スーパーロボット大戦3F ~マクロス・コンサート~ 作:デスフロイ
「J9チーム! 頼まれてたミンメイのサイン、持ってきたよ」
「おー! 待ってました」
輝が掲げた色紙に、キッドとボウィがあげた歓声が、マクロスのブリーフィングルームに響いた。
「君たちの提示した条件はクリアした。これで契約成立だな」
「オーケーだ! 任せときな」
「契約はするが、実のところこちらとしては、ロンド・ベルでなければならない必要も別にない」
アイザックがそう言い出した。
「独立部隊なら、極東のDCもあるし、北米にもメタトロンというのが旗揚げしたと聞く。地上まで降りるのがいささか面倒だがな」
「言いたいことは分かっている。働きによっては、臨時ボーナスも考えるさ」
破嵐万丈は、ダイターン3を操る単なる一パイロットではない。結成したばかりの独立部隊ロンド・ベルのスポンサーであり、実質的な幹部の一人である。
「どれどれ?『速くてカッコいいスティーブン=ボウィさん。今度ドライブ誘ってね』」
「そんなこと書いてないから。大体、ボウィさん一人のものじゃないから」
お町が半ば呆れ顔でツッコミを入れる。
「だけど、どうせなら手渡しがよかったな。一目会ったその日から、恋の花咲くこともある。なんてな」
「あーそりゃ無理ですね」
「ん~? ずいぶんご挨拶だなマックス。このキッドさんに魅力がほんの少し足りないと?」
「そうじゃなくて。ミンメイさんは一条先輩とお付き合いしてるんですよ。マクロス市民はみんな知ってます」
「なにー! それじゃ、ミンメイちゃんの彼氏から色紙もらってたってわけか。道理で、『確実なツテがある』とか万丈が言うわけだな、え?」
わざと大仰に、キッドが輝ににじり寄る。
「絡まないでくれよ。発表された時には、散々だったんだから。カミソリメールがもう毎日毎日……」
「トップアイドルの彼氏も楽じゃないわね。昔に比べたら、ファンも物分りよくなったみたいだけど」
「一条先輩の前ですけど、シェリル=ノームとか、ラクス=クラインとかの追い上げがすごいですね。マクロスとフロンティアⅣとの音楽戦争とか、マスコミが煽ってるし」
マックスの訳知り顔の台詞に、万丈が思い出したようにアイザックに尋ねた。
「そのフロンティアⅣのことだが、クロスボーン・バンガードについて、何か知っていることがありそうだな? アイザック」
「我々も、クロスボーンとは成り行きで戦っただけで、そこまで詳しくは知らん。ただ、あれはフロンティアⅠを事実上支配している、貴族ロナ家の私兵だということだが」
「それは僕も知っているが、クロスボーンはなぜフロンティアⅣを襲撃したんだろう? 僕たちは救援要請でやってきただけで、詳しい事情が分からない。確か研究所くらいはあるが、どうもそこ狙いではなかったようだし」
「あくまでも噂だが、あそこにはロナ家の娘が暮らしていたらしい。事情があって、ロナ家から離れて養父と暮らしていたようだがな」
「娘の引き取りにしては、あまりにも荒っぽすぎるな?」
「ことによると……ロナ家は、地球連邦に対して反旗を翻すつもりなのかもしれん」
「反旗!? ロナ家一手でか!? それとも、ジオンとつながっているのか」
フォッカーが口を挟んできた。
「いや。現時点では、そうでもなさそうだ。確かに、反連邦のコロニーはジオンと結びつくのが常道だがな。ロナ家については、どうもジオンと歩調を合わせている様子がない。考えてみると、相性も必ずしもよくないしな」
「というと?」
「ロナ家は、独特の理念による貴族主義を地球圏に推し進めようとしている。ジオンはあくまで、ザビ家の独裁体制だからな。ロナ家の当主が、ギレン=ザビに対して批判的なコメントを出したこともあるし、両者の関係はあまりよくないようだ」
