スーパーロボット大戦3F ~マクロス・コンサート~ 作:デスフロイ
サンクキングダムの政庁を兼ねた屋敷を、二機のガンダムが守っていた。
「……来る! 何だ、あのロボットは」
「ボアザン星人の、守護神ゴードルだ。おそらくは、ハイネル司令官自身が操っている」
ガンダムヘビーアームズの中で、トロワ=バートンは平静な声で答えた。
「そのすぐ側に、モビルスーツ三機。うち二機はガンダムタイプ。ザフト軍のものなら、お前は知っているのではないか? キラ=ヤマト」
「知っている……」
キラは、フリーダムの中で、その姿を確認していた。
「クルーゼのシグーに、アスランのイージスガンダム。それと……インパルス! シン=アスカも加わっているのか」
「手強いか?」
「誰一人とっても、簡単には勝てない。ヒイロが加わればともかく……」
「いない人間の話など意味がない。奴には、別の役割がある。分かっているはずだ」
「……そうだな、すまない。僕たち二人で、ここを守り抜かなければ!」
キラは、迫り来る守護神ゴードルらを、じっと見据えていた。
その二機の姿を見たアスランが、顔色を変えた。
「あれは……フリーダム! キラだ! サンクキングダムに来ていたとは」
「フリーダムを奪っていった奴が、よくも俺たちの前に出られたもんだな!」
二人の言葉を耳にしながら、クルーゼは薄く笑った。
「隣にいるのは、例のコロニー共和連合のガンダムだな。どうやらキラ=ヤマトは、奴らと気脈を通じているようだ。だが、いくらキラ=ヤマトといえども、我々三人を同時に相手取って勝てるかな?」
そしてクルーゼは、ゴードルを見やった。
「ハイネル司令官! 我々があのガンダムを殲滅しましょう。リリーナはあなたにお任せします」
「うむ。忌々しいガンダムどもを、いちいち相手になどしてはおれん。政庁ごと、そやつを紅蓮の炎で焼き尽くしてくれるわ」
両者の間合いが、詰まっていく。
そして、双方が相手を射程に入れた。
次の瞬間、4機のガンダムが、激しくビームを撃ち始めた。
流れ弾が政庁に当たらないよう、フリーダムはシールドで極力受け止める。
「涙ぐましいな、キラ=ヤマト!」
クルーゼは銃撃戦に加わらず、空中に飛翔した。
眼下に、政庁がある。クルーゼは照準をそこに合わせた。
それに気づいたトロワが、砲火をそちらに集中させた。クルーゼはあっさり断念して位置を変える。火線の薄くなった分、アスランとシンの攻撃は苛烈さを増す。
ヘビーアームズが被弾し、ぐらついた。それでも、トロワはシグーへの砲撃をやめない。
そして、ゴードルがついに政庁に接近した。
「焼かれて落ちるがよい!」
炎が、守護神ゴードルの口から放たれた。
「させない!!」
フリーダムが、炎の前に飛び込んだ。
猛烈な熱気が、フリーダムを炙る。キラの眼前のモニターに、警告表示が次々と並んだ。
「ほう、そこまでするか。敵ながら天晴れ! だが、次の炎は耐えられまい。それとも後ろを見捨てて逃げ出すか! 好きな方を選ぶがよい!」
「……逃げない!! 最後まで守り抜く! 僕はそう決めたんだ!!」
キラが、フリーダムを仁王立ちさせる。
クスィフィアスレール砲が、すぐ目の前のゴードルに狙いをつけた。これで確実に倒せるとは、キラも思っていない。ただ、戦いを放棄するつもりはなかった。
「惜しい。貴様のような奴が、味方であれば。しかしこれまでだ!」
ゴードルが、炎を吐こうとしているのを、キラはトリガーに手をかけたまま見据えていた。
突然、ゴードルの背中に爆発が起こった。
大きくよろめくゴードルに、フリーダムの砲撃が浴びせられる。キラの予想通り、それでもゴードルは持ちこたえた。
「!?」
ハイネルは、背後でその腕を砲身として構えているボルテスVを見た。
「現れおったか! おのれ、ことごとく邪魔を!」
