スーパーロボット大戦3F ~マクロス・コンサート~ 作:デスフロイ
輝は一人で、月面都市フォンブラウンにある、宇宙ドックの格納庫へと、足を進めていた。バルキリーの修理が完了したと聞かされ、確認に向かっていたのだ。
幾つもの機体が並んでいる中に、白いモビルスーツが据えられているのを見つけた。
「あ、あれがガンダムか……見るのは初めてだな」
だが、ガンダムが核攻撃で数多くの連邦戦艦を、作戦名同様に星の屑に変えてしまっていることを思うと、輝も沈鬱な気持ちについ襲われる。
さらにそちらに足を進めていくと。
若い士官が、二人の女性と何やら話しているのが聞こえてきた。
「……分かってないわねぇ。この機能的なフォルムが美しいんじゃない」
「趣味がよくないわね、ルセット。だからあなたは、デートには誘われるけど長続きしないのよ」
「おあいにく。今の彼氏とは続いてます!」
「あのールセットさんもニナも、今はそういう話じゃ」
若い士官が口を挟むと、二人の美女が彼に向き直った。
「ウラキ少尉はどう思います? GP-01とこのGP-03、どちらがカッコいいか」
「あら、コウに答えさせたら、答えは決まってるじゃない?」
「そうよね。ウラキ少尉だって、GP-03に乗りたくて仕方ないでしょうし」
「そ、そんなこと言われても……」
そのシチュエーションに、なぜか人事とは思えず、輝は助け船を出すことにした。
「やあ! 北米からロンド・ベルに来たっていうガンダムのパイロットか? 俺は一条輝、ロンド・ベルのメンバーだ」
弾かれるように、その士官が満面の笑みで、輝の方を振り返った。
「あー! あなたが一条中尉ですね!? コウ=ウラキ少尉です。大変だったですね!」
「輝でいいよ。ロンド・ベルは階級は関係ないから。俺、今回のことでみんなに迷惑かけちゃって」
「いや、みんなすごく喜んでるから! 俺もとても嬉しい。よく来てくれた、じゃなくてよく戻ってきてくれた!」
「もしよかったら、ナデシコの護衛部隊や獣戦機隊にも紹介するから来ないか? 彼らもロンド・ベルに参加するらしいし」
「ぜひ! これから一緒に戦う仲間だものな。絶対挨拶しとかないと。いや~忙しいな。それじゃ二人とも、悪いけど俺はこれで」
いそいそと、輝についていくコウの背中を、じっと見据えるニナとルセット。
「……いつもなら機体の方に釘付けなのに、えらく調子いいわね」
「……あの会話、合コンに来る男どもによくありがちな雰囲気だわ」
廊下を歩きながら輝は、ほっとした様子のコウに話しかけた。
「真面目な話に戻すけど、マクロスもここまで来てるのか?」
「いや。さっきのGP-03の受領のために、俺とニナの二人が来てるだけで。マクロスは別の作戦行動に入ってる」
「そうか……」
「ロンド・ベルのメンバーが喜んでるのは、嘘じゃない。フォッカー少佐も、涙目になってたし」
「先輩が?」
輝が振り返ると、コウの表情は、思いつめたそれに変わりつつあった。
「あの……観覧式での戦闘で、俺はあの人に助けられたんだ。少佐が他の敵を引き受けてくれたおかげで、俺はガトーとの戦いに集中できた。俺の腕が足りなくて、相打ちがやっとだったけど」
「ガトー? ジオンのアナベル=ガトーか。核攻撃をやった張本人とかいう」
「俺たちが現場に着いた時には、もう核が使われた直後だった。あの男は北米で、俺の目の前でGP-02を奪っていったんだ。俺は、ガトーと戦うために、宇宙にあがってきた」
コウが歯をきしらせる音が、微かに響いた。
「ガトーとジオンが、観覧式の襲撃だけで終わらせはしないだろうという話だ。だから俺は、GP-03に乗って、今度こそガトーと決着をつける!」
「そうか……みんなそれぞれ事情を抱えて戦ってるんだな。俺も、その時には力を貸すよ」
「すまない……」
二人が歩いていく先に、早足で近づいてきたのは未沙だった。
「二人とも、急いでブリーフィングルームまで来て。プラントが動いたわ。ジオンの作戦とつながってる可能性があるの」
