スーパーロボット大戦3F ~マクロス・コンサート~   作:デスフロイ

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第7話 歌姫たちの受難

「……手を引いてもらおうか。そいつは俺が狙ってたんだ」

 

 ケーンの鋭い視線を、イサムは薄笑いを浮かべながら受け止めた。

 

「クチバシの黄色いヒヨッコが何言ってやがる? 先輩に譲るもんだ」

「関係ねえよ。手の早い方が勝ちだろうが」

「俺の方が明らかに早かった。いいから離せ!」

 

 二人の争いを、周囲は苦笑混じりに眺めていた。

 

「やれやれ、箸が折れそうですね~」

 

 ボウィが肩を竦める。

 

「ソーセージの取り合いで白熱するなっつーの、二人ともガキよねえ。忍も加わったら? 同類としてさ」

「うるせーな! だけど、J9チームがロンド・ベルにいるとは思わなかったぜ」

「情報屋が何で戦闘にまで加わってるのかと驚いたよ。だけど、どうして星の屑のことをグローバル艦長に、もっと早く話さなかった?」

 

 亮が尋ねたが、お町は悪びれもせずに、

 

「聞かれなかったんだも~ん。第一、星の屑作戦にここまで足突っ込むとは思わなかったし。あ、箸でチャンバラしてる」

 

 怪力のガルドに小突かれた二人が、涙目になるまではそう時間はかからなかった。

 

「だけど、こうなると四方八方敵だらけだな。グローバル艦長、どうするつもりだろう?」

「コロニー共和連合の代表と会談して、お互い協力できる線を模索することになっている。今はスケジュールの調整中さ」

「ロンド・ベルの評判は、星の屑の一件以来、割と上がっているというが?」

「コロニーのジャブロー落下を防いだのは確かだからな。グローバル艦長の人柄や行動規範にも期待が集まっている。タイラー大佐という後ろ盾があるというのも、実は大きい」

 

 デュークと万丈が、真面目な話題に戻した。

 

「コロニー共和連合って、ジオンと対立してるとかいうアレか?」

「タップ君、その認識は大まかには正しい。ジオンは建前としては、スペースノイドの独立を叫び、武力闘争も辞さないというスタイルだ。プラントやギガノスもこれに同調している。だが、スペースノイド全てが、戦闘的なタカ派というわけじゃない」

「ハト派のコロニーも、当然あるってことだろ?」

「そういうことだ。ハト派のコロニーが集まって作られたのが、コロニー共和連合さ。かつてはサンクキングダムという、王制のコロニーがその中核だったが、国王が亡くなってからはコロニーそのものが消滅した。今は、合議制で組織を維持している」

「連邦よりの組織ってことか?」

「それも違うな。やはり連邦の宇宙移民軽視の方針には批判的だ。ただ、武力闘争を辞さないジオンにも同調せず、あくまで対話による政治レベルで権利を勝ち取ることを主眼としている、と主張している」

 

 含みのある万丈の台詞に、ライトが口を挟んだ。

 

「コロニー共和連合による、テロの噂は週刊誌で読んだことがあるけど。あれは真実なのか?」

「確証は何もない。だが、僕はありうると考えている。コロニー共和連合は、独自のモビルスーツを開発していて、それがテロの現場に出現したガンダムだという噂もある。テロとされる襲撃の状況を見るに、どうも連邦とジオンのどちらかが圧倒的優位にならないよう、戦況をコントロールするのが目的じゃないかと思えてならない」

 

 そこまで万丈が語った時。

 

『緊急出動! 緊急出動! 現在、フロンティアⅣ内部に侵入者あり! 本艦はフロンティアⅣの救援活動に入る』

 

 未沙の艦内放送が、食堂に流れた。

 

 

 

 

 

 

 フロンティアⅣは、地獄と化していた。

 先程までは、いつもと同じように人々が日常生活を送っていたコロニー。

 その内部に前触れなく飛来したのは、小型の円盤状の飛行物体だった。数多く撒き散らされたそれは、人間の体温を感知するとレーザーを放ち、回転する歯で金属すら切り刻み、時には爆発して、多くの人々を殺傷していった。

 そのただ中に、二機のモビルスーツがいた。片方はガンダムタイプだった。

 二機は、その武器でもって、次々と飛行物体を撃破していた。ただ、コロニーそのものや生き残った人々を、なるべく巻き込まないようにしているのは明らかだった。

 

