スーパーロボット大戦3F ~マクロス・コンサート~ 作:デスフロイ
観覧式核攻撃が行われた、ちょうどその頃。
一隻の輸送船が、月面都市ギガノス・シティから脱出しようとしていた。
「無茶よ! あなたたち、ドラグナーを操縦なんて、したことないでしょう!?」
「他に方法があるかよ。黙って見てろ!」
リンダの制止も聞かず、ケーンはスロットルを開いた。
三機のメタルアーマーが、輸送船から飛び出していく。
メタルアーマーは、ギガノス・シティにおいて作り出された、作業機械を発展させた人型兵器である。モビルスーツとの差別化を図るべく、独自の名称がつけられているが、現状では月のみで製造・使用されるマイナーな規格とされている。
「タップ! ライト! いけそうか!?」
「ああ、何とかな!」
「基本は研修で習ったものと同じだ。まさか、戦いまでするとは思わなかったがな」
ケーンのD-1が先頭。タップのD-2が続き、ライトのD-3が最後のポジション。
三機は、輸送船を追ってきたメタルアーマーの小隊を迎え撃った。
追っ手の弾丸が、次々と三機の側を通過していく。
「ケーン! このままだと、輸送船に流れ弾が!」
「分かってらあ。今度はこっちから行くぜ。二人とも援護してくれ!」
D-1が、後退速度を少し緩めた。追っ手との距離が、縮まっていく。
「クララちゃんよ、接近戦の武器とかないのか!?」
「迫兵戦用アサルトナイフ、およびレーザーソードがあります。どちらを使用しますか?」
「ナイフでいくぜ!」
クララ、とはD-1に搭載されたAIの名称である。会話形式でのアクセスが可能なため、初めてD-1に乗り込むケーンでも、容易にD-1の細かい操縦方法を知ることができた。
D-1が、ナイフを抜き出した。支援用のD-2、索敵用のD-3が背後から援護射撃する。
目前の相手が、レールガンを捨ててレーザーソードを抜き出そうとしたが、素早くD-1が懐に入り込んでいた。
ナイフが一閃。メタルアーマー・ゲバイの首筋が切り裂かれる。D-1がすぐさま飛び退くと、D-3の砲撃がとどめを刺した。
他のゲバイが、慌てるようにD-1を銃口で追う隙に、D-2がその姿を撃ち抜く。動きの止まった相手にD-1が近づき、脇の間接の隙間にナイフを突き立てた。
「新型相手とはいえ、何と不甲斐ない! それでもギガノスの将兵か。私が行く!」
前に出てきた、そのメタルアーマー・ファルゲンは、青く塗られていた。
愛機の色から【ギガノスの蒼き鷹】と呼ばれている男。マイヨ=プラートが、その中にいた。
明らかに、他の機体とは動きがシャープだ。
「ケーン、こいつは他の奴らとは違う!」
「言われなくても!」
ケーンは、臆せずD-1をファルゲンに近づけた。
手にしたナイフがファルゲンを襲うが、これをマイヨは当たり前のように回避する。
「悪くない腕だ。貴様、どこの部隊出身だ?」
「部隊!? このケーン様は、そんなご大層なモンには所属してねえ! ただの学生だ!」
「何!?」
マイヨは眉を寄せたが、すぐに平静な表情に戻った。
「ならば、義理立てする組織もあるまい。速やかに投降し、ドラグナーを三機とも引き渡せ。そうすれば、命までは取らん」
「ふざけるな! 俺は、あの娘に約束したんだ。ギガノスから逃がしてやるってな!」
「リンダのことか。あれは、私の妹だ」
「何だと!? どういうことだ」
「我が家族と、この月の命運に関わることだ。学生ごときが口出しをするな」
「ケーン=ワカバだ! 名前くらい覚えとけ!!」
ナイフを断念したケーンが、レールガンを構えようとした。
が、ファルゲンは間合いを詰め、レールガンに斬りつける。砲身が半ば切り落とされた。
さらに後退すると、今度はファルゲンが肩口からミサイルを発射。D-2、D-3ともに命中。大破こそしないものの、援護の手が止まった。
「覚えておこう。それほどまでに、墓標に書いてもらいたいならば」
マイヨの目が光り、ファルゲンがD-1に詰め寄ろうとした。
小さく唸るケーン。
が。
次の瞬間、上空からレーザーが一筋。ファルゲンの肩口に命中した。
「!?」
上を見上げたケーンとマイヨ。
そこには、細いフォルムの蒼い機体がいた。明らかに、メタルアーマーのものとは違う。
「何者だ、貴様!」
「僕の名はエイジ。これは、SPTレイズナーだ」
「SPT……?」
「あなたこそ何をしているんだ。見たところ、武装もない輸送船を襲っているようにしか見えないが」
「貴様には関係のないことだ! 手出しするなら、蹴散らすまで!」
「……どうして、地球人同士で、戦わなければならないのか。仕方ない」