「何だって!? やつら、一体何を」
「それが……とにかく動いて! アナハイムのスタッフも呼んでくるわ」
未沙は、さっきまで輝とコウが歩いてきた廊下を、逆に走り出した。
ブリーフィングルームの一番奥には、タイラーが座っていた。テーブルを囲んで、輝や未沙たちだけでなく、ナデシコ艦長のユリカや他のパイロットたちもいる。
全員を見回して、タイラーが話し始めた。
「隣り合う二つの廃コロニーが月の近くにあるんだけど、そこにプラントのモビルスーツが現れたらしいんだ。だけど、その行動が妙なんだ」
「というと?」
未沙が尋ねる。
「コロニーには巨大なミラーが二枚ある。コロニーのミラーを片側だけ破壊して、放ったらかしで去っていったんだ。どちらのコロニーにも同じことをしてる。これは何を意味してるんだろう?」
「……もしかして!」
ニナが声を上げた。
「コロニーは、ミラー二枚があることを前提にして、常に回転運動をして、内部に重力を発生させています。ミラーが一枚破壊されれば、回転軸がずれます。遠心力でコロニーの回転軸は、螺旋をを描くように動いていきます」
「……そういうことか!」
頭脳明晰な万丈は、理解できた。
「軸がずれれば、コロニー自体が螺旋を描く動きを始める。最初はわずかな動きだろうが、徐々にブレが大きくなっていく。隣り合った二基のコロニーで、その現象が起きるから……」
「そうです。いずれは、二基のコロニーは衝突し、互いを弾きあいます」
「そうするとどうなる?」
タイラーが尋ねた。
「少なくともコロニーの一基は、月の重力に引かれて落下……月へのコロニー落としです!」
「何だって!? ここにコロニーを落としやがるってか!」
忍が立ち上がった。
「フォンブラウン・シティかギガノス・シティ、どちらの月面都市に落ちても大惨事は必至よ」
ルセットも青ざめていた。
「冗談じゃねえ! コロニーを止めるんだ」
「無茶言うな! コロニーの回転なんて止められないし、一度落ち始めたら、月の阻止限界点はすぐに超える」
「総攻撃でコロニーを破壊するとかさ」
「コロニーの大質量が相手では、僕たちだけでは不可能だ。この場にいる全員でかかっても、落下までにとても間に合わない」
ガイと雅人の言葉に、亮とデュークが反論していると。
「……なんかおかしいな?」
「……え? 何がさ」
タイラーの台詞に、沙羅が聞き返した。
「星の屑は、今のジオンが全力で実行する作戦だよ? 月へのコロニー落としが狙いってのは、スケールが小さすぎるよ」
「じゃ、大佐は何が狙いだっていうんですか?」
ユリカがさらに問いかけるが、タイラーはじっと時計を見つめて返事をしない。
「……まだ間に合うな。マクロスに打電してくれ。月へ急行してはいけない。行ってほしい場所は……ルリちゃんに計算してもらうか。ブリッジのルリちゃん、聞こえますか~?」
『テレビのロケハンごっこをしている暇はありません。こちらも緊急報告があります』
無表情に、ナデシコのオペレーターのホシノ=ルリがモニターに現れた。
『ギガノス・シティが挙兵、ギガノス帝国の樹立を宣言しました。ギガノス製のメタルアーマーが多数、このフォンブラウンに侵攻しています』
「!」
その場の全員が、絶句した。
「な、何で、よりにもよってこんな時に……」
「いや。こんな時だから、だと思うな」
未沙の台詞を、平静な声でタイラーは封じた。
「敵の真の狙いが、分かりかけてきたぞ。全員出撃! ギガノスを振り切って月を抜け出す!」
「コロニーが、この月に落ちてくる……予定通りだ」
ファルゲンは、月の上空に、ただ一機浮かんでいた。その中でマイヨは、そう呟きながらモニターの画面を眺めていた。
「GXビットとの接続も、どうにかできているな。ジャンクの機体と有線で無理矢理つないでいるから、作動するか心配だったが」
マイヨは、モニターを切り替えて、状況を確認していた。
「……よし! コロニーが、予定の高度まで落ちてきた。連邦の戦艦どもも寄り始めたか。そろそろやるか」