「独自路線ということか」
「もしかすると、その娘を連れ出したのは、クロスボーンの広告塔にするつもりなのかもしれん。あそこの長男は、モビルスーツ隊を指揮しているそうだから、戦闘面での旗頭ということになる。それとは別に、若い乙女を思想面での牽引役として起用する、それはありえる話だと思う」
万丈が、いったん天井を見上げて、感嘆の吐息を漏らした。
「……どうやら、成り行きとはいえ、君たちJ9チームと契約したのは正解だったようだな。貴重な情報を入手できた」
「そう思うんなら、ボーナスよろしくね~。今後はロンド・ベルの専属になるんだし」
「あんたたちは、情報だけじゃなく、戦闘もいけるみたいだしな」
フォッカーは真剣な眼差しを、お町だけでなくJ9チーム全員に向けた。
「宇宙は、大変な状況だ。連邦直属のティターンズは、地球至上主義に凝り固まって、ジオンと対立を深めてる。ボアザン星だの暗黒ホラー軍団だのも、地上のミケーネと連合して押しかけてきてる。この上、そのクロスボーンとやらに横やりを入れられると、きつすぎるんだよ。あんたたちの情報と戦闘力には期待しているんだ」
「了解了解! 任せといて~。いい仕事するわよ」
その様子を、輝は半ば呆然と聞いていた。
(やっぱり先輩は、肝心なところはしっかり考えてるんだなぁ……俺なんか、話についていくのが精一杯だ。流されて戦ってるだけじゃダメなんだよな)
「マックス。お前の伯父貴はこのマクロスの副艦長だろう? もっとひっついて、いろいろ話を聞いて来い」
「やろうとしてるんですけどね。なかなか食えない人で、僕の言うことなんてお見通し、って感じですよ。だけど、あの年代の伯父って僕にいたかなぁ……? 名前が同じなのも今ひとつ腑に落ちないし。親に確認できる状況じゃないですしね」
フォッカーとマックスの会話を聞いていた輝は、ポケットの中に入っていた携帯電話が一瞬震えるのを感じた。
(あ、メール来たんだ。このタイミングだと……多分ミンメイだな?)
無限に広がる大宇宙。
そのただ中を、訓練機であるVF-1Dバルキリーがただ一機で飛行していた。
「うわぁ! すっごい綺麗な星空!」
「そうだろう?バルキリーの座席から見ると最高だろう」
複座の後部座席からのミンメイの歓声を、輝は背中で受けた。
「だけど、後で怒られたりしないの? 勝手にバルキリーで出ちゃって」
「大したことないさ。ミンメイはここんとこ、アップル・プロジェクトのお姉さん役で気疲れしてるみたいだから。息抜きしないと」
「そうなのよ。この前も、シェリルがファイヤーボンバーと揉め事起こして」
「彼女もいいシンガーだけど、気が強いみたいだしね……ん!?」
急速でこちらに飛来する遊軍機の反応に、輝はデートの終わりを直感した。
通信機から、輝の聞き覚えのある声が飛び出してきた。
『一条中尉! 勝手にバルキリーを持ち出して、ただで済むと思ってるの!?』
「あちゃ~! 早瀬大尉だよ。苦手なんだよな……」
頭を抱える輝。
『まったくとんでもないことをやらかすな輝! だが、男はそのくらい無茶でないと女は口説けんぞ! ひっく』
「隊長! 酔ってますね」
『バカ野郎。酒が恐くて戦ができるかってんだ!』
『フォッカー少佐!! あなたそれでも軍人ですか!?』
『うわっ!? ちょ、ちょっと今のは言い過ぎたかな~』
「あちゃ~! ミュンさんまで来ちゃってる……」
頭を抱えるミンメイ。
小型艇の中で、未沙の隣にいたミュンが、輝に標的を変えた。
『もう少し分別があるかと思ってたら、危険な場所にミンメイを連れ出して! 自分が何をしてるか分かってるの!?』
「分かってます。厳罰は覚悟の上です」
『なんて軍人なの!? とにかく早く戻りなさい!』