「それ以上はやらせない! そこのガンダム、加勢する!」
それを見てとったクルーゼは、方向を変えてボルテスVに向かった。
「死に体のそこの二機は、シンだけでいいだろう。アスラン、ボルテスVは我々でやるぞ」
「了解!」
正直、キラをなぶり殺すことに嫌悪感を覚えていたアスランは、内心ほっとして向きを変えた。
シグーの砲撃に足が止まったボルテスVだが、
「ボルテスバズーカ!」
反撃を試みるが、シグーは楽々と回避する。
続いて、モビルアーマー形態となったイージスガンダムが、四本の爪からのビームサーベルでボルテスVを斬りつけた。
さらに、ゴードルの炎がボルテスVに叩きつけられる。
「どうやら助太刀にもならなかったようだな。 ……む!?」
クルーゼは、レーダーに反応を見つけた。
VF-01Jを先頭に、F91とD-1が続いて、接近しようとしていた。
「また貴様か! ここまでの因縁になるとは思わなかったよ」
「それはこっちの台詞だ!」
輝が、砲撃をシグー目がけて放った。
「それじゃ、俺はそっちの赤い奴だ! おい、俺のこと忘れてないだろうな!?」
「できれば忘れていたかったくらいだ!」
イージスガンダムがモビルスーツ形態に変形し、D-1に標的を変更した。
政庁を背にしないよう、回り込みながら放たれるD-1のレールガン。それを避けつつ、ビームライフルでの応戦を始める。
「くそっ! 新手か!」
一方、インパルスのシンは、迫り来るF91にビームライフルを放った。
が、F91はそれをあっさりと回避する。
さらに撃ち出されるビームも、かすりもしない。
「この! この! 落ちろよ!!」
シンは、回避の方向を先読みしながらビームを乱射した。
そのうちの一発が、F91を撃ち抜いた。
が、次の瞬間、そのF91の姿が消え失せたのだ。その時には、F91は別の位置にいた。
「これは! 質量を持つ、残像だっていうのか!?」
目まぐるしく動くF91は、その姿を次々と空中に現しては、陽炎のように消していく。必死の形相のシンがそれを撃ち抜くが、残像しか命中を許さない。
キラは、援護に行こうとした出足が一瞬止まり、その姿を驚きを持って見つめていた。
「あのシンが! 全く当てられない!? あのパイロットは何者なんだ!?」
「なんとぉーっ!!」
シーブックが、吠えた。
間合いを詰めたF91のビームサーベルが、インパルスを斬りつけた。
ビームライフルを持った腕が、地面に落ちる。
シンは、愕然としていた。
「な……何だと!? こいつ……!」
「聞くんだ」
シーブックは、我知らずシンに語りかけていた。
「ガンダムは、人をなぶり殺す道具じゃないはずだ! そんな方法でなければ、理想の世界を築けないのか?」
「だ……黙れ!! 俺の何が分かるっていうんだ! 戦場にも出ないで、人を守れるとか思い上がってるやつらに、思い知らせてやるんだ!」
「戦場に出るだけが、戦いじゃない」
「何……!?」
一方、D-1とイージスガンダムは、なおも激しく戦っていた。互いの砲撃をかいくぐり、肉薄して斬り合いを始める。
そこに、我に返ったキラが、フリーダムで割って入ってこうとする。
「何だお前!? 機体が傷んでるくせに、横入りするんじゃねえ!」
「僕がやります! このアスランとは、僕がケジメをつけなければならない」
キラの言葉に、ケーンは一瞬黙った。
「そういうことか。仕方ねえ、譲ってやる! 決着つけな」
「すみません!」
D-1が下がり、フリーダムが入れ替わる。
「アスラン、君はプラントが今のままでいいと本当に思うのか!?」
「!」
「コロニー落としに核攻撃、無関係の人を大勢巻き込むジオンについていくのが、プラントのためだと本気で思ってるのか!?」
