スーパーロボット大戦3F ~マクロス・コンサート~   作:デスフロイ

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第6話 コロニー落としを破れ!

「コロニーの落ちる方向が、地球に変わりましたな。ギガノスはやりおおせたと見える」

「コロニーは連邦の傲慢を貫く矢と化して、ジャブローを穿つ……」

 

 静かに語るデラーズ。

 それを、口元に笑みを浮かべながら眺めていたのは、シャピロ=キーツであった。

 二人がいたのは、ジオンの基艦であった。その近くには、アナベル=ガトーを初めとするデラーズ直属部隊中心のジオン軍、そしてザフト軍や、ベガ星人を加えたミケーネ連合もその空域にいた。

 

「連邦軍の大半は、月に引き寄せられたあげくに方向を変えねばならない。推進剤を使い果たして、阻止に向かえるのは少数の艦のみ」

「それも、ジオンの勇士たちと同盟軍に押さえ込まれて動きがとれまい。星の屑は、もはや成ったも同然」

「そう……ですが、予想外の事態は起こるものです」

 

 カシャ……

 デラーズの後頭部に、シャピロは拳銃を突きつけていた。

 

「何の真似だ? シャピロ」

「あなたには、人質になっていただく。そのジオンや同盟軍に勝手な行動をさせないためにね」

「何のためにだ? コロニーが地球に落ちる事実を変えられるとでも?」

「変えられるのですよ。手はずは整っています」

 

 シャピロが視線を向けた先は、コロニーの落下方向。

 そちらでは、少しずつ、だが確実に、ミラーが数を増して展開されていた。コロニーの行く手を塞ぐように。

 かつて十三ヶ月戦争でも旧統合軍によって用いられた、凹レンズ状に並べたミラーで太陽光を集中させて、超高熱で標的を焼き尽くすソーラシステムであった。

 

「連邦には、コロニーを防ぐ最後の切り札があったのだよ。さあ、ジオン全軍に停止を命じるのだ、デラーズ」

「……」

 

 戦艦ブリッジの異変に、いち早く気づいたのは、ノイエ・ジールに乗り込むガトーであった。

 

「閣下!? シャピロ、貴様正体を現したな!」

「そういうことだ。敬愛するデラーズの頭が撃ち抜かれる様など見たくはあるまい?」

 

 デラーズは表情一つ変えずに、宇宙を眺めていた。

 その一点を見たデラーズは、わずかに目を見開いた。

 

「あれは……マクロス!」

 

 そのブリッジでは、グローバル艦長が腕組みをして、コロニーを見据えていた。

 

「タイラー大佐の読みは当たっていたな。全速前進! コロニーを射程に入れるのだ!」

 

 シャピロも、デラーズの視線の先を見たが、軽く鼻を鳴らした。

 

「ふん……マクロス一隻で何ができる? 主砲を撃ち込んでもコロニー破壊はおろか、方向転換も充分にはできんぞ」

「よく見るがいい。戦艦ナデシコが反対側から飛び出してきた」

「!?」

 

 ナデシコのブリッジでは、ルリが報告していた。

 

「コロニー、射程内に入りました」

「間に合った~! グローバル艦長、マクロスは?」

『こちらも届く!』

 

 タイラーは、満面の笑みを浮かべた。

 

「マクロス主砲、コロニー前方! グラビティブラスト、コロニー後方! 同時に撃ち込め! ぶわ~っとぉ、いってみようか~ぁ!!」

 

 能天気ながら、いつもよりも気合いの伺える合図に、グローバルとユリカ、二人の艦長も呼応した。

 

「主砲、発射!!」

「グラビティブラスト、いっけーっ!!」

 

 マクロスから放たれたバスター・キャノンが、コロニーの前半分に命中。

 ほぼ同時に、反対側から放たれたナデシコの重力波が、コロニーの後ろ半分に命中した。

 地球圏屈指の攻撃力を持つ戦艦二隻の主砲。

 巨大なコロニーが、ゆらり、と傾き、先端の向きを少しずつ変えていった。

 その後方では、先ほど点火された推進剤が、なおも火を噴いていく。

 シャピロが、大きく目を見開いていた。

 