「ごめんね、輝」
「いいさ」
その時、バルキリーのコクピットに警告音が鳴り響いた。
レーダーには数多くの反応が、輝たちを取り囲むように出現していた。もはや、肉眼で確認できる距離まで来ている。
「これは……バルキリーでもモビルスーツでもない! ……地球産じゃないのか?」
『聞こえるか、そこの戦闘機ども。私はゼントラーディ軍、一等空士長ミリア=ファリーナ。こちらは……』
『師団長のカムジンだ! お前ら、逃げられないのは分かってるな!? 投降しな』
「ゼントラーディ軍……?」
聞き覚えのないその名ではあったが、その数にとても抗いきれないのを、輝も理解するしかなかった。
ゼントラーディと名乗る軍勢の、基艦らしき中に連れ込まれた輝たちは、透明のドームの中に閉じこめられていた。
ドームを通して見える、暗褐色の、何の飾り気もない巨大な部屋に、誰もが陰鬱な表情を隠せない。
ふと、壁の一部が大きく開いた。全員の視線が、そちらに向けられる。
巨大な人影が、開かれたところから見えた。
「……巨人!?」
未沙が、怯えを隠しきれずにそう口にした。
ようやく彼らは、その壁の一部が、巨大な扉であることを理解した。この艦自体が、巨人たちのために作られたものであることも。
巨人であることを差し引いても恵まれた体格である男が前。それより背が明らかに低い、カリフラワーのような頭の巨人が後ろ。入ってきたのは、その二人だけだった。
「……私が、当艦の艦長ブリタイである」
恵まれた体格の巨人が、そう名乗った。
「私は副官のエキセドルだ。質問に答えてくれれば、手荒な真似はしない」
カリフラワー頭が、意外に知性を感じさせる口調で続いた。
「最初に言っておく。我々が興味があるのは、地球の文化についてだ」
ブリタイの予想外の問いに、未沙は当惑した。
「文化……?」
「我々は戦闘種族だ。長い戦いの中で、文化というものを失ってしまった。そこで、地球の文化のことを知りたいのだ」
「信じられない……文化がないなんて」
「お前たちの言語は、自動翻訳機で理解できる。我々の資料によると、そこの女がリン……」
「お待ち下さい閣下!」
エキセドルはひそひそ声だが、マイクがその台詞を拾ってしまっているらしく、内容が翻訳されて未沙たちに聞こえてしまっていた。
「それは知らない振りで、話を持っていかねばなりません。高額のギャラが発生したらどうするのですか?」
「しかしだな。ミンメイを拿捕できたのは僥倖だ。歌わせない手はないだろう」
「ですから、彼女が自主的に歌うようにもっていくのです。それも、どうせなら新曲です。リリース間近のはずですし、未発表のものならベストです」
「VTR撮りは万全だろうな?」
「隠しカメラは仕込んであります。撮影に成功すればお宝映像になりますから、戦功を挙げた兵士への褒章としても使えます」
「あなたたち!! 全部聞こえてるわよ!」
未沙がたまりかねて怒鳴りつけると、二人の巨人が慌てて口を押さえた。
「な、何のことだ? いや、質問はこれから」
「質問したいのはこっちの方よ! あなたたち、文化を知らないとか言ってるのは大嘘じゃないの!? っていうか、結構地球文化に詳しいんじゃないの!?」
「いや! 決してそのような……」
「グズグズ言ってるんじゃないわ! 何よ、図体ばっかり大きいくせに。暗黒ホラー軍団じゃあるまいし!」
「何だと!? あんなセンスの欠片もないネーミングとファッションの奴らと一緒にするな!」
「語るに落ちたわね」
ミュンは、ブリタイの失言を聞き逃さなかった。
「文化のない人たちが、センスがどうとか語るのはおかしいでしょう?」
「う……」
額に汗をかいているブリタイと、斜め上に視線を逸らしているエキセドル。
ドガァァァン……!!