ファルゲンとレイズナー、共に蒼い機体が、空中で向かい合った。
ファルゲンのレールガンを、流れるような動きで回避するレイズナー。
反撃のレーザーを、ファルゲンは複雑な挙動でくぐり抜けた。そのまま、レーザーソードでレイズナーに斬りつける。
かわしたレイズナーの拳にスパークが走った。叩きつけられようとした拳を、ファルゲンが避けた。
その背中を、飛来したD-1が蹴りつけた。衝撃で呻くマイヨ。
「おい!! 俺を無視してるんじゃねえ!」
「この……!」
蹴りつけるくらいなら、ナイフなりで斬りつけることもできたはず。注意を引くための、あえての蹴りに、マイヨはいささかプライドを刺激された。
レイズナーを押しのけるように、D-1がその前に躍り出た。
「こいつは俺がやる! お前は手を出すな!」
「そんなことを言っていていいのか? あの輸送船を守らないといけないんだろう?」
「くそ……!」
冷静な指摘が悔しかったが、実のところ、慣れていないD-1でファルゲンを倒せる気は、ケーンにはしなかった。
「ここは退いてもらいたい。僕ら二人を、同時に相手をして勝てるなら話は別だが」
マイヨは、自分についてきていた他の小隊機が、いつの間にか残り二機まで減っているのに気がついた。その二機はD-2、D-3と戦っているが、いかにも分が悪い。
このまま手こずれば、四機がかりの攻撃を受けるのは確実だった。
「……大事の前の一事だ、やむをえん。ドラグナーは、ひとまず貴様たちに預けておく」
ファルゲンは身を翻すと、元来た方向へと飛び去っていった。生き残りの二機もそれに続く。
D-1とレイズナーは、飛行しながら並んだ。
「ちっと不本意だが、助けられちまったみたいだな。お前、何者なんだ?」
「僕の名は、アルバトロ=ナル=エイジ=アスカ。地球は、狙われている!」
ドラグナーを操る三人が、その台詞に一瞬押し黙った。
最初に言葉を発したのは、ライトであった。
「……どれだ?」
「え?」
「ベガ星か? ボアザン星か? キャンベラ星か? バーム星か? それとも暗黒ホラー軍団か?」
次々と出てくる名前に対して、エイジが言葉を絞り出すのにしばらくかかった。
「……今のは?」
「今、地球に侵略してきている、他の星系の宇宙人だ」
「……そんなにいるのか? 多すぎないか?」
「ちょっと待てよ」
今度はタップが口を挟んだ。
「ジオンとか、プラントとかのコロニー群だって地球連邦に刃向かってる。そいつらも地球侵略を狙ってるって言えなくもないぞ」
「それを言いだすなら、ミケーネや百鬼帝国のような地下組織もカウントしないといけなくなる」
「確かに多すぎるなぁ。うっかり幾つか忘れそうだぜ」
「……普通、忘れるか? 自分たちの星を侵略しに来てる勢力の名前を」
エイジが、呆れ返った声音で言った。
「言われるとそうだな。ワームホールが地球圏にやたらと増えて、外宇宙とか異世界とつながるようになったからな。いろいろな思惑を持った連中が集まってくる」
「そんなことはどうでもいいんだよ!」
「どうでもいいのか……?」
ケーンの横やりに、エイジはまだ納得がいかない様子だ。
「俺が聞きたいのは、お前が何者で、何で俺たちを助けたのかってことだ!」
「そうだな。本題に戻ろう」
エイジは、気を取り直した。
「僕の仲間は、火星から避難してきた輸送船に乗っているんだ。彼らは生粋の地球人で、しかも民間人だ。彼らをこの月で引き取ってもらおうと、まず僕が様子見にやってきたんだ。君たちがその輸送船を守ってるのを見て、人事とは思えなくて」
「何だ、そっちも避難してんのかよ」
「待った!」
三人の中では知恵袋的存在のライトが、エイジの言葉の違和感に気づいた。
「今、『生粋の地球人』って言ったな? ということは」
「そうだ。僕はグラドス星の出身だ。僕自身は、グラドス星と地球人の間に生まれた。このレイズナーも、グラドス製の機動兵器SPTだ」
「グラドス星人……そのハーフということか……」
ライトが、まじまじとレイズナーを見つめる。
「まさか、今度はそのグラドスとかが、地球に攻めてくるってんじゃないだろうな?」
「実はそうなんだ」
「……何だって!? また侵略者が増えるのかよ!」
驚くタップを余所に、ライトはじっと考えた。
「どうやら、もう少し話を聞いた方がよさそうだな。エイジ、君が守ってる輸送船に案内してくれないか? そこにいる彼らからも、話を聞きたい」
「ぜひそうしてくれ。僕の方の輸送船は、月の上空で待機している」
二隻の輸送船は、ギガノスとは反対側にある、フォンブラウン・シティ間近の月面の影に身を寄せていた。
ケーンたちの輸送船を訪れたのは、エイジの他に、若い四人の男女だった。