「……反対側から、両端を!?」

「一方だけでは大きく向きを変えるのは無理だが、二方向から同時に強力な力で弾けば、中心を軸に大きく回る。向きが大きく変われば、後はコロニーの推進剤がコースを変えてくれる。それだけの推進剤は充分ある」

(何だと……俺の策が、読まれたというのか!? そんな馬鹿な……)

 

 コロニーの行く手の変化は、ソーラシステムを指揮していたバスク=オムにも見て取れていた。

 

「ジャブロー直撃コースを外れただと……!? こ、これではソーラーシステムは意味がないではないか! シャピロの奴、しくじりおったか!」

 

 愕然としているシャピロに、デラーズは身を翻して襲いかかった。

 

「戦場で隙を見せたなシャピロ! 銃をよこせ!」

「は、離せ!」

「貴様の策は破れた! わしを宇宙の晒し者にしようとて、そうはいかん!」

「くっ、くそ……!」

 

 銃を奪おうとするデラーズと、そうはさせじと抵抗するシャピロ。

 その揉み合いの中で。

 一発の銃声が、鳴り響いた。

 デラーズが、血の吹き出す胸を押さえながら、一歩後ずさった。

 

「ぐ、ぐぅ……ジーク・ジオン……」

 

 倒れ込むデラーズに、シャピロは己の失敗を悟った。

 人質を、撃ち殺してしまったのだ。それも、激高を必死で押さえていたガトーの前で。

 

「うぉぉーっ!! シャピロ貴様ぁーっ!!」

 

 ノイエ・ジールの腕が、ブリッジに叩き込まれた。

 それより一瞬速く、危機を察したシャピロは奥へと逃げ出している。

 突如起こった、異様な出来事は、ザフト軍にも見て取れていた。

 

「自分の母艦を攻撃した!? ジオンに何が起きてるんだ?」

「さあな。そんなことは私にも分からん」

「そんな呑気な……!」

「アスラン=ザラ」

 

 クルーゼは、傍らの赤いガンダムに、平静な声で告げた。

 

「一つ言えることは、我らザフトとしては、この作戦を成功させねばならないとうことだ」

「し、しかしこのままじゃ!」

「そうだ。コロニーはジャブローに落ちず、作戦は失敗する。我々がなすべきことは、それを防ぐことだ。ジオンの内輪揉めなどに、構っている暇はない!」

 

 クルーゼのシグーが、コロニー目がけて飛翔した。アスランをはじめとする他のザフト軍も、ジオンの状況を無視して次々と動き出す。

 一方、ミケーネ連合は。

 

「反乱か!? この肝心な時に何をやっているのか。まあいい、あのナデシコとかいう戦艦とグレンダイザーを沈めてしまえ!」

「待て!」

 

 止めにかかったのは、ボアザン星人の司令官ハイネルだった。

 

「何を勝手に動こうとしている!? 作戦はどうなるのだ!」

「そんなものどうでもよいわ! 作戦を立てた張本人のジオンがあの調子では、どうせ失敗する!」

「だからと言って!」

「ハイネル。貴様の宿敵のボルテスⅤもマクロスに加わっただろうが! ここで決着をつけるいい機会だろうが」

「ぐ……」

 

 苦虫を噛み潰した表情のハイネルだったが、副官のジャンギャルへと、マクロスへの進軍を命じた。ハイネルも、もはや本来の作戦の成功は覚束ないことを理解していた。

 

「おのれ! このままでは、マクロスとナデシコに名を成さしめるだけで終わるわ! かくなる上は、我らはジオンを殲滅する!」

 

 バスクは、自分の指揮下にあるティターンズ各機に突撃を命じた。

 

 

 

「あれは、スカールーク! ハイネルも来ているのか」

「健一君。私情はこの際捨ててくれ。あのジオンのモビルアーマーが動き出した。コロニーを目指しているようだ。あれを止める必要がある!」

「分かっている!」

 

