スーパーロボット大戦3F ~マクロス・コンサート~   作:デスフロイ

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第1話 フロンティア、争乱

 地球圏は、混乱の時代を迎えていた。

 全ては、何の前触れもなく空間に穴が開き、異なる空間と恒常的に連結する、異常現象によるものであった。

 この空間をつなぐ穴は【ワームホール】と呼ばれた。

 それは、空間のみならず軍事上・経済上にも大きな歪みを生じさせていった。

 宇宙からの侵略に対抗するため設立された地球統合政府だったが、地球至上主義の指導者たちに対する宇宙移民の反発が激化。その結果、指導力が低下した統合政府に反旗を翻すジオン独立運動が勃発。地上でも、機械の獣を操る反政府勢力が日本を中心に活動を始めた。

 ついには、地球圏全体を巻き込んだ、いわゆる【十三ヶ月戦争】が巻き起こった。

 しかしながら、ジオン公国を名乗ったサイド3は、デギン=ザビ公王が病による長期療養を余儀なくされ、事実上引退したことによって休戦宣言。反政府勢力も、各地でスーパーロボットらの活躍によって弱体化していった。

 しかし統合政府も戦乱によって求心力を著しく失い、ほどなくして崩壊。地球圏を六つのブロックに分かち、それぞれが自治を行いつつ連合する、地球連邦政府が設立された。

 だが、その後もワームホールの出現はやまず、ついには異世界や外宇宙にまで通路が開いてしまった。

 地球上の政治・軍事バランスの大きな狂いと、異世界や外宇宙との思わぬ接触は、混乱につぐ混乱をもたらそうとしていた。

 そうした情勢の中、極東にてディバイン・クルセイダーズ(略称DC)、北米にてメタトロン、そして宇宙にて、この物語で語られるロンド・ベルの三つの独立部隊が設立され、地球圏の紛争解決を目指すこととなっていった。

 いわゆる、【三軍連合戦争】、俗称【スーパーロボット大戦3F(Triple Force)】の勃発である。

 この物語は、混迷の時代において、人々の心を支えた歌姫たちをもっとも輝かせた、後に伝説とまで呼ばれた【マクロス・コンサート】を描いたものである。

 

 

 

 

 

「どう? この前の話、考えてくれた?」

 

 開口一番、シェリルが熱気バサラにそう問いかけたのは、マクロスTVの廊下であった。

 

「は? 何のことだよ」

「とぼけちゃって。あなたには、私のギタリストになってほしいのよ。何ならダブルボーカル形式でも構わないのよ」

「あのな、俺は」

「ちょっと!」

 

 気色ばんで、バサラのバンド【ファイヤーボンバー】のメンバーであるミレーヌが、シェリルに食ってかかった。

 

「あんた、何言ってくれてるの!? バサラをうちから引き抜こうたってそうはいかないわよ!」

「彼ほどのギタリストが、あなたみたいな下手くそと組んでるなんて、音楽界の損失よ。彼は私と組むべきだわ」

「何よ、ミンメイさんのチャート記録と一回だけ並んだからって!」

「ファイヤーボンバーのチャートが伸びない原因は、あなたじゃないの? ミレーヌ」

「言ったわね!!」

「やめなさい、あなたたち!」

 

 割って入ったのは、ファイヤーボンバーのプロデューサーである、ミュン=ファン=ローンであった。

 

「こんなところを、写真雑誌の人に見られたらえらいことになるわ」

「だってミュンさん!」

「いいから頭を冷やしなさい! 生中継前なのよ」

 

 ミュンは、今度はシェリルに向き直った。

 

「シェリル、あなたも業界のルールは心得て。引き抜きが露骨すぎるわ」

「その方が、バサラのためになると思うんだけどな。バサラ、もう一度聞くわ。マクロスを降りてフロンティアⅣに移らない?」

「悪いがお断りだ。前にも言ったはずだぞ」

 

 バサラは、即座に返答した。

 

「あんたの力なんか借りなくても、俺はチャートトップを取ってみせる! ファイヤーボンバーでな」

「残念ね。私とあなたが組めば、次のラストイヤー・フェスティバルのオーラスを確実に飾れるのに」

 

 シェリルは、ミュンのすぐ側で成り行きを見つめていた、ステージ衣装に身を包んだ女性を真っ直ぐに見据えた。

 

「リン=ミンメイ」

 

