフラーに触れたことで織り込まれた魔法が発動し、森の中では目立ちそうな
思い掛けない邂逅だったが、ちょっと退屈気味だったところへ活が入った。自身の立場は結果で示せばいい。ナザリックには
偉大な御方々がいずれ世界を手中に収めるのは既定の未来だ。エントマはそう信じているしナザリックに属する者達は生意気なバードマンを除けば全員が首を縦に振るだろう。ならば表舞台に立てないのは一時的なことであって、こうして舞台裏とも言える仕事に従事して期待に応えることは決して無駄ではない。
むしろ支配が広がればやるべき仕事はどんどん増えるだろうし、バランス的にもエントマやシズが表舞台で至高の御方々のお側に付いて活躍する光景も夢ではない。そして正妻は流石に身の程を越えているので側室あたりに召し上げられちゃったりなんかして。
(きゃゎー! い、いけないいけないぃ、お仕事に集中しないとぉ)
妄想に舞い上がってもちゃんと任務への意識は薄らがない。仕事のデキる女エントマ・ヴァシリッサ・ゼータは今度こそ荷物を担いで再び歩き出した。
「んしょ、んしょ」
未練を断ち切るかの如く先を急ぐ。いまは任務が最優先、あとのことはあとで考えることにしよう。
コキュートスの構える本陣はもう目と鼻の先だった。
森の中の簡素なログハウス。人里から離れたこの場所にポツンと建っているそれは、避暑地の別荘などではもちろんない。
内部はこれまたシンプルに机と椅子があるだけで、それ以外に生活臭のある物は全くと言っていい程無かった。机の上には直径一メートルくらいの大きな鏡が設置されているが、他にはベッドも無ければキッチンも無い。小屋、机、鏡、椅子、以上。
それもそのはず、この場には料理をする者もいなければベッドで布団を被って寝る者もいないのだ。
冷ややかな冷気を吐き出すライトブルーの外装。ナザリック地下大墳墓第五階層守護者であるコキュートスは
その張り詰めた気は供をしていた三体のシモベたちも声を掛けるのが
このまま自分たちまで氷漬けにされるのではないだろうかとシモベの一体が恐怖を感じた頃、戸をノックする音が軽く数度聞こえた。近くにいた
「着イタカ。上ガッテモラエ」
「もうお邪魔してまぁす。ぴゃぁあ、寒ぅい〜なにこれぇ」
「ム、冷気ガ漏レテイタカ。済マナイ」
スタスタと現れたと思ったら縮こまって寒さに震え出すちびっこいメイド。やっと室内の温度に気が付いたコキュートスは
丸まっていたエントマは触角を一本ずつピコピコ動かし、恐る恐る顔を上げた。どうやら脅威は去ったと判断したらしく、大きく伸びをして部屋の奥へ入ってきた。
「アインズ様からの物資をぉ、持ってきましたぁ」
「礼ヲ言ウ」
「どういたしましてぇ。はぁい、そこちょっとぉ、のけてくださいねぇ」
コキュートスのシモベに遠慮無く指示を出すエントマ。彼らもそれに諾々と従っている。ちなみにこの三体はレベルだけで言うとエントマ以上だ。だがナザリックの上下関係は単に強さだけが基準ではない。
まず至高の四十一人、そして次に来るのは至高の御方によって作られた者達。これには階層守護者であるか、
端の方へ
「あややや、いけなぃいけなぃ」
開いた拍子に種類が混ざってしまったらしく、その場で手早く整頓し直す。十秒も経たないうちに、種類ごとにまとめた
「これわぁ、デミウルゴス様が見付けてきた素材で新しく作った
「デミウルゴスガ……フム、承ッタ」
ちょくちょく姿を見ないと思ったら、このために東奔西走していたということか。周到な彼のことだ、実験は既に十二分に行ってから今回の実用に投入したのだろう。いわば単なる成果のお披露目だ。
同輩の成功は嬉しく思うとともに、少々羨ましく感じる点もある。成果が目に見える形になるのは誰の目にも分かりやすい。
自分とて今後のナザリックのために役立てなければならない人間を一人預かっているが、すぐ形となって表れてくるものではないのだ。