「潰しても潰してもキリがないわ! どうすれば……」

「セシリー、俺と背中合わせになるんだ! とにかく一つでも多く破壊しないと、フロンティアⅣは全滅する!」

 

 シーブック=アノーはガンダムF91を、ビギナ・ギナに接近させた。

 両機は背中合わせになると、空中を浮かびながら、さらにバグを破壊し続けた。

 そこから少し離れたところで、動けなくなった車から飛び出したのは、シェリルとエルモ、そして新人歌手のランカだった。

 

「な、何ですかシェリルさん? この飛んでくる円盤!」

「私に分かるわけないでしょ!?」

「とにかく逃げましょう! 前だけ見て! 周りはあんまり見ないでください」

 

 エルモは、円盤が人々を切り裂く様子を、ちらりと見てしまっていた。シェリルとランカには、見せたくないと思ったのだ。

 もっとも二人とも、周囲の悲鳴や破壊音から、おおよその予想をしてしまっていた。

 そんな三人が角を曲がろうとした時、一体の円盤が飛来してきた。

 

「隠れて!」

 

 エルモは咄嗟に二人を止めて、建物の陰に押し戻した。

 次の瞬間、円盤が爆発した。

 エルモの体が、地面を二転、三転するのが、シェリルたちにも見えた。

 

「エルモさん!」

 

 ランカが駆け寄ると、血まみれになっているエルモが、それでも身を起こそうとしていた。

 

「だ、大丈夫ですよ……私は、体だけは頑丈なんで……。二人とも、怪我はないですか?」

「私たちは大丈夫です!」

「なら、急いでこの場を……」

 

 エルモがそう言いかけた時、円盤が三機、離れたところを横切っていくのが見えた。

 が、それらは移動を一瞬止めると、三人のいる場所へと方向を変えた。

 全員の顔色が、蒼白となる。

 が。

 空中からのバルカン掃射が、円盤を三機とも撃ち抜き、破壊した。

 爆煙の中へと降り立ったのは、バルキリーVS-25F。ガウォーク形態から、バトロイドへと変形した。

 

「シェリル! ランカ! 大丈夫か!?」

「アルト! あんたなの、それに乗ってるの!」

 

 シェリルの目に、希望の光が宿った。

 

「私たち二人は大丈夫だけど、エルモさんが爆発で怪我を」

 

 ランカが、エルモを抱き起こしている。

 

「ここは俺が食い止める! 誰一人、絶対に死なせたりしない!」

『そこにいるのはバルキリーか!?』

 

 VS-25Fの通信機から、声が飛び出してきた。

 

『こちらガンダムF91のシーブックだ。人がいるのか? 俺たちができるだけバグを潰す! そこは頼んだぞ!』

「すまない! できるだけ援護する」

 

 F91とビギナ・ギナの姿が、アルトにも見えた。

 VS-25Fは移動せずに接近する円盤を破壊し、時にF91らへの援護射撃で支援した。

 周囲の円盤は数を減じていき、やがてアルトの視界から、全て存在しなくなった。

 F91とビギナ・ギナが、VS-25Fの側に降り立った。

 セシリーが、外部スピーカーで呼びかけた。

 

「ランカも無事で何よりだわ。お久しぶりね」

「その声はセシリー先輩!? 学校のみんなも、心配してたんですよ! あの一件以来いなくなって、その、クロスボーンのお姫様だとか」

「ごめんなさい、あれは私が間違ってたわ。もうクロスボーンとは決別します」

「それで、よかったんですか?」

「元々そんなの向いてなかったのよ。あなたこそ、あれからすぐに歌手デビューしたでしょう?結構な人気みたいね」

「セシリー先輩がデビューした方が、よかったかもです。あのままミスコンやってたら、先輩が優勝してたと思いますし」

「まあ、私の優勝にお金賭けてた人もいたみたいだし、ね? シーブック」

「もうそれは言ってくれるなよ。ん……? 来るぞ! クロスボーンだ」

 

 シーブックが、空中を指し示した。

 六機のモビルス-ツが、接近してきていた。

 先頭にいたベルガ・ダラスの中で、ドレル=ロナは苛立ちの表情をしていた。

 