艦内に響く轟音、そして振動。
未沙たちだけでなく、ブリタイたちも予想外のようで、明らかに動揺した様子を見せた。
「何だ!? 何が起こったのだ」
「……ブリッジによりますと、先ほど話に出ました、暗黒ホラー軍団の襲来だそうです。警告なしで、いきなり攻撃をしかけてきたようで」
暗黒ホラー軍団の戦艦グロテクターの中では、ゼントラーディの数倍はあろうかという巨体のダンケル博士が怒鳴っていた。
「ゼントラーディごときチビどもの戦艦など、とっとと追い払え! 奴らにこの空域にウロチョロされては、実験の邪魔なのだ!」
ダンケル博士は怒鳴った後、部下に聞こえない小声で呟いた。
「くそ、実験の最中に通りかかりおって……。まさか、野蛮人のゼントラーディが、機密をかぎつけたというわけでもあるまいが」
その時、グロテクターに、大きな振動が伝わった。
「ダンケル博士! 新手が出現しました。戦闘機三機とスーパーロボット……あれは、ボルテスVです!」
「ボルテスVだと!? ガイキングが地上に釘付けになっているから、宇宙まで出てきたのというのに! ええい、暗黒怪獣を出せ! このグロテクターは離脱する」
内心で、ダンケル博士は舌打ちしていた。
(実験そのものは、すでに完了してる。結果の検証は今はできんが、やむをえん。装置が損傷することだけは、何としても避けねばならん)
グロテクターから、暗黒怪獣ブラックモンスターが吐き出された。グロテクターはそれを後目に、その場から去っていく。
迫ってくるブラックモンスターを、ボルテスVが迎え撃った。
「天空ゥゥゥ剣!」
ボルテスVが、手にした剣でブラックモンスターに斬りつける。
「この暗黒怪獣は、俺たちが相手する! 君たちは、捕虜の救出に当たってくれ!」
「頼んだぞ。ミュン! 今助けるぞ!」
「ミュンに少しでも傷をつければ、誰であろうと皆殺しにしてやる……!」
イサムとガルドは、真新しいバルキリーを高速で操り、ブリタイ艦に肉薄していた。
「二人とも! 待ってくださいよ。ロールアウト直後の機体でその加速は無茶だ! ……って、聞いてないですね。ミュンさんが絡むとこの人たちは」
苦笑しつつも、マックスも愛機を加速させて続く。
応戦に飛び出してきたリガードが、激しく火線を浴びせるが、それらの方が避けているかのように、どちらの機体にも当たらない。
「いくらでも来やがれ! 今の俺は、誰にも止められないぜ!」
イサムが、流麗な手つきで操縦桿を操る。
「お前たちの相手などしてはおれん! どけい!」
ガルドが印を結んだまま念を凝らすと、YF-21は敏感に反応する。反撃のミサイルが、次々とリガードを撃ち抜いていった。
爆発の連鎖が、ブリタイ艦を激しく揺るがした。
その衝撃で、何かのスイッチが誤動作したらしく、輝たちを囲んでいたドームが大きく開いた。
「逃げるぞみんな!」
フォッカーの掛け声と共に、そこにいた全員が駆け出した。
「あ、待て!」
「全艦に告ぐ。捕虜が脱走した! 奴らを傷つけるな! 無傷で捕らえるのだ」
エキセドルが即座に、通信機に指示を下した。
地球人にとっては、やたらとだだっ広い廊下を、必死で駆け抜けていく輝たち。
「確か、格納庫は……こっちだ!」
フォッカーが誘導した通り、大きな格納庫に一行は入り込んだ。
「あった! 俺のバルキリー!」
「ミンメイ! こっちにいらっしゃい」
ミュンが、輝の方に駆け出そうとするミンメイを捕まえ、小型艇へと引っ張った。
「仕方ないか。早瀬大尉、こっちです!」
「仕方ないって何よ! ……確かに仕方ないわね!」
輝が、先ほどまでミンメイが座っていた座席に未沙を押し込み、コクピットを閉めたその時。
「待て! 逃がさねぇぜ」
カムジンのグラージが、格納庫の奥から飛び出してきた。その隣には、ミリアのグラージもいる。
はっと気づいた輝が、機体をガウォーク形態に変形しかけた瞬間。
委細構わず、カムジンが発砲した。威嚇射撃であり、ギリギリでバルキリーを外している。