 万丈に返事すると、健一はボルテスⅤをダイターン3と並ばせた。

 そこに、高速で飛来してきた、一機の戦闘機。

 それは、輝と未沙の乗り込んだ、VF-1Dバルキリーだった。

 

「輝!!」

「先輩! ご心配かけて、申し訳ありませんでした。未沙を、早瀬大尉を預けに来ました」

「馬鹿野郎! お前の愛機は用意してある。とっとと乗り込んでこい!」

 

 フォッカーが、マクロスへと飛び込んでいく輝のバルキリーを、涙の浮かんだ目で見送った。

 格納庫に着艦すると、輝は本来の愛機VF-1Jへと駆けていく。未沙は、ブリッジを目指していった。

 ブリッジに駆け込むと、グローバルがちらりとそちらを見た。

 正面のモニターでは、ティターンズの部隊を、ノイエ・ジールが次々と粉砕し、なおも前進を続けていた。

 

「早瀬大尉。無事で何よりだ」

「艦長! 報告です。アナハイム技術者のニナ=パープルトンが、コロニーに小型艇で向かっています。バルキリーの側を通り過ぎるのを見ました!」

「何? どういうことだ」

「私にも分かりません。おそらくは、コロニーの制御室へ向かったと思われます。そちらを巻き込むような攻撃はおやめください!」

「む……やむをえんか」

 

 

 

 コロニーまであとわずか、というところまで肉薄したノイエ・ジール。

 その機体に、一本のビームが伸びた。しかし、Iフィールドで掻き消される。

 

「ガトー! それ以上は行かせない!」

「コウ=ウラキ。邪魔はさせん!」

 

 GP-03とノイエ・ジールは、共に巨大なビームサーベルを解き放つと、激しい斬り合いを始めた。

 互いに、一歩も譲らない猛攻。

 そこに、何本ものビームが、GP-03の背後から浴びせられた。

 シグーを先頭に、クルーゼ小隊五機が迫ってきていた。

 

「ガトー少佐。我らが支援する。貴官はコロニーへ! 作戦を成就させるのだ」

「クルーゼ大尉か」

 

 ガトーは複雑な表情を一瞬浮かべた。

 

「お前たちの相手をしている暇は!」

「やらせてもらう! 我々ザフトも命運がかかっている!」

 

 GP-03に果敢に挑んだのは、アスランの乗り込むイージスガンダムだった。

 

「赤いガンダム!?」

 

 コウが目を見張る。

 イージスガンダムは、GP-03のビームライフルを対ビームシールドで防御しつつ、間合いを詰めた。

 その機体が、変形した。

 手足が四本の爪となった、巨大な掌。その爪からビームサーベルが伸びると、GP-03の装甲を鷲掴みにするように、大きく切り裂く。

 突如、イージスガンダムとGP-03の狭間に爆発が起こった。イージスガンダムの爪の付け根に当たる中央部から、エネルギー砲スキュラが放たれたのだ。ゼロ距離からの大火力は、Iフィールドといえども無効化できなかった。

 コクピットに響く警告音に、コウは呻いた。

 が、その攻撃が、いったん止んだ。

 イージスガンダムは、再びモビルスーツ形態に戻り、自分に砲撃してきた白い機体に向き直った。

 

「コウは、男の決着をつけようとしてるんだよ! てめえの出る幕じゃねえ」

「何だあの機体……? メタルアーマーのようだが」

 

 イージスガンダムはビームライフルを放つが、ケーン操るD-1は、それをギリギリでかい潜ると、抜き打ちで斬りかかった。

 イージスガンダムの胸の装甲が、わずかに傷む。

 

「今のを避けやがるか。マイヨと引けはとらねえってか!」

「動きに独特のキレがある……! 片手間で相手はできないか」

 

 両機が揉み合うところへ、割って入ろうとするシグー。

 その眼前を、ミサイルの群れが横切った。

 