『Satellite Canon STAND-BY』
モニター上の文字を読みとったマイヨは、端正な顔に、獰猛な笑みを浮かべた。
「地上の愚か者どもめ、これはギガノスの怒りの矢でもあるのだ!! サテライトキャノン、発射!」
マイヨは、いつもより力を込めて、トリガーを絞り込んだ。
次の瞬間。
GXビットが背後に展開していた、縦横二本のリフレクターに、月面からのスーパーマイクロウェーブが収束した。そのエネルギーが、ファルゲンがGXビットの代わりに構えているビームキャノンに集約される。
通常兵器としてはありえないほどのビームが、落下していくコロニーの推進剤の点火口に直撃した。
コロニーの移送用のブースターが激しく炎をあげた。徐々に速度を上げて、巨大なコロニーが月から遠ざかっていく。
「……地球に方向を変えたか。もうこれは必要ないな」
ファルゲンの腕が、GXビットと自らをつないでいたケーブルを引きちぎった。そこから腕を放すと、GXビットはビームキャノンと共に、ゆっくりと月面へと落下していった。
その時。
マイヨはモニター上に、六機の反応を確認した。
切り替えられたモニターに映し出されたのは、三機のメタルアーマーと、三機のSPT。さらに後方には、二隻の輸送船がついてきている。
「ケーン=ワカバとか言ったな。それに、あの蒼い機体。ノコノコ出てきたか」
「てめえ! 一体コロニーに何をした!?」
「貴様が知る必要はない。あのまま月にコロニーが落ちた方がよかったのか?」
「どうせろくでもないことをしたんだろうが! 借りは返させてもらうぜ!」
レールガンを構えるD-1。
「まさか、コロニーを地球に落とすつもりか。許してはおけない!」
エイジも、レイズナーで戦闘態勢に入る。
その脇で、D-2とD-3、そしてデビッドのSPTベイブルと、シモーヌのSPTドールも身構えた。
「向こうは一人、こっちは六人だ。やれるか?」
「そうでもないぞ。見ろ!」
ライト搭乗のD-3は、索敵用に特化された機体だ。その高性能のレーダーが、敵機の襲来を感知していた。
現れたのは、十数機ほどのメタルアーマー。
「マイヨ大尉! やりましたね」
「ああ。しかも見ろ。奴らがあわてて飛び出してきた」
「ドラグナー! コロニー落としの副産物ですね」
数では圧倒的に不利な上に、マイヨまで加わっている状況に、ケーンも表情が険しくなる。
「ちくしょう! こうなったらやるしかねえか」
「輸送船には、アンナやリンダたちも乗り込んでいる。後ろに回りこまれるな!」
「言われなくても分かってらあ!」
「前方で戦闘中。片方はギガノス製メタルアーマー十機。もう片方はメタルアーマー三機と正体不明機三機、その後方に輸送船二隻です」
「放ってはおけないか。一気に片づけよう」
ルリからの報告に、タイラーは出撃命令を出した。
最初に飛び出したのは、箱型の戦闘用ユニットに、小さいガンダムをはめ込んだかのような、巨大なモビルアーマーと化したGP-03デンドロビウムだった。ナデシコの格納庫にも入りきらず、艦に係留されている形であるため、発進が容易だった。
「そこの六機! 俺たちはロンド・ベルだ。今助けに行く!」
コウの呼びかけに、ケーンはその目を鋭くした。
「マイヨは、この青い奴は俺がやる! 手出しすんなよ! こいつには借りがあるんだ」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろう!?」
「……分かった! 他の連中は任せろ。そいつと心おきなく戦え!」
コウの即答に、アキトはつい口を挟んだ。
「いいのか!? あの青いヤツの方が腕がよさそうだぞ」
「あいつは俺だ!! あいつの気持ちは痛いほど分かるんだ」
「……なんだか、こういうヤツが増えてきたな。ナデシコも」
GP-03は、反撃しようと身を翻してきたメタルアーマーに、お構いなしに距離を詰める。
敵の放つレールガンが巨大な戦闘用ユニットに命中するが、小揺るぎもしない。