そこまで考えてコキュートスは頭を振り、余計な思考を追い払う。まるでこれでは見えない成果に至高の御方々が気付かないと言っているようなものだ。デミウルゴスを以ってして掌で踊らされていると言わしめる叡智の持ち主に、そんなことはあり得るはずもない。
不敬な考えを無意識とはいえ一瞬抱いてしまった自分に反省し、目の前の任務遂行に集中する。
「至高ノ御方々ヘハクレグレモ感謝ノ言葉ヲオ伝エシテモライタイ」
「それがぁ、コキュートス様の近くに居るよう言われてるのでぇ、ちょっと無理ぃ、ですねぇ」
「……ソウカ。デハ戦勝報告ト合ワセテ自分デオ伝エスルトシヨウ」
お目付役か。純然たる戦士であるコキュートスは戦闘の観察眼において他の追随を許さない見識を持つが、多数の個によって構成される軍隊とは勝手が全く違う。要求される技能は別物だ。
今回コキュートスに課せられたルールがある。それはコキュートス自身とそのシモベが直接戦わないこと。つまり指揮官に徹しろとのお達しだ。
コキュートスがナイト・オブ・ニブルヘイムの
圧倒的強者に、弱者の知恵を警戒せよというのがそもそも難しい話なのだ。この認識においてはコキュートスが取り立てて浅慮であったという訳ではない。
「イツデモ進軍デキルヨウニ、隊列ノ確認ヲシテオケ」
新しいアンデッド兵の中隊が到着するごとに待機隊列に組み込む。飲食不要なアンデッド兵には基本的に兵站を確保する必要が無い。そして細やかな指示はできないため、個別に行動内容を詰めることもできない。
結果として、せめて栄光あるナザリック兵たちを整然と美しく並べるくらいしかいまのコキュートスにはやることが無かった。
そんなコキュートスを遠目に見ていたのは小柄なシニョンを頭に乗せたメイド。少し距離を取ると、鞄のさらに奥から取り出した数本の
何かを話しているようだったが、認識阻害や盗聴対策を施されていたために内容を耳にした者はいなかった。やがて通信を終えたエントマは鞄の中身がまだ充分にあるのを確認し、小屋の方へ戻っていった。
◆
ぶくぶく茶釜の宣戦布告から八日目、
前線で直接戦うのは部族でも戦士階級の者たちであり、彼らは村の入り口近くに集まり日々着々と数を増やし続ける死者の軍隊を
この七日間、ザリュースは控え目に言っても
元々は食糧難のために争いが生まれて部族が分かれた。つまり食糧問題が解決しなければ根本的解決にはならないのだが、目の前に迫った危機を乗り切らなければそんな心配をするまでもなく
「おう、なんだ二人してサボってイチャイチャしてんのか」
「お前なぁ……」
ドス、ドス、とおよそ繊細さとは程遠い足音をさせながら現れたのは、説き伏せられなかった一部の例外、"
"
それが彼らなりの流儀に基づいたものであると理解したザリュースは、族長にして"
他の部族も力を合わせて脅威に立ち向かうことに同意し、ゼンベルを始めとした各部族の戦士達は最前線である"
隣にいる、クルシュ・ルールーもまたその一人だ。ただしこちらは戦士ではない。"
きっと自分はこのまま老い果てていくのだろうと諦観にも似た確信に縋って日々を過ごしていた。だが、そんな未来はあまりにもあっさりと砕け散ってしまった。
『────結婚してくれ────』
思い出すだけで白い頬に紅が差すのを感じる。全ては隣にいるこのオスのせいだ。交渉に来た第一声で面識も無い相手に求婚する使者がどこにいようか。少なくとも他には聞いたことも無い。
狼狽していたのは自分だけではなかったので返事はあとでいいと言われたものの、前言を翻す気は全く無いらしかった。つまり求婚はからかっている訳ではなく本気だということだ。
種族全体の危機を前にしてなんと呑気な話だとも思うが、年頃の娘として逸る気持ちは少なからずあった。しかしそれらは全てこの窮地を乗り切ってからのこと。茶化すゼンベルは努めて無視して、将来の旦那になるかも知れないオスの横顔を見る。