「お前の相手は俺だ! この間の決着をつけるか!?」

「その動きは。機体は違うが、テキサスコロニーのあのパイロットか。どうやら、放置もできなさそうだな!」

 

 輝のVF-01Jへと、クルーゼは標的を変えた。

 

「はん! ロンド・ベルなら、鐘を鳴らしてりゃいいんだよ! ディアッカ、ニコル。雑魚掃除といくぞ!」

 

 ジンに乗り込んだイザークが、同じ機体に乗る仲間二人に声をかけた。

 イザークが狙ったのは、レイズナーだった。充分に引きつけて、ビームを放った。

 が、それを相手は、流れるような挙動で回避する。立て続けに撃つが、ことごとく命中しない。

 一気に間合いを詰めてきたレイズナーの拳が、ジンを揺るがした。

 

「コロニー落としでどれだけの同胞を殺めるつもりだ!? 自分たちが何をしているのか分かっているのか!」

「き、利いたような口を!」

 

 反撃のビームサーベルの斬撃は、レイズナーのわずかな機体の捻りで空を切っていた。

 

「くっ、雑魚と侮ったのが間違いか!?」

 

 イザークが他の二人を確認すると、どちらも複数の機体を相手にしていて、明らかに苦戦中だった。

 

「俺たちのガンダムが完成していれば、こんな奴らに……!」

 

 イザークは、荒い息の中で、そう嘯くだけだった。

 仲間の援護を受けるGP-03は、なおもノイエ・ジールと戦おうとするが、やはり損傷が大きかった。ビームサーベルに機体を切り裂かれ、ユニットを次々と失っていく。

 

「これまでだな!」

 

 ガトーが、最後の一撃を打ち込もうとした時だった。

 

「日輪の力を借りて! 今、必殺の! サンアタァァァァック!」

 

 万丈が、マクロス防衛を他の仲間に任せ、救援に飛び込んできたのだ。

 強烈な光が、ノイエ・ジールに襲い掛かった。抗しきれず、その巨体がコロニーの壁に叩きつけられる。

 

「ダイタァァァァン、クラァァァァッシュ!!」

 

 GP-03にも匹敵する巨体を誇る、ダイターン3の跳び蹴りが、ノイエ・ジールを直撃した。

 ガトーは、動かなくなったノイエ・ジールのコクピットから抜け出すと、損傷したコロニーの壁から、中へと入り込んでいった。

 

「く、やむをえんか!」

 

 万丈は、コロニー制御室を破壊する腹を決めた。この時万丈は、ニナもまた制御室を目指していることを知らない。

 

「そうはさせん!」

 

 アスランが、咄嗟に標的をダイターン3に切り替えてビームライフルを放った。大きすぎる的に外すはずもなく、まともに命中。

 シグーもVF-01Jの攻撃をかいくぐりつつ連射。ダイターン3の出足が鈍った。

 

「この状況で倒すのは無理だが、足止めくらいはできる! ガトー少佐が軌道修正をする時間を稼げればそれでいい!」

 

 ほくそ笑むクルーゼ。

 だが彼も、コロニーの外壁に張り付いているGP-03が戦闘不能だと思いこみ、注意していなかった。GP-03からコウが抜け出し、コロニーに進入したことに気づかなかった。

 

 

 

 コロニーの制御室では。

 

「ガトー」

 

 ニナが、制御パネルを操作していた男に語りかけていた。

 

「もうやめてちょうだい! コロニーはもう、連邦軍の総司令部のあるジャブローへのコースは大きく外れたわ。計算だと、落ちるのはオーストラリア。今から制御しても、とても」

「ジャブローは無理なのは、私にも分かっている」

「だったら!」

「だが、オーストラリアに落下させるわけにはいかん。君には、分からんのだ」

「……!? それってどういう」

 

 ニナが問いかけようとした時。

 扉が開いた。

 銃を構えたコウの表情が、ガトーとニナを見た瞬間、驚愕のそれに変わった。

 

「……ニナ!? どうしてここに」

 

 言いかけたコウだったが、首を振ると、ガトーに叫んだ。

 

「何をしている!? そこから離れろ!」

「断る。もう軌道修正は終わる」

「!」

「撃ちたければ撃て。私は丸腰だ。だが、撃ち殺されてもこれだけは成し遂げる」

 

 淡々とそう告げながらも、ガトーはキー操作を止めなかった。

 コウが、怒りに任せてガトーに向けた銃の引き金を引こうとした。

 パァン……!