「つまり、あなたたちは体験学習先の火星で、グラドス軍のSPTに襲撃されたのね? そこを、このエイジ君が助けたと」
リンダが、四人の話をまとめていた。
「あの……! 私たち全員、エイジを信頼しています。彼がいなかったら、私たちはとうに捕まっていたか、殺されていたと思います」
アンナと名乗った、黒髪の少女が、身を乗り出すようにそう述べた。
「だけど、まさか月まで厄介事に出くわすとは思わなかったぜ。グラドス軍や、他の軍勢に発見されないように、息を殺しながらここまで来たってのによ。その間に、えらく情勢が変わっちまってるみたいだな」
うんざりしたように頭を掻くデビッドという青年に、ライトが尋ねた。
「何で月まで? 他にもソロモンとか、連邦の軍事基地もあっただろう」
「行けるわけねえだろ、軍事基地なんか。エイジが信用される保証はねえし、何されるか分からねえしな。フォンブラウンとかギガノスなら、普通の都市だから、まだ話しやすいかと思ったんだが」
「特にソロモンはダメよ。あそこは、ティターンズの拠点でしょう?」
シモーヌ、と名乗る娘がそう言った。
「私たちだって知ってるわ。ティターンズは連邦軍の特殊部隊で、地球至上主義で宇宙移民を抑圧してる。そんなところに、グラドス人とのハーフのエイジを連れて行ったら、ろくなことにならないのは分かり切ってるわ」
「そうでしょうね。私もそう思う」
リンダも頷いた。
「だけど、この月は危険よ。ギガノスは……地球連邦に対して、反乱を起こそうとしている。一番初めに標的になるのは、フォンブラウン。月の統一を図るためにね」
「何だって!?」
エイジが立ち上がった。
「今は、地球人同士で争っている場合じゃないだろう!? いずれは、確実にグラドスが攻めてくるんだぞ」
「ギガノス防衛軍司令官のギルトールは、地球連邦を見限ってるわ。ジオン公国とつながりを持って、ギガノスを独立させるつもりなのよ」
「……何で君は、それを知っているんだ?」
「私の父、ラング=プラートは、ギルトールの親友で、ドラグナーを開発した科学者だった。だけど父は、ギルトールの挙兵に反対して、私にドラグナーを託したの。だけど……兄は、ギルトールに心酔してるから、それが許せなかったのよ」
そう言うリンダに、ケーンが尋ねた。
「あのな……マイヨが、あんたのことを妹だって言ってたけど」
「そうよ。私の兄の名は、マイヨ=プラート。ギガノス軍のパイロットよ」
「それじゃ……俺は、君の兄貴と」
「それは気にしないで。私は、あんな兄は見たくない。いっそ撃ち落とされてくれれば、と、ちらりと思ったわ」
沈んだリンダの目に、ケーンはかける言葉が見つからなかった。
「お互い、厄介な事情を抱えてやがるな。余計に、うかつな所に救助を頼めねえぞ」
「こんな時に、ロアンが知恵を……あ」
「シモーヌ! あいつの話はよせ」
険しい表情を見せるデビッドに、ライトが尋ねた。
「そのロアンとかいうのは?」
「……元は、俺たちの仲間だった奴なんだが。あいつは地球を裏切って、グラドスにつきやがった……!」
「で、でもさ」
気弱そうな青年が、口を挟んできた。
「本当に、心からグラドスの手先になったのかなあ……? ロアンのことだから、何か考えがある、んじゃないか?」
「アーサー、お前は人が良すぎるんだよ! あいつのせいで、危うく捕まりそうになったのを忘れたのか!?」
「デビッド。そのことばかり言っても仕方ない。話を戻そう」
エイジが制止した。
「僕たちは、何ヶ月も身を隠しながらやってきたから、情勢がよく分からない。何かいい知恵はないだろうか?」
「知恵といえば、こっちのライトだぜ! なあ?」
「こういう時だけ頼られてもな」
タップにおだてられつつ、ライトはじっと考えた。
「……マクロスはどうだろうか?」
「マクロス!? あの、リン=ミンメイの」
アンナが目を見開いた。
「マクロスは元々、冥王星から避難民を地球まで送り届けた実績がある。それに、グローバル艦長は重厚で公平な人柄だというし、話くらいは聞いてもらえるかもしれない」
「ロンド・ベルとかいう、独立部隊を立ち上げたって聞くぜ?」
タップが口を添える。
「そのこともある。独立部隊だから、割と大きな裁量権がある。話の持っていきようで、道が開けるかもしれないな」
「……ちょっと待って! 臨時ニュースが」
リンダが、モニターを切り替えた。
『……連邦軍が開催した観覧式への核攻撃は、ジオン軍によるものと思われます。多数の艦船が大破し、被害状況の全容は、未だに判明しておりません……』
その場の全員が息を飲んで、ニュースを聞き入っていた。