箱型のユニットの一部が、前方に発射された。
それは、メタルアーマーの集団の真ん中に飛来すると、夥しい数のマイクロミサイルを吐き出し始めた。次々と着弾し、損傷していくメタルアーマー。
そこに、ナデシコから発進してきた各機が襲い掛かった。切り裂かれるもの、撃ち抜かれるもの、マイクロミサイルで損傷したメタルアーマーはひとたまりもない。
瞬く間に、ファルゲンを除く全てのギガノスの機体が破壊された。
「すげえ……ギガノス軍が、ひとたまりもないじゃん」
タップが、半ば唖然としていた。
マイヨは、D-1相手に優勢に戦っていたが、味方が全滅させられたのに気づくと、
「やむをえん! 目的は達した。貴様と遊んでいる暇はなさそうだ」
「あっ! 待て!」
「ケーン! 輸送船を放っておく気か!?」
「く……!」
ケーンは無念そうに、追撃を諦めた。
「残念だったな。次で、勝負を決めればいい」
「そこのあんた、すまなかったな。俺はケーン=ワカバ。あんたは?」
「コウ=ウラキだ。俺も、決着をつけなきゃならない相手がいるんだ」
「そいつとやり合う時には、俺が手助けするぜ。借りは返さないとな」
アキトが、会話に割って入った。
「その機体って、メタルアーマーだろ? ギガノスの軍勢とは違うのか?」
「一緒にするな! 俺たちは、ギガノスの奴らから逃げ出してきたんだよ! その時に、このドラグナーをかっぱらってきたんだ」
「身も蓋もない言い方するなよ……」
ライトが、頭を抱える。
「まあいいや。それで、そっちの三機は?」
「これは、グラドス星の機動兵器SPTです。僕は、グラドス人と地球人のハーフのアルバトロ=ナル=エイジ=アスカです。グラドスの地球侵略を、知らせに来ました」
「な、何だって!? また新顔の侵略軍か!」
「やっぱり、こういうリアクションされるのかよ……」
デビッドが、頭を抱える。
「はあ……あと、後ろの輸送船は?」
「僕と同行していた、火星から逃げてきた地球人の避難民と、ギガノスからの避難民が乗っています。ギガノスの追跡をかわすために隠れていましたが、コロニーが落ちると思って抜け出してきました」
そこに、会話に横やりが入った。
「だったら、輸送船の民間人は、僕たちがマクロスに連れて行こう。少なくとも今の月よりは安全だよ」
「ありがとうございます。あなたは?」
「お前ら、【無責任参謀】のタイラー大佐って知ってるか?」
忍がそう言うと、ライトが口笛を吹いた。
「知ってるも何も! 俺、結構ファンなんですよ。会えて光栄です」
「そりゃありがとう。どう? 君たちもロンド・ベルに参加しない? ちょうど、あのコロニーを止めようと思ってたんだ。手伝ってほしいな」
「行くぜ! マイヨの野郎に一泡吹かせてやる」
「タイラー大佐の指揮で戦うのも悪くないな」
「どうせマクロスに行くんだ。受け入れてもらわなきゃいけないし、手付け金代わりに働くか!」
ドラグナーの三人が、口々に言った。
「あの、僕たちは」
「ちょっと聞いてくれ!」
エイジが話し出そうとした時、ケーンが割って入った。
「俺は、このエイジに助けられたんだ。こいつと一緒にやってきた連中も、エイジが守ってくれたから生き延びたって言ってる。エイジを信じてやってくれ! 頼む……」
「ケーン……!」
感極まった風情のエイジ。
「分かってる分かってる! わざわざ、そのグラドスの侵略を知らせてくれるってことは、地球の味方をしてくれるんだろう? だったら、まとめて面倒みよう。言いたかないけど、面倒みよう!」
あっさり言い切るタイラーに、却って唖然とするエイジ。
「……ありがたいですけど、いいんですか?」
「タイラー大佐は、器の大きい人だからな」
グレンダイザーから、デュークがそう語った。
「僕もフリード星の出身だが、タイラー大佐のおかげでここにいる。一緒に地球を守って戦おう。僕はデューク=フリードだ」
「そうでしたか! よろしくお願いします、デュークさん」
エイジが、ようやくほっとした表情を浮かべた。