スーパーロボット大戦3F ~マクロス・コンサート~   作:デスフロイ

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第8話 歌は文化、文化は愛

 モニターには、病院のベッドの上で、包帯だらけになって寝ているエルモが映っていた。

 

『すいませんミュンさん……シェリルとランカを頼みます』

「分かってるわ。あなたは早く怪我を治しなさい。そうしたら二人は返すから」

 

 ミュンは、何度も礼を述べるエルモとの会話を終えて、シェリルとランカ、そして自分の元のタレントたちに見せていたモニターを消した。

 

「聞いての通りよ。シェリル=ノームとランカ=リー、あなたたちはエルモさんが退院するまで、アップル・プロジェクトにレンタル移籍となります」

 

 二人は、小さく頷いた。

 ミレーヌは大きく伸びをしながら、

 

「あ~あ、よりによって何でシェリルと一緒に……。テンション下がるな~」

「いいじゃない。アップル・プロジェクト活性化のまたとない機会よ」

 

 涼しい顔で、シェリルはテーブルの上の菓子に手を伸ばした。

 

「不幸中の幸いっていうか、これであなたとのセッションが現実味を帯びてきたわね? バサラ」

「なんかあんたの思い通りに進んだようで気に入らないけどな」

「まったくよ! どうでもいいけど太るわよ。ガツガツお菓子食べてるけど」

 

 呆れ顔のミレーヌ。

 

「だーいじょうぶ。私、食べても太らない体質だしー」

「腸とかに何かいるんじゃないの? サナダ虫とかギョウ虫とかV型感染症とか」

「あ・り・ま・せ・ん!! それはランカが主演やったTVドラマの設定でしょ!」

「あ、そうだミレーヌ」

 

 話題に登ったランカが、口を開いた。

 

「私のぬいぐるみコレクション一体あげようか? ドラマで作ったバキュラぬいぐるみ大」

「あ、あれ……? あのー、アイ君ならまだいいんだけど……」

「それともバキュラぬいぐるみ小の方がいい? 置き場所に困らないし。あれかわいいのよー」

「困るのは置き場所じゃなくってねー」

 

 たまりかねて、シェリルが口を挟んだ。

 

「あんな悪趣味なぬいぐるみ欲しがるのはあんただけだっての!」

「そういえば前に見た、TVのロケの爬虫類動物園で楽しそうだったよな」

「以前飼ってたトカゲちゃんにも、バサラって名前つけてたんですよー。目つきの悪さが、じゃなくて、その、鋭さがよく似てて。とってもかわいかったんですよ」

「どうリアクションしろっていうんだよっ!」

 

 ひとしきり、一同の間で笑いが起きた。

 

「……ところでリン=ミンメイ。あなた元気ないわね?」

 

 シェリルに問いかけられたが、ミンメイは何も答えない。

 

「やめてよ。今はミンメイさんちょっと、その」

「大体のことは知ってるわ。例の一条中尉のことでしょう?」

「やめてって言ってるでしょ!」

「今、大事な話してるのよ黙ってて!!」

 

 ミレーヌを一喝すると、シェリルは再びミンメイに向き直った。

 

「……あなた、何のために歌ってるの?」

「……私……」

「私はフロンティアⅣの惨状を目の当たりにしてきたの。大勢の人が死んだり怪我したり。マクロスで彼らを移送中なのは知ってるでしょう?」

 

 ミンメイは、小さく頷いた。

 

「それをやった連中が何て言ったと思う? バグとかを使えば、心が痛まず大勢の人間を間引きできるって。あいつら人の心を失ってるわ」

「……」

「奴らに言わせれば、私たちは下品な歌で大勢を踊らせて金儲けしてる俗物だそうよ」

「そんな……!」

 

 ミンメイが、顔色を変えた。

 

「侮辱するにもほどがあるわ。私はそんなつもりで歌ってきてないつもりよ。確かにナンバーワンになりたいけど、人の心を引きつけて、幸せになってもらいたい。それが大前提。皮肉にもあいつらが思い出させてくれた」

 

(……私だって……)

 

 ミンメイは、自分が歌手になった時のことを思い出していた。

 フォールド航行の不具合で、冥王星の軌道までマクロスが飛ばされ、通常航行で地球まで戻らなければならなかったその頃。彼女は歌手デビューを果たした。

 多くの人々が、地球までの航行の不安を抱え、それを肌で感じていたミンメイは、自分の歌で人々を励まそうと努め、それを成し遂げた。

 歌の力を、もっとも強く体感してきたのは、ミンメイ自身だった。

 