「バグは全て潰されたか。実験を妨害するとは、ベラ、君は何をしてくれるんだ」

「お兄様! こんな無法な真似をお認めになるんですか!? あなたは、最初から知ってらしたんですか」

「私も先ほど父上から聞かされたばかりだ。少しでも地球をきれいにするためには、やむをえないことだ」

「何がやむをえないのですか!」

「人類は増えすぎた。少し間引きする必要があるのだよ。心の痛む情景を見ず、効率よく口減らしできる道具、それがバグなのだ」

 

 その平静な声は、セシリーが切り忘れていた外部スピーカーを通して、シェリルたちにも聞こえていた。

 シェリルは、眦を決して怒鳴りつけた。

 

「心が痛まないですって!? あんた、どれだけ死人や怪我人を出したと思ってるのよ!!」

「ああ、シェリル=ノームとかいう下品な歌手か。品性のない歌で大衆を踊らせて金儲けをするしか能のない俗物が、利いたようなことを言うな」

「何ですって……!? あんたなんかに、歌の何が分かるのよ!!」

 

 シェリルは、怒りに燃えた目を、傍らのVS-25Fに向けた。

 

「アルト、そいつは許せないっ! やっちゃてよ!!」

「……俺もはらわたが煮え繰り返ってる! だけど、今はお前たちを守ることが俺の役目だ」

 

 鷲のような眼光が、その怒りを裏付けていた。

 

「私がやります。こんなロナ家など、消え失せてしまえばいい!」

「いくらロナ家の直系とはいえ、所詮は庶民の間で育つとこんなものか。貴族としての誇りを失った者など、ロナ家に必要ない」

「人としての心を失った者が何を言う!」

 

 ビギナ・ギナが、空中に飛び上がった。F91も追随する。

 ベルガ・ダラスは動かず、周囲にいたデナン・ゾンが、騎士のランスを思わせる武器を携えて動いた。

 それらは、ビギナ・ギナを素通しさせ、続くF91のみに襲いかかる。

 5対1。

 だが、F91は繰り出される剣先を、次々と回避する。

 

「邪魔しないでくれ!」

 

 ビームライフルが、デナン・ゾンの一機を直撃した。その腕が吹き飛ぶ。

 

「あのガンダム、何て動きだ! もしかして、ニュータイプってやつか?」

 

 デナン・ゾンにとどめのミサイルを地上から浴びせつつ、アルトは感嘆していた。

 ベルガ・ダラスとビギナ・ギナは、一進一退の攻防を繰り広げている。

 だが、業を煮やしたドレルが、あえて避けずに愛機の片腕で斬撃をガードした。半ば腕を落とされかけながら、勢いよくビギナ・ギナに体当たりした。

 たまらず、コロニーの内壁に叩きつけられるビギナ・ギナ。

 

「セシリー!!」

 

 シーブックが叫ぶが、まだ周囲に敵がいて対応しきれない。アルトもF91のフォローに気を取られていていた。

 ベルガ・ダラスのランスの切っ先が、ビギナ・ギナに向けられた。

 が。

 ドレルは、愛機を突然その場から待避させた。次の瞬間、元いた空間をミサイルの群れが通過する。

 

「新手か!」

 

 ドレルが見た方向に、バルキリー数機とエステバリスが接近してきていた。さらにその後方では、内部に飛び込んできた円盤獣を、グレンダイザーやブライガーが相手をしている。

 

「ガンダル司令。フロンティアⅣの外郭警護はどうした? 自ら売り込んでおいてこの体たらくか」

「だ、黙れ! すぐに片をつける!」

 

 その言葉と裏腹に、バルキリー四機が高速でデナン・ゾンに向かっていた。

 

「アルト! 勝手に飛び出すなって言っただろう!?」

「オズマ隊長! ここに、シェリルとランカが」

「ランカだと!? 無事なのか、怪我なんかしてないだろうな!?」

「大声出さないでください! 今のところ大丈夫です」

「ならいい。俺の妹に手を出すやつは、誰であろうが容赦せんぞ!」

「誰に対する台詞なんだ、オズマ?」

 

 並んで飛行していたフォッカーが、皮肉混じりに言った。

 

「あんまり束縛すると、ランカに嫌われるだけだぞ?」

「言わないでくれよそれを……。ミハエル、ルカ! あのガンダムを支援するぞ。ランカたちを守ることを優先しろ」

「了解!」

 