しかし、やはり無茶な砲撃であった。格納庫の壁が吹き飛び、気圧の急激な変化で、輝のバルキリーが一気に外に吸い出された。
『きゃあぁぁぁぁぁっ!!』
未沙の悲鳴が、フォッカー機の通信機にこだました。
まだ艦外にいたマックスは、バルキリーが艦から吐き出されるのを見た。コントロールを失っているのは、傍目からも明らかだった。
「先輩っ!!」
マックスが、その後を追いかけてようとした時。
艦からグラージが飛び出してきた。やはり、輝のバルキリーを追いかけようとしている。
「邪魔をしないでくれ!」
「邪魔をするな!」
マックスとミリアが同時に叫んだ。マックスは機体をバトロイド形態に変形させ、ミリアに牽制の射撃を浴びせながらも、なおも輝を追おうとする。
「……面白い。久々に、骨のありそうなヤツと戦えそうだ」
ミリアは不敵な笑みを浮かべ、マックスに砲撃しつつ移動していく。
フォッカーは、輝とマックスの機体が、どちらも急速に艦から離れていくのを、レーダー画面で見て取っていた。
「輝! マックス! 何てこった。待っていろすぐ行く!」
『追うな、フォッカー少佐!』
イサムの怒鳴り声が響いてきた。
今、輝の機体が吸い出された穴から、イサムがYF-19をバトロイド形態に変形させて入り込んできていた。
『ミュンと、ミンメイを無事に届けるのが先決だろう!?』
「……!」
『イサムの言うとおりです。一条中尉は、マクシミリアン少尉に任せるんです。二人とも腕利きのパイロットだ。そう簡単にはやられはしない!』
フォッカーも、後輩たちの説得に、折れざるを得なかった。
カムジンを二人で牽制するイサムとガルドを尻目に、断腸の思いで、フォッカーはエンジンの出力をあげた。ミュンの操る小型艇も、脱出の準備をする。
艦から飛び出そうとした時。
ブラックモンスターが、出口のすぐ側に見えて、フォッカーはぎょっとした。
「必殺! Vの字斬りぃぃぃっ!!」
ボルテスVの必殺技が、ブラックモンスターを大きく切り裂いた。
すかさず、ボルテスVはブラックモンスターを蹴りつけ、出口の側から払いのける。出口から離れたところで、爆発の閃光があがるのが、フォッカーにも見えた。
「フォッカー少佐ですね!? 小型艇は、俺たちが守ります」
「そういえば、お前らは何者だ?」
「俺は剛健一。これはボルテスVです! ロンド・ベルに参加するために宇宙に来て、これが初仕事です。それより、他の仲間の救出を急いでください!」
「すまん……!」
だが、ゼントラーディを振り切るのに時間を費やしてしまい、フォッカーの捜索は空振りに終わってしまった。
「やあ。やってきたね」
マクロス副艦長・マックスは、その妻であるマクロス市長・ミリアと並んで座り、レストランの個室の扉を開けたミレーヌに手を挙げた。
「パパもママも、先に来てたんだ。二人共忙しいのに、よく間に合ったよね」
「たまの娘との会食よ。少しくらい、無理はするわ」
ミリアは、五十に手が届く齢とは見えない、美しい微笑みを見せた。傍らのマックスも、それ以上の齢のはずだが、実に若々しい容姿を保っている。
三人が揃ったところで、料理が次々に運ばれてきた。テーブルが埋め尽くされたところで、挨拶に来た支配人はおろか、給仕ですら部屋から出て行った。公的な話でも遠慮なくできるようにと、あえて席を外す、店側の配慮だった。
三人は、料理に舌鼓を打ちながら、互いの近況を喋っていた。
「……でさ、ミンメイさん、本っ当に元気ないのよ。カメラ回ってると何とか普通にパフォーマンスやってるけど、終わったらほとんど口を利かないし」
「まあ、心配なんだろうね、一条中尉のことが」
「ネット上じゃ『ミンメイも一条中尉も自業自得』とか叩いてるし! 頭きちゃう!」
「僕も公式には、立場上あんまり庇えないからね。悪く思わないでくれよ」
「分かってる!」
ミレーヌは苛立たしそうに、鳥の揚げ物に箸を突き刺した。
「パパ。一条中尉と早瀬大尉の行方は、分からないの?」
「捜索隊は出してるけど、ゼントラーディの勢力圏の空域だからね。思うに任せないで、担当のフォッカー少佐も傍目に分かるくらい焦ってるよ」