「それでは俺たちコーディネーターは、いつまでも日陰者なのか! 世界を変革する必要があるんだ! お前もコーディネーターなら理解してくれるはずだ」
「ジオン主導の変革など、世界を歪めるだけだ! コーディネーターが生きる道は、他にもあるはず! ラクスはそう言っている!」
ラクスの名前がキラの口から出た時、アスランは一瞬絶句した。
「やはり、ラクスはお前が連れだしたのか! 俺の元からラクスを奪っていくのか!」
「今の僕には、これしかできないんだ。許してくれとは言わない。僕とラクスは自分の信じる道を行く!」
その時。
大きな鈍い音が、政庁から響いた。
「しまった!」
健一が青ざめていた。
揉み合っているうちに、ゴードルを政庁に押し倒してしまったのだ。
「ぐう……」
呻くハイネルの視界に、ヒイロに庇われたリリーナが見えた。倒れ込んだ衝撃で政庁の一部が崩れ、壁が壊れて中が見えたのだ。
「そこにいたか! かくなる上は!」
ハイネルは、肌身離さず持ち歩いている短剣を手にすると、ゴードルから出た。
その様子を見た健一は、
「ボルテスで止めれば、中の人間を巻き込む! みんな、いったんボルトオフだ! 俺が行く」
そっと、腰の銃を確認した。
ハイネルは、傾きかけて開きにくくなった扉を、何度も蹴りつけた。
「この! この! 開け!」
執拗に蹴りつけていた扉が、根負けしたように、勢いよく開かれた。
その部屋の奥で、ヒイロが二人の少女を守って立ち塞がっていた。
「そこをどけ! ……と言っても、聞くとは思えんな。今日は、骨のある敵が多い」
ヒイロは、無言でその言葉を受け止める。
ハイネルは、気合いと共に、ヒイロに斬りかかった。
ガチィッ!
ヒイロが手にしたガラス製の灰皿が、短剣を受け止めた。灰皿が割れ、ヒイロの手が切れて血が流れる。
そのまま、ガラスの破片をヒイロはハイネルに投げつけた。一緒に飛んだ血が、顔をかばったハイネルの服を汚す。
すかさず踏み込み、ヒイロは蹴りをハイネルに放った。狙いは短剣を持った腕。
短剣が跳ね飛ばされ、床に転がった。
「お、おのれ!」
ハイネルが、短剣の方へと駆け寄る。
健一が、銃を片手に部屋に飛び込んできたのは、その時だった。
「動くな! 撃つぞ!」
健一はハイネルを牽制しながら、短剣を拾い上げた。
その短剣をふと見た健一は、声をあげた。
「この紋章! この短剣、俺が父さんから渡されていたものと、全く同じ……」
「何!?」
「刻まれてる文字の形まで、全く同じだ! どうしてお前がこれを」
健一がそう言いかけた時、政庁に流れ弾が当たり、大きく揺らいだ。
ハイネルは身を翻すと、開け放たれた扉から逃げ出していった。
「ま、待て!」
健一は銃を構えたが、なぜか撃てなかった。
ハイネルはゴードルに乗り込むと、政庁から立ち上がらせ、その場から飛び上がった。そのまま、政庁から一目散に離れていく。
「逃げ出した!? 何をやって」
言いかけたクルーゼのシグーに、輝の放ったミサイルが直撃した。
大破こそしなかったが、少なくないダメージを負う。
「くっ、もはやこれまでか! アスラン、シン、離脱するぞ!」
二人とも、苦いものを堪えながら眼前の敵をどうにか振り切り、クルーゼの後を追っていった。
「どうやら、持ちこたえたようだな」
「大丈夫か、お前? ずいぶんくらってたようだけどよ」
トロワに、ケーンが声をかけた。
「問題ない。俺のことより、政庁の中を心配しろ。リリーナ=ピースクラフトと、ラクス=クラインがいる」
「ラクス……って! プラントの歌姫とかいうあれか!」
「今、その二人を死なせるわけにはいかない。二人をマクロスまで送り届けてくれ。本来、そういう計画だった」
その場に、フリーダムとF91、それにVF-01Jが次々と降り立ってきた。
「よう! 大丈夫かお前? えーと何て名前だったっけ」