 銃声に、コウは引き金にかけた指を止めた。

 その目の前に、ガトーの前に回り込み、天井に向けて発砲したニナがいた。

 ニナの銃が、コウの方に向けられた。

 

「やめて、コウ! あなた、自分が何をしようとしてるか、分かってるの!?」

「き……君こそ、何をしようとしているんだ! そいつは、コロニーを……地球に落とそうとしているんだぞ!」

「分かってるわ。それでも! あなたに撃たせるわけにはいかない!!」

 

 ニナがそう叫んだ時。

 

「もういい、ニナ=パープルトン。終わった」

 

 ガトーはニナを押しのけると、コウの眼前に真っ直ぐ立った。撃ち殺されるのを覚悟しているのは、明らかだった。

 コウは、憎しみに震えながらも、ガトーの気迫に押されて、引き金を引けない。

 

「……ずいぶん安っぽいのね、あなたのジオンへの忠誠も」

「何!?」

「ここで死ねば、もう戦えないのよ。あなたの信じるジオンの大義も果たせない。スペースノイドの独立を、自分の手で実現できもしない。あなたは自己満足で犬死にしたいの?」

「ぬ……!」

「あなたは戦士でしょう? どうしても死にたいなら、戦場で戦って死になさい! こんなところで無抵抗で死ぬのが、あなたの戦士の誇りというわけ?」

 

 ガトーは、黙ってニナの言葉を聞いていた。

 

「用が済んだなら、ここから出ていきなさい! 戦場でなら、コウと雌雄を決するのは、あなたたちの勝手。だけど、こんな形で終わらせるのはやめて! それとも、私が彼を撃つのを見たいとでもいうの!? 悪趣味にも程があるわ!」

 

 ニナは、コウに銃口を向けたままで、そう叫んだ。

 彼女の目に、涙が溜まっているのを、二人とも気づかなかった。

 ガトーは、わずかに躊躇した素振りを見せたが、

 

「……大義のためだ。一時の恥辱に耐えるのは、今に始まったことではない」

 

 コウに背を向けると、出口に向かった。

 銃口を向けるコウだが、ニナがその手の銃で牽制している。

 いや、ニナがいなくても撃てるか、コウにはもう分からなかった。

 肩口から、ガトーがコウをちらりと見た。

 

「戦場で、決着をつけるとしよう。待っているぞ」

 

 コウは、何の返事もできず、ガトーが出口から消えていくのを見守るしかなかった。

 ニナは銃を降ろすと、悲しげにため息をついた。

 

「ごめんなさい……私は、先に戻るわ」

 

 ニナが出口から去っていくのを、コウは呆然と眺めていた。

 

「う……ああ……うぉーっ!!」

 

 コウは悲痛な叫びをあげながら、その場で銃を滅茶苦茶に撃ちまくった。

 弾切れになっても、その指がなおも引き金を引き続けていた。

 

 

 

 コロニーが落ちたのは、ジャブローでもオーストラリアでもない、太平洋上だった。連邦などの所有する公的施設も周囲には存在せず、人的被害はほぼゼロであったという。

 ニナとコウは、コロニーの制御室での経緯を問いただされたが、どちらもそこでの事情を一切語らなかったため、一週間の独房送りの処罰を受けた。だが、どこからともなく流れたある噂から、ガトーを含めて何事かがあったのだろうという推察がなされた。ニナを追放するべきだという論調まで出たが、確証がないという理由で、グローバルもユリカもそれを実行はしなかった。