「恋に悩むのは女として当然。だけど、私たちはこんな戦乱の時代に歌う歌手でしょう?酷かもしれないけど、落ち込んでる場合じゃないの」

 

 ミンメイに身を乗り出すように、シェリルは続けた。

 

「私たちも戦わなきゃいけないのよ。歌手のやり方でね。そうしなきゃ、人の心を失った、あんな奴らが大勢できてしまう……」

 

 ミュンは、感じ入ったように、大きく頷いた。

 

「『歌は文化、文化は愛。歌には愛がなければならない』。エルモさんの教えが身に染みるわね。やっぱりあの人は、すばらしいプロデューサーよ。私は認めるわ」

 

 シェリルとランカが、微笑んだ。

 

「……あなたの言う通りね。ありがとうシェリル。もう一度考え直してみる」

「そう……ね。そうした方がいいわ」

「ただ……もう少し時間をちょうだい。私は、必ず歌に戻ってくるつもりだから……」

 

 ミンメイの表情が、先ほどとは明らかに違うのは、誰もが見て取っていた。

 

「ミュン=ファン=ローン」

 

 シェリルの矛先が、そちらに向けられた。

 

「あなたも、身につまされてるんじゃないの? かつてあなたは、バーチャルアイドル【シャロン=アップル】の歌の部分を担当していた」

「……そう。シャロンの姿はCGだけど、歌は私が歌っていた。事の次第は、もうかなり流布しているから、みんなも知っているわね?」

 

 アップル・プロジェクトの全員が頷いていた。

 

「あの、どういうことなんですか? 私はその頃小さかったし、よく分からないんですけど」

「そうね、ランカは知らなくても不思議はないわね」

 

 ミュンは、ため息をついた。

 

「シャロンは、単なるバーチャルアイドルじゃなかった。早い話、当時の地球統合軍が行っていた、歌を利用した洗脳技術の実験プロジェクトだったのよ」

「洗脳……!」

「人工知能のシステムが暴走して、一時は軍の中枢コンピューターを乗っ取りかけた。一つ間違えれば、全人類がシャロンに支配されるところだった。私は……音楽を、人間をコントロールするための道具として悪用する、そんな目論見の片棒を担がされていた……!」

 

 ミュンが、己の顔を両手で塞いだ。

 血を吐くような懺悔を、シェリルはじっと聞いていた。

 

「……だから、今のあなたは、普通の音楽プロデューサーに転身したんでしょ?」

「そう……私は、音楽に対して、罪を償わなければならない。音楽は、人々を幸福にするものでなければならないのよ。ただの一介のプロデューサーでしかないけれど、そんな音楽を、世界に広めたい……」

「それは、ここにいる全員が分かってることよ。だけどミュン、あなた自身が、シャロンを乗り越えるべきじゃないの?」

「……何が言いたいの?」

「もう一度、歌いなさいよってことよ。あなた自身の姿でね」

「え!? ……私にそんな資格は」

「人工知能なんかに頼ることなく、あなたが自分の歌を歌うことで、人々を感動させられればいいことじゃない? 正直言うとね、あなたのことを知ってから、あなたがそれをしないことに苛々してたのよ。シャロン復活を期待してる人って、結構多いみたいだし」

 

 ミュンは、にじんだ涙をぬぐいながら、

 

「シェリル。あなたがプロデューサーをやった方がいいのかもしれないわね?」

「冗談! そんな面倒くさい仕事はごめんよ。で、どうなのよ?」

「……少し考えさせて」

「もう、二人揃って時間がかかるわね」

 

 傍らでバサラは、いてもたってもいられない、という様子で頭を引っ掻いた。

 

「ミュンさんよ。例のアレ、まだ完成しねえのかよ?」

「え? 今、最終調整に入ってるところ。次のコンサートの隠しダマとして、ファイヤーボンバーみんなの分を準備してるところよ」

「俺の分だけでもいい! 急いで仕上げてくれ。どうせクロスボーンとやりあうんだろ? 手遅れはごめんだ」

「バサラ! あなたまさか」

「今の話で、俺も完全に火がついちまった。俺たちの歌をバカにする連中に、とっくりと思い知らせてやるぜ……!」

 

 バサラの盛り上がりを前に、ミュンは内心で困惑していた。

 