コックピットを開けたケーンが、フリーダムに声をかけた。
他の面々も、乗機を降りていく。
「僕はキラ=ヤマト。さっきはありがとう」
「いいってことよ。ところで、お前はコロニー共和連合のパイロットなのか?」
「いや。こっちのトロワはそうだけど、僕は違う。元は、連邦宇宙軍の兵士だった」
「元は?」
「説明が、必要ですわね」
その声に、ケーンはそちらを振り向いた。
政庁の外に、ヒイロとリリーナ、健一、それに声の主らしき、ピンク色の髪をした少女がいた。
その姿は、さすがにケーンも見覚えがあった。
「ラクス=クライン! お前がそうなのか」
「はい。わたくしは、プラントを出奔いたしました。キラは捕虜になっていたのですが、わたくしは彼に、ザフトの新型モビルスーツであるフリーダムを与え、共に脱出したのです。その後は、こちらのリリーナ代表に匿っていただきました」
リリーナが、後ろで頷いた。
「誤解のないように言っておきます。ラクスさんは、単なる気まぐれや思いつきで出奔したわけではありません。彼女は、プラントの未来を思い、そのために行動したのです。皆さんに、お願いしたいことがあります」
全員が、リリーナの次の台詞を待った。
「ラクスさんとわたくしを、マクロスまで連れて行っていただきたいのです。当初からその予定でした。いささか時期が早まりましたが、これも巡り合わせでしょう」
「ラクス=クラインが、マクロスに……!」
輝が、生唾を飲み込んだ。
「それと、ヒイロもわたくしと同行します。彼はわたくしを守らなければなりませんから。ええ、先ほどのように!」
「分かっている。俺はボディガードだ。だから、がっしりと腕を掴むのはやめてくれ」
「では、柔らかく腕を絡めますわ」
その場の一同全員、リリーナがヒイロに対してどういう感情を抱いているか、嫌でも理解できた。ラクスが、ちらちらとキラを見ている。
「ウイングガンダムゼロで、俺もロンド・ベルに加わる。このトロワも同じだ」
「そうか。仲間が増えるのは結構なことだな。ところでキラ、お前も来るのか? なかなかの腕みたいだしな。まさか、シーブックみたいにニュータイプとか言わないだろうな?」
ケーンの言葉に、キラはすぐ側にいたシーブックを見つめた。
「ニュータイプ! 君がそうなのか……。なら、あの動きも納得できる。僕はニュータイプにはなれそうにない。僕は、コーディネーターだから」
「コーディネーター!?」
その言葉に、今度はシーブックがキラを見つめる。
「聞いたことがある。プラントで生み出されたかいう」
「遺伝子操作で生み出された、優勢人種。そんなふうに、取りざたされた時期もありましたわ。わたくしも、コーディネーターの一人ですけど」
ラクスが、やや自嘲じみた声音で言った。
「残念ながら、過去の技術になりつつありますわ。人類の革新としては、ニュータイプ進化論の方が現在では優勢ですから」
「平均して高い能力を持つけど、飛びぬけた天才が出ないというのが定説だよ。コーディネーターがニュータイプに覚醒した例は一つもない」
「そんなこと、どうでもいいじゃないか! 守りたい人を守り抜ければ、それでいい。違うか?」
アルトは、フォッカーがシーブックにかけた言葉を思い出していた。
「そのラクスを、最後まで守りたいんだろう? 俺にも、そんな奴がいるんだ。お前もロンド・ベルに来いよ」
「……! 実は、こちらからお願いしようと思っていたんだ。つくづく思うんだ。戦争を止めたい、平和な未来を作りたいと。だけど、どうすればいいのか分からなくて。ロンド・ベルの活動を見て、賭けてみたいと思った」
「なら話は早い。未来とやらを、一緒に作ろうぜ! 俺はアルト。早乙女アルトだ」
「ありがとう、アルト……!」
キラは、アルトの差し出してきた手を握った。