 オズマの二人の部下も、ランカが絡んでいる以上、あえて逆らっても無駄なことは重々承知している。フォッカーは呆れつつ、自分がベルガ・ダラスを引き受けることにした。

 ドレルがVF-1Sを狙って発砲するが、当たり前のように回避される。ガウォークからバトロイドに変形させつつ、フォッカーが発射したミサイルの一発が、ベルガ・ダラスの傷んだ腕を吹き飛ばした。

 

「く……!」

 

 ドレルも、このバルキリー相手に分が悪いことを自覚せずにはいられなかった。

 ビギナ・ギナも体勢を立て直し、空中に飛来する。さらに、アキトとガイのエステバリスが迫っていた。

 

「ここまでか!」

 

 撤退する、と部下に言いかけて、ドレルはやめた。

 最後の一機が、F91の攻撃で撃破されたのを目の当たりにしたからだ。

 ドレルは単機でフォッカーたちの攻撃を振り切り、脱出していった。

 アルトはそれを確認すると、バルキリーから飛び降りるようにして、シェリルとランカに駆け寄っていった。

 

「どこにも怪我はないか!?」

「私とランカは、ね。よく頑張ったわね。アルト」

 

 シェリルはアルトに駆け寄ると、その首根っこに抱きついた。

 

「うわ!……ランカたちの前だろ」

「こんなサービス、滅多にしないんだからね」

 

 ランカはその様子を眺めて、複雑な表情を浮かべている。

 

「それにしても」アキトが言った。「あんた、絶対敵の動き読んでただろ。ひょっとして、噂に聞くニュータイプってやつか?」

「いや、このF91の能力に、ずいぶん助けられているだけだ。俺の母親が、この機体を開発したんだ」

「もしかして、お前の母親ってサナリィのモニカ=アノーか?」

 

 オズマが尋ねた。

 

「母をご存じなんですか!?」

「サナリィの近くの研究所で、俺たちもテストパイロットをしてたからな。お互い、研究所からテスト機をかっぱらってきた訳だ」

「もう少し穏当な物言いはないんですか、隊長」

 

 アルトが、ようやくシェリルから解放されてやってきた。

 

「ところで、さっきの円盤は何だったんだろうな?」

「聞こえてたわよ。あれって、あんたの兄貴が作ったやつなんでしょ?」

 

 シェリルが、セシリーを睨みつけていた。

 

「……兄は父の指示で動いていたにすぎません。あれを作ったのは、私の父カロッゾ=ロナです。今回の騒動は、バグの実験です」

「実験!? これだけの被害出しておいて!」

「私も知ったのは、つい先ほどです。私は、とても父の企てに加担できませんでした。父をあんなにしてしまったのは、祖父の思想がどこか独りよがりだったからだと思います。もう、ロナ家ともクロスボーンとも、縁を切ると決めました」

「……そう」

 

 シェリルも、それ以上セシリーを責め立てるつもりはなくしたようだった。

 

「とにかく、シェリルさんたちやそこの姫様にはマクロスに来てもらおう。怪我人もいるし、グローバル艦長たちと善後策を練る必要がある」

 

 フォッカーは、続いてオズマたちを振り返った。

 

「お前らもだぞ。もう、研究所はとても使い物にならんだろう。かっぱらってきた機体ごと、ロンド・ベルに引き取ってもらえ」

「まあ、そうなるか。所属がどうとかは、上の人間に任せておくか」

「あの、俺もですか?」

「シーブックとか言ったな。お前の腕がズバ抜けているのは、今の戦いだけでも分かった。ロンド・ベルでも、充分トップエースを狙えるだろう。お前の母親も、生きてさえいればマクロスに収容してもらえるはずだ。それに」

 

 フォッカーは、意味ありげにセシリーを見た。

 

「彼女を放っておけんだろう? 彼女を守れるのは、お前しかいない。そういうことだろう?」

「……そういう言い方、恥ずかしいんですけど」

「照れるな照れるな! 男は惚れた女を守ってナンボだ!」

 

 フォッカーに肩を叩かれてよろめくシーブックを眺めながらアルトは、

 

(俺と、似たような境遇ってわけか……)

 

 何となく、親近感を感じていた。

 

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