 なお、タイラー大佐はこの一件の直後、ロンド・ベルの指揮をグローバルに一任して、どこへともなく去っていった。【無責任参謀】の面目躍如であった。

 ロンド・ベルは、マクロスとナデシコの二隻体制となり、それぞれに属していた機体と人員は合流した。宇宙において、ロンド・ベルはもはや、無視できない勢力と化していた。

 だがしかし、新生ロンド・ベルに所属する面々の中には、事情を抱えた者達も少なからず存在した。

 

 

 

 マクロスTVの控え室。

 未沙の頬を平手打ちする音が、部屋の中に響き渡った。

 それを目の当たりにしていた輝が、顔を引きつらせつつ身じろぎする。

 

「早瀬大尉、それってあんまりじゃないですか! 輝が私と付き合ってるのは知ってるはずでしょ!?」

「落ち着いてミンメイ!」

 

 ミュンが制止するが、ミンメイはなおも続ける。

 

「そんなことまで、ブリッジクルーの職権のうちなんですか!」

「あ、あなたね、言っていいことと悪いことが」

 

 頬を押さえた未沙の顔色が、怒りに染まっていた。

 

「やっていいことと悪いことがあるでしょう!? 何よ、軍はいつも偉そうに命令するだけで、やることが汚……」

 

 ミンメイが最後まで言い終わらないうちに、未沙がミンメイの頬を平手打ちしていた。

 

「いい加減にしてちょうだい! いくらマクロスのアイドルだからって、侮辱は許さないわよ!」

「やったわね!この……!」

「だからダメだって!」

「離してよミュンさん!」

「早瀬大尉もです!うちの大事なタレントに、軍が手を出すんですか。問題にしますよ!」

「先に手を出したのは、そっちじゃない!」

「ああもう! クラン、見てないで早瀬大尉を止めてちょうだい!」

「了解した」

 

 青いショートヘアの、小学生のような少女が、がしっと未沙を羽交い締めした。

 振りほどこうとする未沙だが、意外なほどの力の強さに、それができない。

 

「悪いな。リン=ミンメイは大事な商品だそうだ。……戦闘員でもないのに、くだらない喧嘩はするんだな。不思議な連中だ」

「何よ! 子供のくせに。離してちょうだい!」

「子供とか言うな! 私はこれでも十九歳だ! 遺伝子がちょっと不器用なだけだー!」

 

 未沙をはじめ、全員の動きがぴたりと止まった。

 

「十九? 私とあまり変わらない? え?」

「あなたの腕力が強くて助かるわ。クラン、早瀬大尉には退出してもらって。バイトの時給はアップするから」

「了解。時給アップはありがたい」

 

 自分より大幅に背が高い未沙を、あっさり引きずりながらクランは部屋から出ていった。

 廊下に出た未沙の声がドアを通して聞こえていたが、それもやがて聞こえなくなった。

 

「一条中尉。あなたもよ。この部屋から出て行きなさい。ミンメイには私が話します」

 

 輝の背中を、ミュンは部屋から押し出した。

 後ろ手にドアを閉めると、ミュンは振り返りかけた輝を睨んだ。

 

「一条中尉。事情はともかくとして言わせてもらうわ。今のあなたは、男として最低よ!」

「……」

「こんなことなら、ミンメイとのつき合いを認めるんじゃなかったわ! できれば当面、ミンメイとは会わないでちょうだい。彼女の気持ちが乱れるだけだわ」

 

 輝を置き捨てたまま、ミュンは部屋に入ると、乱暴にドアを閉めた。

 

「男として最低、か……」

 

 返す言葉が何もなかった。輝は、肩を落としてその場を去っていった。

 

 

 

 輝は、マクロスシティをとぼとぼと歩いていた。

 街中に店が立ち並んでいるが、どこにも入る気がしない。

 ふと。

 離れた所から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 何の気なしに、そちらに視線をやると。

 オープンカフェの席上で、コウとニナが口論していた。いや、コウがニナを問い詰めていて、ニナが必死で抗弁している雰囲気だ。

 輝は、暗い目を逸らして、足を進め始めた。正直、関わりになる気も起きなかった。

 