「そうだ、クルシュ……どうした?」
「い、いえ、なんでもないの。気にしないで」
不意にこちらを向いたものだから少し声が裏返ってしまった。ゼンベルからの茶々が入らないということは見られていないようだ。内心胸を撫で下ろす。
ザリュースは、"
地面にはもこもこと雲を集めたような本体にいくつもの顔を埋め込んだようなモンスターがかわいらしいタッチで描かれている。
「ああ、確かにこんなやつだったらしい」
「らしい、とは? まるで噂話を聞いたみたいだな」
「村の奴にあとから聞いたんだよ」
俺ぁそのとき寝てたからな、と大笑いするゼンベルに呆れつつも、下手に手を出す者がいなくてよかったとザリュースは思った。
このモンスターは精神異常を引き起こす絶叫を発し、非実体の本体には魔法の掛かっていない武器による攻撃は無効化される。
四至宝の一つを持ちゼンベルを下した、実質的な
「待て待て、じゃあお前のとこに来たっていうワケ分からんヤツらはどうなんだ。さっきの話だと他の二部族にもそのモジャモジャした奴が来たんだろ?」
「あれは……態度からして他のとは別物のように感じる。そいつらが口にしたという『偉大なる方々』とやらかも知れないな」
無意識のうちに言葉を濁した。実力を見たことが無い相手ではあるが、通告に現れたときはまるで威圧感のようなものは感じなかった。それが逆に空恐ろしくもある。計れない未知がこれほど精神を脅かすものとは、久しく忘れていた。
突如、ガシャガシャと乾いた音の波が遠くから聞こえる。見れば、アンデッドたちのことごとくが膝を突き
「噂をすればお出ましかよ」
平伏すアンデッドの群れの前を横切り、こちらへ距離をやや寄せてきたのは八日前の魔獣と謎のモンスター。
あの日のデジャヴの如く、ピー、ガーと耳障りな音に続いて声が響く。
『あーあー、マイクテストマイクテストー。えー、
話し合いなど元からする気などないくせに。クルシュはムッとして眉間に皺を寄せる。
「行ってくる。ロロロ!」
後ろに控えていた
口上を述べる者は真っ先に死と対峙しなければならない。一挙手一投足が全体の士気に影響を及ぼし、人望や名声があればあるだけその余波は大きくなる。
近付けば近付くほど濃密になる死の気配の中を冷静な観察力を持ったまま進むことのできるだけの精神力があるザリュースは、
ロロロが走る先に罠がないか、後方に見えるアンデッドの軍団が突如動き攻めてはこないか。万一のときには即座にロロロを転身させられるように走る速度を調整して、できるだけ敵を観察するための時間を不自然ではない程度に作った。
結局罠などは無く、分かったのはぶくぶく茶釜たちは力で
足元には水が流入して、泥状になった窪地。一方には守るべき集落を背負い、また一方には
主に
この近距離において肌で死者たちの持つ雰囲気を感じたザリュースには、いままで考えなかったのが不思議なくらい根本的な疑問が浮かんだ。
何故、このアンデッドたちは統率されているのか。
ザリュースとて旅の途中で何度か目にしただけだが、基本的にアンデッドには種としての集合的な組織が無い。新たな生命を育まず同じ種族であってもそれぞれが独立した個なので理に適ってはいるのだが、そのために複数人で組んだチーム相手には特効持ちの神官などがいなくても結構あっさり滅ぼされたりすることもある。
生物として最小の組織とも言える家族を持たない連中が、果たして忠誠の概念などを持つものだろうか。
いや、持つのだ。目の前の光景が否応なしにその事実を告げている。不可思議なのは、死者たちを従えていると思われるぶくぶく茶釜だ。
アンデッドを召喚する魔法があると耳にしたことはあるが、流石に軍団規模の数を呼び出すようなシロモノではなかった。
(何かの
可能性があるとすればこれだ。