 彼女の名前を、シェリルは呼んだ。

 

「あなたは三年連続でラストイヤー・フェスティバルのオーラスだったんだから、もういいでしょ? 今年こそ私がやらせてもらうわ。時代は、マクロスからフロンティアⅣに移りつつあるのよ」

 

 沈黙を保つミンメイに代わって、ミュンが問いかけたのは、シェリルの側でオロオロしている中年男だった。

 

「エルモさん、この過剰な自信は、プロデューサーのあなたの教育のたまものってわけ?」

「いやそんな! 本当に申し訳ありません。シェリル、あの、ちょっと言い過ぎじゃないかな~」

「もう、エルモさんは人がよすぎるのよ。一気にアップル・プロジェクトを打ち破る時よ」

「そう簡単にはいかないわ。ファイヤーボンバーは、まだまだこれからよ」

「いつまでもそう言ってるがいいわ。シャロン=アップルの声優さん」

「そ、それはまずいって……おいシェリル!」

 

 さっそうと廊下を去っていく後を、エルモが慌てて追いかけていく。

 その後ろ姿が曲がり角に消えていくのを見送ったミュンは、ミンメイとファイヤーボンバーの両方を見回した。

 

「ミレーヌ。シェリルの挑発は今に始まったことじゃないでしょ? ミンメイはちゃんと分かってるわ。少しは見習いなさい。私たちアップル・プロジェクトは、純粋に歌で勝負するのよ」

「バサラを持っていくなんて、絶対にやらせないでよ。プロデューサーとして!」

「もちろんよ。みんな、聞いてちょうだい」

 

 ミュンは、口調を改めて続けた。

 

「フロンティアⅣのシェリル=ノーム。プラントのラクス=クライン。この二人は、ポスト・ミンメイの双璧と呼ばれてるわ」

「だけど、ラクスってプラント以外で歌わないじゃない? プラントのテレビ局以外には出てこないし。所詮はプラントの御用歌手でしょ」

「ミレーヌの言う通りよ。今、現在では、ね」

「え、ってことは、プラントから出てくるかもってこと!?」

「いえ、今のところ、そういう話は出てないわ。もし彼女がプラントから出たら、音楽シーンは中途半端な盛り上がりではすまないでしょうけどね。ネットでしか彼女の歌を聴けないファンの間では、待望論が根強いしね。だけど、彼女たち二人に話題をさらわれっぱなしで、いいわけがないわよね? この二人を打ち破るのはあなたたちよ。ファイヤーボンバー」

「当たり前だ! 銀河中に、俺の歌を響かせてやるぜ!」

 

 後輩のバサラが意気軒昂なのをよそに、ミンメイは内心でため息をついていた。

 

(何だか最近、歌以外のことで気疲れすることが多いな……輝に会いたい……)

 

 

 

 

 

 同時刻。

 シェリルも在籍しているフロンティア第4学園にて、ミスコンが行われていた。なお、芸能活動を行っている女生徒は対象外なので、シェリルはノミネートすらされていない。

 校庭に設えられたステージへと、シーブックはドレス姿のセシリーを引っ張っていた。

 

「早く来いよ! あんたの優勝に、俺は賭けてるんだから」

「勝手なことを言わないでちょうだい! 大体、人をトトカルチョの対象にするなんて。私は競馬馬じゃないのよ!」

 

 二人が歩いていく先に、いかにも手製のアイドル衣装っぽい格好をした、緑の髪の少女がいた。

 

「あー! 先輩、そのドレスってやっぱりミス・フロンティア学園に出るんですね?」

「出ないって言ってるのに彼が無理やり! ランカ、あなたも出るんでしょ、その衣装?」

「えへへ、そうなんです。だけど、セシリーさんが出てきたら、もっていかれちゃうな。セシリーさん、歌手とか女優やらないんですか? うちの学校、そういう人も何人かいるし」

「私は人前とか得意じゃないし。第一、歌手なんてシェリルさんにかなうわけ」

 

 セシリーの台詞は、突然の爆音で掻き消された。

 

「な、何だ!?」

 

 ミスコン会場に、戸惑う学生達の騒ぎがあちこちから巻き起こった。

 

 

 

 ちょうどその頃、ミスコン会場から少し離れた場所。

 一台の、赤を基調としたスーパーカーが、道路を走っていた。

 その向かう先に、空中から騎士を模したモビルスーツが数機飛来し、着陸した。

 スーパーカーが、急ブレーキをかける。

 