「待って! コウ! まだ話が」

 

 ニナの悲痛な叫び声が、背後から微かに聞こえてきた。

 輝は、いつの間にか、道端の公園に入り込んでいた。背の低い茂みが大きく広がっている。歩き疲れているのを感じて、そこに入り込んで寝転がった。

 頭上には、青空が広がっている。住民に圧迫感を与えないための巨大な映像だ。

 今までのことが、脳裏をよぎる。ミンメイとお忍びでデートした時のこと。ゼントラーディに拿捕された時のこと。未沙とのコロニーでのサバイバル。星の屑での激闘。

 

「あげくが、アレか」

 

 結局、ミンメイと未沙、どちらかきちんと選べないまま、二人を争わせる羽目にまでなってしまった。自己嫌悪が、再びぶり返すだけであった。

 どれだけ、そうしていただろうか。

 草むらを分ける足音が、聞こえた。

 

「一条中尉。あなたもよくここに来るの?」

 

 身を起こすと、そこにはニナが立っていた。いつもの、花の咲いたような微笑ではなく、傷心を隠しきれない、自嘲じみた笑みだ。

 輝は、横になると、ニナに背を向けた。正直、声をかけてほしくなかった。

 

「……あなたまで、私に背を向けるのね。分かってたわ、見てたんでしょ?」

 

 ニナはさらに輝に近づくと、その側に座り込んだ。

 

「……汚れますよ、スカート」

「どうでもいいわ。どうせ、みっともない顔になってるんだもの」

 

 ニナは、青空を見上げた。

 

「映像でも、青空はいいわね。私が月の居住区にいた頃、こんな公園で空を見上げてた。星空しか見えないけれど、よく一緒に眺めてたわ。私が、アナベル=ガトーと交際していた頃にね」

「……」

「驚かないのね。やっぱりみんなに知られてるのね」

 

 ふう、と、ニナはため息をついた。

 

「欺瞞に聞こえるかもしれないけど、ガトーのことは、私の中でとっくの昔に終わってるの。だけど……コウは、信じてくれなかった。私があのコロニーで、ガトーを庇ってコウに銃を向けたから」

「……え!?」

 

 輝は、もう一度身を起こしてニナを見た。

 ニナは、抱えた膝の上に、顔を埋めていた。

 

「なんで、庇ったりしたんですか? ガトーとは終わってるんでしょう?」

「ガトーは、あの時丸腰で、無抵抗だった。あの場で死ぬ覚悟はできていたんでしょう。だけど!」

 

 ニナは、輝に顔を向けた。

 

「コウに撃たせたくなかった! 私の好きになったコウは、敵とはいえ、無抵抗の人間を撃ち殺すような人じゃない! 私はコウに、そんな最低の人間になってほしくなかった!!」

 

 その絶叫に、輝は気押されていた。

 

「……コウは、そう言われて納得しなかった、んですか?」

「そもそも聞いてくれなかったわ。結局、私はコウと、それだけの信頼関係を築けていなかった。そういうことなんでしょうね」

 

 悲しげなニナに、輝はようやく言葉を搾り出した。

 

「……何で、俺にそんな話をするんですか?」

「……私だって、知ってるのよ。あなた、ミンメイさんと付き合っていながら、早瀬大尉とも」

「やめてくださいよ! ……あんたが、説教できる筋合いですか?」

「そうね。一貫した態度をとらなかったのは、私も同じ。だけど、一つだけ聞きたいの」

 

 ニナは、一呼吸置いた。

 

「一条中尉。あなた……今この時、本当に好きなのはどっちなの? ミンメイさん? それとも早瀬大尉?」

「……!」

「過去のことなんて、本当はどうでもいいのよ。大切なのは、今。今の自分の気持ちを、正直に見つめてみたら? 答えが見つかれば、後は脇目も振らずに進めばいいの」

 

 すっ、と、ニナは立ち上がった。

 