もしこの軍団がアイテムなどによる召喚ならば、そのアイテムを奪うことで無力化できるのではないだろうか。薄い可能性だが探る価値はある。そしてそのチャンスは戦いの火蓋が切られる前のいまこの瞬間しかない。
思わず震えそうになる妙な感覚を押し込めて、ザリュースはぶくぶく茶釜を鋭く見据えた。
「俺は"
「こりゃどうも。あ、そういえばまだ名乗ってなかったっけ? 私はアインズ・ウー……あー、えーと、ナザリック地下大墳墓のぶくぶく茶釜と言います。よろしくね。で、どう、大人しく
「腹芸は好かんので結論を言おう。我々
ぶくぶく茶釜の動きが止まる。一瞬のことだったが、纏う空気が明らかに変わったのをザリュースは全身で感じ取っていた。
「ま、そりゃそうだよねぇ。少し安心したよ。じゃあ交渉は決裂、キミが向こうの陣営に戻り次第攻めさせてもらうからよろしく」
「待て」
「はい?」
自陣に戻るために踵を返そうとしたぶくぶく茶釜を呼び止める。勢力下に置きたいと言っていたということは、形だけの交渉が決裂しても連中は
だが、それなら趨勢が決した場合に軍勢が引き上げないことには占領統治もまともにできないはずだ。そのままアンデッドが無秩序に行動すれば弱った戦士や戦闘能力を持たない女子供はまず間違いなく
敗北する前提のような問いかけは旅人とはいえ戦士のザリュースとしては業腹だが、罪無き同族たちを想えば敵に軽く見られるなど大した問題ではなかった。
「あのアンデッドたちが散っては森の生態系が壊れる。負けるつもりは毛頭ないが、仮に我々を勢力下に置いたところで食わなければ生きていけん。我々が勝ったとしても同じことだ。だから
「ふーん……。てゆーかキミ交渉下手過ぎじゃない? それを聞いて、はいそうですかと合意する理由がこっちに無いとは思わないの? 別に私たちは
「確かにそうかもしれん。だがそのときはお前たちナザリック地下大墳墓はたかだか
「は……」
ザリュースがクルシュたちに聞いた、まだ五つに分かれていた村々へ現れたメッセンジャーの話。偉大なる御方とは相手の組織の長を差すと思われた。そしていかにも壮大な修飾を添えた呼び名は、組織内において誇りや名誉といったものが機能していることを示している。
あとは自分たちの例で考えればいい。客観的なメリットが無くても条件を呑まざるを得ない状況とは何か。それは、名誉を傷付けられたときだ。勇者の名に泥を投げつける者に対して、
ナザリック地下大墳墓に叩き付けたのはそれだ。これでもし名を汚されることに憤怒を持たない精神性の集団ならばどうしようもない。ザリュース自身アンデッドを支配する
(どうだ!?)
一見滅茶苦茶なザリュースの主張を前に、ぶくぶく茶釜は触手で口を塞ぐようにして身を震わせていたが、やがて耐えられなくなって笑い声を上げた。
「あーっははははは! 前言撤回するよ。中々交渉上手じゃない!? でもさぁ、悪いんだけどあのアンデッド軍団は特別製で、
「く……」
見透かされたか。相手の勢力を逆に奪うことは望めなさそうだ。
「……ロロロ、戻ろう」
これで正真正銘交渉の余地は無くなった。ぶくぶく茶釜が背を向けたのを確認すると、ザリュースもまたロロロの鼻先を集落へと向けた。大将首をこの場で獲ってしまえばなどという発想は彼の頭には無い。愚直な性格である。村に戻ってからの動きをすでに考えようとしていたザリュースに後方から声が掛かった。
「あー、でもまあいいよ。あのアンデッド軍団が私たちの支配下にあることには違いないんだし、勝敗に関わらずあれらは引き揚げる。ナザリック地下大墳墓至高の四十一人の名に懸けて誓いましょう」
「っ! ……そうか」
ザリュースが陣営に戻ったと同時に、死者の軍団は
はぁ……エントマちゃんかわゆ。
2/19 誤字脱字適用と一部修正しました。
2018/11/6 行間を調整しました。