「あれあれ、いけませんね~。公道はモビルスーツの運転は禁止じゃないのかい?」

「い~けないんだ、いけないんだ~」

 

 帽子をかぶった細面の男・ボウィと、艶っぽい美女・お町がドアを開けると、モビルスーツに対して囃し立てた。

 モビルスーツ隊の指揮官機であるベルガ・ギロスの中で、片目を眼帯で覆ったパイロット、ザビーネ=シャルは、訝しそうな顔をした。

 

「……? まあいい。そこの車の者たち! セシリー=フェアチャイルドの居場所を知っているか?」

「生憎だけど、そんなお嬢さんは知らないな~。なんせ余所者なもんでね」

 

 一拍置いて、ボウィは続けた。

 

「ただ……クロスボーン・バンガードが、行方知れずの貴族のお姫様を探すために、フロンティアⅣを襲撃するって噂は聞いたことがあるぜ?」

「!」

 

 ザビーネは、反射的にマシンガンをスーパーカーに構えて発砲していた。

 最初の動きでそうと悟ったボウィが、ドアを瞬時に閉め、スーパーカーを素早くバックさせた。弾丸が、スーパーカーのいた場所を大きく穿つ。

 

「おっととと。そんな攻撃じゃ、俺様の子猫ちゃんには当たらないぜ?」

「騎士の姿をしていながら、やり口は野蛮極まりない。仏作って魂入れず、とはこのことだな」

 

 後部座席にいた、知的な印象のアイザックがそう批判した。

 

「……貴様ら何者だ? ただの無頼漢ではないな?」

「惜しい! ささ、ボウィさん、ディスクを再生してくださいまし」

「オゥケィ! 早速、ご機嫌なメッセージをお聞きくださいな」

 

 外部スピーカーから、録音済みのメッセージが流れ始めた。

 

『いらっしゃませいらっしゃませ! 近所のケンカに仕事のトラブル、悪徳業者にヤクザの揉め事、何でもお任せJ9! 今なら3割引とお得に……』

 

 お町が慌てて、

 

「違うでしょ! これはお仕事がない時に、街を流して回るための売り声メッセージでしょ! こっちこっち」

「こりゃお恥ずかしい。それじゃ改めてどうぞ!」

 

 ようやく、スピーカーから本来のメッセージが流れ始めた。

 

『夜空の星が瞬く影で、悪の笑いがこだまする! 星から星に……』

「要するに、まともに質問に答えるつもりはないわけだな」

 

 ザビーネは取り合わずに、再び発砲した。

 だが、これもスーパーカーは回避する。

 

「モビルスーツが車に何度も発砲するな! こうなりゃ、いっちょやったるか!」

 

 ボウィの隣に乗っていたキッドが、目を光らせつつそう言った。

 次の瞬間。

 スーパーカーが、いきなり巨大化した。しかも姿も変形し、翼が現れ、戦闘機となった。

 これには、さすがのザビーネも驚愕した。

 

「何だ、これは!? どうなっている!」

「この程度で驚くとは、シンクロン理論を知らないようだな」

「ま、普通は知らないし驚くよな。だけど、ホントに驚くのはこれからだぜ!」

 

 キッドが不敵に笑う。

 そして、戦闘機はさらに変形し、スーパーロボットと化した。

 

「銀河旋風ブライガー! お呼びとあらば即参上!」

「うひょー、決まりましたねキッドさん!」

「カッコいい~! ひゅーひゅー!」

 

 仲間内で盛り上がっているJ9チームをよそに、ザビーネは平静さを取り戻していた。

 

「……なるほど確かに驚いたな。まさか戦闘機が、昆虫みたいな三本指の妙チクリンなロボットになるとはな」

「ぐっ! 人の気にしてることを笑っちゃいけないんだぜ! こいつはお返しだ!」

 

 射撃担当のキッドが、コズモワインダーを構えて撃った。

 ザビーネも、クロスボーンのエースパイロットである。この攻撃を辛くも避けた。背後の部下の機体が避けきれずに被弾する。

 

「本来、我々は貴様らなど相手にしている場合ではないが、余計な事を知っているらしいからな。叩き潰せ」

「あらら~本気で怒らせちゃったみたいね」

「お前たちは口が多すぎるのだ。何とか追い散らすしかないな」

 