「自分のかわいがってる後輩だから、なおのことでしょうね。その時の事件で、同じ小隊のマクシミリンアン少尉も、敵機と交戦して行方不明になってるみたいだし、ね」
ミリアはグラスのワインを傾けながら、意味ありげな視線を夫に向けた。
「あぁそうだよね。ま、その敵機がよほど手強かったか、気に入られたかしたんじゃないかな?」
「よく言うわね、まったく」
「……何で二人とも、へらへら笑いながら話してるの? 行方不明者が出てるのよ」
ミレーヌは、むっとした表情を見せた。
「パパにとっては、甥っ子だか何だかの、同じ一族の人なんでしょ!? 顔合わせした時には、ずいぶん気にかけてたのに、どういうことなのよ」
「そうだな……。そろそろ、ミレーヌに教えてもいい頃だろうな」
マックスは、傍らのミリアに目配せした。ミリアも頷く。
「実はね、ミレーヌ。あのマクシミリアン少尉は、僕の甥でもなければ、親族でもないのさ。あの時は、そう言わないわけにはいかなくてね」
「え!? じゃ、じゃあ、パパは何で、あの少尉さんを気にしてたの? 年齢は離れてたけど、名前が同じだったし」
「同じなのは、年齢だけじゃない」
マックスは、厳かに述べた。
「実はね、あのマクシミリアン少尉は、僕自身なのさ。三十年前の、ね」
「……え!?」
「そう。そして、マクシミリアン少尉と戦っていた敵機に乗り込んでいたのは、この私。三十年前の私は、ゼントラーディの兵士だったから」
「え? え!? どういうこと? 話が全く分からないんだけど」
両親の告白に、ミレーヌは目を白黒させるだけ。もうすでに、鳥肉の刺さったままの箸は取り落としていた。
「マクシミリアン少尉、つまりこの僕と、ゼントラーディのミリア空士長は、あの宙域のすぐ傍にあったワームホールに飛び込む羽目になって、三十年前にタイムスリップしたんだよ。ワームホールを逆に戻ろうとしたけど、機体の損傷もあって、結局できなかった。それが、今回の行方不明の真相さ。もちろん、僕たちは彼らの運命は知っているし、あえてそれを食い止めるつもりもなかった」
「やむをえないことよ。止めてしまえば、あなたも、あなたの姉妹も、誰一人この世に生まれてこない可能性があったのだから」
もはや、ミレーヌは目を見開いたまま固まっている。
「……ってことは。え!? ママってゼントラーディなの!? あたしもゼントラーディの血を引いてるの!? だけど別に巨人じゃないんだけど!?」
「マイクローン装置というものがあるのよ。私は、地球の先住人類プロトカルチャーが遺跡に残したマイクローン装置で、地球人と同じサイズになって、この人と結婚した」
「どうやら、地球人とゼントラーディは、プロトカルチャーを先祖とした、いわば親戚関係にある種族らしいんだ。だから、僕とミリアは君たちを生み育てることができた」
「……はぁ……あの、それって姉さんたちは」
「君を除いて、全員知ってるよ。真実を理解して飲み込める年齢になってから、一人ずつ教えたから。末っ子の君が最後になっただけさ」
「いいこと? ミレーヌ」
ミリアは、娘をじっと見つめた。
「人類とゼントラーディは、必ず和解できる。私たちがその証。だけど、一足飛びというわけにはいかない。時期が来るまでは、今の話は家族以外にはしてはいけない」
「幸い、僕はこのマクロスの副艦長となり、ミリアはマクロスの市長となれた。必ず、二つの種族を和解させる方向に持っていく」
両親の、かつてないほどの真剣な表情に、ミレーヌは圧倒されていた。
「ただでさえ、地球は内にも外にも敵を抱えているんだ。ゼントラーディくらい、味方につけなければ、地球圏の平和なんて夢のまた夢だ。僕はここまでの大きな歴史の流れは知っていたけど、ここからの地球の行く末は分からないし、運命は自ら切り開いていくしかない。君にも、協力してもらうことがあるかもしれない。腹づもりはしておいてくれ」
父親の言葉に、ミレーヌは呆然としながらも、ただ頷くしかなかった。