(今のバサラは止めるに止められないわ……リリーナ代表からのお話もあるし、私自身も宿題を抱えてるのに。厄介ごとを増やしてくれるわね……)

 

 

 

 

 

 

 マクロスの一室でセシリーと向かい合ったのは、高貴な雰囲気を持つ少女だった。

 

「わたくしはサンクキングダム・コロニー代表を務めます、リリーナ=ピースクラフトです。こちらはボディガードのヒイロ=ユイです」

「……よろしく頼む」

 

 座るリリーナの斜め後ろに立つ、無表情な少年が軽く会釈した。

 

「よく来てくれました、ベラ=ロナさん……ああセシリー=フェアチャイルドさんでしたわね」

「お名前は存じ上げています。このたびは、コロニー共和連合代表に就任おめでとうございます。ですが、亡命中の私に、どういうお話なのですか? グローバル艦長との会談の席をお邪魔するだけになると思いますが」

「いや、今後のロンド・ベルは各方面との折衝が重要だからな。君たちの意見も聞きたいとのリリーナ代表のご意向だ」

 

 セシリーの隣に座っているグローバルが口添えした。

 リリーナが、本題を切り出した。

 

「わたくしたちコロニー共和連合は、地球圏のあらゆる組織・団体との対話を通じ、地球圏が一丸となって異星からの侵略を防ぐことを目指しています」

「ジオンやクロスボーンともですか? 当事者だった立場から申し上げますと、支配を熱望し、武力を躊躇なく行使する彼らとはその余地はないかと」

「もちろん、武力のみで恐怖政治を行う方々には、考えを改めていただくか、それが無理なら、指導者の椅子を降りていただくしかありません。対話を行うテーブル作りからやる必要があります」

「コロニー共和連合としては、ザフトという軍隊を要するプラントをどうにかしたいと? あそこは、あなたがたと対立するコロニーの筆頭でしょう」

「プラントを叩き潰してしまえというのは極論と考えています。わたくしはプラントとの対話を放棄してはいません」

 

 揺るぎなく語るリリーナを、セシリーはじっと見つめた。

 

「プラントはジオンから技術や資源の供与を受けている、はっきり言えばジオンの属国ですよ。ジオンを無視して対話するとは思えませんが」

「そう決め付けるのはどうでしょう? プラントにも、ジオンのやり口に反感を抱く人たちがいるとも聞きます。フロンティアⅠについても同様です。現に、ロナ家の姫君であったあなたはこうしてここにおられ、わたくしと対話しています」

 

 セシリーは少し考えると、再び口を開いた。

 

「プラントはともかく、ジオンはギレン=ザビの影響力があまりにも大きく、クロスボーンはイデオロギーに凝り固まっている組織です。たとえば、クロスボーンにただ私が呼びかけても、さほど効果が期待できません」

「セシリーさん、あまり話の先回りをされても困ります。わたくしのアイデアは、少し趣向が違います」

「と言いますと?」

「そう……多くの人の耳目を引くようなイベント。その中で、問題の組織のみならず、地球圏全体にわたくしたちのメッセージを伝えるのです」

 

 リリーナの話しぶりは、自信に満ちあふれていた。

 

「組織の枠を超えて、地球圏の世論をわたくしたちの味方につけるのです。そうすれば、破壊的な組織など支持を失い、立ち枯れていきます」

「……そんなイベントが開けますか? 単なるプロパガンタでは、始終さまざまな主張が飛び交っていて、みんな慣れっこになっていますよ」

「政治や軍事関連のイベントではありません。このマクロスという艦の特殊性。そして、わたくしには切り札があります」

「切り札? 何ですかそれは」

「今は水面下で進めている話です。じきに、面白いお話ができると思いますわ。いずれ、あなたにも一役お願いすると思います」

「ただ、現実問題としてクロスボーンは軍事的に討たねばなりません。それも早急に」

 

 グローバルが釘を刺した。

 

「承知していますわ。バグなどという非人道的な兵器を作り出す組織は存在してほしくありません。それでは失礼しますわ。行きましょう、ヒイロ」

「了解した」

 

 部屋を出ていくリリーナの背中を見送りながら、セシリーは思った。

 

(リリーナ=ピースクラフト。私と変わらない若さで、スケールの大きな構想を持てる。政治家としての才能には恵まれているわ)

 

 そのリリーナは、廊下を歩きながら考えていた。

 

(セシリー=フェアチャイルド……すばらしい逸材ですわ。彼女にはいずれ、わたくしの相談相手になっていただかなくては)

 

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