 アイザックが、仕方なさそうにそう言った。

 ブライガーの周囲に、ベルガ・ギロスに随行していたデナン・ゾンが展開した。

 

「いくぜ! 先手必勝!」

 

 ブライガーが勢いよく踏み込み、デナン・ゾンに肉薄した。

 

「ブライソード!」

 

 その一撃で、デナン・ゾンが切り裂かれて大破する。

 が、クロスボーンも黙ってはいない。マシンガンの連射がブライガーに叩きつけられた。

 

「こりゃ、ちょっと数が多すぎるな。まいったぜこりゃ」

「さあ、ここで三択です! 1番、ハンサムのキッドさんは……」

「3番は勘弁してくれ!」

 

 キッドがそう叫んだ時だった。

 コロニーの奥から、戦闘機が四機、ブライガーの方に向かってきたのだ。しかも、その内一機は、ブライガーの何倍もある巨大な代物だった。

 

「そこにいるのはJ9チームか! 取り込み中のようだな」

「ああ、破嵐財閥の。クロスボーン・バンガードは短気な人が多くてね」

「クロスボーン!? フロンティアⅠの。ついに動き出したか……」

「万丈さんおひさ~。おいしい仕事ない?」

 

 キッドに続いて、お町が声をかけた。

 

「あるとも。とりあえずは、そいつらを何とかしよう。僕たちも加勢する!」

「どうやら、正解は2番だったようだな」

 

 クールにアイザックがそう独りごちた。

 

「万丈。俺たちが先行する!」

「頼むよフォッカー少佐。君たちのバルキリーの方がスピードが速い」

 

 三機のバルキリーが、クロスボーンの部隊へと間合いを一気に詰めていく。

 

「統合軍時代の戦闘機か。そんなものが通用する時代はすでに終わっている」

 

 ザビーネは、相手の軌道を読んで発砲した。

 次の瞬間。

 ザビーネの片目に、戦闘機から腕と足が生えるのが映った。

 ガウォーク形態となったバルキリーの動きが複雑に変化し、砲撃はどれも当たらなかった。

 

「何だ、あの戦闘機は!?」

「まだまだ! 今度はこっちからいくぞ。輝! マックス!」

「了解!」

 

 三機は、さらに変形し、二足歩行の人型形態・バトロイドとなった。

 その手にしたガンポッドが、三機のデナン・ゾンを撃ち抜いた。

 

「見たか! もうモビルスーツばかりに、大きな顔はさせない!」

「AMBACは、モビルスーツの専売特許じゃなくなったってことです」

 

 輝とマックスは、いささか得意げに口々に言った。

 

「厄介な連中ばかりだな……。こんなことをしている場合ではないというのに」

 

 その時、ベルガ・ギロスの通信機が鳴った。

 

「……む?ドレル様か……ベラ様を保護なさいましたか。それでは、我らも撤退します」

 

 ベルガ・ギロスを先頭に、残存していたデナン・ゾンも次々と、その場を去っていった。

 

「ありゃりゃ、疾風のように去っていったぜ」

「奴ら、目的の姫君を確保したようだな」

「ところで万丈さん、おいしいお仕事のお話が聞きたいんだけど」

 

 口々に喋るJ9チームに、万丈が応じた。

 

「僕たちは、独立部隊ロンド・ベルを旗揚げした。君たちをロンド・ベルに勧誘したい。君たちの戦闘能力、情報収集能力、撹乱工作技術は、これからの我々にとって有用だ」

「独立部隊? 固い組織が苦手な連中ばかりだが、どこの紐がついている?」

「一応は連邦宇宙軍の認可だがね。実質的なトップはマクロスのグローバル艦長さ」

「そうか! マクロスも動き出したか……黙っていてもいずれ押しつぶされるだけからな」

 

 訳知り顔のアイザックとは別に、キッドがダイターン3を見上げて言った。

 

「音楽の聖地マクロスだから、鐘を鳴らすってわけか。洒落た部隊名つけるじゃないか。気に入ったよ」

「それはどうもありがとう。で、どうなんだ?」

「雇われてやってもいいが、一つ条件がある。あんたの頼みでも、こればっかりは譲れねえぜ」

「言ってみてくれ。できる限りのことはしよう」

 

 万丈が、真剣な面持ちでそう答えた。

 

 

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