「私は、自分の気持ちをきちんと整理しきれていなかった。その挙句が、コウに誤解されることになったんだと思う。あなたには、私と同じ轍を踏んでほしくない」

「……」

「とんだお節介よね。ごめんなさい。それじゃ」

 

 ニナは、草を踏みながら立ち去っていった。

 その寂しげな背中を、輝は見送っていた。

 

 

 

「……そんな話なら、出ていってくれないか?」

 

 コウは苦々しげに、輝に言い捨てた。

 

「あんた、ニナさんの話もろくに聞かなかったんじゃないのか?」

「気持ちが通じたと思ってた相手に、銃を向けられてみろよ。しかも、よりによってガトーを庇ってだなんて……!」

「ニナさんは、ガトーとは完全に終わってるって言ってる」

「じゃ、そもそもなんで、落下するコロニーの監視室まで飛び出していったんだ!? その上がアレだ。どう信用しろって言うんだよ!」

 

 絶望的な面持ちのコウに、輝も正直、心が折れそうになる。

 しかし、ここで引くことは、今の輝にはできなかった。

 

「あんた、丸腰のガトーを、撃ち殺そうとしたんだろ?」

 

 コウの肩が、一瞬震えた。

 

「ガトーはあんたの宿敵だし、核で大勢死なせた男だ。だけど、だからって無抵抗の相手を撃ち殺して、それで戦士としてのあんたは満足なのかよ!?」

「やめろ!」

「ガトーをやりたいんなら、戦場で正面切って雌雄を決するべきだ。恨みを晴らしたいだけで屠殺するんなら、あんたは戦士でもなんでもない、ただの人殺しだ!」

「やめろって言ってる!!」

「あんた、ニナさんに、自分がただの人殺しっだって見せたかったのかよ!!」

「黙れ!!」

 

 コウは、輝を殴り飛ばした。

 壁に叩きつけられ、その場で座り込む輝。

 

「大体、お前が人の関係に口を挟める立場か! 俺だって知ってるんだぞ。ミンメイと早瀬大尉を両天秤にかけてる女たらしのくせに!」

「……別れた」

「……え?」

「ミンメイに、俺の方からサヨナラを言い渡した。ついさっきだ。ずいぶん泣かれたよ……」

 

 さすがに予想していなかった返答に、コウは次の言葉が出ない。

 

「正直さ、きつかったよ。だけど、今までそれをやらなかったから、結局はミンメイを深く傷つけたんだよな。俺は結局、自分がきつい思いをするのを避けてただけなんだ」

「……」

「自分の気持ちに向き直った。正直になって考えた。俺が今この時、本当に愛してるのは未沙なんだ。だから、ミンメイとは別れるしかなかったんだ」

「な……何でそんな話をするんだ? 俺とは関係のないことだろう……」

「あんたも、自分の心に向き直るべきだ。あんた、今でもニナさんが好きなんじゃないのか?」

 

 苦しげに横を向くコウに、輝は続けた。

 

「過去なんてどうでもいいじゃないか。本当に大切なのは、今の自分の気持ちだ」

「……だけど、ニナは……」

「ニナさんが今、愛してるのはあんたなんだ。ただの人殺しでは決してない、自分の好きなコウ=ウラキであってほしかったんだよ。今後、あんたたちの関係がどうなるかは、俺にもどうしようもない。だけど、ニナさんの話だけは聞いてやってくれ。お願いだ……」

 

 しゃがみこんだまま、頭を下げる輝を、コウはじっと見つめていた。

 

「……なんで、そこまでニナに肩入れするんだ? 彼女に頼まれたのか」

「俺は、彼女に借りができたんだ。ニナさんが言葉をかけてくれなかったら、俺は自分の本当の気持ちから逃げっぱなしのまんまだった。やるべきことをできたのは、あの人のおかげなんだ。借りを返したい。ただそれだけだ」

 

 輝はようやく、ゆっくりと立ち上がった。

 

「俺にできることなんて、こんなことくらいだよ。邪魔して悪かった」

 

 輝が部屋から出ていくのを、コウはただ黙って見送るしかできなかった。

 

 

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